初見では、とまどってしまう。
 なんつーんだ、過去の自分の記憶と照らし合わせ、いちばん好きなモノだけを求めてしまうから。

 『インフィニティ』に出演する「歌手」、ヒメの話。

 わたしはヒメのパワフルで狂気や毒のある歌声が好き。
 今のヒメはすげー歌手だと思っているが、昔はそれほどだとは思っていなかった。
 路線のちょっと外側というか、一瞬それっぽい位置まではいっていた、かわいい女の子。
 なにしろ最初に彼女を認識したのが『アンナ・カレーニナ』のキティお嬢様だ。初々しい美少女役。
 かわいくて、そこそこなんでも出来る……それ以外の認識がなかった。

 ヒメがなんで路線に乗れないんだろう、って考えたとき、「正面顔と横顔が違いすぎるからだよ」って誰かに言われて、ごめん、納得してしまったのも、遠い思い出。
 てゆーかあれから、11年も経つのか。

 ただの「かわいこちゃん」認定だったのに。
 彼女への認識が変わったのが、2006年。
 彼女が持つ、毒。
 オギーが「使う」舞咲りんは、トリッキーな魅力を持つ舞台人だった。
 秀でた歌唱力がある、とまでは思わない。うまい人だとは思うけど。
 でも、そーゆーモノ以外の魅力を持つ歌声。
 ヒメの歌には、耳障りな「悲鳴」のようなものがある。ひとを不安にさせるような「狂気」がある。

 それが、魅力的だった。

 オギーがタカラヅカから消え、ヒメの毒部分を引き出す演出家はいなくなった。
 ヒメもまた、正統派の歌手としての実力を磨き、毒の部分はすっかり影を潜めた。

 だけど無意識にまだ、「あのころのヒメ」を求めている。
 「Vai de Amores」を歌うヒメを。


 「声」をテーマにした少数精鋭バウ公演。
 ヒロインポジだろうと思うあゆっちは、歌は得意ではナイ。
 ならば学年的にも、実力的にも、裏ヒロインはヒメだろう!と、期待した。
 で、裏ヒロインならば、いろんな歌を歌うだろう。
 『H2$』で聴かせたようなソウルフルな歌声を、『ロック・オン!』で響かせたようなパワフルな歌声を。
 もう何年も聴いていない、オギー作品でのような歌声だって、聴けるかも……?!

 と、勝手に盛り上がっていたモノで。

 正直、初日はがっくりきました。
 期待したヒメぢゃない……。

 てゆーかヒメの活躍場面、少なくないか? もっとがっつり歌わせてくれてもいいじゃんよー。

 なんか、ヒメの使い方が、すごく「ふつー」だった。
 ふつうの歌ウマ娘さん的な、使い方。
 えー? ヒメはもっと、いろんなことができるのにー。

 回数を観るうちに、納得したけれど。
 不満に思ったのは勝手な思い込みゆえ。

 こんなヒメ、あんなヒメ、と自分でイメージを固定していた。

 『インフィニティ』は、個人のコンサートではナイ。
 主演のまっつですら、出ずっぱりのワンマンショーはやってない。
 他のみんながそれぞれ、学年やポジションに合わせて、等しく見せ場をもらう「タカラヅカ・レビュー」だった。

 女の子の歌ではヒメがワンマンショー状態、ぐらいの勢いで期待していたので、思いの外彼女が歌わないことに、がっくりきたっつーだけ。
 歌っても、なんかふつーの歌い方ばっかしだし。

 なんか、物足りない……。と。

 でもそれも、失礼な話だ。
 わたしは「過去」のヒメに思いを馳せ、勝手にそれだけを期待していた。
 それなら過去作品のDVD観てろよって話で、なんの生産性もナイ。

 自分で「観たいモノ」を決め、そのイメージ通りではなかった、と肩を落としていたんだな。
 なんて不毛なの。

 『インフィニティ』は、そんなところにない。
 舞咲りんは、そんなところにない。

 『インフィニティ』はヒメだけでなく、下級生の歌ウマちゃんたちにも等しく見せ場があり、ヒメはとても素直な、正統派の歌声を響かせてくれていた。

 ああ、そうか。
 これが、『インフィニティ』なんだ。

 ワンマンショーではなく、古式ゆかしい「タカラヅカ・レビュー」。
 タカラヅカを愛するがゆえに出来上がった作品。

 美しいモノを、ただ愛する作品。

 そこでヒメは、あの爆弾キャラで場をぶっ壊すことなく、着実にいい仕事をしていた。
 あゆっちと双子姉妹を演じるフランスや、マッツマハラジャ様の侍女など、はじけられるポイントはあったのに、やり過ぎることはなかった。

 エトワールとして「青い星の上で」を歌いはじめたとき、彼女から清浄な空気が広がった。

 その前のまっつ黒燕尾で、彼がただひとり歌う「限りなき世界」で、ボロボロに泣いているわたしに、ヒメのやさしい光が差し込んで、どれだけ、救われたか。

 舞咲りんは、タカラジェンヌだ。

 夢を織り、人を癒す、人を救う、タカラジェンヌなんだ。
 そう、心から思った。


 舞台外でのムードメーカーとしても、いい仕事してたよねー。
 まっつのカミカミ挨拶へのツッコミや、千秋楽のまっつへの突撃っぷり。
 口火を切るヒメがいてくれるからこそ。

 ほんとに、いい娘役さんだ。


 ヒメの独壇場たる場面や歌がなかった……ことに、作品コンセプトとして納得はしているけれど。
 ただひとつ、不満があるのよ、いなばっち。

 まっつとヒメの、ガチ歌バトルが、なかった。

 バトらなくてもいい、その、デュエットでいいのよ。
 ふたりで声を合わせ、競わせ、歌ウマ同士マジで融和する歌声を聴きたかった。

 何故か歌声は全員、単体ばかりで、デュエットはろくになかったよねええ?
 デュエットがあったのが、翔くんと夢華さんという、微妙な人選のみって。

 いやその、ヒメと歌対決したら、まっつが吹き飛ばされて気まずいことになったかも、しれないけどさ(笑)。


 ま、負けないよね、まっつ? どきどき。

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