本日は映画『ビロウ』を見ました。

 ものすんげー頭の大きな人が2・3列前に坐っていて、字幕が半分見えませんでした(笑)。
 字幕ってなんで下に出るんだろう、とちょっと本気で考えてみたり。
 その人は横幅もすごくて、両隣にはみ出してるのが、後ろからでもよくわかったのね。男の人で、べつに太ってるって感じでもなかった。体格がいいちょい太めな人ってとこ。
 しかし、わたしがどんなに背筋を伸ばして対抗しても、かなわなかった。……ので、字幕を半分あきらめた。
 どんなに背の高い人なんだろう、と思って帰りにこっそり身長を調べましたさ。
 ヅカを観に行ったときにも、よくやるんだよね。ひとよりでかいこのわたしの視界を遮るくらい座高がある人ってのは、いったいどんな身長なんだ? と。……ヅカでは大抵、わたしよりはるかに小柄な人で、「いったいどんな坐り方をしたらあんな座高になるんだ?」ってケースばかりだが。
 自分がでかいことを知っているわたしは、左右の人の肩の位置を確認し、同じくらいの高さになるように気を付けて坐ったりもするんだがねえ。
 今回の男性は、わたしと同じくらいの身長でした。
 ……男の人は、頭大きいからなあ。

 んでもって、『ビロウ』。
 「潜水艦サスペンス」という、新しいジャンルだそーです。
 第二次世界大戦中の、米軍潜水艦が舞台。敵である独軍に撃沈された英国病院船の生存者3名を救助したら、そのうちのひとりは若く美しい女性オリヴィア・ウィリアムズだった。
 当時、潜水艦に女性は御法度、不吉だっつー話になる。しかも、艦内には次々と奇妙な出来事が起こる。見えないものが見えたり、聞こえないものが聞こえたり。
 独軍と戦争しながら、艦内では幽霊騒動。内も外も大変!な中、クルーたちはどんどんどんどん死んでいく。
 潜水艦に女を乗せたために起こった超常現象なのか? 死んだ艦長の謎とは? 聞こえる死者の声は、なにを訴えている?

 WHITEちゃんは「こわかった」と言っていた。
 異を唱えると彼女がムキになるので言えなかったが、じつはわたし、ぜんぜんこわくなかったんだわ。
 いやあ、やっぱアメリカ人の「恐怖」っての、わたしにはあまり理解できないわー。
 びっくり系ばっかなんだもん。静音のあと突然大きな音をたててみたりとかな。突然ドアが開いたりとかな。
 びっくりはするけど、べつにこわくないよ。

 でも、おもしろかった。
 ホラー(幽霊もの)だと思って見たらがっかりするけど、サスペンスとしてなら、たのしかったよ。

 だって、ストーリーがあるもん!!

 ちゃんとプロットがあってね、伏線があって、最後にどんでん返しっちゅーか、謎解きがあるの。
 ああ、いいなあ。気持ちいいよ、これ。
 正しく作られている感じが好感。

 『呪怨』がひどかったからなあ。

 こわかったのはたしかに『呪怨』だけど、おもしろかったのは『ビロウ』だよ。

 サスペンスっちゅーかこれ、ミステリと言ってもいい話だと思うのな。
 人が死ぬ事件が起こって、ヒロインがそれを解決するわけだから。
 はじめは断片しか見えない真実が、組み上がったときの快感!は、ミステリの謎解きの快感だと思う。
 幽霊も、ちゃんと理にかなってるし(笑)。

 ただ、わたしは視点の散漫さが気になった。
 誰が主役なのかわからないよー。
 ヒロインを「不吉な女」として、サスペンスを盛り上げる道具にしたかったのはわかる。
 そして真犯人が誰かを、ぼかしたかったのもわかる。
 でもなー、視点がばらばらだから、サスペンスが盛り上がらないんだわ。
 完全に、オリヴィア・ウィリアムズを主役にしちまえよー。
 病院船で看護士として働く彼女、から描くのさ。そこへ、独軍の攻撃。パニック。そして撃沈。救助された先は米軍潜水艦。女は不吉だ、と疫病神扱いされる彼女。艦長代理との対立、超常現象、艦長の死の謎……。
 ヒロインものにすればいいのさ。オリヴィアが幽霊と殺人事件の謎を解くのさ! そしたら観客も彼女に感情移入するから、幽霊ももっとこわいよ。
 「不吉な女」というミステリアスな設定を使いたいなら、私がこの艦に来たから、超常現象が起こっているというの? とオリヴィア自身にも悩ませればいいのよ。どーせ元の描き方でも、彼女が魔女ではなく、「善」だとわかりきってるんだから。「彼女はほんとーは魔女かもっ?!」って観客に思わせたかったんだろーけど、それは見事に失敗、っーか、欲張りすぎ!にしか見えなかったって。

 もったいないなあ。
 すてきな潜水艦ミステリなのに。
 殺人事件なのにさー、視点バラバラで観客の公正な目を攪乱し、犯人をぼやかせてるんだよ。うまく描ききってりゃ拍手だが、たんに視点統一に失敗した下手くそな小説みたいなできあがりになってるよー。

 
 ありゃ。
 起きたら2時前だった。この時間じゃ、映画には行けませぬ。
 なんか久しぶりに映画を観ない水曜日(笑)。

 そしてやはり、仕事の担当氏から電話が入る。水曜日は緑野に電話をする日、と決めているのかな。
 突然上京するはめになるのはいいが、日帰りだなんて鬱。それじゃヅカを観てるヒマないじゃん……。
 仕事はちょっと、ひどいことになってるしなー。一寸先は闇。

 ところでアカデミー賞候補が発表になったけど、デイ=ルイスって主演だったの、『ギャング・オブ・ニューヨーク』? 助演でノミネートされるならわかるんだが。
 アカデミー賞がレオ様を嫌ってるってのはよく耳にする話だけど、「主役」としてさえ公式に認めないってのは、すげえなあ。

 そして、『千と千尋の神隠し』はどこまで行くのでしょうか。

 わたし、宮崎駿でいちばん好きな作品は『となりのトトロ』なんだよね。
 あれほど泣いた映画はかつてない(笑)。
 同時上映の戦争映画、あれも泣いたけど、可哀想な話や人の死を見て泣くのは人間として当たり前のことだと思ってるんで、あの映画を見て泣いたのはたんなる生理現象、「泣いた」うちに入れてない。
 だから、「泣いた」のは『トトロ』の方。
 ……そう言うと、一緒に見に行ったぺーちゃんには心底不思議がられたさ。
「なんで『トトロ』で泣くの? べつに可哀想な話じゃなかったのに」
 ……がっくり。涙とゆーのは、「可哀想」なときにのみ流れるものではありません。説明する気にもなれなかったが。
 そののち、『もののけ姫』とゆー映画が一世を風靡したが、それにもわたしはあまり、傾倒しなかった。わたしが『もののけ姫』をすごいと思ったのは、「『トトロ』と同じ作家が作ったものだということ」だ。だってアレ、『トトロ』とまったく同じ話だし。同じ作家が同じ話を、切り口を変えて描いた……そのことに、感動した。
 でもわたしはやはり、暴力という手段よりも、日常のあたたかさで、同じテーマを描いた『トトロ』の方が好きだったよ。

 『トトロ』で感じたことは山ほどあって、列記するのもなんだが、話のついでにひとつ。

 『となりのトトロ』という映画のなかで、いちばんこわかったこと。
 主人公姉妹の妹の方、小さなメイという名の女の子が、行方不明になった。姉のサツキは必死になってメイを捜す。そりゃーもー、真剣に捜す。
 メイはまだ小さい。どこでどんなめに遭っているのか。幼児の失踪は、そのまま「死」を連想させる。現実でもそうだよね。事故? 事件? 自分で身を守れない、危機を回避する能力のない、幼児にとって世界は危険であふれている。
 サツキは必死に捜す。駆けずり回って、この子もこのまま倒れちゃうんじゃないかってくらい、魂をきしませて、妹を捜す。
 なのにさ。
 振り返ったサツキの目に映る空は、美しいのさ。
 夕焼けなの。
 夜になったらますます、メイの命に危険が迫る。わかっているのに、陽は暮れてゆき、山の上の空は美しい夕焼け。

 こわかった。

 世界が、美しいことが。

 こんなにこんなに、必死になって捜していて、無事でいて、死なないで、って叫びつづけているのに、今この瞬間に愛する人が死んでしまっているかもしれないのに。

 世界は、美しい。

 人間の慟哭なんか、関係なく。

 こわかったのよ。
 ああ、わたしが死ぬ日もきっと、世界は美しいんだろうな。
 わたしが愛する人が死ぬ日も、世界は変わらずに美しいんだろう。
 わたしが悲しんでも苦しんでも、泣いても叫んでも。

 世界は、美しい。
 わたしとはなんの関係もなく。

 それを思い知らされたよ。

 とてつもなく、せつなかったよ。

 『となりのトトロ』は上質のファンタジーだけど、それが「ファンタジー」としてすばらしいのは、まぎれもない「現実」があるから。現実の持つ「痛み」を容赦なく描いているから。

 「痛み」のある作品を愛するわたしには、フェイバリットな1作。
 涙なくしては、見られない。

 

さめざめ。

2003年2月11日 テレビ
 週末に迫った殿さんの結婚式のために、着ていく予定のお衣装をタンスから引っ張り出してみた。

 ……ショック。

 いったいどこでなにがどーなったのか。
 お衣装は、ネズミに食い荒らされていた。

 そーいや少し前に、ネズミ被害に遭っていたんだ。そして、我が家の召喚獣(今、弟とふたりして『FF』をプレイ中のため、猫のことをこう呼んでいる)がネズミを駆逐、死体をわざわざわたしに見せに来て、その流血ぶりに飼い主阿鼻叫喚、とか、いろいろあったんだった。

 まさか、タンスの中までやられていたとは……!!

 被害が確認されたのは、冬用のいちばんお気に入りのスーツ。
 ……着ていくつもりだったのに! 結婚式に!!

 そして、わたしの持っている唯一(唯一なんかい)のドレス。
 スーツがしっくりこなかった場合、殿さんの結婚式は派手そーだから、ドレスでもいいか、と着ていく予定第2候補にあげていたのに!

 よろり……。

 どーしよー……。
 今からあわてて新しい服を買う気にはならん……。だってあわてて買ったら、きっとその場しのぎのどーでもいい服を、金額だけはかけて買うはめになるもん。買い物は余裕を持って、たのしんでするものだー。

 いやがらせか? とゆーくらい、ネズミ野郎は高い服から囓ってやがった……。
 どうやら、高価な生地の方がうまかったらしい。
 とりあえず確認された被害は、前記の2着。

 仕方なく、第3候補のスーツを出してみる。
 デザインは悪くない。
 しかしこれ、11号なんよ……でかい……。
 まだわたしが無知で「背の高い女は11号を着るものだ」と思いこんでいたころに買った服なんだわ。
 肩幅が余ってるよ……ウエストが回るよ……。
 鏡に映った姿にかなしくなる。デブに見えるんだもん。なんなのよこの立派な肩幅は。分厚い胸板は。太いウエストは。しくしく。
 決して痩せていないだけに、太って見える服は着たくない。11号を着ると実際以上にデブに見えるんだよー。

 被害を調べるために、タンスの中を全整理してみたんだが、昔買った服はみんな11号だったよ。着てみてびっくり。……こんなにデブに見える服を着ていたんか、わたし……人生で一番きれいな時期に。無知ってこわい。
 でも、ついこの間も某ショップで「お客様は背が高いのでLサイズです」って言われたしな。それだから若いころのわたしは、鵜呑みにしてたんだよな。……Lも11号も、大きくなるのは横幅だけで、丈は同じだっつーの。で、横幅が余って落ちる分、丈が長く見えるってだけで。横幅が余って落ちる、てのはつまり、デブに見えるってことだっつーの。

 物持ちがいいので、なんかいろいろ大事にしまってあったが、これを着ることはもうないだろうなあ、てな服がいろいろ。
 つーか、今から11号サイズになったらまずい! それって中年太りってことだもんな。ぶるぶる。おばさん、ちょっと自己反省。体型維持に努力しなきゃ。(最近怠り気味だったのよ……)

 ああそして、殿さんの結婚式。なにを着よう。
 トシもトシだし、分相応に地味にしていよう。それしかないな。
 とりあえず、イタリアで浮かれて買ったブラウスを引っ張り出す。
 ムラに行くときに着たらまちがいなく「なんちゃって男役」のイタイおばさんと思われること請け合い!の、男役テイストなブラウス。第九の演奏会以外ではまだ着たことナシ。これにパンツを合わせて、マニッシュ路線を目指すわ。

 
 それにしても、くやしいなあ。
 お気に入りのスーツが、こんなことでダメになるなんて。ほんとに好きだったのに。
 もう二度と同じ服にはめぐりあえないだろうし。
 ドレスの方は……この地味な生活の中では、そうそう「ドレス」なんてものを買うことはないだろうから、失ってしまうといざってときに不便だろーなー。でも、あてもなく買って置いておくのもナンだしな。
 ああ、かなしや。

          ☆

 ところで今日、再放送のミステリドラマを見ました。
 いや、松村雄基が出てたんで。

 ラヴい話でした。

 地方の所轄刑事が、解決したはずの事件の真相を追って孤独な捜査をするの。そのさえない中年刑事に協力するのが、警視庁のエリート警部。男同士の友情ものっつーかね。

 最初、さえない所轄刑事はエリート警部に反感アリ。なにかっちゃー「あのエリート警部さん」とか言ってな。
 でも所轄刑事が孤立し、誰にも理解されないまま捜査を続けているときに、手をさしのべてくれるのはそのエリート警部なのよ。エリート警部もまた、事件に疑問を持ち、独自に調べていたの。所轄刑事は偏見があったから、エリート警部がそんなふうに裏でがんばっている人だとは思ってなかったのね。

 不思議なのはこのエリート警部が、とことん「いい男」として描かれていること。エリートなのに気取らず傲慢にならず、礼儀正しく、仕事も有能。所轄の若手刑事が「かっこいー」とうっとりするくだりが数回ある。
 わざわざセリフで「かっこいー」と言わせるんだから、制作者は本気で彼を「いい男」だと思って描いているのだ。セリフでの解説はベタベタだが有効な手段だからな。
 所轄刑事が「どーせ警視庁のエリートだもんな」と最初から偏見の目で見ているというのに、エリート警部の方は彼らのことを「所詮所轄」と見下したりしていない。なんの偏見もなく接している。
 そして、うだつのあがらない主人公所轄刑事が事件の真相を調べていることを嘲笑いもせず、その能力と努力を認めて、協力を申し出る。
 しかも、主人公所轄刑事のことを尊敬しているよーな態度だ。きらきらとした愛情あふれる瞳で、所轄刑事を見つめたりする。

 ひょっとしてこれって、「男の夢」?

 うだつの上がらない中年兵士が、若き将軍にその才能を見いだされ、「そこに気づくなんてさすがですね」とヨイショされ、無事に戦果を上げて、褒賞をいただく。
 うだつの上がらない中年兵士=現在のアナタ。本当は才能も能力もあるのに、不当な地位に甘んじているアナタのことよ。チャンスと、才能を正しく評価してくれる人さえいれば、アナタはもっと上にいていいはずの人なのよ。
 ……てことですか。
 若き将軍は、アナタの才能を見抜き、正しい評価を与えてくれる人。彼はハンサムで有能で礼儀正しくやさしく、非の打ち所のないすばらしい人。誰もが彼にあこがれ、賞賛を送る。……そんな人が、アナタのことを「なんてすばらしい人だ! こんなすばらしい男が市井に埋もれていたなんて!」と尊敬してくれる。世界一の男が褒め称えるアナタって、なんてすばらしい人なんでしょう!!

 いや、あまりにも「エリート警部」ができすぎた設定だからさ。
 男の夢爆発かな、と。

 女の子の王子様願望と同じですな。
「わたしはなんの努力もしなくていいの。ある日王子様が白馬に乗って現れて、『そのままの君が好きだよ』って言ってくれるの」
「オレは本当はすごい男なんだ。たんにチャンスと上司に恵まれていないだけだ。もっと見る目のある奴が上司なら、こんなところでくすぶってなんかいないのに」

 本当に能力があるのなら、そのトシまでくすぶってやしないだろう、無能な上司を押しのけて出世しているだろう、それができないってゆーのはつまり……ゲフンゲフン。

 主人公の所轄刑事が、「本当はすごい男」だというなら、なんで今まで昼行灯的な立場にいたのよ。今まで何故、「本当のすごさ」を発揮しなかったの?
 今回の事件でたまたま、本来の能力が発揮されたというなら、何故今回の事件だったのか。潜在能力を引き出すほどのなにがあったというんだ、今回の事件に。
 都合良すぎ。
 やっぱりただの「男の夢」でしょうな。
 ま、エンタメですから。お客をよろこばせてナンボ。「自分マンセー」な物語で、客がよろこぶならそれで成功。

 裏にある「男の夢」はばかばかしくて気持ち悪いが、とりあえず、エリート警部と所轄刑事はラヴラヴでした。
 松村雄基が、このエリート警部だったんだわ。
 いやー、愛のこもった瞳をきらきらさせて、所轄刑事を見つめるんだわ。まいった。

 問題は、主人公の所轄刑事が、中村梅雀だったことです……。
 も、萌えられない……。
 いくらしょぼくれた中年男っつったってさー。もう少し人選があるだろーに。中村梅雀じゃ萌えられないよー。
 もし別のおっさん俳優だったらわたし、とてもたのしかったと思う。ああたとえば、森本レオ様とかっ! レオ様ならわたし、萌えまくってくるくる回ってたわー。

 せっかく録ったビデオは速攻削除。
 さよなら、きらきら瞳の松村雄基(38歳)。

 

愛は重い。

2003年2月10日
 今だ。
 今なら、彼は眠っている。

 抜き足、差し足。
 音をたてないように、こっそりと支度をする。

 これから家族で外食に行くの。
 彼が眠っているうちに……。

 家の前で待っている母に、
「やったわ、アイツは熟睡中だから、気づいてない」
 と報告。

 彼は寂しがり屋。干渉されるのはキライだけど、ひとりぼっちはさらに大嫌い。
 家にひとりで残されるのなんか、耐えられない。
 だからわたしが出掛けるときは必ず、
「どこへ行くんだ、オレを置いて行くな、ひとりにするな、オレもつれて行け!」
 と、ぎゃんぎゃんさわぐ。
 仕方ないのでいつも、親の家に預けに行く。

 でも今回は、家族総出でお食事だ。親の家も空っぽになる。
 彼を預けることができない。

 だから抜き足忍び足。
 彼が眠っているうちに……。

 玄関でコートを着ているときに。
 2階に、気配を感じた。

 まさかっ。

 振り返れば階段の上に、彼の姿が。

「がぁー……ん!!」

 彼の顔には、驚愕がわかりやすく文字になって貼り付いている。ええ、マンガなみにわかりやすい。ベタフラ背景に白目になった姫川亜弓ばりだよ。

 オレが寝ている間に、ナイショで出掛けようとしている……!!

 裏切られた!!

 とゆー、驚愕と傷心の顔なんだな。

 しばし「がぁー……ん!!」と硬直していた彼は、はっと我に返り、大慌てで階下に降りてきた。

 ぎゃんぎゃん、にゃーにゃー。
 足元で鳴きわめく。

 ああっ、うるさいっ。

 エサをやって、水をやって、彼がよそ見している隙に家を出た。

 つれて行けないのよ、親の家にも預けられないの。帰ってくるまでたかだか数時間、おとなしくしてろっつーの。

 たかが猫。
 たかが猫一匹ですとも!

 でも、小さな生き物に足元にすがりつかれて、
「どこへ行くんだ、オレを置いて行くな、ひとりにするな、オレもつれて行け!」
 と鳴かれたら、いい気はしませんて。

「あんたがもし将来、腰を悪くしたら、それは猫のせいね」
 と、母は言う。
「1日何時間も、猫を膝に乗せてるせいね」
 と。

 わたしは在宅ワーカー。仕事は自宅でパソコンに向かうこと。
 そして働いている間、猫はずーーーっと膝の上にいる。重い。

「そして、あんたが肩をおかしくしたら、それは猫のせいね」
 と、母は重ねて言う。
「毎晩、猫に肩枕をしてやってるせいね」
 と。

 夜は猫と一緒に寝ているのだけど、1日何時間かは絶対、わたしの脇の下から腕の上に乗り、肩を枕にして寝るのよ。重い。

 愛って……。

 
 ちらしとはなんぞや。

 通常、ちらしとは広告・宣伝文を印刷した紙のことだ。つまり、「売りたいもの」が先にあり、それを「売る」ための手段のひとつである。
 ちらし自体は「売り物」ではない。
 不特定多数の、「客」もしくは「客になり得るかもしれない相手」に配ることを目的とした印刷物だ。

 ……んだけど、どーも最近、そうでもないようで。

 わたしとWHITEちゃんは、ある芝居のチケットが欲しかった。
 今日はそのチケットの発売日だ。店頭発売は抽選のみ、座席配分が悪いのでそっちにはもともと期待してない、本命はやはり電話でしょう。
 電話をする場合、公演日程が必要だよね? なにもないと、電話がかかった場合にしどろもどろになってしまう。
 情報誌を買うという手もあるが、ここはちょうどその芝居が上演される劇場のすぐそばだ。どうせなら、劇場でちらしをもらって、そのちらしを見ながら電話をしよう。

 だが、劇場にちらしはなかった。

 他の芝居のちらしなら腐るほどある。べつの芝居を観に行ったときになど、欲しくもないのに無理矢理押しつけられる。
 問題の芝居のちらしだけがない。
 今日がチケット発売日なのに。

 もちろん、予想はしていた。
 以前から、「ある劇団の芝居」だけ、ちらしを置かなくなっているのだ。
 繰り返すが、他の芝居のちらしは「ご自由にお取りください」とスタンドに配備されている。また、無理矢理配布されたりもする。
 「ある劇団の芝居」に限ってだけ、例外なのだ。

 昔はふつーに「ご自由に」コーナーに置いてあったのに、ここ数年、見かけなくなっていた。
 それでも、窓口で「ちらしをください」と言えばよかった。
 勝手に取られたらこまるけど、ほんとうに欲しい人は係員に言ってね。……というのは、客としては面倒に感じるが、まだ理解できる。
 枚数が少ないのかな、とか、大量に持ち去る奴がいて問題になるなりしたのかな、とか考えるしな。

「うん、たしかに前は窓口で言えばもらえたけどな。……前回の『星の奇蹟』のときは、それですらなかったよ」
 と、WHITEちゃんは言う。
「『本当にチケットを買ったんですか?』って、確認されたんだよ」

 ……「チケットを購入した人」だけが手に入れることのできる、「限定特典」なのか、ちらしって??

「で、1枚しかくれなかったから『2枚買ったんですけど、それでも1枚しかもらえないんですか?』って聞いてはじめて、2枚くれた」

 チケットを買ってない、でもこれから買うかどうか検討する、って人には、くれないのね?
 それって、「ちらし」じゃないのよね?
 「購入特典」だよね?

 納得のいかないのことだ。

 話題の「前回の芝居」において、わたしは実際に芝居を観たあとで、ロビーの案内カウンターにいた劇場の人に「今日の芝居のちらしをください」と言ったのよ。
 そしたらぎょっとした顔をされて、「こちらへお願いします」って、別室に呼び出されちゃったのよ(笑)。
 ……なにごとかと思ったねー。
 「ちらしをくれ」ってのは、犯罪なのか? 事務室に連行されるほど?
 連れて行かれた事務室で、大仰にちらしを1枚いただきました。はい。ありがたいことです。
 あー、びっくりした。

 そんなことになっている「ある劇団の芝居」の新作だ。
 わたしたちは、ちらしをもらうために窓口に行った。
 ……チケットをすでに買った人しかもらえないちらしでしょ? それがわかってて、「これから買う人」が行っても意味ないよね?
 大丈夫。
 実は、すでにその劇場FCの先行発売において、チケット2枚は押さえてあるんだ。その先行発売のときには「まだちらしはできていません」と断られていた。
 さすがに今日は発売日だし、友人のデイジーちゃんからちらしの配布がはじまっているという情報も得ている。
 わたしもWHITEちゃんも「チケットを買った人」だ。それを言えばちらしをもらえるはず。

「今日発売の、この芝居のちらしをください」
 窓口で、WHITEちゃんは言った。
 チケットを買うために、公演案内の載ったちらしを欲しがるのは客として当然のことだ。
 だがもちろん、窓口のおねーさんは拒絶する。
「チケットの購入をされましたか?」(この窓口では今日は発売をしていない。明日以降、残券取り扱い予定)
 金を払わない奴にはやらねーよ、ということだ。商売としておかしいのだが、ここではそれがまかり通っているのだから仕方がない。
「会員の先行予約で買いました」
 わたしは客よ、とWHITEちゃんは返す。
 すると窓口のおねーさん。

「会員証を見せてください」

 はあ?
 わたしもWHITEちゃんも口ぽかーん状態。

 疑うんですか?
 窓口にやってきた客を?

 WHITEちゃんは言われた通り、会員証を見せました。
 すると窓口のおねーさんは「何枚ですか?」と事務的に聞き、購入枚数分のちらしを出してくれました。

 返却されたWHITEちゃんの会員証には、「チ」というサインが入れられています。
 つまり「もうちらしは渡したからね、もう一度もらってないふりして来ても無駄よ」という意味です。

 ……とことん、疑われています。
「あんたたち、嘘つきでしょ? え、ちがうの? でも疑わしいわ。嘘がつけないようにしておくわね」と、言われているわけです。

 もらったちらしには、「2月9日前売開始」と、白々しい言葉が印刷されています。
 前売、の状態では、手に入らないもんじゃん、これ。
 購入特典なんだもん。

 なんてばかばかしいんだ。
 んな、ちらしごときで嘘なんかつかねーよ。

 そんなにご大層なものならはじめから、「購入特典」とわかるように掲示してくれ。「ちらし」ではなく、「購入特典ミニポスター」とか名前をつけて。
 そして、「ちらしが欲しい人は会員証提示で要求しろ」と看板でも置いてくれ。
 一切明記していないのに、「ちらしはチケット購入者のみ」「会員証提示」と勝手に言われてもな。

 よーやく手に入れたちらしを見ながら、わたしたちはチケット発売番号に電話をかけました。
 ……ちらしってのは、本来そーゆー使い方をするもんなんじゃないの??

 なんかまちがってると思うんだけど、ドラマシティ?

 
 デイジーちゃんは今ごろ東京です。

 金曜日から日曜日まで行くのだと言っていました。
 彼女の会社は休暇に厳しくて、なかなか休めないのだそうです。だから彼女は「月組のためにしか休まない!」と宣言していました。愛するゆーひくんのためだけに、数少ない休暇を捧げる所存でした。

 BUT。
 現在月組が公演しているのは、名古屋です。東京ではありません。
 では、なにゆえにデイジーちゃんは、「ゆーひのためだけにある有給」を消費してまで、東京にいるのでしょう。

 ええ。
 すべては、おさトート様のためです(笑)。

 彼女は今、おさトート様に夢中なのです。

「トート様はいかがでしたっ?!」
 と、東京から帰ったわたしに、デイジーちゃんからTELがありました。生のトート様情報が聞きたかった模様。

 わたしが見たとき、1日目は逆ギレ系の陽気トート、2日目はウエットな受トートだったと言ったら、とてもよろこんでいた。
「日替わりなんですよねっ。だから、前にわたしが見たときは……」
 と、トート様語り。

 そーいや去年の今ごろは、わたしたちえんえん、ゆーひ語りをしていたわねええ。
 わたしとデイジーちゃんは男の趣味が似ているようで。
 たかこアルフォンソにハマり、ゆーひプルミタスにハマり、今度はおさトートですか……。
 一目惚れ経歴が同じだなんて、イヤンですわ。

 もっとも、デイジーちゃんの方がドラマチック恋愛体質なので、わたしなんかより遙かに激しく恋に落ちるのですが。
 今も、彼女のトート様への恋の激しさには、とても勝てません。「わたしの分も、がんばってね」としか言えないよ……。

「ゆーひのこともべつに、忘れてませんよ」
 って嘘だアンタ。
 月組のチケット売り渡して、代わりに花組のチケット買ったくせにー。

「歌えなくてもなんでもいいから、ゆーひにトートやってほしいとか、ファンの子と話してたりするんですよ」
 ゆーひを忘れていない、という例として彼女はこう言う。……それでもトート様からは離れられない模様。
 ま、それはいいか。
 誰でも一度は思うよね。好きなジェンヌがトートだったら、と。
「ビジュアルだけなら、絶対似合いますよ」
 うんうん。
「そして、冷たさにかけては、歴代トートなんかメじゃないですね。冷酷っぷりはゆーひの武器ですから」
 うんうん、まったくだ。
「ただし。……エリザベートを愛している演技は、きっとぜんぜんできないと思います」
 …………。
「ただの冷たいだけのトートですね」
 デイジーちゃん、ちょっと質問。
 ゆーひってさ、今まで誰かを愛していた役、したことあったっけ? コメディとかじゃなくて、シリアスで。本気で。
「ありません」
 仮にも、新公主役をやったことのある、路線の端っこに引っかかっていた(過去形かい)美形男役が、「ない」……?
 恋愛したことが「ない」ってぇ?
「そーですよ、ないんですよーっ、ゆーひさん」
 そ、それはどうよ。愛が命の宝塚歌劇団の男役としてどうよ。
「あ、一個だけあります、『ウエストサイド』のトニー」
 それ、新公やん!! 本役ちがうやん!!
「『血と砂』。おにーちゃんのこと愛してました!」
 相手女ちがうやん!! つーかあれ、ケロじゃん!!
「……でも緑野さん。正直な話、ゆーひに人を愛する演技ができると思いますか?」

 思いません。

「でしょーっ?!」
 デイジーちゃん大ウケ。

 因果なキャラだな……ゆーひ。
 そこが好きなんだけどな。

「おさはあくまでも浮気です。……浮気ですってば」
 と言うデイジーちゃんは、ゆーひのために中日には行かないけど、おさのために東宝には行くのだ。貴重な有給を使ってまで。
 戻ってこいよ? な?(笑)

 わたしもおさトートにはめろめろだが、ゆーひへの愛は失ってはいないのだ(笑)。うん。

「緑野さん、『さらば月組。次から星ファン』って言ってたくせに」
 はっ。
 だだだだ大丈夫よ。月組だって忘れてないわ。ゆーひがいるんだもの、ちゃんと観に行くわ、応援するわ。
「わたしのことばっかり、言えませんよね」
 ……うわーん。デイジーちゃんが揚げ足とるー。

 大丈夫、わたしはケロトウコゆーひに萌えてるから!!(いろんな意味でな。にやり)

 
 どれほどたのしみにしていたことでしょう……ホラー映画、『呪怨』。

 日にちがさらにずれてますが、気にせずに。
 2月5日水曜日、映画をはしごしました。『ケミカル51』をひとりで見たあと、WHITEちゃんと合流して『呪怨』を見た。

 わたし、ついにこの映画の予告編は見られなかったの。予告編目当てに、わざわざ忙しいなか『8人の女たち』を見に行ったのにさ。『呪怨』はカットされててさ。
 だから、ちらしとHPしか見ていない状態。HPの予告編はソフトの関係で再生不可だったし。
 でも予告を見たWHITEちゃんが「チビりそーなほどこわかった」と言うので、期待していたの。
 和製ホラー好きの弟も一緒に見に行くはずだったんだが、きゃつめは仕事で来られず。で、わたしとWHITEちゃんのふたりだけで見るはめに。

 えーと。
 たしかにそのー、こわかったです。
 角川ホラー映画よりは、ずっとこわい。『弟切草』だとか『狗神』だとか『死国』だとか、あのへんのお笑い系に比べれば、よっぽどホラーだったよ。
 ただし。
 映画としては……どうよ、これ?

 主演はいちおー、奥菜恵。福祉ボランティアをしている彼女は、老人介護のために一軒の家を訪ねる。そこで彼女は、いるはずのない子どもの姿と、女の影を見る……。
 その家に住んでいるはずの若夫婦は、寝たきりの母親を残して消えていた。引っ越してきたばかりのその一家は、まず妻が呪い殺され、追うように夫も取り憑かれて死んだ。残された寝たきりの母親の介護にやってきた奥菜恵の前で、その母親も殺される。
 死んだ夫婦の妹、伊東美咲もまた、自宅のマンションで呪い殺されていた。
 唯一生き残った奥菜恵は、刑事から「その家」にまつわる話を聞く。今回の若夫婦と母親が引っ越してくる前にも、そこに住む者は同じように変死を遂げているのだと。
 そもそも「その家」では、数年前に主人が妻を殺したのち変死、6歳の息子は行方不明になる事件が起こっていた。それ以来、不吉な出来事が続いているのだ……。

 ぶっちゃけた話をするならば、自縛霊なんだよね。
 最初に殺された、妻と息子の霊が、未だに漂ってるの。家に取り憑いていて、そこに新たに引っ越してきた人、関わった人を、のべつまくなしに呪い殺す。
 住んでる人だけじゃない、つーのがえげつない。
 一歩でも足を踏み入れたらOUT。ついてくるんだもん。自縛霊のくせに。
 伊東美咲なんか、勤め先の会社にまでついてこられちゃってさー。気の毒に、なんの関係もない会社の警備員が呪い殺されてたよ。
 で、もちろん、伊東美咲本人も、せっかく自分のマンションに戻ったのに。こわいから布団にもぐって「なにも見ない」ってやってたのに。
 ……布団のなかから、ぬっと出てくるし……。

 奥菜恵は、「その家」に行ってから何年も経って、もう大丈夫だろー、てなころにやっぱり呪い殺されるし。

 こわいんだよ。
 ひとつひとつのシチュエーションは、「これでもかっ」てくらい、こわい。
 息子の方の霊は、それほどでもないが、やっぱママ霊はこわいよ。髪の長い若い女の幽霊だよ。んでもって、貞子式の這いずり方するのよ。こわいって。
 でもなー。

 ものすごーく、ストレスの溜まる映画だった。

 たしかにわたしは、こわい映画が見たくて行ったんだ。
 だから、こわがらせてもらったから、それで目的は達しているんだけどさ。
 でもなー。これは「映画」なわけだからなー。「こわい」だけじゃ、「つまんない」よ。

 おどろいたことにこの映画、「ストーリーがなかった」の。
 いやあ、びっくりしたよー。こんなんアリなんかい。

 舞台は幽霊の出る一軒の家。
 で、まずボランティア女子大生がそこに入り、呪われる。
 次。主役替わって、その家に越してきた若夫婦が呪われる過程が描かれる。
 次。主役替わって、若夫婦の様子を見にやってきた妹が、呪われる。
 次。主役替わって、昔その家で起こった事件を担当した元刑事が呪われる。
 次。主役替わって、その元刑事の娘が呪われる。
 ……って、えんえんえんえん、主役替わって、その家に関係した人々が呪い殺される様が、描き続けられるの。
 他にはなにもなし。
 ただ、毎回毎回、新しい人が家に関わって、呪われて、霊に追い立てられて、最後は殺されるの。

 なんじゃこれは。

 ストーリーが、ない。
 シチュエーションの繰り返し。

 たしかに、こわいよ。どのパターンもめちゃこわいけど。
 でも……それだけっての、どうよ?

 見ながら、ストレス溜まりまくり。
 で、どうなのよ。昔あった殺人事件はどーゆー事件だったの? なんで妻は殺されたの。行方不明の息子はどーなったの? ここまで関係者(刑事含む)が変死しまくってて、なんで周囲は変に思わないの?
 誰か、現状を打破してくれよ。永久ループで、なんの意味があるの?
 現実にはそれはアリかもしれんが、映画だよ、これ。ストーリーはどこに?

 切実に「超能力者よ現れろ」と祈ってしまった。
 超能力だとか霊能力だとかで、戦ってくれる戦士でも現れてくれなきゃ、つまんないよー。
 探偵でもいいよ。殺人事件を解決して、どっかで遺棄されているだろう死体でもみつけてくれよ。
 結局、最後は霊に殺されてくれてもかまわないからさー。なにかしら、「こちら側から」霊に関わってくれよ。「向こう側から」一方的に呪われて殺されておしまい、をエンドレスで見せられたら、つまんないよ。あきるよ。

 たった1時間半の映画だったんだが、ものすごーく長かった気がした。
 同じことをえんえんえんえん見せられつづけてたからさー。

 みょーに疲れた。
 そして、ものすごくこわかったけど、なんにも残らない映画だった。

 ストーリーの重要性を再確認したよ。
 どんなにこわいシーンだけをえんえん見せられたって、それが「物語」として機能していない場合は、せっかくのこわさがリアルに魂に刻まれないんだわ。
 まず、ストーリーだ。
 そのうえで、こわいシーンだ。

 この映画は、とにかくこわいシーンを撮りたいハートで作られたんだろーな。
 ストーリーなんかどーでもよくて、とにかくこわい映画が作りたかったんだろう。
 たしかに、やりたいことが明確で、意図して作られただけあってものすごくこわくて、「やりたいこと」だけを抜き出して考えるなら成功している。
 でも、「映画」として考えた場合……こわくないよ。
 『リング』や『女優霊』のことは「こわい映画だよ」って人に言えるけど、『呪怨』のことは……ちょっと言えない……。

 画面はものすごくこわいけど、物語はこわくない映画。

 と、言うしかないな。
 そして、目でこわがったものって、心でこわがったわけじゃないから、残らないんだよね。すぐに忘れる。わたしひとり暮らしだけど、映画を思い出して夜中にぞっとする、なんてこと、『呪怨』に関してはまったくありませんでした。
 だって、心はこわくなかったもん。

 「物語」をナメてるよなあ。
 この映画は。

 パート2の公開が決定しているそうだが、ストーリーがないのなら、もう見に行かなくていいや。たかだか1時間半で、もうあきちゃったよ。

 
 奥菜恵は、顔立ちがはっきりしているぶん、ホラー向きですかね。恐怖の表情は、くっきりはっきり系の美女に限ります。
 しかしこの子、スタイル悪いよねえ。
 昔一度だけ生で見たことあるんだけど、そのとき等身の低さにおどろいたのよ。
 ほら、普段ヅカばっか見てるからさあ。わたし、「美形」は顔じゃなくスタイルだと思ってるクチなのよね。
 芸能人なら7等身は欲しいのよ。6等身以下なら、そのへんにいくらでも転がってるじゃん。
 奥菜恵ちゃんは、6等身ぎりぎり……下手すると5等身半なんだよなあ。だから全身が映るとキツイ。
 伊東美咲ちゃんとのツーショットを期待したんだが、一度もなかった。やっぱそのへん考えてんのかな。伊東美咲ちゃんは、8等身近くあるよね(笑)。

 
 ……トド様ファンがスタイルを語っちゃイカンとは思うけどさ……。あの人、あのものすげえヒール履いて、よーやく6等身だもんな……。つーと素足だと……ゲフンゲフン。


 水曜日は電話をしないでください。

 そうお願いしてあるにもかかわらず、わたしの仕事の担当さんは何故か水曜日にかけてくることが多い。

 1日ずれているが、2月5日、水曜日のことだ。

 水曜日は何故、電話に出られないか。
 答えは簡単。
 大阪の映画館は水曜日がレディースデー。1000円なのさ。
 でもってわたし、水曜日は映画を見ている可能性が高いのよ。

 わたしの新しいペンネームが決まりました。
 またしても、タカラジェンヌの名前です。
 ああ、友人たちに笑われるんだろーなー。前回にひきつづき、だもんなあ。
 でも、わたしが決めたわけじゃないもん。
 わたしは「緑野ひつじ」にしたかったのよ。なのに担当さんに「真面目に考えろ」って却下されてさ。
 仕方なく、5つくらい候補を並べて送ったら、その中で担当が「これにしましょう」と決めてくれたのが、某ジェンヌの名前。
 名字は「緑野」のままで、名前だけ某ジェンヌ。
 アイタタタ。
 殿さんが爆笑する姿が目に浮かぶ……。くそーっ、決めたのはわたしじゃないやいっ。
 木っ端作家はペンネームも自由にできないのよう。めそ。「ひつじ」がよかったのに……。

          ☆

 今日は映画を2本見ました。
 『ケミカル51』と『呪怨』。

 最初に予告を見たのはいつだったかな。
 スカートを穿いたサミュエル・L・ジャクソンを見た瞬間「見に行かなければ!」と思った『ケミカル51』。

 サミュエルは天才薬剤師。通常の51倍の効力があるドラッグを調合できる、つーんで、アメリカとイギリスのギャングたちが、彼をめぐって大騒動。
 サミュエルはイギリスのギャングのチンピラ、ロバート・カーライルと組んで、2000万ドル儲けようとするんだけど……。

 予告では、「俺サマが作りたかった映画はコレだ!」ってテロップが出たのよ。
 サミュエル・L・ジャクソンっていえば、しぶい演技のおじさん俳優じゃん。その彼が「作りたかった映画」ってゆーんだから、どんなもんじゃろう、と。
 ……しかも、スカート穿いてるし。
 なんなんだそりゃ、って気にも、なるでしょ?

 でもって。
 サミュエルおじさん、ほんとにコレ、作りたかったの……??

 ひとことで言うなら、おもしろくなかったっす。
 つーか、わたしの好みからは著しくはずれていた。
 クールなんすか、この映画? イケてんすかねえ?
 たしかに、とても「オシャレであること」を意識して作られていると思いますけど。

 でもなあ、わたしの趣味じゃない。
 ユーモアのツボが、ちがいすぎる。
 わたし、暴力と汚物では、笑えないの。
 お笑いでもあるじゃない、相手をぼこぼこ殴って笑わせるやつ。あれ、ダメなんだわ。暴力は暴力。笑いになんかならない。汚い言葉やモノを使って笑わせるのも、ダメ。幼児向けマンガではよくあるよね、「う○こ!」とか「ち○こ!」とか連呼する系のギャグ。あれ、笑えない。
 『ケミカル51』の笑いは、ソレ系でした。
 人をばこぼこ殺して、それを笑いにする。簡単に人を傷つけることで、笑わせようとする。
 バカなヤツを殴り倒す。バカなヤツをぶっ殺す。……これが「ユーモア」として描かれる。
 ……ダメだ。
 ごめん、わたしの趣味じゃない。

 最初にローレンスという男が殺されたときからすでに、ダメだった。
 ローレンスっちゅー、いかにも脇役な小物が、主役のロバートの暴走に文句を言う。短気なロバートは手下に「こいつをちょっと黙らせろ」と言いつける。
 で、ロバートは仕事に行く際に改めて「ローレンスはどうした、あいつがいないと仕事ができないだろ」と言うんだが、手下はしどろもどろ。
 なんでかっちゅーと、そのときはもうローレンス、殺されて車のトランクの中なんだわ。
「黙らせろとは言ったけど、始末しろとは言ってねーぞっ?!」
 という笑うシーン。
 あの、わたし、笑えません。
 ローレンスに電話をかけてきていた、彼の奥さんのこととかが気になって。彼の奥さん、泣くだろうな。傷つくだろうな。……って、物語の最初の部分から、ストーリーとは関係ないところに気が入ってちゃダメでしょう。
 万事この調子でさ。
 わ、笑えない……。

 ドレス姿で教会の鐘楼から狙撃する、女殺し屋は素敵だったけど……それだけだわ……。

 ロバート・カーライルは好みです。
 チビだけど、顔が好き。わたし、外国人俳優の顔と名前はおぼえられない人なんで、彼のことも「どっかで見たなあ、好きな顔だー」と思って見てた。
 そっか、『フル・モンティ』のおっさんだ! 『フル・モンティ』はたのしい映画だったよ。中年男たちのストリップ物語。
 なにをやっても受っぽいのがまたポイント高いよな、ロバート・カーライル(笑)。

 ま、この映画はポスターのかっこよさと、サミュエルおじさんのスカートだけを記憶しておこう。ほんとに、最初から最後まで、ナチュラルにスカート穿いてた……。

 
 映画、『13階段』。
 主演、反町隆史、山崎努。

 過失で人を殺した過去のある男・反町と、死刑執行を行ったことのある刑務官・山崎が、無実の死刑囚を救うために真犯人を捜すことになった。
 10年前に起きた保護司夫婦惨殺事件の真犯人と、その動機は? 成功報酬3000万の真犯人探しの依頼人の真意は? 事件を調べるうちに、反町の隠された過去が明らかになってくる。彼と事件との関係は……?
 殺人とはなにか。償いとはなにか。罰とはなんなのか、死刑の是非は。重ーいテーマのヒューマン・サスペンス。

 いやあ、美親父たちが乱舞する、親父好きにはたまらない映画です(笑)。
 反町はどーでもいいです、努です、山崎努!! わたしとWHITEちゃんの合い言葉は「努は見なきゃな!」ですから。
 いい男だ、山崎努。
 とくに、若い男と組んだときに、そのいい男ぶりが発揮される。竹之内しかり、窪塚しかり。

 テーマはとても重い。殺人と報復と罰と償い。これはもー、答えのない世界ですな。
 「死刑」とは、国家の名の下に行われる「殺人」である。この是非を問う物語でもあるわけだから、ほんとにドツボ。底のない泥沼であがきつづける。

 それぞれ「殺人者」であるふたりの主人公が、罪と向き合い、どう生きるか。
 ややこしいプロットとともに、なかなか感慨深い物語。テーマの痛さは好みです。
 ただ、それを「死刑制度」に結びつけちゃってるから、「社会派」の枠の中におさまっちゃって「それで?(首かしげ)」とつぶやくところで終わっちゃってる気がする。
 社会派にしなければ、もっともっとどす黒い、わたし好みの暗くて深くて痛い世界が展開されただろーに。
 社会派にすることで一般性を持たせてるから、その分薄いんだよなー。でもま、そーでないと映画になんかならないか。スポンサーがつかないよなー。

 心配なのは、それでこの映画、誰が見に行くんだろ、ってこと。
 「死刑制度の是非」だぜ? そんなテーマで親父しか出てこない映画作って、興行的に成り立つのか? 余計なお世話だろうが、考えちゃったよ。
 若い子はまず、見ないだろ。重いモノがきらいな親父層も見ないだろ。
 ……反町隆史っつーのは、それほど集客力のある役者なのかね?

 わたしは親父好きで、なおかつ腐女子なので、たのしみましたとも!!
 腐女子のみなさん、この映画は愉快ですよ!(笑)

 山崎努×反町隆史です。
 もー、わっかりやすく、えらいことになってます。

 刑務官だった山崎、受刑中の反町にラヴラヴです。毎日視線送りまくり。なにがあっても、彼だけを見つめています。
 そして出所した反町を追いかけていきます。自分のアルバイト、死刑囚の無実をはらすのに3000万円!に、相棒としてスカウトしにきます。
 で、反町とふたりでアパート借りて住みます。ふたりで並んで台所に立ったりします。新婚さんです。
 いつの間にか、山崎は反町のことをファーストネームで呼び捨てにしています。
 前科者の反町を、「こいつを仕事から降ろせというなら、俺も降りる」と言ってかばいまくります。ふたりは一心同体、引き離すことはできません。
 反町はどーも、山崎の愛情に引きずられているよーです。彼はクールでなにを考えているのかわからない、銀縁眼鏡のおとなしい青年です。自分の気持ちを表現しないまま、山崎の言われるがままになっています。

 ……すごいです。親父、濃すぎます(笑)。
 そうか努よ、そんなに反町が好きかー。

 あと出てくるのが、天下一品の誘い受親父、大杉漣、暑苦しさいちばん井川比佐志ですよー。愉快すぎ。

 努の夢は、刑務官を退官して、パン屋を開業すること。その夢を反町に語ります。
「プロポーズしてんのかと思って、あせった」
 とWHITEちゃん。
 ええ、わたしも思いました。まさか親父、「パン屋のかみさんになってくれ」って反町のこと口説いてるのかと思ったよ……。そっか、奥さんとやり直すんだね、よかったわ。

 とにかく、濃くアツい映画でした。

 最後にひとこと。
 大杉漣はいいなあ。

 
 ミーハーしてきました。

 『仮面ライダー龍騎』の吾郎ちゃんこと、弓削智久くんに、握手してもらって、一緒に写真撮ってもらった。
 某社のパーティ。北岡先生と吾郎ちゃんがツーショットで現れる、という噂が先行していたが、実際は吾郎ちゃんだけだった。先生が横にいないのは腐女子として残念だが、生のごろーちゃんに会えるだけでも感激だーっ。
 いいトシこいて緑野、ミーハーに徹する。
 人混みが落ち着いたあたりで、友人のサツキちゃんとふたり、突撃。
 ああ、かわいいなあ、きれーだなあ、ごろーちゃん。身長186cmだよ。ヒールを履いたわたしの隣にいても、十分に大きいんだよ。なんて素敵なんだろう。
 んで、一緒に写真撮ってもらったんだけどさ。
 ……ちょっと不満だったのは。

 なんで肩抱かないのーーーっっ?!

 ふつー、抱くだろ、肩。もしくは腰。
 こーやってぴとっとおぱさん、くっついてんだよ? それくらいのサービスはするだろ、芸能人なんだから。わしゃ美人でもないし、トシもくってるが、ファンを名乗る女なんだから、営業の一環としてそれくらいのサービスはしてくれてもいいんじゃないかと、芸能人に対して思っているよ。
 ごろーちゃんの手を取って、強引に肩に回そうかと思ったが、さすがにやめた。もしくは強引に腕組んでやろうかとも思ったが……それもやめておいた。
 いや、さすがに、ばばあとはいえ、わたしもまだ女だからな、セクハラはまずいかと……。
 でもでも、ふつーこーゆー場合、肩は抱くよねえ? 浅倉役の萩野崇はやってくれてましたよ、友人談。

 だが、サツキちゃんの話では、「だからごろーちゃんはいいのよ! ごろーちゃんがファンの女の子の肩を馴れ馴れしく抱いたりしたら、そっちの方がショック!!」だそーだ。
 うん、たしかに……。
 いかにも慣れてない感じの、どう受け答えしたらいいのかわかりません、て感じが、初々しくてじつに良かった……。かわいい……。まだ22歳ですか、そうですか……。

 同業の友人たちとじっくり会って喋れるのは、某社のパーティのときだけだったりする。
 だから会うのは1年ぶりの人たちの多いこと。
 おどろいたのはサツキちゃんだ。

「あたしもう、緑野さんに会わす顔がない」
 と、彼女は言うのだ。
 昼間に行ったディズニーシーで。……うん、また行ったの。ネズミ海。今度は同業友人ズと。
 どーしたこった、と思ったら。

「あたし、ヨゴレてしまったの!!」

 彼女は、『仮面ライダー龍騎』にどっぷりハマってしまったらしい……。
 サツキちゃんは、ホモとかやおいとか、理解しない性質の人だったのに。わたしたちのなかで唯一の清純派だったのに。
 たった1年の間で……。

「それで、カップリングは?」
「……芸がないんだけど……その……蓮真」
「蓮攻? あー、じゃ逆だー。わたし、蓮は総受だと思ってるクチ」
「いいじゃん、アタシなんかコウモリ×ナイト様だよ?」
 と、口を出してくるのは鷹さん。
「変身する前は興味ないの。でも、変身したあとは、ナイト様受」
 ……強者だ、鷹さん。コウモリ攻のナイト様受ですか。
 たしかにナイト様は受オーラ出してますが。つーかわたし、ナイトであろーと蓮のままであろーと、彼は受希望です(笑)。

 ところでサツキちゃん、本出してるなら見せてよ?
「だめっ。そんなの絶対だめ。緑野さんには見せられない」
 あたしだって以前、某刑事ドラマでやほひ書いてたしさー。いいじゃん。
「緑野さん、やおいって言ってもそれほどのことなかったじゃないですか。あたしのは、緑野さんの本の比じゃないのっ。とても見せられないー。ヨゴレちゃったのよぉ」
 ……どんなものすごいものを書いているんだと、想像しちゃうぞ? そんなふーに隠されたら。

 しかし、ひとは変わるものだ。
 あの清純派のサツキちゃんが……。おそるべし、『龍騎』。

 ところでわたし、北岡先生は攻なんですが、と言ったらみんなからブーイング。
 わかってるよ、あの人ほど「女王様受」が似合う人はいないと思ってるよ。いかにも女王様だから、受はイヤなんだよ、わたし的には。
 人間的に欠けたまま、攻でいてください。彼の壊れた部分が好みです。
 ……でもってわたし、前回の冬祭りでは、先生×ごろーちゃん本買ってたんだよね……。
 パーチーで、ごろーちゃんに握手してもらいながら、「ごめんね、受だと思ってて」などと考えておりました……。

 ミーハーかつ、腐った女子なのだ。

 
 5分前着で映画が見られなかったのは、近年ではじめてのことだ。
 そりゃー、何年前だったか、『恋愛小説家』という前評判だけのクソ映画は、30分前に行っても満員御礼門前払いだったけどさ。(2度も出直し、3度目の正直で1時間以上前に行って並んで入った。……クソだった)

 『T.R.Y.』を見に行った。5分前に映画館に着いたら、満席だった。
 ……満席? 売れてるのか、この映画?!
 ちょっとびっくりだ。ここ数年、門前払いされたことなんか一度もなかったからさ。

 仕方なく、次の上映まで時間を潰し、つーか、そもそもの目的だった父のお使いをすませてから、なにがなんでも見て帰った。映画っちゅーのは思い立ったときに見ないと、見逃しちゃうもんなんだわ……。

 やはり映画館は8割強の入り。……水曜日とはいえ、邦画だよ? すげえ。

 ま、とにかく。

 舞台は20世紀初頭。世界をマタにかける詐欺師の織田裕二は、世界各地で男や女をコマし、惚れられまくる魔性の男。今回は魔都上海で革命家をコマし、暗殺者をコマし、日本では野心あふれる陸軍将校をコマし、男たちのはぁとをハァハァさせたまま、風のように消えていったのでした。今日もまた、世界のどこかで彼は、あらゆる男たちをコマしまくっているでしょう……。
 という、大変心温まる世界的規模の色男の話でした。

 感想は、「男って恥ずかしい……」ってとこですか。
 これ、女が女のために作ってるわけじゃないよねええ?
 そりゃ一部腐女子を意識してはいるだろーけど、大方はふつーに男が男のために創ってんでしょ?
 女はさ、「出会う女すべてに惚れらたい」とは特別思わないよね? それくらいなら男に惚れられたいと思うわな。
 でも男ってのは、「男に惚れられたい」と思う生き物なんだよなあ。だから平気で、「男に惚れられる、男の中の男」モノを書く。真正面からずどんと書く。
 ……恥ずかしい……。
 映画の中で織田裕二は、そんな「男たちの夢」の権化として描かれている。
 強くてハンサムで、といっても女性的なきらきら王子様じゃなく線の太い地に足がついた系のいい男で、かわいげがあって調子が良くて、泣きごとも言うけど、やるときゃやるぜだし、義理人情に厚くて打たれ強い。
 日本人の男が憧れる男、なんだよなあ。ウエットなんだもんよー(笑)。
 いい女に惚れられても、そっちへわざと足を踏み出そうとしない感じなんかも、男の夢か?(笑)
 それから、織田のライバルとして登場する帝国軍人、渡辺謙。この人の描きっぷりももー、「男の夢」。
 渡辺謙様に関してだけは、「美」を意識して演出してるよね? ね?
 いや、わたしははっきりいって、渡辺謙様目当てで行ったよーなもんなんで、これには腹をよじらせてもらいましたが、じつにすばらしい演出でした。
 渡辺謙様は、美しかったです。
 男たちが胸に描く、「理想の軍人将校」の姿がそこにありました。
 実際に戦争を知っている世代の人の理想じゃなくて、わたしたち以下の世代の男たちの、ね。
 つまり、「軍服かっこいー!」「軍隊ってかっこいー!」なハァトで描かれた、理想の姿よ。アニメの中に出てくる美形軍人の姿よ。
 日本軍のカーキ色の軍服ってさ、他国の軍服に比べてイケてないじゃん。資料として残っている写真を見ても、着ているのが4等身のチビ日本人だったりするから、余計にさ。
 それが、渡辺謙様が着てしまうと、かっこいいのなんのって。
 身長があって横幅もあるから、服に負けないのな。しかもあのくどい男くさい顔だから、「軍服」という一種オーラを持つコスチュームを着こなしてしまうんだわ。
 そのうえ、くるぶしまである同色のマントっすよ?!
 そして、彼の全身を映すときはカメラが「今、美しいモノを撮っています!」という意気込み十分の映し方をするのよ?! わざとななめになってみたり、スローになってみたり。
 おいおい、主役の織田相手にもそれくらいやってやれよ、と言いたくなるくらい、渡辺謙様のことは「美しい人」というスタンスで演出されています(笑)。

 たのしかった。
 渡辺謙様の軍服姿を見るだけでも、価値があります。つーかわたしにとっての価値のほとんどはそこにありました。眼福眼福。
 ストーリーにしろ、キャラにしろ、目新しいモノはナニもありません。お約束だけでできあがっています。
 だから、ツボがあるかどうか、って感じかな。たのしめるかどうかの鍵は。
 織田か、渡辺謙様を好きならOKっしょ。
 腐女子もたのしめるはず。とにかく、出会う男たちは国籍年齢問わず、みんな織田っちにラヴラヴ、目がハァトですから(笑)。
 合い言葉は「俺は日本人は嫌いだ。……だが、お前は別だ」です。
 情緒不安定。
 精神、肉体とも限界の壁を見る。

 だからこそ人生は意味があるのであろー。

 WHITEちゃん、わたしはいろいろ考えさせられたよ。ほんと。

 とりあえず、おなかが空いたからなんか食べるかな。
 戦いはまだつづくのだから。

 とまあ、つぶやきだけの日記。

 
 いろんなことが一時に押し寄せてきた。

 今わたしは仕事で逼迫している。
 仕事を人生の最優先事項のひとつに置いているわたしにとって、今この瞬間、仕事を邪魔するものには、非人間的感情を持つ。
 人間として、それはまずいと思うけど、でもわたしにとっては仕事が大切なんだ。

 わたしが男なら、まちがいなく仕事のために女房子どもを泣かしていただろうよ。
 恋より家庭より、仕事の方が大事さ。
 わたしの生きている意味だからな。

 しかし、その仕事を一時投げ出して、モロモロのコトにあたる。
 自業自得の騒動なんだが、今このときだということが、泣けるほど痛い。
 他のときなら、わたしはこんなに苦しくなかった。
 何故今なんだ。
 命を削って戦っている今、何故コレがやってくるんだ。

 気力が尽きたら、最悪の事態になる。
 わかっているから、精根尽き果てるまで努力した。

 ……したが。
 結果は、芳しくなかった。

 疲労だけが溜まり、泣きたい気分でメールチェックをしたら、唯一心の支えにしていた人から、デートのキャンセルのメールがきていた。

 「泣いていいですか……?」

 思わず、遠い目をしてつぶやいちゃったよ。
 疲労が突き抜けていたせいで、涙は出なかったけどな。

 
 いいかげん、たまりにたまったので、『ガンダムSEED』をDVDに焼く。
 アニメなんで、画像は悪くてかまわない。13話でDVD1枚。全何話あるのか知らねーが、13区切りならバランスはいいだろうから。

 じつはまだ見てないんだ。
 絵が気持ち悪いのと、あからさまな据え膳ホモな雰囲気にめげて。
 今、7話かなー。とりあえず、7話現在ではまだおもしろさがわからない。『ターンAガンダム』は1話からすでにおもしろかったのになー。

 わたしはガンダム世代なので、「新しいガンダムが放映される」と聞くとわくわくする人間だ。
 同じくガンダム世代の弟とふたり、たのしみに新番組を待ったさ。
 弟はわたしと血がつながっているにもかかわらず、非オタクで、アニメもマンガも見ない。唯一、ガンダムだけは見る、とゆー、「ああ、あの時代の少年が大人になったんだな」という男だ。(そんな男たちはいっぱいいる)

 そして、第1話を見て……いや、正確には1話のオープニングを見て、絶望した。

 こんなの、ガンダムじゃないっっっ!!(滝涙)

 絵が気持ち悪いのは、予告で見て知っていた。ショックだったが、それでも「絵だけで判断しちゃだめだ。内容を見なきゃ」と自分をなだめた。

 しかし、オープニングを見て。
 絶望した。

 なんなの? ……なんなの、あの「乳揺れ」はっ!!

 巨/乳(検索避けになるかな? 毎日この単語でものすげー数の検索がかかるのよ。勘弁してくれ)の裸の女のシルエットが出て、その笑えるくらい大きなちちが、ぷるるんっ、と揺れるのだ。

 なんだそりゃあ。
 これは男向けの萌え萌えアニメなのか?
 そりゃ勝手に萌えるのは視聴者の自由だが、制作者が世の男向けアニメと同じ手法でオープニングを創るというのか?
 そ、そんな……っ、そんなの、ガンダムじゃないわっっっ!!

 萌えアニメはいくら創ってくれてもかまわない。SFで戦闘でメカでロボットで巨乳美少女で、まったくかまわないよ。
 ただ、ガンダムでやるのはやめてくれ。線引きをしてくれ。
 巨乳美女が出ていいから、わざわざちちをぷるるんっ、とやるためだけにオープニングに出さないでくれ。
 そんなもんがなくても、男たちがよろこんで見るよーな、質のいいものを創ってくれ。仮にも「ガンダム」を名乗るのならば。

 あまりに衝撃だったので、弟に「男はアレがうれしいのか?」と聞いたよ。
 弟は「ガンダムでやっちゃいかん」と答えた。
 ……まあ、聞く相手も悪いか。弟はギャルゲーとか男向け萌え美少女キャラとかが嫌いな男だ。のーみそのない、顔とおっぱいだけの美少女キャラは、物語の邪魔になる、と考えている歴史シミュレーション好き男と、世のニーズは別かもしれない。

 絵は2話以降はそれほど気持ち悪くなくなった。1話はなんであんなにものすごい絵なんだ? 尖った顎で人が殺せそうだ。それともたんに、わたしの目が慣れたのか。
 ここまで仕事が切羽詰まってなければ、一気見するんだがな。
 せっかく「ガンダム」で、全話録画してるんだ。おもしろくなってくれることを祈る。

 
 映画『8人の女たち』鑑賞。

 1950年代のフランス。クリスマスイヴの夜、雪に閉ざされた大邸宅で一家の主が殺された。容疑者はそのとき屋敷にいた8人の女たち。
 次々と明かされる8人の美女たちの秘密。濃すぎる人間関係。そして、真犯人は……?

 最初から最後まで、主役の8人しか出ず、舞台も屋敷からまったく変わらない。

 この屋敷がもー、めっちゃロマンチックできれーな夢の邸宅。
 そこで暮らす美女たちときたら、「コスプレですかっ?!」と言いたくなるような、カラフルかつオシャレなファッション。
 50年代だからさ、ディオールの「ニュールック」系なんだよね。もー、ドレス見ているだけでもたのしい。
 そして。
 8人のヒロインたちは、全員歌う。踊る。
 なんか、とんでもないミュージカルだ。

 見ながらわたし、痛烈に思った。

 これ、ヅカでやってくんないかな……。

 大劇じゃ無理だろーから、バウでさ。
 出演者は8人ぽっきり。セットは屋敷だけだから、ほんとバウ向きだよねえ。
 8人のヒロインのうち、3人は男役でいいと思う。
 主の妹(イメージカラー・赤。放蕩の限りを尽くす恋多き女)は、セクシーワイルドな大人の女を演じられる、上級生男役で見たい。
 主の妻の妹(イメージカラー・茶。ガチガチの嫌味女。『ハイジ』のロッテンマイヤー女史系オールドミス。眼鏡を外すと美女に変身・笑)は、路線の美形男役に、ユーモアたっぷりに演じて欲しい。
 主の次女(イメージカラー・ライトグリーン。元気でボーイッシュ、生意気盛りの17歳)は、売り出し中の若手男役に、とびきりキュートに。
 あとの5人は娘役。
 主の妻(イメージカラー・豹柄。上品かつセクシーな上流階級夫人)立っているだけで「美女!」とわかるよーな美しい上級生に。
 主の妻の母親(イメージカラー・藤色。上品な上流階級夫人だが、ちょいと天然の入った愛らしい老婦人)は、専科のおねえさまに。
 主の長女(イメージカラー・ピンク。華やかな美少女)は、路線ばりばりの美人娘役に!
 屋敷のメイド(イメージカラー・紺。ストイックな美女)は、若手の別格系娘役で。
 屋敷のハウスキーパー(イメージカラー・濃緑。肉感的つーか太めの肝っ玉母さん。善良そうな黒人)は、専科のおねえさまでも、演技派の男役でもいいかも。肉布団着込んでGO!

 いかにもタカラヅカ的な、行きすぎたよーな色彩きらきら美女きらきら、歌い踊るミュージカルなんだが、こいつらの人間関係の濃いこと。濃いこと。
 誰と誰がくっつくのか、離れるのか、油断が許されないっていうか、目が離せないっていうか。(鼻息)
 いやあ、緊迫感あります。
 ……出演者、全員女なんだけどね。
 女しかいないのに、カップリングに手に汗握ります。
 なんせ近親相姦あり、レズありですから。
 だ、誰と誰がくっつくの?! 誰と誰がデキてるのっ?! うきゃーっ、こうキますかーっ。
 倫理観なんてものは、この際棚の上にでも置いておきましょう。8人の美女たち、全員えらいことになってます。
 えっと、誰と誰がどーなってて、誰が誰を愛してて、でもこーなって……って、複雑すぎなんじゃお前らっ。一夫一婦制って言葉知ってるか??

 とにかく、愉快です。
 女ふたりが憎み合い殺し合い……ながらもそのままごろごろ床転がって、抱き合ってキスへなだれ込むあたりなんかもー。笑えばいいのか……? エロエロなシーンなのか……? わたし、あなたたちの熟れてしたたるよーなおっぱいが気になってしょーがありません。うわー、カタチが変わる……そっか、あんだけでかいとそりゃ、態勢によってカタチかわるよなあ。つーか、そのドレス露出高すぎ。
 いちばんお気に入りは、ストイックなメイド。メイドコスにハァハァする人の気持ちがわかったよ……。めっちゃきれーだ。アンドロイドのよーな硬質な美貌と無表情、慇懃な態度。役目忠実。
 しかしこのメイド、途中で豹変する。……心のない人形の仮面をかなぐり捨て、メイド服を乱し、まとめていた髪を振りほどくシーンの、あの獣のよーなエロス……!! 欲情した彼女の危険なまでの美しさ!
 行け、メイドよ。襲いかかれ!!(屋敷には女しかいません)

 ほんとーにたのしゅうございました。
 8人の女たちは全員キチガイですから、人としてのふつーの感性は持っていません(笑)。だからあそこまでめちゃくちゃできる。
 それがいっそ小気味いいです。
 倫理とかルールとかを、ハナから無視して作ってある映画ですから。
 ミステリとしての謎解きはもとより、女たちの濃すぎる愛憎をたのしみましょう。繰り返しますが、マトモな女はひとりもいません。最初はみんなマトモに見えるけど、だんだんわかります。みんな変だって。それをたのしみましょう。

 あとはひたすら、目でたのしむのです。
 美しいものはいいです。ほんと。

 いやあ、いいもん見たよー。

          ☆

 落胆したのは、予告編。
 ちょっと待ってよ、テアトル梅田。わたしとWHITEちゃんは、予告を楽しみにわざわざ行ったのよ。なのに「予定を変更して、予告編を短縮して**分から本編を上映いたします」ってなんじゃそりゃ。
 わたしたちはね、『呪怨』の予告が見たかったのよ。WHITEちゃんが前に見て「チビりそーになるくらい、こわかった」って言うから、「それならその予告、見てみましょう」って、彼女のエスコートのもと見に来たのにぃ。
 次回上映作品の予告ぐらい、ちゃんと流せよー。

 
 ああああ、いづるん、ラ〜ヴ。

 
 雪組新公『春麗の淡き光に』観劇。
 この公演のいちばんの収穫は、いづるんの検非違使男でした。本役はハマコね。

 わたしはハマコが好きだし、彼のあの、やりすぎてしまう超うっとしー演技が好きだったりする。うざッと思いつつも、それでも応援していたりする。
 そしてなにより今回の芝居では、気の遠くなりそーな駄作を、ハマコのあのクドイ演技で力業で支えている感があるだけに、ハマコ演じる検非違使男が好きだ。

 それでもなお。
 新公の検非違使男、いづるんが好きだーっ。
 も、萌え……。
 どーしましょー、いづるん検非違使さいこー。

 はっきり言って、ハマコの演じる検非違使男とは、別人でした。あらゆる意味で。
 まず、最大の相違点。

 いづるんの検非違使男は、美形でした。

 ……ごめん、ハマコ。ごめんな。素顔の君がガイジン系の美形さんだとは知ってるよ。でも君、舞台ではカケラも美しくないんや……。

 それに比べて、いづるんの美しいこと。
 出てきたときから、「なんなのこの検非違使男っ、背景にはいつもお花、アップになると点描とんでますがなっ」とびっくり。
 たおやかな美青年でさ。一目見て、「こ、この男、いぢめたい、泣かせたい……」と思いました。
 そりゃー、悪役大臣もいぢめるでしょう。足蹴になんかしちゃってさ。ああっ、転がる様がすてきだわ。やーん、もっといぢめて〜〜っ。
 とにかく、いづるんが色っぽすぎるので、この物語がまったく別の物語に見えました。
 悪役大臣は絶対、いづるん検非違使男を、いぢめたくていぢめているわっ。キム朱天童子のことは建前よ、本音はただ、いづるんを足蹴にしたいのよ。ハァハァ。

 とまあ。外見つーか、キャラですでに萌え萌えだったんですが。
 そのうえこのいづるん検非違使男、ハマコと役作りがちがいました。や、もちろんそりゃ、あの暑苦しさはハマコだけのものであり、他人が真似できるものではないと思ってますが。
 それにしても、まったく別人に作ってきたあたり、感心しました。
 なんていうかとても、納得のできる人でした。
 ハマコだと、勢いだけで空回ってるかわいいバカ男って感じだけど、いづるんはもっと深かった。
 二流大学出のサラリーマンが、コツコツ努力して出世して、よーやく現在の地位を築いたのに、努力むなしく失脚するはめになって。35年ローンのマイホームと、専業主婦のお嬢さん育ちの女房と、病弱な息子を抱えた29歳、この微妙なトシで俺、これからどうすればいいんだ?! てな、哀惜がふつふつと伝わってきました。
 なまじまだ若い分、断ち切られた出世の道が恨み節、あきらめきれないっていうか。
 銀橋の復讐ソングで、力一杯彼に感情移入しました。
 そして、いちばんの見せ場であるキム朱天童子を斬る斬らないのところ。
 あの、空虚な瞳が忘れられません。
 復讐だけを支えにどん底を這いずっていた男が、それをぽきんと失う瞬間。そして、そこに浮かぶ笑み。……ぞくぞくしました。
 この男、今すぐ犯してください、と思いました……。はっ、わたしったらなんてハシタナイことをっ。

 いやあ、いづるん見てると、自分の中にある「攻属性」がむくむく頭をもたげてくるのがわかります。(注・わたしはふつーの女の子……つーかおばさん……なので、もちろん普段は攻属性なんて持ち合わせておりません)
 前回の『追憶のバルセロナ』でも、ナルセの役をやっていたとき、それまではどーってことない手堅い演技でしかなかったのが、拷問されたあとになると、いきなり色気爆発、ごごご拷問てアンタ、ナニされたわけっ?! と取り乱してしまうよーなものすごさだったことを、思い出します。
 いづるん……いいキャラだ……。

 
 主役のキムちゃん朱天童子。
 OK。も、ぜんぜんOKっす。明日から主役でも、わたし的にはぜんぜんかまいません。
 というか、最初の「宝塚よいとこ一度はおいで踊り」(えっ、こんなんじゃなかったっけ?)で出てきた瞬間、「あんたがトップスター!」と思いました。
 あの広い舞台の、どこが「中心」であるか。
 それは立ち位置や衣装じゃないんだよね。
 オーラなんだよね。華なんだよね。
 出てきた瞬間、「彼のいるところがセンターだ!」と観客にわからせる力。
 キムはそれ、当たり前に持ち合わせているね。
 しかもなんだ、その不敵な笑みは。
 舞台には性格が出るという。たとえばタニちゃんなんか、なにをしていても、「ああ、君は舞台が大好きなんだねえ、ものすごーく素直ないい子なんだねえ」とわかる。
 キムは……アンタ性格、ものすげー悪い?(笑)
 て言い方は、語弊があるかもしれないが。
 ものすごく、生意気そう。友だちにはなりたくないー。いやなヤツっぽいー。
 でもそれが、舞台ではものすごい魅力である。
 か……かっこいー……。
 あの、ぶあつい唇を歪めて、意地悪くいやらしく笑う、あの笑い方がたまらん……。
 朱天童子ときたら、弓矢持って現れた瞬間、たしかに「カリスマ盗賊」でした。説得力。歌がなんかハズれてたみたいだか、それはまあご愛敬。
 なまじ出がかっこよすぎたから、そのあとの頭の悪い落ちぶれっぷりには違和感絶大。いいや、あんたはそこで泣きを入れるよーな男ではないはずだ、もっともっと、したたかで悪い男だろっ?! と思ってしまったよ……。
 よわよわな演技もうまかったけどさ……。前半と後半で別人だったぞ……? それっていいのか? 脚本の問題でもあるけどさ。
 滑舌と声がいいのが、得点UP。台詞と歌がはっきり聞こえるよ、ママン……こんな歌だったんだね。
 

 シナちゃんヒロイン、第一印象はやっぱ「小さっ!!」。
 びっくりするミニマムさでした。
 なのに、バランスいいプロポーション。顔が相当小さいんだろうなあ。
 前にものすごい歌を聴いたよーな思い出があったんで、歌のとき身構えてしまったが(笑)、べつにふつーに歌ってた。
 やりようのないヒロインを好演してました。

 かしげの役をやってたひじりんは……。
 かしげも相当アレだったが、やっぱり伊達に年月を重ねていないんだなと再確認しました。はい。
 つーか新公も完全に、検非違使男が2番手でした。最後にこの男がいい役で出ているのが何故だかわからんくらいに、ただの脇役に成り下がってた。

 美貌に目を奪われたのが、真波そら。
 なんですか、あの美形はっ。思わず家に帰って「おとめ」をチェックしちゃったよ。四天王のひとりね。

 あと、どこの組にも、「好みの顔」の男がいる。
 一般的観点において美形かどうかは関係ない。わたしにとっての「好みの男」だ。
 それが宙組では貴羽右京くんであり、雪組では安城志紀なのだわ。
 新公のパンフレットを最初にざーっと見て、「あっ、しっきー、役ついてんじゃん。『酒田公時』ってどんな役だろ」と、たのしみにしてました。わたしゃ本公演のパンフは買ってないんで、役名だけじゃなんのことやらさっぱりわかりませんからのう。
 ……たのしみにしてました。
 「顔」のファンですから。『猛き黄金の国』の新公の、顔に傷付き男で一目惚れして以来、彼の「顔」が大好きなのです。
 「酒田公時」って……四天王の赤鬼ぢゃん……。
 あまりのショックに、開いた口がふさがりませんでした……。
 顔が……顔が目当てだったのに……赤鬼……顔、作りすぎてて見えねー……。
 いや、似合ってたし、がんばってたよ。ただ、顔のファンとしてはさ……かなしかったよ……最後の挨拶も、とーぜんその化粧のままだしな。
 思わず同じ四天王の真波そらに浮気しそーになったよ……。

 
 なにはともあれ、有意義な新公でした。

 そして、後日書き直しってことで、人目に触れることが少ないだろーってことで、タイトルも内容も暴走中(笑)、な日記でしたー。


 今、松村雄基。

 わたしがDVDレコーダーを買った理由のひとつは、「過去のビデオ財産を失いたくないから」というのがあった。
 ビデオテープは劣化する。そりゃーもー、どーしよーもなく劣化する。
 わたしは画質にはこだわらない、見られればそれでいいや、の人なんだが、それにしてもとりあえず、映像がなきゃいやだ。真っ青な画面のまま音声だけはいやだ。
 高校生のとき大切に録画していたアニメ番組が、画面ブルーアウト+音声だけになっていたとき、どれだけかなしかったか。

 念願のDVDレコーダーを買ったことだし、ぼちぼちと昔録画したビデオをRに焼きはじめている。

 そして、今日は松村雄基。
 松村雄基の出ている番組だけをランダムに集めたビデオを、Rにダビっているわけさ。

 松村雄基といえば、伊藤かずえと並ぶ、大映ドラマの青春スタァ。汗と涙とツッパリにはハズせないお方。
 じつはわたし、大ファンでした(笑)。
 あのクソドラマ『生徒諸君!』の沖田くん役でデビウ。以来、くどくどしく整ったマスクと当時としては長身で筋肉質、リーゼントヘアで、心優しきツッパリ役を総ナメ。
 いやあ、こーゆー「お約束」キャラもドラマには必要でしょう。出てきた瞬間「こいつ悪役」とわかる人と同じよーに「あ、悪ぶってるけど絶対いい人」とわかる人(笑)。

 さて、わたしのビデオ・コレクションのトップを飾るのは、『アリエスの乙女たち』1987年。
 ふつーなら悪役になるだろー「お金持ちのお嬢様で美人でいじわる」な女の子をヒロインにし、「清楚で内気な心優しい美少女」を、そのヒロインに倒錯の愛を抱くもうひとりのヒロインにしてしまうあたりが、ナイスです。
 わたしは原作のファンでした。だもんでこのドラマ、キャスティングに不満。美人ヒロインが南野陽子なのは、100歩譲って認めよう。だがな。美少女ヒロインが佐倉しおりだっつーのはどうよ?! アレが美少女か? まあ美少女の部類かもしれんが、あんなサイコな顔立ちは「清楚で可憐」な役にあわんだろーが。
 今見返してみても、佐倉しおりこわすぎ。電波女にしか見えん。
 佐倉しおりがその美貌を遺憾なく発揮したのは、『花のあすか組』のヒバリ様役です。
 松村雄基はこのときすでに24歳。それでも学ラン、それでもツッパリ。
 ……でもさ、やっぱりおもしろいよ、このドラマ。当時も爆笑しながら見てたんだけど、ここまでトンデモないと、いっそ愉快だ。今のアイドルたちはもっと演技もうまいから、リメイクしてくんないかなあ。もっともっと、露骨に狙ってくれていいぞ。美少女同士のカラミを希望。
 佐倉しおり(ナチュラルに目が泳いでいる、宇宙人系美少女)が南野陽子に言う「あなたのくちびる、あたたかかった……」(くりかえすが、視点は合ってない……)は、名台詞だよ……テレビの前で両手を上にあげてぶっとびそーになった。

 次が『明日に向かって走れ!』1989年。
 とある高校のおちこぼれ駅伝部にやってきた熱血コーチが、体当たりで生徒たちを夢と希望に向かわせていく、感動青春ドラマ。汗と涙が大安売り。
 松村雄基主演。元ツッパリの熱血コーチ。そっか、ついに大人役か……と思ったら、回想シーンでやっぱり学ラン着てます。このとき松村雄基26歳。
 最終回のヘボンぶりは、実にすばらしいです。理事長のたくらみを暴き、駅伝部の廃部は撤回された。さあ、目指すは全国大会優勝だ!!
 残念ながら3位入賞にとどまったが、信じられない快挙だ、コーチありがとう! あっ、コーチがいない! ……コーチはアフリカへ行ったわ。別れがつらいから、みんなには内緒で。そっ、そんな、コーチ……っっ!!
 よーしっ、みんなでコーチを追いかけてアフリカへ行くぞぉぉおおっっ。そーよ、どこまでも追いかけてやるわぁぁぁああっっ。
 そして、どっかの資料映像にしか見えないアフリカの動物たちの映像が流れ、その合間に鳥取砂丘にしか見えない丘陵の上を走る駅伝部の生徒たちの映像が入る。
 そこへナレーション。
「それからしばらくして、アフリカを訪ねた日本人観光客は、陽光をあびて草原を走る日本人の若者の一団を見たという……ただしそれが真実であったのか、幻であったのかは定かではない……」
 幻なんかよっっ。

 次が『昨日の私にサヨナラを』1992年。
 渡辺満里奈主演。陸上で挫折したヒロインが、第2の人生、新しい青春を見つけようと単身上京。そこで出会ったのはなんだかトンデモない女たちと、素敵な男性。真面目でお人好しなヒロインと、イケイケ無神経女と眼鏡オタク女の女3人友情もの。
 ありがちすぎる題材と、使い古されたストーリー。見る価値ナシ。
 唯一他のクソッタレ類似作品と差異があるとすれば、番組内での「王子様」の位置にある「誰もが彼にメロメロなの@素敵な男性」が、松村雄基だということぐらいか。趣味悪(をい)。

 『ララバイ刑事’93』1993年。
 ’91ではなく、続編の方ね。片岡鶴太郎主演の人情刑事ドラマ。視聴対象者はずばりお年寄りでしょう。若い人が見てもカケラもおもしろくはない。
 ’91の方では、捜査一課に配属される「女性キャリア警部」が有森也実で、絵に描いたような「キャリアウーマン」。男になんか負けないわ! 女にだって男と同じように仕事ができるのよ! とゆー鼻息の荒い女。「なにが警部だ、小娘が」とゆー叩き上げ刑事たちと、女性警部の対立、葛藤、次第に両者は互いを認めはじめ……さらに鶴太郎と有森也実の間に芽生える淡い恋愛感情……てな話だったんだがなー。
 続編の’93は最悪。
 せっかく’91で女性警部と叩き上げ平中年刑事の恋愛を、お約束とはいえ描いていたってのに。
 ちょうど世は「お嬢様」ブーム。気の強いキャリア女性は人気がない時代だった。
 あっさりヒロイン交代。またしても捜査一課に「女性キャリア警部」が配属、今度は絵に描いたような「お嬢様」警部・中村あずさ。おっとり優雅にお話しになり、荒っぽいことやお下品なことには耐えられない。
 そしてまたしても、現場刑事たちと「なにが警部だ、小娘が」の対立、葛藤、前回やったことをもう一度フルコース。しかも鶴太郎刑事、またしても女性警部と芽生える淡い恋愛感情……。もおええって。
 んなもん、毎回恋していたら、鶴太郎、ただのスケベ中年じゃん。職場にいる若い女なら誰でもいいんかってことになるじゃん……。
 見る価値ナシのくだらんドラマ。
 松村雄基は刑事役。しかし。’91のときは彼がまだ若手で、元ツッパリ(お約束)でそちらに顔が利き、暴力系の犯人取り押さえ劇などでは腕っ節を披露、というわかりやすい役割があった。
 だが’93では的場浩司が新刑事として登場。的場もまた、元ツッパリで暴力担当……キャラかぶってんじゃん、思いっきし。なんて意味のないキャスティング。とにかくカスだわ、’93。
 だが、松村雄基と的場浩司の並びはある意味愉快だったりするのさ。ある意味、って? ……もちろん、腐女子的にってことよ(笑)。

 んで、ヅカファンなら誰でも知ってるだろー、『ぴあの』1994年。
 大阪の下町に住む、キチガイ4姉妹の物語。まともな奴はひとりもいねー。電波を受信して毒を吐く、とんでもない連中が、ふたことめには「だって家族じゃない!」「家族ってすてき!」「家族ってすばらしい!」とわめきつづけるサイコな物語。
 愛さえあればなにをしても正義だと思う、ストーカー思考の人ばかりで、とってもこわかった……。
 主演は純名里沙(現在はりさ)。ほんとーにかわいくてきれいで、歌もうまかったっすよ。……これで、某理事長作品かその愛弟子作品ほどヒロインとストーリーがぶっこわれてなければ、どんなによかったことだろう。涙。
 つーかこの4姉妹さ、誰ひとりとして、「友だち」がいないの……。
 そりゃふたことめには「家族」「家族」ってうわごと言うしかないよね。家族以外の世の中の人全部、敵だもんね……。
 松村雄基は、ヒロインぴあののあこがれの人。ぴあのを振って、その姉國生さゆりとくっつくのさ。……まあ、ぴあのよりはマシな女だったか……。

 最後が『サントリー・ミステリー・スペシャル−密使−』1995年。
 筒井道隆主演。わたしの松村雄基コレクションの本命。
 つーか松村雄基、基本的に彼はカス作品(もしくは爆笑作品)にしか出演しないので、おもしろいものはほとんどない。その彼の稀有な「おもしろい出演作品」だ。
 文字数がないので語れないが(笑)、これは素直にたのしんで見た。
 舞台は革命戦争時のメキシコ。20世紀初頭、日本は大正時代。当地にいる日本人移民を守るために、日本政府が革命の指導者に密書を送った。その密使が、名もなき日本人の若者、筒井道隆くんなのさ。
 これはもー、痛快歴史活劇。筒井くんのキャラはかわいいし、英雄やら女傑やらがあったりまえに出てきて、かっこいいぞ。とくに風吹ジュン!! かっこよすぎ! 最後のシーンはテレビの前で拍手したよ。
 松村雄基は日本人移民の武闘派青年。筒井くんに心酔し、彼を守る(笑)。おいしい。すげーおいしい。
 当時わたしはこの役の松村雄基を「安蘭けい」と同一視していた……あのころはバリバリの攻キャラだったね、トウコちゃん。


 今日はWHITEちゃんとデートでした。

 あぜんとしたのは、コムサカフェのランチメニュー。
 一度どんなもんか食べてみたかったので、今回チャレンジしました。
 オサレなお店でオサレなランチ。一汁三菜つきの鶏ごはん。ここのランチはすべて和風。
 運ばれてきたのは、黒塗りの盆に黒塗りの箱。
 知ってます、この箱の引き出しの中がお料理ですね。和風レストランでよく「**弁当」とかいう名前で使われている、重箱に似た箱。引き出しの数は3つありました。
 その横に黒塗りのお椀、こちらがお吸い物ですね。中は赤だしでした。
 さあ、一汁三菜の三菜はなにかしら、と期待を込めて、いちばん上の引き出しを開けてみます。

「!!」

 黒塗りの引き出しの中は、お約束の朱色でした。
 その朱色の正方形のなかに。
 500円玉より小さなおまんじゅうが1コと、野菜チップスが3枚入っていました。

 これは、なにかのまちがいでしょうか。
 料理名は「お膳『空』」です。時間限定ランチメニューです。
 なのに、3つある引き出しのうちひとつに入っていたのは、小さな小さなおまんじゅうと、チップス3枚。
 その小さな引き出しは、ほとんど空です。朱色の内塗りをむきだしにしています。
 そりゃそーです。いくら小さな引き出しとはいえ、500円玉より小さなおまんじゅう1コと、薄く小さなチップス3枚で、うまるはずがありません。
 ……これは、どっから見ても「ただのお茶請け」だよな? お茶を出したときに、受け皿に添える程度のささやかなお菓子だよな?
 まちがっても、「1食のおかず」ではないよな??

 気を取り直して、2つめの引き出しを開けました。今度こそ、ちゃんとした「三菜」に会えることを願って。

「!!」

 またしても、内塗りの朱色がまぶしかったです。
 小さな引き出しの中には、つくねが1本と、いわしの切り身が4コ入っていました。
 すかすかです。せっかくの空間が余りあまって、目に痛いです。
 えーといわしって、小さいですよねえ。そいつの切り身4コですよ。4匹ではなく、切り身が4つ。いえ、4匹もいりませんが。
 つくねは1コ10円玉程度の大きさのものが2コ、1本の串に刺さっています。
 それだけです。
 そりゃ、いくら小さな引き出しとはいえ、それっぽちではうまるはずがありません……。
 あ、言い訳のようにさくら漬けが、薄く引き延ばして空間うめをしていました。……ちっともうまってなかったけどな。

 3つ目のひきだしは、鶏ごはんです。薄く薄く敷き詰められたごはんの上に、鶏の切り身がのってタレがかけてあります。

 ……なんともすばらしい「ランチ」で「お膳」でした。
 つーか、どのへんが「一汁三菜」なんだろうなあ。
 あの野菜チップは「一菜」なのか? それともミニミニまんじゅう(中はつぶあんでした)が「一菜」なのか?

 オサレななお店でオサレなランチ。
 それならすべてにオサレであってほしかった。ここまで脱力するよーな、カッコワルイことはしないでくれよ。
 器を変えれば良かったのに。あそこまで量が少ないならば。
 どこぞの料亭のように、美しい皿などに、ちょこっと盛りつければ、体裁だけは取り繕えたはず。この皿のこの美しさを、この空間感覚を表現するために、あえて料理は少ないのだ、てなふーにさ。
 それを安っぽいプラスチックの引き出しに、びんぼーくさくちょびっとだけ入れて持ってこられたら、「ナメとんかい、ワレ?!」な感じになるよ。
 オサレだからあえて少ないの、ではなく、ケチだから少ないんだ文句あんのか、としか見えない……。
 かっこわるい……。

 とりあえず、コムサの「お膳」はもう生涯口にいたしませぬ。
 料理だけでなく雰囲気にも金を払う客の身として、あのよーなものに払う金は一文たりとも持ち合わせておりませぬ。

          ☆

「ねえあたしら、なにしに来たんかなあ、今日」
 と、わたしたちは梅田の某和風喫茶店で話しました。コムサカフェの和風メニューに玉砕した仇を討つために、わざわざこれまたオサレ系の店に並んでまで入りましたともさ。

 いちおー、わたしたちがやってきたのは、宙組のチケット発売日だからです。
 目的は新人公演。わたしもWHITEちゃんも新公好きなのよ。
 でもって朝から並んだんだけどさ。

 今回はくじ運悪し。
 最悪ではないにしろ、うれしくない番号を引く。……まあ、前回の雪組がよすぎたんだよなあ。
 購入時刻までの間、ふたりで梅田をぶらぶら。

 本公演のチケットは買いませんでした。
「3列目があったら買ってもいいな」
 と言っていたわたしたち、購入時刻にカウンターで訪ねたところ、希望の席は完売しておりましたのよ。だから買わなかった。3列目がないなら、あとはサバキの方がいい席売ってるよ、きっと。……そんなクズ席しか売らない、グループ直営プレイガイド。

 新公しか買わなかったので、お財布に余裕。
 んで、ついついバーゲンに燃えました。

「よく言うわ。もともとチケット買う気、ほとんどなかったくせに」
 とWHITEちゃんに言われたのは、わたしが6000円しか現金を持ってきていなかったせい。6000円じゃあ、3列目は買えませんて(笑)。

「バーゲンでも、ちょっと目を離したすきに試着してるし」
 わたしの姿が見えなくなったため、WHITEちゃんは広い店内を2周もしたそうです。
 チケットではなく、服の方を買う気満々だったじゃないの、と彼女は言うのです。

 いやあ、バーゲンの方が予定外だったんだけどなあ。
 でも気がついたら、革手袋とロングブーツとブラウスを買っていたよ。
 わたしの買ったブラウスを見てWHITEちゃん、「Lでいいの?」と心配してくれたけど、大丈夫、試着しましたから。MYサイズはMかモノによってはL。いちばんいいのはMTなんだが、そんなもんそうそう売ってないから、長めのMか細めのLで代用するナリ。
 しかし店員のねーちゃん、「お客様の身長なら、Lです」って……S・M・L、サイズの差は横幅の差で、身長の差ではないだろうに。わたしの胸囲も肩幅も、Lサイズほどはないんだがなあ。
 現に、わたしよりアタマひとつ近く小さなデイジーちゃんはLサイズ。彼女は巨乳なのだ。「胸が邪魔で、ファスナーがあがらないんです。前をとめるのは無理だと開き直って買いました」と彼女が言うMサイズのジャケットを借りて着てみたら、ぴったりでした。ちゃんとファスナーもあがりましたとも。……胸がないだけ、とも言いますがな(笑)。
 WHITEちゃんはSサイズのお嬢さんなので、わたしの買ったLサイズのブラウスが驚異の大きさに見えたのでしょう。……お互い着るモノには苦労するね。

「ねえあたしら、なにしに来たんかなあ、今日」
「チケット買いに……でしょ?」
「でもなんか、そんな気がしない……」
「でもいちおー、新公買えたじゃん」
「買えたっていうか、まだ売ってるんじゃない? 明日でも売れ残ってたりして」
「それはいくらなんでも、ないんじゃない? 仮にも新公だし」
「それにしても、チケット売れなさすぎ」
「並ぶ人、減ったねー」

 宙組だからダレだから、というわけではないと思うよ。
 座席配分が目に見えて悪くなったから、みんな並びに来ないんだと思う。わたしたちだって、3列目以外は買う気ないし。

 その昔、2000人とかが当たり前に並び、10列目程度のサブセンターが当たり前に売っていたころがなつかしい。
 昔は取り扱う枚数も多く、並んだ人は全員買えていたよ。

 ところが今は、800人ほどしか並んでいないのに、買える人は700人程度。買えるったって、クズ席ばかり。
 今回のようにスター級の退団があれば、みんな狙いは千秋楽だけ。抽選のときにいた700人は、実際の購入時刻には現れない。楽を買えないなら、ふつーの日のクズ席なんかいらねーよ、ってことだろう。
 当然だわな。

 しかし、さみしくなった。
 喧嘩と火事は江戸の華、ヅカの並びは梅田の華だったのにー。
 まあ、阪急グループとしては、並びをやめさせたい・もしくは縮小したいんだろーけどよ。

 おかげで、ちっともチケットを買いに来たんだって気がしない。
 わたしに至っては、バーゲンで戦いに来たとしか思えない……。つーか荷物、重い……。

 今日はWHITEちゃんとデートでした。
 お買い物して、オサレなお店でランチして、オサレなお店でお茶して。

 ついでに、ヅカのチケットも買いました。
 そんな日。


 それは昨日のことでした。

 新聞にある文学ジャンルの作品が載っていた。
 深く考えずに、それを読む。
 6、7人の作品が載っていたの。
 ふーん、こうやって新聞に取り上げられるだけあって、いい作品だなあ。
 と、思っていたんだが。

 ひとつだけ、どーにもこーにも読めないモノがあった。

 読めないのだわ。
 マジで。

 この漢字のつらなりは、どう読むんだ? てーゆか、どこで切るんだ? このひらがなはどこまでがひとつの単語?
 単純に、「読む」ことさえできなかった。

 それ以上に、意味もわからない。
 漢字は表意文字だから、眺めているだけでイメージが湧く場合もあるが……その作品にいたっては、この漢字のあとに何故この漢字が出てくるのか、まったく想像できない世界が繰り広げられていた。

 いやあ、まいった。

 母をつかまえて、解説を頼んだ。その文学ジャンルは、母の管轄だからだ。
「ああ、これはね……」
 と母、すらすら解読してくれる。
 すげえよ、ママ、わたしは「読む」ことさえできなかったよ。日本語だと認識できなかった。
 わたしがそう言うと、母には感慨深かったようだ。

「まず、この単語だけど、現代ではあまり使わないわね。この単語が**のことを表していて、**は春に※※するのだという前提の元で、この作品は表現されているのよ」

 つまり、わたしが無知だから読めなかった、つーことですな。
 でもさ、**という単語なんかふつーに暮らしていたら一生知らなくても問題はないし、その一生知らなくても問題のないコトが、実は※※するものなのだ、ということなんか、それこそ一生知らないままだと思うよ、わたしゃ。
 それを知っている現代人は、この世にどれくらいいるのかなあ……。
 そんなマニアックな、「知っている人だけ知っている」よーなことを「前提」で書かれた作品っていうのは、どうよ?

 まあ、この文学ジャンルの人は、それくらいの知識はあったりまえにあるのよね。うちのママですら、すらすら解読しちゃうんだもの。
 でもわたしは一般人。多少一般の人よりアタマ悪いかもしれないけど、いちおー国語教師の資格なんか持ってたりする程度の教育は受けてきた。
 のでちょっくら、ショックだったよ、「読む」ことすらできない日本語が。まったく、勉強不足ですなあ。

「この作者は、このジャンルでは有名な人よ。あたしの師匠と同じくらいの地位にいる人」

 へー、そーなんだ。
 で、ママ、その人のことは好きなの? 人となりはどーでもいいけど、作家として。

 母は複雑に笑う。

「……好きじゃない。自己満足的な傲慢な作風の人だから」

 話の長い母のことだから、うっかり質問しちゃったらその何十倍もの答えを垂れ流してくれたが、要約するとそういうことだった。
 そして彼女は言うのだ。
 自分と娘が、似ていることを。

 たまに母はわたしに、自分の文学ジャンルの作品をわたしに読ませる。
「あんたがどう思うか、率直な意見を聞かせて」と。
 それが誰の作品かもわからないまま読み、わたしは思ったことを母に告げる。
 すると母は得心するのだ。
「やっぱりあんたもそう思うのね。あたしもそう思うのよ」

 どーも、好きな文学傾向が似ているようだな、母。

 わたしが「これ、好きくねー」と思うモノは、大抵母も「いいとは思わないわ」というモノらしい。

 あ、母の書いている文学ジャンルだけの話な。
 母は小説は読まないし、ドラマも見ないし、映画も見ない。だからそのへんの話はできないし、したくもない。(母にはそーゆーものを理解する能力は欠けていると思われ)
 母のテリトリーにおいてのみ、わたしと彼女の嗜好は一致するのだ。

 なにしろわたし、母の作品好きだし(笑)。

 そして、わたしが読むことさえできなかった「巨匠」作品は、反面教師として心に刻み込むさ。
 そのジャンルのなかでは技巧にあふれたすんばらしい芸術作品なのかもしれんが、一般人には文字化けメールと同じ、読めやしねえ、つーのは、せつなすぎるよ。
 わたしはいついかなるときも、ふつーのひとに読んで、たのしんでもらえるものを書き続けたい。

 そう誓い直すわたしは、仕事がかなり逼迫。マジやべえ。ぶるぶる。

 
 WHITEちゃんが、高校生にまちがえられたらしい。

 某アーティストのライヴに行ったところ、隣の席のお嬢さんに「アタシ高2。アンタは高校何年?」と聞かれたそうな。

 ひゃひゃひゃひゃ。
 高校生か。それはすごいな。
 んで、なんて答えたの? と問えば。

「高3、って言っておいた」

 嘘つき、嘘つき、嘘つき〜〜!!(笑)
 34のくせに。その子の親世代だっつーのに。

 今日、家族の食卓でその話をした。
「思わず『嘘つき〜っ』って叫んじゃったよ(笑)」
 てなふーに言ってると、横で聞いていた弟が。

「それをアンタが言うか」

 ああ? わたしはトシごまかしてないし、高校生にまちがえられることだってありえないぞ?

「性別はまちがえられるくせに」

 いつの話だ、それはっ。

 いつまでもネタにするってことは弟よ、ひょっとしてアンタ、女らしい姉が欲しかったのか? つーか、「姉」とゆーものにドリーム持ってんじゃねーか?
 マンガやドラマに出てくるよーなたおやかな「姉」は、昭和時代の遺物だぞ?

 弟がネタを振ったので、父も母もよろこんでノッてくる。ええいっ、そんなに娘が男に間違えられた話をするのがたのしいかっ。

 だがここで父が、

「娘よ、お前はまだ男にまちがえられただけですんでよかったよ。父の知り合いなんかはな……」

 と話し出した。

 父の友人が、息子と歩いていたときのこと。
「おや、**さん。また奥さん替えたんですか?」
 と、言われた、そうな。

 …………。
 どこをつっこめばいいのだ、その話は。

 その息子くんは、華奢でかわいい、イマドキの男の子だったそーな。
 だから、「女の子」にまちがえられた。

 そればかりか、父親の「奥さん」だと思われた。

「父親と歩いていて、奥さんと呼ばれた青年より、お前はまだマシだろー?」
 と、MY父は言う。

 そりゃ、それよりはマシだがな。
 しかしそんなことよりも。

「『また』ってのがいちばん問題なんじゃないのか、それは?」
「複数回、奥さんを替えているということだよな、それって」
「で、見知らぬ女と歩いていたら、イコール新しい奥さん、と思われるよーな人生を送る中年男……」
 わたしと弟は、ふたりでひそひそ話しました。

 

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