ほんの数日前のこと。
 お友だちのデイジーちゃんからメールが来た。

「雪組を観ていて、好みの顔の子を見つけたんですが、ショーの**のシーンで**にいる男役、名前わかりますか?」

 んなこと言われても、**のシーンの**なんて、わかんねーよ。こちとら今東宝だい。雪組は初日に一度観ただけだし。下級生男役の立ち位置全部把握しているわけもなし。

 立ち位置の話はさっぱりわかんねーが、とにかく返事を出す。

「雪組で好みの顔って言えば、谷みずせじゃないかな?」

 なにしろ、わたしとデイジーちゃんは男の好みが一緒。いつだって同じ顔にハマる。
 雪組を見回して、顔だけでまず注目してしまう下級生といえば、そりゃ谷みずせだろう。と思ってメールした。

 でもデイジーちゃんからの返事は。

「ちがうと思います。**って子かなあ、と思ってはいるんですけど……」

 と、チガウ名前を挙げていた。

 
 そして今日、新人公演『青い鳥を捜して』を観たあと。

 デイジーちゃんからメールが来た。

「この間言っていた、好みの顔の子、ずばり谷みずせで正解でした(笑)」

 やっぱり。

 わたし、デイジーちゃんが惚れるタイプの顔、百発百中で的中できちゃうのねっ(笑)。
 えらいわ、わたし!
 てゆーか。

 ほんとに、顔の好み一緒やんな……(笑)。

 
 さて、雪組新人公演『青い鳥を捜して』。
 本公演の感想すら書いてない状態ですがな。

 ははははは。

 本公と、別物でした。

 演出は鈴木圭。あの『ファントム』新公の演出家ですなっ。

 キャラや演出、そればかりか台詞までいちいちチガウことよりも。
 いちばんの大きなちがいは、新公が、少女マンガだったということだと思う。

 もちろん、原作(原作とかいうし)が石田昌也なので下品なのは同じだけど、新公は少女マンガ寄りにアレンジされていた。

 女優ブレンダ@晴華みどりは、常識の範疇にいる、わがままお嬢様だった。
 本公のよーな、不思議ちゃんではなかった。
 だから「ひとりぼっちの誕生日」を迎える彼女は、ふつうにせつない女の子だった。もちろん、顔に黒パックをしていたりしない。クリームを顔にぬりたくってぎゃあぎゃあ泣いたりもしない。きれいな顔のまま、ひとりで泣き、愛に気づく。
 マネージャーのデニス@オヅキも三の線ではあるが、これまた常識の範疇。ふつーに人の善い青年。泣いているブレンダの涙をなめて「しょっぱい!」と叫び、反論するブレンダの言葉を封じるようにキスをする。
 ……う・わー……少女マンガだー……。

 シモーヌ@シナちゃんは小柄でかわいい女の子。ただし、やたらと声が大きく、また夢見がちでよく喋るという特徴アリ。
 本公のよーに空手使いで腹筋が6つに割れているわけでもない。
 大声と調子の良さを利用して、ケイトをたきつけたり、フィンセントにアタックしたり。なんかふつーにかわいいんですけど。
 フィンセント@かなめくんは、おおっとワイルドです。登場するなりひげ面で場を沸かせてくれた。そうよね、山男だもん、こんな感じよねえ。でも性格は大きな身体に反してナイーヴ。
 ふたりが再会するところが、じつにかわいい。お互い恋人同士でもなんでもなくて、なにも言わずに別れたはずなのに、再会してつい、抱きあっちゃうの。本公みたいにシモーヌがフィンセントをリフトして笑いを取ったりしない。よろこびに思わず抱きしめてしまい、はっとして身を離す。
 ……う・わー……少女マンガだー……。

 ケイト@となみちゃんは、まるみのある雰囲気の女の子。本公で笑いを取ることだけに費やされているささやかな場面で、彼女がジェイクを好きなんだということが垣間見える。笑いよりも彼女の恋を優先して描いてある。
 ジェイク@キムは、えらくふつー。プレイボーイには見えません。真面目で仕事熱心な男に見えるので、ブレンダとのカタチだけの婚約がちと不自然。「運命の人」を素直に信じて奔走する純真な青年。
 別れたあとに修道院で再会した、ケイトとジェイク。どちらも真面目で不器用だから、「あとひとこと」が言えずにじれじれしている。強がるケイト、それがただの強がりだとわかるから、彼女へ一歩近づこうとするジェイク……そこへ空気読まずに登場するフィンセント、ああっ、喉元まで出かかっていた「あとひとこと」が消えちゃったよ、もう! この絶妙のじれったさ!
 ……う・わー……少女マンガだー……。

 スーザン@リサちゃんは、普段はガチガチの色気ナシ秘書。だけどノリノリではじけてみたり、恋するデニスを思いやってみたりとなかなか情緒豊か。ミルボン@くらまくんとは、わっかりやすく恋に落ちていた。
 だって彼女、眼鏡を取ると美人なんだよ? なんなのその設定(笑)。
 ……う・わー……少女マンガだー……。

 新喜劇のノリで悪のりした笑いを取ることばかりに必死になっている本公とちがい、無理にお笑いにしなかった部分が全部、ラヴストーリーになっている。

 だから別物。
 テイストは、少女マンガ。

 ギャグマンガのよーな醜いオカマも出てこない。ヅカの範疇である「女装した男」が出てくるだけ。
 男役が男役の化粧と声のまま、女の服を着ておねえ喋りをすることでも、十分笑いは取れる。ハゲヅラなんぞかぶる必要はない。美青年のままでOK。

 少女マンガで「ファンタジー」だからこそ、ラストシーンでは、主役カップルの真後ろで、青い鳥と鳥占いの老人が、中央でせり上がっている。
 よりかわいらしい、タカラヅカらしいラストシーンになる。

 
 ……別物……。

 『ファントム』も別物だったけど、今回も別物ですか、鈴木圭。なんか愉快な仕事してますな、鈴木せんせー。

 タカラヅカと呼ぶにはつらいものがある石田の原作を、懸命にタカラヅカに作り直したのね。ほろり。
 
 
 別物として、素直に愉しみました。
 キムくんうまいし、正直今すぐ本役と交代してくれてもいいんだけど(笑)、ちょっと手堅すぎる気もする。
 となみちゃんはニンに合わない役だけど、それでもかわいく演じていた。小突いてやりたいかわいさは、この子の持ち味だよなあ。
 かなめくんは、今回もまたビジュアルへのこだわりがすばらしい。前回のピエロメイクも感心したけど、今回のひげ面には、ヒゲフェチのわたしはハートを撃ち抜かれたわー。ジーンズ姿がかっこいー。
 メインどころの人たちは、みんなうまい。何故なんだ、みんな破綻なく演じているぞ(笑)。名前のある役でやばいかなと思ったのは、カーク@そらくんぐらいか。
 谷みずせくんの美貌と、オカマの迫力には脱帽(笑)。青い鳥はちとせくんなのね、娘役に見える……。

 組によって、こんなに新公にレベルの差があっていいのかと思ってみたりな(笑)。
 思いがけず少女マンガを味わえて、得した気持ちです。

    
 日記が消えてしまったので、軽くヘコんでました。

 せっかく張り切って書いたのに、「檀れい様・賛美」。どれほど檀ちゃんが美しいか、わたしが彼女にめろめろかを、鼻息荒く書いた。
 ……消えてしまったのは、きっと運命。
 あまりに「檀ちゃんラヴ」と書きすぎたので、太腿だのスリットだの書きすぎたので、「ちょっとやばい?」てな危惧はあった。

 かねすきさんには、わたしの檀ちゃん好きがすでにネタにされているし(笑)。

「緑野さんだって女好きじゃないですか。檀ちゃんにおねだりされたら、なんでも言うこときいちゃうでしょ?」

 ……きいちゃいますともっ。檀ちゃんに「お願い(はぁと)」なんてされたら、わたしなんでもしますわよっ。
「緑野さん、わたし、ワタルさんとトウコさんでゲロ甘のやほひが読みたいわ♪」
 とか言われちゃったら、
「わたし清純だからやほひなんて書けません、書けないけど、ああっ、檀ちゃんの頼みなら書いちゃいますっっ!!」
 てなもんですわよ。←腐り済み。

 檀れい様は美しい。
 ドルチェ・ヴィータも、船上の淑女も。
 「女」という生き物の美しさに、どれほど心乱されているか。
 あああっ、女性というのは、こんなにも美しいものなのかっ。
 こんなにこんなに、陶酔できるものなのかっ。
 檀れい様・賛美。
 わたしを幸福にしてくれる、美貌の君。

 てな内容を3000字かけて書き散らかしていたんだが。
 運命ですか?
 消えてしまいました。

 美しさは、救いなの。
 別れの物語を、かなしいだけで終わらさないために。

 
              ☆

 東京では、劇場の内でも外でも星組尽くしケロケロ尽くし、とても幸福な時間を過ごしました。ありがとうドリーさん、kineさん、それからまだあだ名未定のしいちゃんファンのお嬢さん(名前のリクエスト受付中っす・笑)。

 帰宅したわたしに、ひさしぶりに会った弟が言う。

「で、祭りには参加する?」

 祭り? なにそれ?

「ドラクエ祭り」

 あ。
 なるほどー。

 わたしにとって今月末は星組東宝公演開始でしかなかったけど、世の中的にはそーゆーことになってたのね。
 わかったよ、参加するよー。今わたしけっこー時間ないんだけど、祭りは参加してナンボ、リアルタイムでナンボだかんな。

 ということで、これからしばらく、緑野姉弟の共通言語はドラクエになる予定。

         
 
 教えてください。

 ケロちゃん的には、1作品1ホモがルールなんですか?

 『ドルチェ・ヴィータ!』のおたのしみのひとつ、セレブS@ワタルと航海士@ケロの愛の物語。
 奥さんの手を取り銀橋を渡ってきたセレブが、下手花道にいる航海士に帽子とコートを渡す。そのときにある、ふたりの男の物語。
 ムラでは初日から、航海士がセレブに見とれ、ぼーっとなっていた。

 それが何故なの、東宝公演。
 ふつーになっていた。
 セレブと航海士に、愛はない。物語はない。
 ふつーにセレブは航海士に帽子とコートを渡し、航海士も乗客に対する態度の域を出ない愛想の良さを返すのみ。
 そのうえ初日は、雷のシーンでもセレブは奥さんの手を取り走っていった。
 翌日は午前午後とも、セレブは奥さんではなく航海士とふたりで逃げていったけど、それでも最初の帽子とコートを渡すシーンに色気はないまま。

 どうして? 最初のコートのシーンと雷とセットで「ふたりの物語」でしょう? どうしてコートのシーンでのホモ演技はなくなったの?

 雷のシーンは「お遊び」だとわかるから多少はいいけど、コートのシーンは作品を壊すからやらないようにと注意されたとか?

 ワタさんとケロのラヴいシーンが減り、しょぼんな気持ちをなぐさめるよーに。

 船乗り@しいと船乗り@ケロのラヴラヴ度アップ!!

 なななななんなの、こいつらっ?!
 花市場の最初のシーンにて。
 セーラー姿がかわいいしいちゃんと、セーラー姿が微妙なケロちゃん。
 このふたりがもー、いちゃいちゃしまくり。

 ふたりっきりでかわいらしくラヴラヴに踊ってます。
 あ、あれ? そんなシーンだったか? そんな振付だったか??
 ムラで観たのとチガウんですが??

 ワタさんとのホモをやめたかわりに、しいちゃんとホモりますか?!

 1作品1ホモなのか、ケロ?!
 それは潔いとゆーか貞節でいいけど、えーとえーと(混乱)。

 
 花市場のシーンは、ケロとしいから目が離せません……。

 個人的に、肩を組んだときのケロちゃんの腕の上がりっぷりがいい。
 自分より背の高い相手の肩を抱くわけだから、腕が上がっちゃうのよねー。
 いいなー。しいちゃんほんと、背ェ高くていいよなー。ケロは小柄だからまた萌えなんだよなー。
 そんな腕上げて、無理してまで肩抱くんだー。萌えー。

 
 27日の午前公演はわたし、B席にいたのでオペラグラスでケロしいを見ていたんだな。
 んで、ケロしいが抱き合ったときに拍手が起きたのでおどろいたよ。
 ええっ、みんなこいつらが抱き合うとうれしいの?!
 感動の拍手をするくらい、すばらしいことなの?!

 うろたえました。
 そりゃわたしはうれしいけど、拍手って??

 答えは簡単。
 銀橋上手に、ワタさんが登場しとりました。

 あの拍手は、ワタさんに向けてのものか……!

 オペラグラスでは抱き合うケロしいしか見えていなかったので、おどろいちゃったよー。

 午後の公演は感動の1階6列目だったので(ドリーさんありがとう)、オペラグラスなしの生目でケロしいのいちゃいちゃを見るつもりだったんだが、ケロのマイクが入らないというハプニングのせいで、あんまりいちゃいちゃしてくれなかった。ちっ。
 それにしてもマイクトラブル多いよな。午前は星原さんのマイクが入らなかったんだけど、彼の歌声はB席にいたわたしの耳にまで届いた。なのになのに。ケロの歌声は6列目のわたしの耳にさえ届かないってどうなのよ? そりゃ、ダーリンに声量ないことは知ってるけどさー。喉弱いの知ってるけどさー。マイクないと、完璧口パク状態(笑)。

 初日から不思議とラヴいケロとしい。
 最初にコレだと、これからどこまで盛り上がっていくのか、やりすぎてしまうのか、とてもたのしみです。

 
 変更といえば、ディアボロ@トウコが男@ケロをターゲットにするところが変わってました。
 ……正直、微妙。
 ムラの方がよかった気がする。退団するチカちゃんのための変更なのはわかるけどな。これからはわからないけど、今の時点では「余分」「蛇足」な気がする。

 ディアボロに選ばれる男はよーやく、素のケロではなく役になってました。
 ディアボロの手を、まるで吸い込まれるよーに操られるよーに握って。
 ムラのときみたいに、うれしそーに力強く握ったりしない(笑)。
 あー、やっと作品を理解したのかしら。役を忘れてすぐケロちゃん本人になっちゃう人だからなー。そーゆーとこ好きだけど。 さすがに演出家から注意されたのかもしれない。

 初日とその翌日と、1階2階、席種もSS・S・Bといろーんなところで観られて、じつに堪能しました。
 2階から観てもきれいだよねえ、この作品。
 ムラではほとんど1階ばかりで観ていたんで、なんか新鮮だー。

 ANA貸切では、幕間の抽選会が上手側だったので、まとぶん目の前。
 しかもまとぶんってば、黒燕尾に着替えてきてやがんのよーっ。鼻息。
 幕間抽選のときって大抵、どの生徒も扮装のまま出るじゃない。芝居やショーの。
 だからまとぶんも、ショーのミドリガエル……もとい、アルレッキーノの姿で現れるのかと思いきや。
 黒燕尾ですよ! わざわざ着替えたんかいっ。
 皇甫惟明将軍の、出番の少なさゆえですな。時間たっぷり、お化粧替えもお衣装替えも余裕。
 いやあ、目の保養でした。黒燕尾はイイ。
 かちんこちんに緊張した下級生とかじゃなくまとぶんだから、笑いのあるたのしい抽選会だったしな。なんにも当たんなかったけどな。

 
 ところでみなさん、しいちゃんのモミアゲはチェックしましたか?

 初日もすごかったけど、翌日はさらに愉快になってましたよ。

「なんであんな、ルパン三世みたいなモミアゲになってるんですか」
 と、ドリーさん。

「まさか、『サテリコン』のシーンで爆笑することがあるとは思いませんでしたよ」

 ねえ?
 あのすばらしい「サテリコン」で、完全にトリップしてしかるべきシーンで、観客を正気に返らせてしまう、現実に引き戻し、吹き出させてしまう破壊力を持つ、しいちゃんのモミアゲ。

 今まで誰も指摘しないのは、しいちゃんを見ている人が少ないからなんじゃないかとか思ってみたりな……ゲフンゲフン。

 耳より下まで、耳と同じ幅のモミアゲがあるって……すごくないか、しいちゃん? それはやりすぎじゃないか?
 好きだけどな、そーゆーとこ(笑)。

 
 そして、しいちゃんファン仲間のkineさん。
 しいちゃんのモミアゲ、今度こそチェックした?

「わかりました。私は、しいちゃんのモミアゲを見ていないからわからないんじゃなくて、見ても気にならないから、わからなかったんです」

 kineさん的には、しいちゃんのモミアゲ、ぜんぜんOKだそうです。
 愛だわ。

        
 やっぱりバカなんだな、酒井。
 と、とてもシンプルに思った。

 星組東宝初日。『花舞う長安』を観て。

 期待していたわけではなかったけど、あの駄作『花舞う長安』は、東宝でも改稿されてなかった。
 そもそも「物語」として成り立っていない、これを「ストーリー」だと言ってしまったら世界への冒涜であるとゆーほどひでー作品なわけだが、それでも最小限改稿すればマシになる部分がある。だから多少は手直しされているかもしれないと思ったんだ。わたしは人間という存在に期待して生きているから。人は変わることができるから。
 人間としての耳と目を持っているなら、せめてなにかあるんじゃないかと思ったんだ。
 が。
 なかった。
 しかも。新人公演で「これだけは意味ないだろ」「バカすぎる」と言っていた台詞だけが、付け加えられていた。

 新公の演出の方がマシだった。ベッタベタになっていた分、わかりやすくなっていた。が、ひとつ失敗があった。
 それが、梅妃と安禄山のつながり、というやつだ。
 楊貴妃に毒を吐いた梅妃が去り際に「安禄山……」とつぶやく。
 おや、梅妃と安禄山になにかあるのかなと思わせておいて、なにもなかった。
 うっわー、齋藤くんやっぱ物語作ることができないんだ。安禄山が楊貴妃を襲う伏線にしたかったんだろうけど、伏線ってのは張ったら回収しなきゃ意味ないわけで、ぜんぜん接点のない人間にただ名前を呼ばせればそれでいいわけじゃないっつーの。
 第一、梅妃のシーンから次に安禄山が出てくるまでに、物語上ではどれほど時間が流れてるのよ? 何年か経ってるんじゃないの? 一国の宰相が死んで新宰相が新任するくらい時間が経過してるんだよねえ。そんなに経ってからよーやく動き出す安禄山ってなにソレ。つながってないじゃん。
 物語を構成する力がない、物語の流れを壊す、まちがった台詞が、新公でわざわざ付け加えられていた。

 そう、他はよかったんだよ、新公。
 ひとつだけ目に見えて変だったのが、「梅妃様、安禄山殿が……」「安禄山……」の女官と梅妃のやりとり。

 よりによってソコかいっ! 新公の真似したの!!

 新公の方がよかった、そのよかった部分はなにひとつ取り入れず、唯一失敗だった部分だけをご丁寧に取り入れる。

 酒井澄夫って、ほんっとーに、バカなんだ……。

 ちょっと呆然としてしまった。
 改悪というにもアタマが悪すぎて、言葉が出ない。

 それでもさあ、わたしってほんと、「人間」に期待しちゃうのねえ。
 新公で「安禄山……」の台詞を付け足したことで失敗してるわけじゃん。
 その失敗を踏まえた上で、本公ではなにかやってくれると思っちゃったのよ、つい。
 じゃあ今度こそ新しいシーンが追加されているのね? 梅妃と安禄山が会っているシーンだとか、楊貴妃を襲うときに安禄山が梅妃の名前を出すとか、なにかしらフォローが入るのね? 伏線の回収をするつもりだから、あえてあの新公失敗台詞を採用したのね?
 そう。
 人間としてあたりまえのことを、期待してしまったの。
 失敗を失敗と理解し、それを踏み台にさらによいものを作る、ことに。
 失敗しない人間なんかいない。問題は、失敗したあとよ。それを教訓にして、ステップをひとつ上がればいいの。人間はそうやって成長するの。

 …………酒井にそんな期待をしたわたしが、バカだった。

 新公の失敗台詞はただそのまま、付け加えられていただけだった。
 それにつながる新しいシーンも、台詞もなかった。
 ただのやりっぱなし。
 寿王や梅妃と同じ扱い。出てくるだけで、彼らの持つ物語や背景は全部途中で放り出したまま「なかったこと」扱い。ただのやりっぱなし。子どもが遊んでいたおもちゃをそのまま投げ出して、他の遊びに夢中になるように。

 バカ過ぎる……。溜息。

 物語を作る能力がないなら、おとなしくできることだけやっていればいいのに。
 ここまで恥をかいて、生きるのつらくないか、酒井澄夫。
 遠い目をしてしまったわ。

 あー、怒ってないっすよ。
 怒る気にもならん。
 脱力したっちゅーか、笑えたというか。

 これはもうネタだなっ?! 捨て身のギャグだなっ?!
 笑わせるためだけにやってるんだよな?
 つーことで、素直に笑いました。バカだこいつ〜、てなふーに。

 
 作品が物語以前でなんの能力もないからこそ。
 出演者の力だけで成り立っているこの作品。

 ワタルくん、すばらしいですよ。
 ラストの嘆きの玄宗は、絶品です。
 ムラのときからいちばん変化の激しいシーンですが、今度は「貴妃〜〜!!」と叫んで崩れ落ちますだよ。
 そのあとの銀橋ソロもすばらしい。
 舞台が役者のモノであり、脚本の阿呆さを力技で支えることができるという見本ですな。
 あんな阿呆でどーしよーもない皇帝なのに、このラストの泣きっぷりで全部帳消しにしてくれるもの。彼の悲しみに巻き込まれてしまうもの。
 やっぱ歌の最後のフレーズですよ。「私は今もアナタを愛している」の「あいして」で声が裏返るのがたまらない。
 そして、ライトが消えたあと、肩を落としふらふらと上手袖に消えていく、その後ろ姿!!
 絶品っすよ!!
 誰かこの男、後ろから抱きしめてやって! 陳玄礼将軍、出番ですよー!!

 玄宗の嘆きがものすごい分、よみがえった楊貴妃の凛とした美しさに心から拍手。
 玄宗と楊貴妃がふたりで踊る姿に泣けてくる。
 よかったね。もう一度会えて。
 心が永遠で。
 愛が無限で。
 よかったね。

 素直に思えるよ。
 ……ただ、長すぎるけどな、このシーン。

 
 がんばれ出演者。
 こんな脚本だけどこんな演出だけど、それでも、それだからこそ、がんばれー。
 未だかんざしを渡すシーンは観られないけど、がんばってね!!

        
 星組中日の友会入力、忘れてました……。
 あたし、星組を忘れる回数多すぎ。しょんぼり。

 実際、迷ってはいたのだけど。
 わたしはほんとうに、『王家に捧ぐ歌』の再演を観ることができるのだろうか
、と。
 チケットのあるナシなどという物理的な問題ではなく、精神的な問題として。

 あれほど愛した作品の、新しいカタチを受け止められるのだろうか、というこ
と。

 今までは、どんなカタチであれ、受け止めてきたけどね。
 出演者が代わろうと作品が「改悪」されようと、それでも新しいモノを、「現
在」を受け入れ、昇華してきた。
 それが「タカラヅカ」だと思っている。
「前の方が出演者も作品もよかったよなあ。でもま、コレもアリか」
 てなふーに。
 あるいは、
「こんなふうになるんだ。こっちの方が絶対好き」
 てなふーに。

 しかし、『王家』はなあ。
 耐えられるのかなあ。

 作品への愛と、「タカラヅカ」への愛に自負とこだわりのあるわたしは、でき
ることなら全公演この目で観て、なにかしらここで感想をわめきたいと思ってい
たんだけど。

 正直、迷っていた。
 観に行くか、行かないか。

 作品を愛している。
 宝塚を愛している。
 別れを前提とし、多くの人と別れてきた。見送ってきた。
 泣いた。
 それでもなお、タカラヅカを愛し、見守ってきた。

 これからもタカラヅカを愛し続けるために、わたしと汐美真帆を出会わせてく
れた世界を愛し続けるためにも、タカラヅカのルールと現実を受け止めなければ
ならない。

 あの人がいなくても、タカラヅカは続く。
 わたしがいなくても、この地球が回り続けるように。

 それをいちばん先に思い知ることになるのが、中日『王家』だと思う。

 わたしは畏れている。
 やがて来る「現実」を目の当たりにすることを。
 
 
 運命の神様が言っているのかしら。
「こあら、お前は中日『王家』を観るべきではない」
 と。

 だから入力を忘れ……はっ。ちょっと待てっ!!

 わたしたしか、『花舞う長安』(ムラ)のときも、入力忘れてなかったか??


 チガウチガウチガウっ。
 神様の意図だったら、わたしは『ドルチェ・ヴィータ!』を観るべきでなかっ
たっつーことになりますがな。

 運命に逃げるのはよせ。
 ただのうっかりミスだ。

 そうよ、運命には立ち向かうべきなのよ!
 中日『王家』を観るべきなんだわ!

 ……でもやっぱり、観るべきじゃないのかもな……。

 思考はぐるぐる袋小路。
 答えはないまま、とにかく、友会入力を忘れた、という現実だけがある。
 心配しなくてもくじ運のないわたしのこと、入力してたってはずれてたろうけ
どな。

 あうう……中日『王家』……どうすればいいんだろう……チケット手に
入れてから悩めってか。


 
 そうこうしているうちに、明日は星東宝初日だー!!
 ドリーさん、kineさんとデートだー。そいからもうひとり、はじめてお会いす
る人もいるのだー、わくわくっ。
 みなさんよろしく!(って思い切り私信)

 私信ついでにもずえさん、ついに「DIARY NOTE」の読み方を知ってしまわれた
のね……お会いするときにおそるおそるお伺いしようと思ってたのに、他の方に
先を越されてしまったー。
 まあいいや。もずえさんにはまだ、お聞きしたいことがあるし。ふふふ。

 ということで、東宝へ向けて旅立ちます。
 緑野こあらは未だに楽チケット募集中です。こんなところでまだ言うか!と自
分でも思いますが、あらゆるところで言っておきます。すんません。

      
 最近のわたしは、記憶力が著しく落ちている。
 なんつったって、あさこちゃんのコンサートのことを、きれーさっぱり忘れ
ていた
くらいだ。

 ひとから言われて、おどろいたもんよ。

「あさコンは、行かないんですか?」

「えっ? あさコン? ………… 間 ………… あああああさコンですか、あ
あ、あさコン。行けませんよ、だってチケットないし!」

 そうさ、悪いのは友会さ! 当たっていれば、忘れなかったのに!(責任転嫁)

 いつからはじまっていたのか、そしていつから大阪なのか。
 さっぱりわからないまま、掲示板で大阪初日とやらを譲ってもらった。
「チケットを手渡しするための、待ち合わせは開演30分前」
 あの……開演時間、何時ですか? つか、初日っていつですか? あ、わかり
ました、自分で調べます。どきまぎ。

 よかった……無事、観に行くことができて。
 チケットの手配がついたの、前日だもんよ……「えっ、初日って明日なんだ?
!」……だから安かったのか……ゲフンゲフン。
 場所はどこだろう。あ、NHKホールか。そーいやそうだった。つか、自宅か
ら自転車で行けるよーな場所
でやる公演くらい、忘れるなわたし。記憶力な
さ過ぎ。

 なにはともあれ。

 あさこちゃんは素敵でした。

 瀬奈じゅんコンサート『SENA!』、大阪初日


 
 タカラヅカ男役の、スターの条件のひとつは、白いフリルのブラウスを着
こなせること
だと思っている。

 おフリルびらびらの、耽美ブラウス。正気を疑ってしまうよーな、「これでも
かっ」なフリフリブラウス。
 その「貴公子ブラウス」を着て、お笑いにならない、生まれたときから着てい
たかのよーな錯覚を起こさせるほど、完璧に着こなしてしまうこと。

 それが、スターの条件。

 貴公子ブラウス姿のあさちゃんの、美しいこと。

 純白のフリルブラウスの下も、白のパンツなのよー。真っ白なのよー。
 この貴公子姿でね、剣を構えるときの美しさときたらもー。おフェンシング様
なので、構えるとき剣を持たない左手を、大きく上にかざすのね。その姿がすば
らしく美しくてねー。
 はー。
 この人はまぎれもなく「タカラヅカのスター」だわ、と思った。

 
 ところでわたし、相変わらずなんの予備知識もありません。
 つか、誰が出ているのかも知らなかったし。
 もりえちゃんを筆頭にした、下級生軍団だったのね、共演者たち。舞台を観て
びっくりさー。うわー、若いー。うわー、3分の1くらい知らない顔だー。

 行きの電車で「名も知らぬ方」にばったり再会し、「龍真咲くんを見て!」と
言われたので、いや、言われていなくても優先的に見ていたと思うけど(笑)、と
りあえず真咲くんに注目しつつ。

 まずこの「コンサート」が、コンサートっていうより「タカラヅカのショー」
だったことにびっくりし、客席のおとなしさだとか、「どうたのしむのがいいん
だろう?」という困惑だとか、なつかしー曲ばっか流れるなあ、だとか、さだま
さしかよっ?! とかゆーおどろきだとか、あさこが歌うとさだまさしの歌に思
えないくらい別物……(笑)、だとか、まあいろんなことに首を傾げつつ。

 えーとこの公演って。
 ぶっちゃけコンサートじゃないよね?

 コンサートにしては、ノリが……もにょもにょ。

 あさこだし、コンサートだし、スタンディングで踊るのかと思って、それなり
の格好していったんだが、力一杯拍子抜けした(笑)。
 おとなしく坐ったまま、オペラグラスのぞいてていいステージだったんだ。

 コンサートだと思ったからびっくりしただけで、すぐに頭を切り換えた。

 これってつまり、あさこがトップスターのショーなんだと。

 あさちゃんはいずれトップになる人だと思う。
 このステージは、その前哨戦っていうか、プレお披露目? あさこが真ん中だ
とこんな感じですよ、っていう。

 おおー。なるほどなー。
 こんな感じかぁ。
 切っても切ってもあさこ。真ん中のあさこ。

 演目は「あさこと世界一周」?
 タカラヅカらしい、バラエティショー。いろーんな国のいろーんなテイストを
つまみ食い。

 おときっちゃんはがんがん歌ってるし、みっぽーちゃんはばしばし踊ってるし
、男たちは「勉強中」って札を顔や背中に貼りながらもがんばってキザってるし
、真咲くんも「スタァ」な顔で目指せエロ! ってやってるし、ひろみちゃんな
んか女装までしてますけど。

 何人かでいいから、上級生に出て欲しかったなー……。

 引率者あさこと、その生徒たちって感じが、した……どーしても。
 そしてあさこちゃんも、引率者をして、本来の魅力が出る人ではないと思った
。わたしは。

 それがちとさみしい。
 もっとバリバリなあさちゃんが見たかった。
 前後の憂いなく、突っ走るよーな。
 引率者じゃ、暴走できないよなあ……。

 もちろんあさちゃんは素敵で、月組下級生たちもがんばっていたのだけど。
 観ていて、とてもたのしかったのだけど。

 プラスアルファが欲しかった……。「がんばってるわね」だけじゃなくてさ。
 もっとハコが小さかったら、引率者と生徒たちでも問題なかったんだと思う。
舞台空間を埋めることができたのだと思う。たぶん。

 でも、下級生チェックにはおいしい公演だったわねー。
 わたしはやはり、麻月れんかくんの顔が好きだとしみじみ思ったのことよ。こ
の子の気合いの入ったキザり方もツボにハマる。
 どーもわたしは「やりすぎ」とか「行きすぎ」とか好きみたいで。梅干し食べ
たみたいに顔をくしゃくしゃにしてキザっているのを見ると、もう……(笑)。
 君ソレ、やりすぎだから! キザってるつもりだろーけど、すでにソレ通り越
してるから!
 と、肩を叩きたくなる感じが好き(笑)。
 そのままどうか、隅っこの隅っこででも(新公ですら役付アレだもんなあ、いつ
も)気合い入れてキザっててくれー。

 
 ところで、かしげとゆーひが来てました。
 赤はっぴ(あさこ写真モール飾り付き)に長鉢巻き、ペンライトという恥ずか
しい姿
で。
 その昭和時代のアイドル親衛隊みたいな格好は、いったい……っ?!
 あまりにバカな姿で、その潔いバカっぷりに感動した(笑)。
 つかかしげ、元気だな……。公演中やん、あんた。ゆーひバウにも顔出してた
くせに。

 わたしの席からはふたりがよく見えたので、なにかっつーと眺めておったんで
すが、盛り上がったときに、かっしーがゆーひの腰に手を回したのが、My
ツボにハマりました(笑)。一瞬ではずしたけどね。そしてゆーひ、かしげの手が
どこにあったかなんて、かけらも気にせずステージを見ていたけどね(笑)。

 
 あさちゃんの横に、彼と同等の力と輝きを持つ、エロい人がいてくれた
らなあ。完璧なのになあ。と思った。
 あさちゃんはひとりでも素敵だけどさ。
 ……ひとりだとこんなに健康的なのか、と改めて思ったな(笑)。

     
 しいちゃんの年齢について。

 ジェンヌは妖精だから、年齢話はタブー……という建前は置いておいて。

 昨日の日記で「しいちゃんがケロより年上」と書いたところ、UPしてわずか数
時間後にチェリさんから訂正が入った。

 とゆーのも、わたしにしいちゃんの年齢を教えてくれたのが、チェリさんだっ
たからだ。
「しいちゃんって、もう**歳なんですよねえ」と。

 そのものずばりな数字を聞いて、ものすげーおどろいたさ。
 ええっ、しいちゃんってもう大台なのっ?! てゆーかケロより上ってそんな
バカな。

 だってあの人、セーラー着てデッキブラシ持って踊ってますけどっ?!

 だが、なによりおどろいたのは、しいちゃんの年齢を一度も考えたこ
とのない自分にだった。

 
 
 

 ………………思考中………………思考中………………思考中………………。

 
 
 
 
 どうもわたしにとってしいちゃんって、ほんとうに妖精らしい。
 
 しいちゃんには、年齢があってはイカンのだ。

 なんか、時の流れとか世俗のことと一緒にしてはイカンというかね。
 そんなもんとは別のところにある人というかね。

 変だな。しいちゃんはジェンヌらしくないきれーなおねーさんのなのに。ふつ
ーに街を歩いていい、テレビドラマの美人OLみたいな格好でふつーに楽屋入りし
たりする人なのに。
 ある意味「タカラジェンヌというドリーム」のない人なのに。

 なのに何故か、わたしにとってはこれ以上なく妖精。
 なーぜーだー(笑)。

 
 チェリさんからメールをもらって、いそいそと「おとめ」を開く。年齢を計算
しようと思って。

 わたしの「おとめ」は2003年度版、表紙はリカちゃんだ。
 てきとーにぱらりとめくってみる。

 あっ、すごい、一発でしいちゃんのページを開いたぞ。

 だが。
 しいちゃんのデータを読む前に、へなへなと脱力。

 だって隣にまちかめぐるが!!

 まだ組替えしてないんだ、去年の「おとめ」だと。ケロはもう星組になってる
のに。

 一発でしいちゃんのページを開いたと思ったけど……これって、一発
でまちかめぐるのページを開いたってこと
でもあるのでわっ?!

 …………2004年版の「おとめ」買わなきゃ…………。

 
 あ、しいちゃんの年齢ですか?
 はい、まちかめぐるで終わっちゃイカンですね。話を戻して、しいちゃんの年
齢。

 ケロより20日年下でした。←同い年っていう。

      
 先日アンテナが断線し、特定のチャンネルが見られなくなってしまったので、Be-Pu
ちゃんにSOSを出した。

「明日の『マ王』録画して」
 (何曜日の話か、コレでわかるだろう・笑)

 ちなみにもう明日というより今日という方が正しい時間だったが、まあ大丈夫
だろー。と、思ってかけた。

「いいよ」

 でもBe-Puちゃんの声は暗い。寝てたのかな?

「もともと録画してたよね? わたしとモリナカ姉妹のために絶対録画してね。
わたし、モリナカさんにも頼まれてるから」
「わかった。EP(3倍)でいい?」
「ごめん、Rに焼きたいから、SP(標準)にして。あ、HDDに余裕があれば、だけ
ど」

 わたしのDVDレコーダは、Rに焼くときに再エンコードになるので、最初の録画
データはある程度の画質が欲しい。
 でもわたしは、Be-PuちゃんがEP録画派だということを知っている。彼女は、画
質なんかどーでもいー、たくさん録画できればそれでヨシ、の人なんだ。すまん
な、わがまま言って。

「余裕ならあるよ。なんせ280時間録画可能だからな」

 Be-Puちゃんはニヒルに笑って言う。

「あー、はいはい、いいわね、買ったばっかのレコーダは大容量で」

 てっきり自慢だと思ったわたしは軽く流す。今までさんざん自慢されてきたか
らな。
 ひとより早くDVDレコーダを買ったわたしは、仲間内の誰よりも少ない容量のレ
コーダで細々と生きているんだ。現行HDDの8分の1ぐらいの容量しかないはず。い
や、もっと少ないかも。

「そうよ、280時間よ……280時間全部空いてるよ……」

 あれ?
 なんか、自慢ではない、ような?

「緑野さんあたし、やっちゃったよ……RAMを消そうと思って、……HDD消しちゃ
った……」

 はい?

「DVDレコーダ、全消去しちゃった」

 はい〜〜っ?!!

 ハードディスク、全消去ですとっ?!
 なんでそんなバカなことを。

「RAMの整理をするつもりだったのよ。新聞読みながら、リモコンでちゃっちゃっ
と……」
「確認しなさいよ、2回もメッセージ出るでしょ? ほんとに消していいか、って

「そんなもん、手がちゃっちゃっと」
「うわーーーー」

「百数十時間の録画データが、全部パァだよ」

 ひゃくすうじゅうじかん……。アンタ、そんなに溜め込んでたんや……。

「消去がはじまったあとに、あわてていろいろいじったけど、まったく受け付け
てくれないの。ただぼーっと、データが消されるのを見てた。5分間……」

 き、聞いてて胸が痛い。

「張り切ってXP(高画質)録画した『王家に捧ぐ歌』も全部消えたよ……」

 そ、それ、わたしがRに焼いてもらう約束してたやつ? 1幕と2幕で分けて、2
枚のDVDに高画質で焼いてもらうはずの。

「そうよ。消えたわよ。全話録るつもりで1話からCMカットして大事に録画しつづ
けていた『29歳のクリスマス』も全部消えたわ」

 めんどーくさがりの君が、かなり大雑把とはいえ、CMカットをしていておどろ
いた、あの『29歳のクリスマス』も?

「LDからひとつひとつダビングした米米CLUBも消えたわ! DVDに焼いて、LDは処
分するつもりだったのに。てゆーかもうLD壊れてるから、今さらどうすりゃいい
のよ」

 リサイクルショップの店員とケンカしたとかゆー、LD騒動の原動力となった米
米っすか。もうあのリサイクルショップには今さら行けないのに、ダビングやり
直しっすか……。

「いつか見るつもりで録り溜めていたドラマやヅカが、全部消えたわ……」

 聞けば聞くほど、不幸としか言いようがない……。

「さすがに、ヘコんだ……」

 声が暗かったのは、寝てたからじゃなくて、このためだったのね。
 そりゃヘコむわ。つらいわ。
 強く生きろ、Be-Puちゃん。

「え、えーと、昨日の『チャングム』は明日持っていくし」

 はげまそうと、彼女に頼まれていたドラマの話をする。
 DVD生活をしてその便利さにおどろいたことのひとつに、「貸し借りが簡単」と
いうことがある。
 ビデオ時代は、「今日のドラマ、見逃しちゃった。貸して」と言って友人から
テープを借りた場合、実際に見終わらないと返すことが出来なかった。だから借
りている期間が長くなる。
 しかしDVDなら、借りてすぐ、まだ見ていなくても借りたRAMを返すことが出来
る。
 何時間分借りたとしても、自分のHDDなりRAMなりにデータを移せばいいんだも
ん。高速ダビングできるし、画像も劣化しないし。
 借りたものを返したあとで、ゆっくり見ればいい。また、その借りたRAMに、貸
す予定の番組データをダビングしてから返すことも可能。
「あ、前に見たいって言ってたドラマ、入れといたよー」とか言って返却。なん
てお手軽な貸し借りライフ。
 地上波に限るけどね。わたしもBe-Puちゃんもデジタル放送生活してないし。
 そうやって『29歳のクリスマス』を借りたし、『チャングム』を貸したわ。『
新選組!』の「山南さんが死ぬ回」はすでにRに焼いてあったんで、現物を貸し出
したけど。

「『チャングム』、見た?」
「見た見た、1話から昨日の回まで全部一気に見た。ぶんちゃんのそっくりさんも
、リカちゃんのそっくりさんもわかった」
「似てるでしょ?」
「似てる。笑った」

 電話するわたしの横で、実は弟がわたしの部屋のアンテナ線と格闘していた。
手に余ることは、弟にやらせるのが正しき姉の姿。

「そんじゃ、『マのつく』の録画よろしく」
「おう」

 電話を切ったあと、Be-Puちゃんになにが起こったのかを弟に説明した。君だけ
働かせて、友だちと無駄話していたわけじゃないのよ? こんな不幸があったか
ら、つい用件以外に話し込んじゃったのよ。

「そりゃ、フロッピーディスクをフォーマットしようとして、OSをフォ
ーマットした人
と同じレベルの失敗だな」


 弟はしみじみ言う。

 ななななんですか、そりゃ。

「いや、いたんだよ。フロッピーをフォーマットするつもりで、PCフォーマット
した人。つか、Windowsってそんな簡単にフォーマットできるんだーっておどろい
たけどな」

 注意一秒、ケガ一生。
 うっかりパソコンをフォーマットしちゃったらわたし、涙の川に沈むわ。
 気を付けよう、データ紛失。自分の操作ミスは自動バックアップ不可なんだか
ら。

          ☆

 ところで。

 しいちゃんって、ケロより年上なんだ……。

 それってどうよ。どうなのよ。
 いやその、なにがどうじゃないけど、こう、理不尽というか納得できないとい
うか、引っかかるというか。

 萌えるというか……。

 てへ。

       
 忘れられないタイトルとゆーものがある。
 なにがどうじゃなく、心に残る。

 マリア・グリーペの『鳴りひびく鐘の時代に』がそうだ。

 20年ほど前に発行された本で、たしか当時、図書館の「しんちゃくとしょあんない」で見た。掲示板に、表紙カバーが貼ってあったと思う。うちの最寄り図書館は、カバーをこうやって切り刻むことがよくあった。

 マリア・グリーペが好きだったことと、印象的なタイトル、そして表紙の少年の顔に惹かれて、予約カードを出したなー。

 ものすっげーおもしろかった、というほどの記憶はない。
 主人公の少年王のまなざしの先にあるモノに思いを馳せた。タイトルと表紙の意味を噛みしめた。……それぐらい。

 押入を探せば、15のときから書きつづっていた読書感想ノートがあるはずだが、そこまでする気力はない(笑)。感想ノートは30冊を越えているので、そこから該当記述を探すのも気が遠くなるしな。
 20年前のわたしは、そりゃーもー、ものすごい勢いで、いろーんな本を読みあさってたからなあ。遠い目。
 図書館の職員が嫌いだった(高慢で威圧的な人たちが多かった)ため、図書館は嫌いだったが、それでも本が読みたくてよく通っていたわ。

 マリア・グリーペは好きだったけど、『鳴りひびく鐘の時代に』はそれほど好きなワケじゃない。
 なのにこのタイトルだけが、記憶から消えない。

 
 『ドルチェ・ヴィータ!』を観ているときに、何度もこのタイトルが頭に浮かんだ。

 「サテリコン」で。
 出会ってしまった男とドルチェ・ヴィータ。
 運命を告げる鐘の音を聞きながら。

 枷のなかで。
 檻のなかで。
 囚われたままで。
 足首にからみついているものはなに、腕を押さえているものはなに。自由なんてない。心さえ真の意味での翼なんか持たない。
 現在。現代。今。この瞬間。そしてわたし。
 この、鳴りひびく鐘の時代に。

 …………てなところまで打って、そこで日記は放置、ぼーっと関係ないサイトを眺めていたら。

「最近なオレな、ゴルフにも凝ってんねやんか」

 あー、窓の外で近所のおばちゃんがなんか言うてる……日曜の昼間やもんなあ。

「またよう跳ぶねんオレ」

 おばちゃんやなくて、おっちゃんかな……でもなんか、英真組長の声に似てるなぁ……。

「ただなあ、グリーンに乗ってから、パットが苦手やねんなあ」

 ってコレ、組長の声やんっ?!
 窓の外から聞こえてんのとちゃうやん!

 パソコンのスピーカから聞こえとるがなっ。

 組長と女の子たちのお喋りは、わずかの間で終わり、スピーカは沈黙した。

 実況CD買って、パソコンに取り込んだのはたしかだ。
 でも別に今、流してなかったのに?
 なにも触ってなかったのに?

 なんで勝手に再生されたの?
 なんで勝手に停止したの?

 てゆーか。

 よりによって組長のオヤジギャグだけ再生して止まったのは、どーゆーことですかっ。

 うううう運命?
 これもなんかの運命ですか、英真組長ぉっ。

 あー、びっくりした。
 なにをしてくれるんだ、Myパソコン。

 …………なんの話をしてたんだっけな?
 鳴りひびく鐘の時代に?

 もういいや(笑)。

          ☆

 ちはる兄貴のことをぼーっと考えてみる。
 かなしくなるので、こんなときにいっそ、Myパソが気を利かせてオヤジギャグを再生してくれればいいのに、とか思う。

 ケロちゃんのことをぼーっと考えてみる。

 みんなみんな、よい日だといいね。
 今日がおだやかに幸福に過ぎるといいね。

 外は明るい。
 おだやかなお天気。

           ☆

 最後に私信。
 もずえさんの愛に歓喜の舞。大阪から投げキッスですわん。

       
 知らなかったんだけど。
 『ドルチェ・ヴィータ!』のディアボロ@トウコの獲物がワタさんで、次の獲物がケロだっつーのは、「公式設定」だったんですか。
 チェリさんに教えてもらって、おどろいた。
 「歌劇」でトウコちゃん自身が言ってるんだって?

 素で知らなかったよ〜〜。だって「歌劇」読まないし、買わないし。

 道理で、今回はみんな、「また緑野が変なこと言ってる」って言わなかったわけだ。
「緑野の腐った目には、なんでもかんでもホモに映るから、そんなふうに見えるだけでしょ?」
 と、いつもなら一刀両断されているはずなのに。

「トウコの役は、ワタさんを欲していろいろやってるんだけど、結局最後はケロを選ぶの」
 と、るんるんと思ったことを言ったわけなんだけど、観たまんまホモをホモだと言ったわけなんだけど、みんなナチュラルについてきてたもんな。
 公式設定がそうだったのか……。

 ただ、Be-Puちゃんとモリナカ姉さんには、「また緑野さん、1億人にひとりの感性で変なことを言ってる」と言われちゃったけど。でもこのふたりは、「歌劇」絶対読んでないしな。

 わたしの感性は、公式通りの感性よ〜、ふふふ。今度ふたりに会ったら訂正しておかなければ。
「公式がホモ設定なのよ」と(笑)。

          ☆

 FROG STYLEの新製品、「BANK FROG2」が出ていた。
 手のひらに載るサイズの、カエルの貯金箱だ。
 今回は鍵を使って開けるタイプらしい。
 新製品を見つけたら、とりあえず1回は買うことにしている。

 200円入れて、ガチャガチャを回した。

 出てきたのは、黄色いカエル。
 名前は「BOKIN FROG」。緑色の羽のついた鍵を持っている。

 背中には、「カエルを守ろう」と書いてある。

 愛を運ぶ、しあわせの黄色いカエル。
 背中の文字がなぜか、ケロを守ろうと書いてあるよーな気がした。

       
 またしても、ゆうひくんの葉巻を拾えませんでした。
 ほら、今やってる月バウ『THE LAST PARTY 〜S.Fitzgerald’s last day〜』で、スコット@ゆうひが客席に向かって投げる葉巻。
 拾えるにちがいない! と思った席に坐って待ってたんだけど。

 何故ですか、ゆーひくん。今日に限ってあんなに力いっぱい後ろに投げなくても……!!

 がっくり。
 欲しかったわ、ゆーひくんの葉巻。

 ちなみに、デイジーちゃんはスコット@タニちゃんの葉巻を拾ってました。
 見せてもらったよー。チョコレートフレーバーで、すっげーおいしそうな匂いだった(笑)。

 雪組初日からこっち、毎日ムラ通いしてたんで、へとへとです。
 この1週間、雪大劇観て月バウ観てケロDS行って月バウ観てケロDS行ってケロDS行って月バウ観て月バウ観て……疲れた……。

 で、今日の日記は、実は懺悔です。

 月バウが終わったあと、階段の踊り場でメールを打っていたわたし。
 わたしの横には、バウのポスターが貼ってありました。

 わたしと同じ公演を観た年配のご婦人方が、いそいそとポスターの前にやってきて、
「ほら、これよ」
「でも、これじゃわからないわ」
 と、ポスターを指さしながら途方に暮れていらっしゃるご様子。

 どうも、今観たばかりの『THE LAST PARTY』の配役が知りたいらしいのだけど、ポスターにある出演者名一覧を見ても、わからないでいるようだ。

 わたしが携帯から顔を上げると、ちょーどそのおばあさま方と目が合った。

「あのう、ヘミングウェイをやった人は、どの人かしら?」

「あ、それなら、この人ですよ」

 わたしはにっこり、さららんの名前を指さす。

「月船さらら!!」

 おばーさま方は、「おお〜〜っ」と声をあげる。

「素敵でしたよね、ヘミングウェイの人」
「とても男っぽくて」

 おばーさま方は口々におっしゃる。
 ふっ、さららんったらやるわね、これでこのおばーさま方のハートをゲッチュよ。

 調子に乗ったわたしはつい、いらんことを言う。

「さららんは来年、主演するんですよ」

 おばーさま方はまた「おお〜〜っ」と声をあげる。「我が目に狂いなし!」って感じに。
 その素直な反応を見て、わたしは不安になった。

 あ、あれ?
 さららん来年、主演、するよね?
 たしかするよねえ?
 でも去年バウ主演したとこだし、来年のワークショップ(としか思えないバウ公演)メンバーに入ってたっけ??

 なんか突然、自信がなくなった。
 この純粋な老婦人方に嘘をつくわけはいかない。嘘を教えるわけにはいかない。あれ? あれ? どっちだったっけええ??

「すみません、カンチガイです、しません、来年!」

 チキンなわたしは、前言撤回。
 主演する、と言ってしなかった場合と、しない、と言ってした場合なら、前者の方がより残酷なはずだ。

「さららんは去年主役してるんですよ! だから来年はチガウかも」

 とにかく、「主役するくらいの人」であることを強調する。
 ヅカに詳しくなさそうなおばーさま方は、それについても「おお〜〜っ」と感心の声をあげておられました。「もう主役を経験するくらいの人なんだわ。だからあんなに素敵なんだ」という納得のもとで。

 ぜえぜえ。口は災いの元。いらんことを言うから、ややこしくなる。

 歩きながら、チェリさんにメール。「さららんって来年、主演だっけ?」

 答えはYES。
 うわわわあぁん。ごめんさららん、ごめんおばーさま方。わたしが嘘つきました〜〜。

 月船さらら、来年バウ主演します。
 だからみんなで観に行きましょう〜〜。

          ☆

 そーやって氷雨の中帰宅したら、玄関にネズミの死体と、正座した猫がいるし。
 ドア開けるなり、悲鳴あげたよ……。
 わたしに見せるために、玄関の真ん中に置いて、自分はその横でいそいそと待っていたらしい。

 ええいっ、そんなもん見せんでもええんや!

         
「魔法のエレベータさん、魔法のエレベータさん。わたしの願いを聞いてください。素敵な人に、会わせてください」

 と、お願いしたわけじゃ、なかったんだが。

 星組下級生の群を抜けて飛び乗ったエレベータ。
 そこから降りたわたしたちの前に現れたのは、しいちゃんだった。

 うひょー!!
 しいちゃん登場。
 相変わらずの大きな口、大きな笑顔。わたしの癒し系の君が、目を合わせてにっこりしてくれますがなっ(たぶん、誰にでも笑顔をくれる人なんだろー)。いつ見てもきれいな人だー。ほわほわ。

 わたしたちとすれ違い、しいちゃんは例のエレベータへ。

 しいちゃんの後ろに、数人の生徒たちが続く。
 しいちゃんとの思いがけない遭遇にばくばくしているわたしが判別できたのは、まとぶんのみ。

 さすが千秋楽、みんな来てくれたんだ……。
 愛だね。ほろり。

 感動しつつも、まずは席取り合戦。
 受付を済ませるまでテーブルはわからない。
 わたしのテーブルは、感動の最前列センターだった……どどどどーしよおっ。初日よりさらにいい席ですがなっ。あたし、もう終わり? これでもうあたしの世界は終わってしまう? 一生分の運を使い果たした?!
 うろたえまくった……。
 それでも、シビアに席取りがんばった(笑)。
 
 そうして。
 ディナーのあと、ショーの間際にドリーさんの部屋へ戻ったわたしは、例のエレベータでケロちゃんと遭遇することになったわけだ。

「魔法のエレベータさん、魔法のエレベータさん。わたしの願いを聞いてください。素敵な人に、会わせてください」

 と、お願いしたわけじゃ、なかったんだが。
 扉が開くまでマジに一度も、想像したこともなかったよ。燕尾姿のケロに会えるなんてこと。
 ええ。その前に記念撮影しているケロちゃんを見てしまったので、そのことでアタマはいっぱい、まさかその直後に彼らがエレベータに乗ってくる可能性があるなんて、カケラも考えなかった。すでに舞い上がっていたから。

 思いがけず、ドアが開いて。
 ケロちゃんが、立っていて。
 わたしを、見ていて。

 世界に、わたしとあなたのふたりきり。

 テレビとかであるじゃん。ただひとりの人だけ原色で、あとの背景は全部紗がかかったみたいに見えなくなるの。
 わたしの目には、ダーリンだけ。
 いや、たしかに映っているよ。他に4人娘がいたこととか、手前のエレベータ呼び出しボタン前にホテルの人がいたこととか。
 情報として目の端に入っているんだけど、真ん中にいるケロしか、わたしの目は見えていないの。

 世界が全部色を失って、あのひとだけしか、見えないの。

 おそろしいことに、マジです。
 大袈裟でも比喩でもなくて。

 そんなことが、現実にあるんだ……。

「うそーっ、うそーっ、うそーっ」
 と、ひとりになったエレベータの中で、声に出してつぶやいていた。
 ひとりごとを言ってしまうくらい、取り乱していた。
 それでいて、「エレベータの中で喋っちゃダメだ、上に聞こえてしまうかも」と思う冷静さもあった。
 エレベータの中の声って、けっこう全部の階に聞こえてしまうもんなんだよ。エレベータのある縦長空間が伝声管の役目を果たして。

 ああ、なんてこったい、魔法のエレベータ。

「魔法のエレベータさん、魔法のエレベータさん。わたしの願いを聞いてください。素敵な人に、会わせてください」

 と、お願いしたわけじゃ、なかったんだが。

 ディナーショーが終わったあと。
 家庭のあるチェリさんは早々に帰宅、入れ替わるよーにkineさんと合流、ドリーさんと3人で部屋に行くために、例のエレベータに乗った。

「このエレベータで、ケロちゃんやしいちゃんに会えちゃったのよー」
 と、本日初エレベータ搭乗のkineさんに説明。しいちゃんと会ったのはエレベータから降りたあとだったけど、このエレベータが結びつけてくれたわけだしな。

 力いっぱい油断したまま、目的階に着き、ドアが開いた。

 すると目の前に。

 すずみんがいた。

 うおーっ、こう来ましたかーっ。
 わたしとkineさん、大ウケ。

 だってだって、わたしとkineさんだけなんだよ? すずみん好きなのって。
 あとはみんな、すずみん苦手って人ばっかなんだもん、わたしの周り。チェリさんが今ここにいなくてよかったな、とか思ってみたり(笑)。
 どーしてよりによって、すずみん好きなわたしとkineさんがそろったこのタイミングで、すずみんなの。素敵、ハズさないわ、魔法のエレベータ。

 ドリーさんの部屋に戻ってから、わたしたちはうきゃうきゃ騒ぐ。

「ちっ。ディナーショーの締めが、すずみんかよ」

 ドリーさん、真顔で舌打ちするし。
 それでまた、わたしたちは笑うし。

「締めはすずみんじゃなくて、コトコトよ。そう思うことにする」

 ドリーさんは必死。
 ああ、そういえば小柄な娘役さんも一緒にいたわ。わたし、すずみんだけ見てたから、顔を見そびれちゃった。コトコトだったのかー。ちゃんと見ればよかった。残念。

「あ、ディナーショーのプログラムカードがどうって日記にあったから」
 と、kineさんはわざわざ、しいちゃんディナーショーのプログラムカードを持ってきてくれた。
 わたしがあまりに今回はショボいショボい、豪華だったのはトド様だからなの? と書いていたから。

 しいちゃんディナーショーのプログラムカードは、豪華でした。

 きれいなフルカラー印刷で、しいちゃんがきらきら微笑んでますがなっ。
 わーん、こんなカードがよかったよう。

「出演者がどうというより、新阪急ホテルがえらいってことじゃないですか?」
 と、kineさん。そーゆーことなのかなぁ。

 少しの間お喋りをして、夜も遅いし解散しましょう、と3人そろって部屋を出た。ドリーさんはフロントに用があるんだって。
 そして、例のエレベータ前にやってきた。
 本日最後、いや、人生最後のこのエレベータ。

「魔法のエレベータさん、魔法のエレベータさん。わたしの願いを聞いてください。素敵な人に、会わせてください」

 と、お願いしたわけじゃ、なかったんだが。
 エレベータにわたしたちが乗り込んだとき、廊下の方で話し声がした。誰かやってくる気配。

 それが誰であれ、エレベータに乗るだろう人が近づいてきたら、「開く」ボタンを押すよね? ドアを開けてあげて、その人も乗せてあげるよねえ?
 そりゃま、誰かジェンヌさんかも? とは、思ったけど。だからって、目の前でドアを閉めるのも変だし。(燕尾服姿のケロ除く)

 現れたのは、すずみんだった。

 アンタ、さっき帰ったんじゃなかったんかいっ。エレベータ前にいたじゃん!!

 わたしは笑いの発作を押さえるのに必死。
 またか。またすずみんかー。なんでこの人はこう、タイミングいいんだろー(笑)。

 あ、コトコトもいました。一緒にエレベータに乗って、ロビーまで。

「また、すずみん……っ」
 ドリーさんは肩を落とすし。
 わたしとkineさんは大ウケしてるし。

 ありがとう、魔法のエレベータ。
 サプライズと笑いをありがとう。

 一生忘れない。

       
 魔法のエレベータの話をしよう。
 黒燕尾のダーリンと遭遇する、なんて、夢か妄想か、な出来事を経験できてしまった、あのエレベータだ。

 だが、それを語る前にまず、ドリーさんのことから話すことにしよう。

 ドリーさんとは、ディナーショーが初対面。
 緑野をナンパしてくれた勇気ある人のひとり。

 だが、このナンパの仕方がすごかった。
 「緑野さん、よかったら僕と踊ってください」と言って声を掛けてくれるのがふつうだとしたら。
 ドリーさんは、他の人と談笑しているわたしのもとへ突然現れ、「こあら、君は僕と踊るべきだ」と言って強引に手を取ってダンスの輪の中に連れ出してしまったよーな。
 そんな衝撃的なナンパでした。ぽっ。

 そんなドリーさんは、もちろん熱烈なケロちゃんファン。宝塚ホテルに宿を取り、ディナーショー、フル参加する構え。わざわざ3回分のドレスと、仕事用のパソコンをスーツケースに詰め込んでやってきたお嬢さん。

 そのドリーさんのお部屋っていうのが。

 ディナーショー出演の、4人娘の控え室の向かい、だった……。

 なんといってもダーリンのディナーショー。3回ともお衣装を替えてのぞみたいのはヲトメ心。でも宝塚で宿泊していない身としては、昼夜とショーがある15日は衣装替えがしにくい。
 14日はふつーにフェミニン路線のワンピで行くとして、さて15日はどうすべ。陳玄礼将軍に敬意を払って、中華風ドラゴン模様の派手こい服で行くことは決めたけど、着替えはどうしよう。昼と夜と、同じ服のままってのはなあ。いちお、トップスだけでも替えれば着替えたことになるかな。
 てなときに、「部屋に荷物置いてもらっていいですよ」と言ってくれたドリーさんの存在はありがたい。
 着替えの他に、kineさんに渡すビデオやDVDまで持っていたわたしは、けっこう大荷物だったんだ。

 会ったばかりだというのに、チェリさんたちまで道連れに、わたしはドリーさんの部屋に押しかけた。

 うん、ほんとに、ドリーさんの部屋の向かいは、4人娘の控え室でした。
 ドリーさんの部屋に出入りする際、絶対誰か生徒さんに会う……。

 ランチショーが終わったあと、ディナーショーまでの空き時間を、わたしたちはドリーさんの部屋でスカステをBGMに流しながら喋りまくっていたわけなんだけど。
 ときおりしんとして、廊下の話し声に耳をすませてしまう……。

 聞こえるのよ、娘さんたちの会話が。
 他の生徒さんたちもいろいろやってきているようだし、スタッフやら家族やらが顔を出しているらしいし。でもってけっこう、廊下で喋ってるし。
 顔は舞台化粧で、楽屋着姿の娘さんたちを、はじめて見た……。

 あ、ちなみにケロちゃんの楽屋はどこか別の場所のようでした。
 それが残念のよーな、ほっとしたよーな。

 生徒さんたちの生の声と姿にどきどきしつつも、時間は過ぎ。

 ディナーショーの開場時間まで、あとわずか。
 見れば、みんなと喋りながらもドリーさんは3着目のドレスにしっかり着替え、準備万端。
 んじゃ、行きますか……ってときに。

 なんだか騒がしい廊下の外。

 そう。ディナーショー開場まであと少しってこの時間。
 廊下には、星組生たちの大群がいた。

 ドアの穴からみんなで交代にのぞいて確かめたよ。
 4人娘に会うために、現役星組生たちが押しかけてきてるんだよ……うじゃうじゃいるよー。
 控え室は狭いから、入りきらないんだよね。だから少人数相手でも、娘さんたちは廊下に出て喋っていたりしたのに。
 この人数じゃあ、どーしよーもない。
 しかも、廊下も相当狭いんだけど。こんな人数がたむろするようには設計してないだろ。

「ど、どうする?」
「外、出られないよー」
「あのなかを突っ切っていくのは、ちょっと……」

 臆するわたしたち。
 しかし。

 わたしたちは、なにがなんでも開場前に宝寿の間に着かなければならない。
 何故ならばこのディナーショーは、自由席なのだ。
 たしかにテーブルは決められている。だが、サザエさんちのちゃぶ台として使うことも出来そうな巨大丸テーブル内の席は、自由なんだよ。先着順なんだよ。
 うっかりもののわたしとドリーさんは、ランチのとき出遅れて、残りモノのいちばん見にくい席しか取れなかったんだ。
 絶対いちばんに受付を済ませ、いちばんいい席をGETするんだっ。
 握り拳!

「行くしかない」

 結論。
 うなずき合い、わたしたちはドアを開ける。
 うお。生徒さんたちがいっせいにこっちを見ますがなっ。

 わたしたちを見ないでください、ジェンヌさんたち。
 怪しいモノではありません。
 ディナーショー出演者の控え室と、ディナーショー出席一般客の部屋を向かい同士に配置した宝ホがすべて悪いっす!

 うつむき加減に小走りに去る。さささーっと、音校生のよーに1列になって、エレベータ前へ。

 だって、じろじろ見ちゃいけないでしょう、プライベートタイムの生徒さんたちを。
 ヅカファンはお行儀のよさが身上ですから。好きな人たちの迷惑になることは、いたしません。

 つっても本心は。

 ねえねえ、誰がいるのよ、誰と誰と誰っ?! じっくり顔が見たいよ、話が聞きたいよーっ!

 と、思ってたけどなー(笑)。
 みらんくんがいることだけはわかった。そのへんの学年の子がぞろりといた模様。
 ああ、もっとちゃんと顔を見たかったなあ、と思いつつ、彼らの群を抜けたときに。

「ああっ」

 と、いちばん後ろのドリーさんが悲鳴を上げた。

「あたし、スリッパのままっっ!!」

 ドレスアップしたドリーさん。わざわざ3着お衣装を持ってきたドリーさん。
 完璧なドレス姿なのに……足にはスリッパ@宝塚ホテル。

 なんか声をあげながら、すごい勢いで部屋に戻る。

 エレベータ前に着いたわたしたちは、爆笑。
 もっと長く生徒さんたちを眺めていたい……と思っていたところに、ドリーさんの悲鳴、だからなあ。
 ドリーさんが戻ってくるまでの間、エレベータ前から生徒さんの群を眺めていられました。わーい。

 さて、かわいらしく取り乱したドリーさんが靴を履いて戻ってきた。
 エレベータに乗り込みながら。

「なんかあわてちゃって、生徒さんにぶつかっちゃいました……」

 ええ? 誰に誰に?

「わかりません。男役さんでした。背中に、口紅つけちゃったかも」

 ななななんですとうっ?!

 男役の背中に、チューしたってっ?!(鼻息)

 エレベータの中できゃあきゃあ。
 ええ、これがあの、「魔法のエレベータ」ですわよ。

 誰誰誰〜〜?
 ドリーさんが口紅をつけちゃった男の子はっ。
 運命かもよ、それって(笑)。

 ……でも、いいよね……後ろからぶつかって、背中にChu!! なんてさ。少女マンガみたいじゃん。
 あたしだったら、背中に口は当たらないよ……。後頭部に激突するわ……。しょぼん。

 魔法のエレベータの話をしよう。
 見知らぬ素敵な男の子(笑)にぶつかってしまったドリーさん、その話にわきたつわたしたち。
 これからはじまる、ダーリン最後のディナーショー。テンション高めのわたしたちの、期待とせつなさとを包み込んで。
 目的階に着き、魔法のエレベータを降りわたしたちの前に。

 笑顔のしいちゃんがいた。

 続く<…
 ありがとう、エリザベート。フランツを愛してくれて。

 
 一度ぐらいは正式タイトルを書いておこう。汐美真帆ディナーショー『Good Bye,Good Guy,Good Fellow』

 内容をひとことでいうと、「サヨナラショー」だった。

 ケロちゃんのヅカ人生を彩る作品や曲を使い、たのしくもせつない「ケロとケロファンのために」創られたショーだった。

 オギーはかなしみとたのしさの緩急の付け方を熟知しており、盛り上げたあとでどんと泣かせたり、たのしませたあとでじーんとさせたり、楽々と演出していたと思う。
 ぐんちゃんのサヨナラバウでも感じたことだけど、そうやって「過去」を一度「素材」にまでばらばらにして、それを再構成して「別のモノ」を創るのがうまい。

 ぐんちゃんのときは「芝居」だったからストーリーがあったけれど、今回は「ショー」。台詞はなく、音楽とシーンだけで観客の心を揺り動かす。

 「ショー」としてのデキはふつうレベルだと思う。
 ただ、なんの関係もない人が迷い込んで、このショーを観たのならば。

 黒燕尾のタンゴにはじまって、トレンチコートにスーツのギャング系男と美女たち、ときにコミカルに、ときにシリアスに。セクシーだったり母性本能刺激系だったりするかと思えば、突然「ルパン三世」で洗脳ダンス、フルート演奏、かと思えばマタドールだし、演歌歌手かタカラヅカでしかありえない総スパンきらきら衣装だったり、ラテンメドレーしてみたり、ラストはもちろん白で美しく締めてみたり。
 山あり谷あり、バラエティに富んだ、ふつーに無難にまとまったショー。

 でも、その「無難に正しくまとまったショー」は、ケロちゃん関連のパーツでできあがってるんだもんよ。
 「無難に正しく」ってだけでも、創るのはそれなりに大変よ? 起承転結やエンタメ感をきちんと理解してなきゃ、できないもんよ。

 子供用のおもちゃで、「ブロック」ってあるじゃない。ひとつずつは単純なカタチのピースなんだけど、縦や横にジョイントさせることによって、いろんなものを作れるの。ダイヤブロックとかレゴとか。
 そのブロックを自由に使って、お城を作る。四角いピースだけで四角以外のものを「自分で考えて」作るのは大変。どこにどのブロックをはめれば、きれいなお城になるかしら。途中で壊れたり、わけがわからなくなったりしない、誰が見ても「きれいね」と言ってもらえるお城を作るのは、それなりに大変だってば。

 自由にどのブロックを使ってよくても、一から美しいお城を作るのは難しい。
 しかしさらに、使うブロックの数や色、形が決められていたら?
 ものすごーく、むずかしいよね?

 ケロにちなんだ曲ばかりで、「ケロを知らない人でもたのしめるショー」を作ったオギーはさすがだ。
 ふつーに盛り上がってたのしいショーだから、誰でもたのしめる。

 でも。
 ケロを好きな人は、見つめてきた時間があった人は、その濃度に応じた「プラスアルファの感動」があるわけだ。

 曲目リストに出典が書かれていない曲だって、「あ、これはイカロスだ」とか「なつかしいなあ、メール夫人」とか記憶を揺り動かす。
 いちいち小技が利いている。
 じわじわとあとに残る、ボディブロー。

 
 3回観てよかったと思うんだ。
 最初の回は、なにが起こるのかわからなくて、観ているわたしは平静じゃない。構えている部分がある。どんなパンチがくるかわからないから、いつも緊張してますっていうか。

 2回目は、リラックスしていた。
 もう一度観ることができる、ということに、わくわくしていた。

 そりゃも泣くけどさ。
 ぼろぼろ泣くけど、基本的に鼻水が垂れない限りハンカチを使わないわたしは、涙の粒で胸元がびしょびしょになっていたりするけど。

 かなしみよりも、よろこびの方が大きかった。

 また、会えたね。
 そんな感じ。

 3回目は、開幕直前にダーリンに接近遭遇しちゃって、それだけで心臓ばくばくだったけど(笑)。
 よろこびよりもまた、かなしみやせつなさが勝ってきたなあ。

 ステージは中央が高くなっていて、最初ケロはそこから登場する。そしてショーの最後は、下手袖へ消えていった。
 鳴りやまないアンコールで出てくるのも、下手袖から。マジ泣きしてハンカチで鼻押さえて、マイク持ってくるの忘れて、忘れたことにも気づかず生声で礼を言い、娘役さんがあわてて持ってきたマイクにもう一度同じことを言ったりしたのも、みんな下手袖。

 下手を出たり入ったりするケロちゃんは、かわいかったよ。
 絶対泣いてると思ったけど、やっぱり泣いてて、オトコマエな姿と化粧なのに、顔がすっかり女の子の泣きべそ顔になっていて、かわいいやらある意味愉快やら。
 なんと愛すべき人かと思う。

 彼の退場口が下手袖なのは、幸いだったよ。

 ショーを観ながら、何度も何度も思った。

 舞台中央、高くなった「スターの位置!」って感じの場所。ショータイトルの掲げられた幕の真下の位置。
 そこにも、出入り口があるわけさ。
 そこから登場されると、「おお〜〜っ」て感じで、実にかっこいい。

 だけど。
 そこから退場されるのは、嫌だった。

 ステージの中央だよ?
 そこから退場するためには、わたしたちに背を向けることになるの。

 プログラムの最中、そこから退場するたびに。
 わたしは、思っていた。

 行かないで。

 背中を向けないで。
 行かないでください。

 背中を見るのが、めちゃくちゃつらかった。
 後ろ姿が消えていく。
 それがもう、嫌で嫌で。
 かなしくて。

 涙で顔ががびがびになりながらも、去っていく背中に懸命に語りかけていた。心の中で。
 いやだ、行かないで。
 後ろ姿なんか見たくない。
 ないってばよ。

 ……だから。
 最後にケロちゃんが消えていくのが下手袖で、よかったよ。

 真ん中で背中を向けて去って行かれ……そしてそれが最後だったら、立ち直れない。

 
 ショーが終わったあとの、脱力したような場の空気。
 泣き疲れた人たちが、空虚な顔で互いを見回す。
 ちょっと照れ笑いしてみたりな。

 3回目は、ジェンヌさんで客席は華爛漫だった。
 なんて人数だよ。ケロちゃん、愛されてるね。それがうれしい。
 ゆうひくんは2夜連続登場か。愛だね。
 わたしの席からは、ゆうひくんの顔がよく見えたので、ケロちゃんの客席降りのたびにゆーひくんのことも一緒に見ちゃったよ。

 
 ケロの芸歴をたどるよーな構成のこのショーの、公演関連曲としてはトリを飾るのが、『エリザベート』の「夜のボート」。ケロちゃんが新公で歌った歌。
 南海まりちゃんがエリザベートとして登場し、ケロとのデュエットを聴かせてくれた。

 とても美しいエリザベートだった。とても美しい歌声だった。
 でもさらに、彼女を美しいと思ったのは。
 彼女が……エリザベートが、フランツを愛していたこと。

 今まで観てきたどんな『エリザベート』ともチガウ。
 シシィは、フランツを愛している。黒いベールの向こうの瞳には、愛があった。
 フランツを愛しながら、惜しみながら、「別れの歌」を歌っていた。別の道を歩むのだと。

 ありがとう、シシィ。わたしの大切な人を、愛してくれて。

     
 エレベータのドアが開いた。
 乗っていたのは、わたしひとり。
 わたしが降りるのは2階、だけど5階で止まって、ドアが開いた。5階の人が乗るために、ボタンを押していたのだろう。

 突然開いたドア。
 その向こうには。

 黒の燕尾服姿の、ケロちゃんが立っていた。

 …………緑野、硬直。
 てゆーか、フリーズ。

 
 そんなことがあったために、3回目のディナーショーははじまる前からわたし、半分正気じゃなかったっす……泣。

 考えてもみてよ、エレベータという日常で、突然、黒燕尾に化粧済みのダーリンが現れるのよ??
 素顔のジェンヌさんと、たまたま街ですれちがった、というレベルじゃないのよ? 相手、すでに舞台用の姿なのよ?
 思考も止まるって。

 
 3度目のフルコースをなにひとつ残さず平らげ(あ、いちおーメニューは3回ともちがいました。しかし、材料は一緒、ソースがチガウだけ、のレベル。やはり大量仕入れによる経費削減?)、わたしはひとり、オペラグラスを取りに行ったんだ。
 知り合ったばかりだがもう友人! 絶対お友だち! な、ドリーさんの宿泊しているお部屋に、荷物を置かせてもらっていた。ものぐさなわたしはつい、貴重品とハンカチ1枚だけ手で握ってディナーショー会場に行っていたの(女なんだから、ハンドバッグぐらい持てよ)。
 オペラグラスはあまり好きではないので、どうせ使わないだろうと思っていたけど、客席にあまりにジェンヌさんが多く来ていたので、危機感を持ったわたしは、部屋まで取りに行くことにした。
 なんの危機感って、1回目のときケロちゃんてば、いちばん後ろの生徒席の前でえんえん歌ってて、なかなかステージに戻ってきてくれなかったんだもの。なまじ最前列テーブルにいたわたしは、遠い背中を見つめていたさ。(生徒さんがいない2回目は、そんなことなかった)
 そのことがアタマにあったもんで、念のために取りに行った。持っていて使わないのと、使いたいのに持ってなかったのでは、気分が雲泥の差。

 ディナーショー開始まで、あと10分。
 ドリーさんからカギを借りて、廊下を小走りに彼女のお部屋のある、6階に行く。
 オペラグラスを握ってエレベータの前に立ったが、なにしろあまり時間がない。気が焦っているので、エレベータを待つより階段を駆け下りようかと思って、階段を少し下りた。
 が、断念。

 5階では、本日のディナーショー出演者たちが、記念撮影をしていた。

 わわわ、びっくりした。
 ダメだ、ここは通れない。回れ右して、6階に戻り、おとなしくエレベータを待つ。記念撮影してるケロちゃんを見れちゃったよー、ラッキィとか思っていたのに。

 わたしの乗ったエレベータは、5階で止まった。あれ、まだ2階じゃないわ、とぼーっと思っていたら。

 ドアが開き、そこにケロちゃんを真ん中に、ディナーショー・メンバーたちが勢揃いしていた。

 硬直。

 突然、目の前にダーリンが。
 燕尾服姿、オトコマエ化粧。

 ……………………どーすりゃいいんですかっっ!!!

 パニックになったわたしは、阿呆なことを口走っていた。

「下に降りたいんですが、降りていいですか?」

 なんじゃそりゃ。
 でも、そう言うのが精一杯。
 てゆーか。

 お願い、あたしをこのまま行かせてっっ!!

 とゆー、ここから逃げ出したいっ! という思いしかなかったのだわ。

 ドアの一番前にいたホテルの人が、「どうぞ」と言ってくれたので、わたしは迷わず「閉める」ボタンを押した。
 逃げたかった。
 とにかく、逃げることしか考えなかった。

 だってケロちゃん、わたしを見てるし。目、見開いたびっくり目だし。たぶんわたしが一気に泣き顔になっていたせいだとか、言った台詞がわけわかんなかったせいだとか、とにかく変だったせいだと思うけど。ってゆーか、そう思うと落ち込むんだけど。

 逃げ出したあとのあと。
 ずーっとあと、冷静になってから、考えた。

 あそこでわたし、「どうぞ」って言って、にっこり笑えば良かったんじゃないか?
 そしたら、一緒にエレベータに乗れたんじゃないか?


 いや、これからディナーショーだってのに、一般の客と同じエレベータに乗るわけないと思うけど、それでも言ってみるだけ言えばよかったのに。
 少なくとも、「降りていいですか?」なんつー、日本語として通じてないよーな言葉を半泣きで言うのはバカだろ。
 わーん。

 
 そんな心臓に悪い経験をした、エレベータ。

 自分の阿呆さは忘れたいが、わたしを見つめていたダーリンの姿は、忘れられません……。ぼー……。

 ディナーショーの感想はまた明日。

       
 ケロちゃんDS1回目の話、その2。

 浮かれて買ったはいいが、着ていくところがないままタンスの肥やしになっていたワンピを着込み、「やっぱ脚はそれなりに出すべきだよな」とショートブーツを履いていったんだが。
 バウの底冷えで早々に負け犬宣言、念のために持ってきていたブーツ用のレッグウォーマー着用。スターブーツなみの長さになるんだわ、コレ使うと。……脚が出ている部分はなくなった……。

 席に着くなり、緊張しまくりで無口なわたし。
 緊張ゆえに、友だちと話すときだけテンションが上がり、それ以外は陰気という(笑)。
 黙々とディナーを平らげた。ええ。さっきさんざん飲み食いしたはずなのに、フルコースをぺろり、なにひとつ残しませんでした。ドリンクもがばがば飲んでたし。

 はじまる直前に、ゆうひくん登場にわきたつ一部(笑)。わたしと、わたしの隣のテーブルのおふたりさん。
 ああ、やっぱり来てくれたんだね、ゆーひくん。バウ主演、大変だろうにさぁ。

 そしてはじまる、ショータイム。

 ………………………………………。

 なにか、語るべきですか?
 言葉なんぞありません。

 まとまりのないまま、とにかく書いてみると、こんな感じ。

 はじまったー、うわー、鼻の穴だぁー、うわっ、もう客席に降りますか、ええっ、こっち来る! ってゆーか、わたしの横通りますか、いや、通って下さい、立ち止まらないで、心臓止まりますがなっ。武蔵だ、武蔵だよお、視線の先にいるのはゆーひくんですか? あの、こっちも見てください、背中ばっか向けないで、ライトがまぶしい、浮かび上がるシルエット。鼻が高いなあ、あのカタチ好き。MCナシでトバす気満々、ついてきてくれと言わんばかりに。ショーか、ほんとにコレ、ショーなんだ。ケロが真ん中の時間なんだ。
 知っている曲が耳を通り、目を通る。どこを見ればいいんだろう。そか、ケロを見ればいいんだ。そんなことさえ、わからなくなる。

 タイムマシン。

 今、ここで、現在あるショーを見ているのにな。

 時代が場所が、自在に行きかうわけさ。

 ああ、ケロを愛した女たちが舞台にいる。なつかしい衣装。着ている娘さんたちは別の子たち。現在と過去が混在する。

 ゆさぶられるのは、記憶で。
 かき乱されるのは、心で。

 なつかしいのは、せつないのは、あなたが時を経たように、わたしも時を経ているからです。

 なにひとつとどまるモノはないのに、流転していくのに、記憶だけは、愛しさだけは、こんなにこんなにあざやかで。

 過去と現在が交差する。自在に行きかう。
 あのときのあなた、あのときのわたし。

 フアンに会えたことがうれしい。
 どれほど愛したか。

 でも、自分でも意外なほどの泣きツボは、『JFK』だった。

 先にプログラムを見たとき、「THE LAST “Legend and so on…”」ってあったんだよね。
 ラストプログラムのタイトルが、レジェンドなんだ……と、ぼーっと思っていた。
 だけどそこでどんな曲が流れるのかは、もちろんわかってなかった。

 そうか、『JFK』か。
 伝説か!
 円卓の騎士か!
 大好きな人を思って歌う歌。そして、恋を歌う歌。

 そのあとに、『夜のボート』が続けば、破壊力アップ。
 新公時代までタイムスリップさせてくれたら、泣くしかないわな……。

 
 大劇場では見ることのできなかった、サヨナラショー。
 それだけを独立させてくれたみたい。

 
 そーして1回目のディナーショーは終わったけれど、なんかすがすがしく充実感があった。
 だってまだ、千秋楽じゃないもん!
 あと2回あるもん!

 ええ。あと2回、フル参加しますわよ。

 だからなんだか、今はわくわくしている。
 明日も会える。
 まだ終わりじゃない。

 …………明日、終わってしまうときに、ガーガー泣いているかもしれないが。

 でも今は、終わりじゃない。

 過去と現在を行き来するタイムマシン。

 わたしはまだ、そのなかにいる。

         
「景子先生に対して、ずいぶん怒ってませんか?」
 と、チェリさんに言われてしまった。
 わたしの昨日の日記についてだ。

 わぁん、そんなふうに読めちゃいましたか?
 怒ってないです、ぜんぜん!

 酒井澄夫に対する日記を読んでください。わたし的に怒っている文章ってのは、あーゆーのです。チェリさんにそう感じられてしまったってことは、昨日の日記を目にしたほとんどの人に、そう受け取られているかもしれないですね。すみません、わたしの文章力不足です。
 景子せんせに対して、愛はあっても怒りはないです。
 実力を認めたうえで、「もっと!」を語っているだけです。ファンとはこうも貪欲なのです。
 酒井せんせには、なにも言うべき言葉はありません。時間の無駄です。だけど、景子せんせには、いくらでも時間を割いて日記を書いちゃうわ!(笑)

 というわたしは今日もゆうひバウ観劇。チェリさんとデート。

「ところで、パーソナルカレンダーって、誰を買ったんですか?」

 チェリさんは指を折りながら、名前をあげていったけれど……。

「6人? ……6人って……」

 途中で、止まってしまう。
 ふふふ。さあわたしはいったい、誰のカレンダーを買ったのでしょう。今のところ、誰も正解を答えた人はいません。チェリさんも4人目くらいでチガウ名前をあげていたし。

 結局、購入した6人全部を鴨居に並べて貼りました。壮観です。……でも、確実に部屋が暗くなった(鴨居に貼るのはやめましょう)。

            ☆

 そして今日は、ケロちゃんディナーショー、初日。というか、3回あるうちの、1回目。

 わたしの過去のディナーショー体験は、阪神大震災の年のトド様1回きりだ。だからどうしても、そのときの記憶と照らし合わせてしまう。

 今回のディナーショーに参加するにあたり、まず、チケットを手にしたときにショックを受けた。

 ショボッ!!

 チケットが、「お金かけてません」な感じだったんだ。
 わたしが最初購入したのは、1回目と3回目のチケットだった。初日と楽は押さえなきゃ、ってことで。回数ごとに色がチガウわけなんだが、1回目は金、2回目は銀、のつもりらしかった。
 らしい、ってのは、本物の金銀印刷ではなく、黄土色と灰色でそれらしい色にしただけのものだったから。
 黄土色の地に黒字印刷。……2色刷り? マジ?

 だってトド様のチケットは、フルカラー印刷だったもん! 紙質もずっとよくて、トド様の顔写真が印刷されていた。ふたつ折りになっていて、真ん中に空いた窓から、トド様の顔が見える、という凝った作りだった。
 ディナーショーのチケットってのは、それがふつうなんじゃないの? 2万円以上もするわけだし。大劇場のチケットとちがって、いかにもな「特別感」を盛り上げてくれるものじゃないの? あまりにきれいだから、大切にアルバムにしまってあるぞ?(とはいえ、今はどこにあるのか、咄嗟にわからないが)

 こんなに差をつられているのは、ケロだから? 簡易印刷でお茶を濁しているの?? だったらひどい。

「ケロちゃんだから、ってわけじゃないですよ。マミさんのディナーショーだって、こんなチケットでしたよ」

 と、チェリさんは言う。トップスターのディナーショーがそうだったというなら、これが「不況」というやつなのかしら。こんなところで経費削減している?

 これからディナーショーだというのに、時間つぶしに入った店で、わたしはしっかり昼食を取る。自分の胃袋の大きさに自信があるもんでな……大丈夫、なにを食べたあとだって、フルコースぐらい入るよ。チェリさんはケーキとお茶だけ。

「メニューは3回とも同じでしょうからね。つらいですよ」

 ええっ?! ディナーショーのメニューって全部同じなの?
 全部同じメニュー、ってソレ、大量仕入れによる経費削減? 「不況」のなせるワザ?

 だってトド様のときは、日替わりだったよ? わたしは知らないけど、同じテーブルにいた見知らぬおばさまが言ってたもん。「昨日のメニューの方がよかったわね」とかなんとか。

「だからそれは、トド様だからですよ。トド様と比べちゃいけません」

 ええー? 今のトド理事様じゃなく、10年前の3番手の男の子だったころのトド様だよ? 場所だって新阪急ホテルだったし。ゆみこちゃんやきりやんの学年のディナーショーだよ? そんなに特別かぁ?
 
 世の中わかんねーことだばかりだ、と思いつつも辿り着いた会場の座席には、ひとりずつにプログラム兼メニュー票が置いてある。

ショボッ!!

 ほとんどポストカードのノリだった。
 片面カラー印刷、二つ折りで中は1色刷り。写真は全部使い回し。

 ええっ、だってトド様のときは、これよりずっと大きな、紙質もいいきれいな二つ折りカードで、両面カラー印刷だったよ? 写真もオリジナルだったし。

「だからそれは、トド様だからですよ。トド様と比べちゃいけません」

 ……チェリさんの声が聞こえて来そうだが。
 わたし的には、けっこーショックだった。
 ディナーショーのチケットとプログラムカードには、期待してたんだもん……トド様のときの印象ゆえに。

 やっぱりこれが「時代」ってことかな。「不況」ゆえにケチってるのかな。

 それなら有料でいいから、プログラムを別途販売してくれればいいのに。よろこんで買うのに。

 でも、カードの写真が使い回しなおかげで、ポスターまんまがポストカードサイズになっているので、うれしい(笑)。これでスタンドに入れてテーブルに置くことも、鞄に忍ばせて持ち歩くことも可能ねっ。ああ、オトコマエだわ、ダーリン。

 有料といえば、そのオトコマエなポスターは、当日はクッキーと抱き合わせ販売になっていた。
 それは前もって聞いていたので、いい。
 だが、聞いてなかったことがあった。
 クッキーの、値段だ。

 2100円って、どういうことですかっ?!

 トド様のときは、800円だったよ? それでも「高ぇ。ポスターは欲しいけど、クッキーいらねー」と思ったのに。
 2100円ってナニ。
 抱き合わせランチと同じ値段ですがな!!

 ひっでーぼったくり……。
 足元を見ての値段よね?
 これも「時代」? 「不況」のなせるわざ?

 同じ2100円なら、ランチの方が絶対いいよ……。クッキーごときにそんな値段は出せねー……。

 
 と、人生2度目のディナーショー体験を満喫するわたし。
 トド様のときは隅の端のテーブルで、客席降りはあっても関係者席しか回ってくれないトド様を、遠く遠く見つめ、
「こんな指の先程度の大きさにしか見えなくて、実際段差がないから人の頭でその指の先ほどの姿もあんまり見えなくて、客席を歩いてくれるわけでもない催しがディナーショーっていうものなら、高いお金出して行かなくていいや」
 と、わたしをすっかりディナーショー嫌いにしてくれたトド様ディナーショー。
 
 今回のケロちゃんDS席は、最前列テーブルでした……。

 わたし、チケ運のすべてをこの席のために使い果たした?!
 東宝がまったく手に入らないのは、そのせいですか、神様……?!!

 来年はチケ運なくていいですから、今年いっぱいの、東宝チケ運だけは下さい、神様……祈。

 続く

     
 月バウ『THE LAST PARTY 〜S.Fitzgerald’s last day〜』感想、つづき。

 
 主人公スコットは、魅力的な役。
 美しく深く、やりがいのある役。
 だがそのぶん難しい役。

 残念ながらタニちゃんは、スコット役には技量が足りていなかった。
 彼の持ち味である「健康さ」「前向きさ」を打ち消せるほどの演技力はない。

 だからわたしは疑問だった。
 何故タニにこの役をやらせる? やらせてもいいけど、それならそれで、タニでも場が持つくらいに俗な演出にしろよ、と。

 タニちゃんはどう考えても柄違い、ニンに合わない役だ。
 かなみちゃんはそれでも見事に演じきっているが、タニちゃんにソレを求めるのは酷だ。

 作品に、作者に疑問。
 でもそれはひょっとして、そもそもこの作品が、ゆうひと月組に向けたて書かれたものだったとしたら。
 タニちゃんバージョンだけを観て、作者に疑問を持つのは早計か、と思った。

 そして月組、ゆうひスコットを観る。

 
 観た上で、最初の感想になったわけだ。
 いちいち水をさされる「役者」パートも、真に演技力のある者が演じていれば、問題なかったんだろう、と。
 この1幕目の滑りの悪さも、真に演技力のある者が演じていれば、問題なかったんだろう、と。

 つまりそれは、ゆうひくんにあて書きしたから、月バウを念頭に置いていたから、ではなかったってことだな?
 どう考えてもゆうひくんはスコットにハマる。見た目と雰囲気はまんまOKだろうよ。タニちゃんよりずっと恵まれた立場だよ。
 それでもなお、役者パートでは引くし、作品の滑りは悪い。
 こういっちゃなんだが、ゆうひとタニの演技力なんて、似たり寄ったりでしょ? あるのは持ち味のちがいだけで。だとしたら、持ち味が「陰」であるゆうひの方が、「陽」であるタニより有利なはず。
 ゆうひでも届かないなら、実より華の人気者たちでは演じきれない役ってことになりますがな……。 

 作者は、自分の作品がいちばん大事で、作品を俗にするのが嫌だったのね。
 と、思ってしまったよ……。

 そりゃまあ、それはそれでアリだとは思うけどさ。
 主演生徒の力量無視して、作者がしたいよーにしただけであったとしても、『LAST PARTY』はこんなに美しい物語なんだから。
 いいものを見せてもらったんだから、それだけで「ごちそうさま」な気持ちではあるんだけどさ。

 実際、バウホール公演だから、それはそれでいいのかもしれない。
 だって東上しないバウONLYの公演なんて、観ている大半が主演のファンだもんな。
「スコットが**だったらいいのに」
 と思わせる作品で、当のご贔屓がそのスコットをやっているんだから、それだけで大絶賛、「**最高! 素敵!」になるだろうし。

 主演ファンをここまでとろけさせてくれるんだから、それ以上を求めるわたしが悪いのかもしれない。
 いやほんと、実際いい作品だし、スコットは美しい役だし。

 よかったね、タニちゃん、ゆうひくん。
 こんな素敵な作品で。
 そして、シューマッハのファンだったわたしとしても、こんなに素敵なタニちゃんとゆうひくんを見られたことは、うれしいのよ。

 なんかひどいことを書いてしまったんじゃないだろーか、とびくびくしながら。

 
 さて。
 作品と、景子せんせーへの引っかかり話はこのへんで置くとして。

 
 月バージョンの『LAST PARTY』の感想。

 えー、ゆうひくんは、色っぽかったです。
 ひとりで色気出してました。

 かなしいのは、彼のその色気を受け止める男がいない……。

 どーしてなの、嘉月さん?!

 期待してたのに。マックス@嘉月さんの愛あるエロおやぢを。
 まりえったくらい、正当派のエロスを醸しだしてくれると期待していたのに。よよよ。

 マックスったら、マジで「いい人」でした。
 いいおとーさんで、妻子を愛してるんだなあ、と思った。地に足のついた人なんだなあ。
 宙バウのときは、「私にも家庭がある」と言われたときに「えっ、奥さんいたのっ?!」とおどろいてしまうくらい、中年の色気を発散しているいい男だったのに。
 月バウでは、「いい人」かよ……がっくり。

 も、もちろんそれはいいのよ。それで正しいのよ。
 ただね。
 ただわたしが、期待していたの……スコットを愛して見守るマックスを……。そのエロスを……。

 嘉月さんはほんと、うまい人だよねえ。
 悪役やったらほんとに悪人だし、エロキャラやったら破壊力月に届くほどだし、善人やったら慈愛の人だし。

 うまい人なだけに……うう。完璧に「いい人」だわ……妄想の入る余地がないわ……。

 ゆうひの魅力を何倍にもするのは、エロキャラと絡めることだと思うのよね。
 だからこの「白く美しい芝居」では、ゆーひくんのエロさが宙に浮いている気がする。

 タニちゃんは、その美しさと華でスコットを演じていた。彼の持つ「陽」のカラーはスコットには不向きだけど、彼の「白さ」はこの芝居には合ってたかもしれない。

 ゆうひの場合、彼の持つ「陰」のカラーは本来スコット向きだけど、彼の持つ「淫靡さ」はこの芝居には合っていないかもしれない。

 だからまあ、キャラ的にこのふたり、どっちもスコットには足りていないと思うのよ。わたしは。

 それにしても、今の月組にはゆうひの持ち味を倍増させるエロキャラが一気に減ったよねえ……。
 越リュウとのぞみちゃんぐらいか、あとは。さえちゃんは役次第だしなぁ。

 植田景子せんせの作品ってすべてにおいて、致命的なまでにエロくないよねえ。
 美しいけど、エロくない。
 この人の作品に、四半世紀前の少女マンガ、というイメージがあるのはそのためだわ。

 ゼルダ@るいるいは……ニンには合っているけれど、まだこれから、って感じ? なまじテリトリー内の役だというのが、枷になっているのかもな。がんばれー。

 アーネスト@さららんは……ははははは。がんばれ。
 なんでこう、ウケてしまうんだろうなあ、さららん。
 スケールの大きい、骨太な男を演じようとしているのがよくわかって、微笑ましいです、はい。
 なんつーんですが、小物な受子ちゃんが必死に「オレは強引で大物な攻男だぜ!」と肩で風を切っているような微笑ましさがあります。ヲタクな例えですまんが。
 スコット@ゆうひの色気を受け止めることがまったくできず、固いままとにかく相手役をこなすことだけに必死になっている感じ。
 これでこの子に色気があれば、さぞやたのしかったと思うが……ははは。今は遠くを見ていよう。

 紫水梗華ちゃんのアゴと存在感も気持ちよく、五峰ねーさんはいい仕事をしているし、女の子たちは豊作だなあ。

 男役では、学生@みりおくんがいい感じ。

 
 宙と月と、どっちがいいとかいうもんでもないよなあ。
 きっと、自分の好きな生徒が出ている方が、その人にとってもっともたのしめる作品だな。

 美しくてかなしくて、そして主演生徒を素敵に見せてくれる作品だ。

 
 でも個人的に。
 ゆうひくんてほんと、ひとを愛している演技、苦手だよね。
 と、思う。熱演だったけど、それとは別にね。

       
 月組バウホール公演『THE LAST PARTY 〜S.Fitzgerald’s last day〜』初日を観に行った。
 

 作品の話をしていいかな。
 役者よりもまず、ストーリーについて。

 スコット・フィッツジェラルドの一代記であるこの作品において、わたしがもっとも引っかかるのは、「作者の饒舌さ」だ。
 プログラムで語り、役の設定で語り、そのうえさらに、台詞で語る。
 語りすぎだっつーの。
 作者の自己顕示欲?的な「顔出し」が、どーにも気にかかる。
 スコットを演じる役者、という設定ははたして、ほんとーに必要だったのか?
 何故素直に、スコットの物語にしなかったのか?
 「役者」パートになるたびに、水をさされる。正気に返る。興ざめする。

 そしてそのことを思うたびに、考える。
 その水をさされる「役者」パートも、真に演技力のある者が演じていれば、問題なかったんだろう、と。

 友人のモリナ姉さんなどは、宙組バージョンを観て、1幕だけで帰ろうとした。「好きな生徒の出番がないなら、わざわざ観るに値しない作品」という感想ゆえに。
 とりあえずわたしは引き留めたさ。どんな作品でもとりあえず、全部観て欲しいから。そのうえで評価してほしいから。

 幕間に帰りたくなるくらいつまらない1幕目とやら。
 たしかに、テンポが悪く盛り上がりに欠ける。体調次第では睡魔におそわれるかもしれない。
 でもよく見て。とても美しくて、意欲と工夫があり、粋な演出がされているでしょう? 色鉛筆で精密に書き込まれた絵のようでしょう?
 そう。どんなに細密で丁寧で美しく描かれていたとしても。なにしろ色鉛筆だから。遠くから見ると、ただのぼんやりしたよくわからない模様でしかない。美しい絵だと気づくためには、近寄って眺めなければ。

 問題はやはり、そこだと思うんだ。
 この1幕目の滑りの悪さも、真に演技力のある者が演じていれば、問題なかったんだろう、と。

 作品的には、佳作だと思っている。
 こんなに美しく、せつない物語をありがとう、と思う。
 しかし……。
 手放しで絶賛できないのは、この「引っかかり」にあるんだ。

 作品と役者、どっちかに歩み寄りはできなかったのか?

 景子先生は、この作品を好きだと思う。大切なんだと思う。もちろんそれでいい。実際、大いに自信を持ってもらっていい作品だ。
 でもな。
 役者のこと、考えた?
 演じる人間のことは、ほんとうに考えた?

 スコットを演じるのがタニとゆうひだってわかっているなら、どうして作品をもっと俗にしなかったんだ?

 まず「作品ありき」だったんじゃないのか?
 役者が誰であるかどうかより、「自分の作品」が大切だったんじゃないか。
 自分が描きたいこと、やりたいこと。自分の持つ技量の高さ、志の高さ。それをまず、いちばんに考えた。
 そしてそれを、譲らなかった。

 気持ちはわかるよ。
 これで完璧だ、いい仕事したぜ、と提出した文章があるとする。
 ところが依頼主は言うわけだ。
「こんな難しい文章じゃあ、ウチの読者は読めません。難しい漢字や、ひねった表現はやめてください。2行以上続いた文章も読めませんから、句点のたびに改行して下さい。あと、出来事や感情の動きはちゃんと書き込んで下さいね。書いてあることもろくに読みとれないんですから、想像に任せるような書き方はしないで下さい。擬音とかで表すのがいちばんいいです、ぎくっ、とか、どかーんっ、とか」
 それで、言われるままにせっかくの自信作のレベルをわざと落とし、平板で陳腐でアタマの悪そーなモノに書き直すなんて、イヤじゃん。
 それは、わかる。わかるけど。

 その理不尽な要求を受け入れ、なおかつ作品の質を落とさない、という方向は、目指せなかったんだろうか?
 それこそ、せっかく仕上がった脚本になんの脈絡もなく「お国のためにお国のためにお国のために」と3回入れなければならず、それを芸者のお国さんや「お肉のために!」でさらに愉快な作品に仕上げてしまうくらいにさ。by笑の大学@三谷幸喜

 座付き作者なんだし。
 作品守るだけじゃ、引っかかるわ。
 これだけの実力があってどうして、主演生徒の側には歩み寄らないの?
 今のままで十分いい作品だけど、景子せんせならもっと上を目指せたはずよ。
 タニ「だから」、ゆうひ「だから」、さらに魅力的な物語を、作れたはず。
 それをしなかったのは、自分の「今の」作品を守りたかったから?
 主演の技量にあわせて、別のアプローチをしたくなかった?

 
 この作品が佳作であることは、いろんな人が認めていると思う。
「スコットがタニちゃんじゃなかったら、名作だったのに」
 と、わたしを含めた周囲の人間が言うように、作品はいいんだ。
 タニを例に出してごめんよ。ゆうひはまだ、周囲の人が観てないから例に挙がらないの。
 さらにみんなが言う。
「もしもスコットが**だったら、何回でも通うわ」
 主役を演じるのが自分の贔屓の生徒だったら、大絶賛する。
 自分の贔屓で観てみたい、と思わせるってことは、いい作品だってことだ。

 実際、タニちゃんのファンや、タニちゃんに好意を持っている人は、それだけで「名作!」だと絶賛するだろう。
 それだけの「力」を持った作品だと思う。

 だからこそ。
 惜しい。
 タニちゃん「だから」のプラスアルファがなく、「作品がいいから、とりあえずタニでもいいか」止まりであることが。「ゆうひでもいいか」であることが。

 このすばらしい作品を作れる技量で、さらに困難に挑戦して欲しかった。
 「スコットが**だったらいいのに」と思わせるのではなく、「スコットがタニちゃんだから、さらに素敵!」なところまで、持っていって欲しかったよ。
 作品を守って手堅くまとまらずに、挑戦して欲しかった。

 それこそ、スコットを演じる役者、という二重構造にはせず、ひとつの役と世界に集中させる。
 多少俗になったとしても、観客が盛り上がりやすい、拍手をしやすいセンテンスで芝居を進める。
 エンタメであることを意識して、客との対話を考える。

 重い芝居、泣かせる芝居だから、テンポが悪くていい、わけはないんだ。

 
 タニちゃんバージョンを観たあとに、じつはここまで語りたかったんだが、機会を逸していた。
 それと、「たぶんこれって月バウあて書き作品だろうから、ゆうひスコットを見てからでないと、語るのはフェアじゃないな」と思ったんだ。

 どう考えても、スコットもゼルダも、月組あて書きだよねえ?
 陰のある繊細な大人の男と、精神を病んでいく美女。
 太陽きらきらアイドル青年のタニちゃんのための役であるはずがなく、力強くも健康的な実力派かなみちゃんのための役であるはずもなく。
 どっから見ても、ゆうひとるいちゃんのための役じゃん……。
 これで、先にタニちゃんとかなみちゃんを見て「スコットが役者不足」だなんて言うのはフェアじゃないわ。
 と思ったんだ。

 それでもタニちゃんは健闘していたし、かなみちゃんはびっくり、柄じゃないのは承知の上、それでも実力でモノにしていた。

 では、はじめからあて書き、柄にあっているゆうひとるいちゃんは?
 月組バージョンで、この滑りの悪さは解消できるのかしら?

 てことで、月バウ初日なんだ。

 
 続く

   
 『タカラヅカ・ドリーム・キングダム』の感想、続き。

 
 たしかに、Part1の薔薇収集家×薔薇の美少年には萌えた。見たかったコムを見ることができた、と感激した。
 しかし。

 しかし、わたし的にいちばん萌えたのは。

 じつは盲目の王子@かしげかもしれない。

 「Part3 夢の城〜夢は消えるのではない、ただ人が忘れるだけ〜」演出・三木章雄。

 怒濤のトド×コムで強引に幕を下ろしたPart2が終わったあと。
 これでもかっとデコラティヴな王子様コスプレのかしげが登場。なんか知らんがヘタレムード満載。
 そこへ現れる黒尽くめの少年キム。どーやら王子のラヴァーらしい。

 あとで知ったんだが、これって童話の『幸福の王子』のことなんだね。
 あのホモ純愛泣かせます童話の、『幸福の王子』。頑固一徹王子と、彼を愛し、愛に殉じたツバメのせつない恋物語。

 見るからに「王子様」然としたお人形のように美しいかっしーと、彼にかしずく少年キム。
 そのビジュアルだけでもたのしかったというのに。

 王子、盲目ですがなっ。
 キムの手を握らないと、歩けないの!!

 主従萌え。

 いいよ。いいよいいよ、ヘタレ王子@かしげ!!
 憂いの王子、涙の王子。傷ついてますオーラ全開で、キムに手を引かれ、守られている様がもお。
 おいしゅうございました。ごちそうさま。

 キムくんは幼くても小柄でも、絶対攻キャラだから、たのしーなー。いい男だー。

 
 3人演出家のトリを飾る三木パートは、やたらめったら重厚です。
 舞台美術が不思議と美しい。

 なんで不思議かというと、「らしく」ないんだな。
 タカラヅカってもっと、平板でダサくて陳腐でしょ? なんでこんなに重厚なの?

 答えは、あとで知りました。
 横尾忠則氏が、やってたんだよ、舞台美術。
 なるほど、それであんなに底上げされてたんだ。

 なんせよ、ダークな世界観とテーマがいい感じ。
 ここで勘弁して欲しいのは、トド様のかぶりものだけだ(笑)。

 
 トドコム基本の公演だから、とにかくホモくさくて男濃度が高い。
 トドにコムにかしげにキムと、どどんと来るからなー。
 そこに射す一条のすずやかな光。
 まーちゃんの、正当派の美しさがあざやかに心に残る。
 ああ……まーちゃんきれー。しなやかで端正。タカラヅカの娘役を見た! って気がするよ。
 となみちゃんは正当派というより、今回は色濃い存在だったな。まーちゃんとの対比がよいわ。

 ところでいっぽくんの扱いは、アレでいいんですか……?
 キムと逆転したのかと、本気で心配したわ。

 
 意外なほど、ツボ満載なショーでした。
 たのしかった。
 も、すげーたのしかった。

 
 それにしても、今回本気でトド様がトップスターだった。
 いいのか、それは?

 なんか、タイムスリップしたよーな気がしたぞ?
 3年前?だかに。

 ああ、そーいやトド様は雪組のトップだったんだよなあ、と。

 花組に出演したときは、ショーではトップの扱いを受けていなかったんで、棲み分けというか、アタマの切り替えができたんだけど。
 今回は、デジャヴに襲われるほどの、トップぶり。

 …………いい加減ソレは、まずいんじゃないかと、ファンのわたしでも思うんだがなあ。
 劇団はどうするんだろうなあ。

 
 愉快だったこの作品で、唯一理解できないのが、愛耀子だ。

 なんで歌手でもないし若くも美しくもないのに、エトワールまでやってんの??
 センターで踊るまちかめぐるより、理解できないよ。

 
 最後に。
 緒月は、イロものキャラ認定ですか?(笑)

       

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