アラン、お前もか。@外伝 ベルサイユのばら-アラン編-
2008年10月6日 タカラヅカ 全国ツアー『外伝 ベルサイユのばら-アラン編-』で、もっとも感動したことは。
アンドレ@壮一帆の「お前もか」台詞だ。
初日初回の幕間に、携帯から仲間内某所へ『ベルばら』感想第一報を取り急ぎ書き込んだ。
>アランとアンドレの口喧嘩(おまえのかーさんデベソレベル)に場内失笑、アランとオスカルの
>無理矢理チューに場内爆笑、その直後のアンドレ独白「おまえもか」に、大爆笑!!
ええ。
壮大な、お笑い作品でした。
平民議員の立てこもりを武力掃討しろと命じるブイエ将軍@星原先輩、命令を拒否するオスカル@みわっち。
「命令を聞かないなら軍法会議の上、銃殺だ!」とわめくブイエ将軍。……あのー、大貴族の令嬢を、銃殺にはできませんよ。そーゆー社会だからこそ貴族社会は腐敗してるわけで。原作でもブイエ将軍はオスカルに対して銃殺という言葉は吐きません。できっこないし。必要ないし。
そこに割って入るアラン@まとぶん。「俺たちの隊長になに勝手なこと言ってんだ、べらんめぇ。俺たちは隊長以外の命令には従わねーぞ」
……アランとオスカルがわかりあう場面はナシ、「ゲスめ!」と罵り合っていただけなのに、いきなりです。
オスカルに続いてその部下にまで逆らわれたブイエ将軍、カンカンです。「えーい、お前も銃殺だっ」なんでもかんでも銃殺。腹を立てたら銃殺。「死刑!」とわめいて銃を乱射する某おまわりさんレベルですね。
大貴族のオスカルには謹慎、下っ端アランには銃殺。これが正しい大貴族的判断なんですが……まあ、植爺だし。
ブイエ将軍がただのヒステリーオヤジに成り下がり、「なんでもかんでも死刑!」とわめく人になったところから、壮大なお笑い前振りははじまっているのです。
銃殺、という言葉を乱発している段階で、「ほんとに銃殺? ただの戯言じゃん?」というふーに、言葉の重みはなくなっている。
軽くなった「銃殺」という言葉に対し、「あの野郎、ぶっ殺してやる!」とこれまた軽くアランが反応。「アラン、待て!」と血相かえて追いかけるオスカルもまた、ギャグめいてくる。
そして、追いかけっこ開始。
ブイエ将軍を追って上手へ走るアラン、それを追って走るオスカル。
走って行っちゃったなー、と思ったらカーテンが開き、上手から走り出てくるアランとオスカル。
昔のギャグアニメでよくあった手法だね。長い廊下のドアからドアへ追いかけっこするの。右から出て左、次は左から出て……って。ときどき追うモノと追われるモノが逆転して「ん?」ってやったり。
やすやすとオスカルに追いつかれてしまったアランはふたりでもみ合い……突然、キス。
某Paradise Princeのアニメで表現した方がハマるんじゃ? てな一連のやりとりのあと、突然チューされても。
場内から、笑いが起こりました。
いちおー原作を知っているモノとしては、「ああ、コレは原作のあのシーンをやりたくて、盛大にスベったんだな」とわかるので、同情しつつも笑いをこらえていたのだが、さらにそこへアンドレ登場。
ふたりのラヴシーンを目撃したアンドレ、がーーーーんッ!
劇画調です。カミナリ付きのベタフラを背景に、白目むいてます。
場内から、容赦のない笑いが起こりました。
それまでがあのコドモの落書き調Paradise Princeの世界だったわけです。全員2等身キャラだったりしたの。
なのにそこへいきなりひとりだけ劇画調。
かわいいほのぼのマンガが、ショックな場面だけ梅図かずお調になる、あの感じ。もしくはお蝶夫人になる感じ。
や、壮くんの演技ってもともとソレ系だし。
そしてここの演出が、いちいちアンドレが立ち止まって「がーーーーんッ」てやるし。
アランを殴ってふたりを引き離すのは、その「がーーーーんッ」のあと。
殴られたアランは脱兎の如く消え去るし、オスカルも「アラン~~!」と彼の後を追っていくし。
……て。
オスカル、後追うのかよ?!
他の男に無理矢理チューされて、恋人(未満)に助けられた……んぢゃ、ないのかよ?
殴って助けてくれた男でなく、殴られて逃げた男を追うってことは。
女が愛してたのは、無理矢理チューした男の方? 助けに入った男は、ただのアホ? 愛し合う男と女の微妙な空気を読めずに邪魔をしただけ? 橋の上で欄干に持たれて川面を眺めている女に「早まるなぁ~~っっ」と突進して、自分が川に落ちちゃう系のカンチガイ男?
ひとりだけテイストのチガウ演技で乱入し、助けたはずの女にも顧みられず置き去りにされたアンドレは、ものごっつー哀愁背負い、かっこつけて言うのだ。
「アラン、お前もか」
はい。
これで笑うなっつー方が、無理でしょう。
場内、大爆笑。
呼吸の合った笑いというのは、すごいね。みんな同じタイミングで笑うもんだから、まさに「どっ」という擬音をつけたいほど見事に揃った大爆笑だった。
お笑い芸人のライヴでも、なかなかここまで全員の心がひとつになった笑いのタイミングってのは難しいんぢゃないか?
…………悪いのは、演出だ。脚本だ。植爺だ。
出演者は悪くない。
その、壮くんの演技もたしかに拍車をかけているけれど、いちばん悪いのは言うまでもなく演出。
ここでここまで笑われるなんて、キャストは誰も想像してなかったろう。
もっともいい場面、感動的な場面のはずなのに、大爆笑喰らうなんて。
演じている彼らのダメージを思うと、胸が痛む。
笑っておいて胸が痛むもないもんだ、偽善者発言だこりゃ。しかし、偽善でもなんでも、目に映るものがギャグ以外のナニモノでもなく反射的に笑えてしまうことと、「笑っちゃダメだろ、役者に失礼だろ」と思う気持ちはまちがいなく同時に存在するわけで。
……「役者に失礼だから、失笑してはいけない」という前提も、役者に失礼な話だと思う。笑われるような演技をしてしまったのは、彼ら自身である、のだから。いくら悪いのが演出とはいえ、それであっても、笑われない演技をするのが、彼らの仕事。理不尽でも、彼らの仕事。
爆笑を浴びながら、それでも壮くんは演技を続けた。
ドシリアス芝居を続けた。
その真剣さに、笑っていた人々も姿勢を正し、「笑っちゃダメだ」と気分を切り替えた。
初日は劇場内がファンばかりになりがちなので、ふつーの人が笑わないところで笑ったりする。役者個人をよく知っているので、「あの人がこんな台詞を」系のことでウケたりもする。
あんなに笑われたのは、初日初回でファン人口が多かったせいだよ。
……出演者がそう納得づけていたかどうかは、知らないが。
初日2回目の公演では、彼らの演技はそれほど変化がなかった。
もちろん、気前よく、笑われていた。
リピーターも多いだろうから、免疫のついた人間はわたしも含め、吹き出すことはなかったろうが。
しかし、これから先ずーっとコレで行くの? 笑われ続けるの? ソレって『ベルばら』的にどうなの?
まあ、『ベルばら』って、植爺のアレさを笑うためにあるよーな作品だけどさ。
そう首をひねっていたんだが。
翌日。
壮くんは、演技を変えてきた。
笑われないために。
負けないで。
逃げないで。
真正面から。
壮一帆ばんざい。
続く。
アンドレ@壮一帆の「お前もか」台詞だ。
初日初回の幕間に、携帯から仲間内某所へ『ベルばら』感想第一報を取り急ぎ書き込んだ。
>アランとアンドレの口喧嘩(おまえのかーさんデベソレベル)に場内失笑、アランとオスカルの
>無理矢理チューに場内爆笑、その直後のアンドレ独白「おまえもか」に、大爆笑!!
ええ。
壮大な、お笑い作品でした。
平民議員の立てこもりを武力掃討しろと命じるブイエ将軍@星原先輩、命令を拒否するオスカル@みわっち。
「命令を聞かないなら軍法会議の上、銃殺だ!」とわめくブイエ将軍。……あのー、大貴族の令嬢を、銃殺にはできませんよ。そーゆー社会だからこそ貴族社会は腐敗してるわけで。原作でもブイエ将軍はオスカルに対して銃殺という言葉は吐きません。できっこないし。必要ないし。
そこに割って入るアラン@まとぶん。「俺たちの隊長になに勝手なこと言ってんだ、べらんめぇ。俺たちは隊長以外の命令には従わねーぞ」
……アランとオスカルがわかりあう場面はナシ、「ゲスめ!」と罵り合っていただけなのに、いきなりです。
オスカルに続いてその部下にまで逆らわれたブイエ将軍、カンカンです。「えーい、お前も銃殺だっ」なんでもかんでも銃殺。腹を立てたら銃殺。「死刑!」とわめいて銃を乱射する某おまわりさんレベルですね。
大貴族のオスカルには謹慎、下っ端アランには銃殺。これが正しい大貴族的判断なんですが……まあ、植爺だし。
ブイエ将軍がただのヒステリーオヤジに成り下がり、「なんでもかんでも死刑!」とわめく人になったところから、壮大なお笑い前振りははじまっているのです。
銃殺、という言葉を乱発している段階で、「ほんとに銃殺? ただの戯言じゃん?」というふーに、言葉の重みはなくなっている。
軽くなった「銃殺」という言葉に対し、「あの野郎、ぶっ殺してやる!」とこれまた軽くアランが反応。「アラン、待て!」と血相かえて追いかけるオスカルもまた、ギャグめいてくる。
そして、追いかけっこ開始。
ブイエ将軍を追って上手へ走るアラン、それを追って走るオスカル。
走って行っちゃったなー、と思ったらカーテンが開き、上手から走り出てくるアランとオスカル。
昔のギャグアニメでよくあった手法だね。長い廊下のドアからドアへ追いかけっこするの。右から出て左、次は左から出て……って。ときどき追うモノと追われるモノが逆転して「ん?」ってやったり。
やすやすとオスカルに追いつかれてしまったアランはふたりでもみ合い……突然、キス。
某Paradise Princeのアニメで表現した方がハマるんじゃ? てな一連のやりとりのあと、突然チューされても。
場内から、笑いが起こりました。
いちおー原作を知っているモノとしては、「ああ、コレは原作のあのシーンをやりたくて、盛大にスベったんだな」とわかるので、同情しつつも笑いをこらえていたのだが、さらにそこへアンドレ登場。
ふたりのラヴシーンを目撃したアンドレ、がーーーーんッ!
劇画調です。カミナリ付きのベタフラを背景に、白目むいてます。
場内から、容赦のない笑いが起こりました。
それまでがあのコドモの落書き調Paradise Princeの世界だったわけです。全員2等身キャラだったりしたの。
なのにそこへいきなりひとりだけ劇画調。
かわいいほのぼのマンガが、ショックな場面だけ梅図かずお調になる、あの感じ。もしくはお蝶夫人になる感じ。
や、壮くんの演技ってもともとソレ系だし。
そしてここの演出が、いちいちアンドレが立ち止まって「がーーーーんッ」てやるし。
アランを殴ってふたりを引き離すのは、その「がーーーーんッ」のあと。
殴られたアランは脱兎の如く消え去るし、オスカルも「アラン~~!」と彼の後を追っていくし。
……て。
オスカル、後追うのかよ?!
他の男に無理矢理チューされて、恋人(未満)に助けられた……んぢゃ、ないのかよ?
殴って助けてくれた男でなく、殴られて逃げた男を追うってことは。
女が愛してたのは、無理矢理チューした男の方? 助けに入った男は、ただのアホ? 愛し合う男と女の微妙な空気を読めずに邪魔をしただけ? 橋の上で欄干に持たれて川面を眺めている女に「早まるなぁ~~っっ」と突進して、自分が川に落ちちゃう系のカンチガイ男?
ひとりだけテイストのチガウ演技で乱入し、助けたはずの女にも顧みられず置き去りにされたアンドレは、ものごっつー哀愁背負い、かっこつけて言うのだ。
「アラン、お前もか」
はい。
これで笑うなっつー方が、無理でしょう。
場内、大爆笑。
呼吸の合った笑いというのは、すごいね。みんな同じタイミングで笑うもんだから、まさに「どっ」という擬音をつけたいほど見事に揃った大爆笑だった。
お笑い芸人のライヴでも、なかなかここまで全員の心がひとつになった笑いのタイミングってのは難しいんぢゃないか?
…………悪いのは、演出だ。脚本だ。植爺だ。
出演者は悪くない。
その、壮くんの演技もたしかに拍車をかけているけれど、いちばん悪いのは言うまでもなく演出。
ここでここまで笑われるなんて、キャストは誰も想像してなかったろう。
もっともいい場面、感動的な場面のはずなのに、大爆笑喰らうなんて。
演じている彼らのダメージを思うと、胸が痛む。
笑っておいて胸が痛むもないもんだ、偽善者発言だこりゃ。しかし、偽善でもなんでも、目に映るものがギャグ以外のナニモノでもなく反射的に笑えてしまうことと、「笑っちゃダメだろ、役者に失礼だろ」と思う気持ちはまちがいなく同時に存在するわけで。
……「役者に失礼だから、失笑してはいけない」という前提も、役者に失礼な話だと思う。笑われるような演技をしてしまったのは、彼ら自身である、のだから。いくら悪いのが演出とはいえ、それであっても、笑われない演技をするのが、彼らの仕事。理不尽でも、彼らの仕事。
爆笑を浴びながら、それでも壮くんは演技を続けた。
ドシリアス芝居を続けた。
その真剣さに、笑っていた人々も姿勢を正し、「笑っちゃダメだ」と気分を切り替えた。
初日は劇場内がファンばかりになりがちなので、ふつーの人が笑わないところで笑ったりする。役者個人をよく知っているので、「あの人がこんな台詞を」系のことでウケたりもする。
あんなに笑われたのは、初日初回でファン人口が多かったせいだよ。
……出演者がそう納得づけていたかどうかは、知らないが。
初日2回目の公演では、彼らの演技はそれほど変化がなかった。
もちろん、気前よく、笑われていた。
リピーターも多いだろうから、免疫のついた人間はわたしも含め、吹き出すことはなかったろうが。
しかし、これから先ずーっとコレで行くの? 笑われ続けるの? ソレって『ベルばら』的にどうなの?
まあ、『ベルばら』って、植爺のアレさを笑うためにあるよーな作品だけどさ。
そう首をひねっていたんだが。
翌日。
壮くんは、演技を変えてきた。
笑われないために。
負けないで。
逃げないで。
真正面から。
壮一帆ばんざい。
続く。