敗北がかなしいが、気を取り直して『ブエノスアイレスの風』キャスト感想。

 ニコラス@れおんは大人になったなあと思う。ショーヴランが素敵だった記憶があるだけに、無意識に底上げされているかもしれないが、ゆっくり地道に力をつけている。

 しかし、正塚芝居に合わないんだろうか。
 たんに正塚芝居をしているときに、わたしと合わないんだろうか。

 『愛するには短すぎる』のときのフランク役で「結局ナニをしたかったのかわからないキャラだ」と思った、あのときから変わっていない気がする。

 そのときそのときはちゃんと動いているし、イイ声で男臭く、かっこいい野郎なんだけども。
 全体として俯瞰したとき、ふと我に返ると「……で?」になってしまうというか。

 正塚作品以外ではそんなことは感じないので、鬼門はココだけだと思う。

 
 さて、ある意味愉快なリカルド@和。
 街の不良少年が成人してちんぴらになった、という、正しい成長ぶりの男の子。……え? そーゆー役だよね?

 一昔前の暴走族とか、不良グループって、すごくいろいろ「掟」があったりするんだよね。
 チームを抜けるときは制裁を受ける、とかさ。
 自分に自信がなくて、ひとりではいられないので、とにかく群れる。でも、自分も他人も信じられないから、「掟」で縛る。
 暴力によって、恐怖によって、はじめて安心するの。ひとりじゃないって。アイツはオレを裏切らないって。

 「敵」の存在もそう。
 「敵」を作ることで、「味方」でいられる。闘うべき「敵」がいるから、結束し、「仲間」でいられる。ひとりじゃなくなる。

 ひとりでは、いられない。
 こわくてこわくて、仕方がない。
 暴力でも掟でも、メールでも掲示板でもなんでもいいから、誰かとつながっていないと、不安で生きていられない。

 えーと、そーゆー男の子だよね、リカルドくんって?

 だから、暴走族で同じような格好して「オレたちは仲間だ、裏切りはゆるさねぇ」とか言って、敵チームとか警察とか大人とかと闘っているときは、イキイキしていられたんだよね?
 でももう未成年じゃないし、仲間たちはみんな大人になって就職して、「ゾク? ハタチ過ぎてまでやるこっちゃないっしょ(笑)」って言われて、がーーんってなるのね?
 仲間さえいれば、居場所を見つけられた。仲間であるためには、集う理由が、闘う理由が必要だった。だから敵を脳内設定していた。いつもいつも、見えない敵と戦い続けた。敵さえいれば、「仲間」が在る、はずだったから。

 闘う理由もないのに闘おうとして、その戦いの資金のために銀行襲撃を考えて、銀行襲撃する武器を手に入れるため、妹を犠牲にして。

 欲しかったのは、居場所。生きる意味。存在価値。
 いわゆる中二病。

 ……というキャラクタは、大変愉快です。
 あまりにバカでかわいい。はた迷惑で、人生ナメきってるとことかデコピンしたくて仕方がない。
 不細工ならゆるせんが、なにしろ絶世の美形なので、すべて許せる(笑)。人生なんてそんなもん。

 てゆーかさ、こんだけ美貌があって、どうして自己肯定できないのか。妹という自分の分身以外をなにも持っていないと思い込むのか。
 その屈折ぶりを思うと、興味深いです。

 誰か、身内以外の人が教えてあげるべきだったんだよ。「キミは自分に価値を見つけられないかもしれないけど、客観的に見てその美貌には価値が生じるよ」と。
 人格とか才能とかは置いておいて(笑)、とにかくわかりやすいところで、「美貌」。
 わかりやすいとこでないと、お馬鹿なリコくんは理解できないでしょ? まず、美貌を認めて、あとはそっから自分探しするがヨシ。

 しかし、彼の周りには妹しかいなかったんだよなあ。妹は彼の一部分だから、ナニ言っても意味ないし。
 ニコラスが言えば…………あああ、あの男はそんなこと死んでも言わねえ。てゆーか、男の顔の美醜なんか、絶対区別ついてねえ(笑)。

 まあ、ともかく。
 リカルドは興味深いです。
 つか、和くんでなんか、ややこしい役とか、じっくり見てみたいなー。

 
 イサベラ@ねねちゃんは、やっぱ「華」なんだなと。
 ヒロインがちっとも特別扱いされない正塚芝居において、自力で輝かなければならないところを、ちゃんと「わたしはヒロインよ」と華やかさで自己発信してるんだもの。
 単独ヒロインではないのかもしれないが、とにかくヒロイン級の役だとわかる。華美な衣装やファンファーレ、ライトがなくても。

 長身に小顔、長い手足とまあ、シンプルなドレス姿が、栄える栄える。
 ダンスがうまいかどうかより、彼女単体の美しさで説得力になる。

 イサベラの抱え込んだ人生の重みは、脚本には多少描かれていたと思うし、彼女の自宅の場面などその場のインパクトはあるんだけど……なんだろう、それによって彼女がどう生きているのかは、あまり伝わってこなかったような。

 
 キャラクタがよくわかったというか、うまい!と思ったのは、エバ@まりもちゃん。
 彼女はちゃんと脚本通りの演技をしていると思う。耳から入る情報と、目の前の光景に齟齬がなかった。
 たしかに7年前は大学生で、今は社会人だわ。

 となると、他のキャラクタとのバランスがおかしくなる……こまった。

 エバがほんとに地に足つけて自分の人生を生きている、等身大の女の子だったので……すまん、27歳くらい?だと、わたしからすりゃ「女の子」だ、つきあっている男がアレでいいのかと首をひねったよ。

 ニコラスはいいの。
 エバと対峙していると、違和感はあるんだけど、まあそんなこともあるかな、元法科のインテリ学生革命家だったのかな、と想像できないこともない。

 ただ、ビセンテ@ベニーがなー……。
 なにしろキャリアがない(路線として扱ってもらって来ていない)ため、技術が乏しいことはわかっていたが、本気でやばかった(笑)。
 正塚芝居は新公がひどいことになる、というお手本のように、役というか、立ち居振る舞い着こなしから、全部に手こずっていた模様。
 元軍人で現刑事には、見えない。てゆーか、大人に見えない。
 いっそエバの家庭教師時代の生徒、とかゆー設定だったらよかったのに。今24歳くらいで、今年よーやく憧れの刑事になりました!みたいな。元軍人設定はナシで、戦争で家族亡くしたからゲリラを憎んでる、とかでいいじゃん。

 設定とベニーがまったく合ってないので、エバがなんでこんな男にプロポーズされていろいろ思い悩むのかわからん……。

 とまあ、辛口ではあるが。
 ここまでなんにもできてないのに、ベニーは、負けていない。
 できていないことを本人わかっているのかいないのか、自由に舞台の上にいるよね(笑)。
 動くときに、まず心を動かそうとしているのがわかる。……技術が足りてないから空回りしているけど、彼が「なにかしよう」と思ってソコにいることは、わかるの。
 やっぱおもしろいなあ、ベニー。

 この子に技術がつけば、どんなに愉快なスターになるだろう。今後がたのしみだー。




日記内を検索