あー、ちょっとそこのアンタ。
 俺の言い分も聞いてくれる?

 俺は使命に燃えた革命の闘士で、新聞記者やりながらやがて来る決戦の日に備えているわけだよ。
 戦争やるにはまず金だ。
 敵である貴族たちから、その貴族たちを討伐するための資金やら武器やらを奪っている、一石二鳥な日々。
 生命懸けなんだよ。遊びぢゃないんだよ。

 あの日も、仕事をしに行ったわけだよ。
 某貴族の屋敷に侵入した。現国王アンチで王位を狙っているオルレアン侯爵を利用し、彼の御者に扮してね。
 で、一仕事終えて戻ってきたわけだ。
 疲れてるわけよ。
 あー、今日もいい仕事したっ。あとは家帰って一風呂浴びて一杯やって寝るぞー! てなときにだよ。

 仮のアジトとして利用中のオルレアン侯爵の屋敷前で、変な男が大声でひとりごと言ってるわけだよ。

 不審だろ。
 明らかに、不審者だろソレ。

 芝居がかったうわごとみたいな、わけわかんないことをがなり立ててる。
 夜の色をした絹糸のような睫毛に縁取られた冬のオリオンを浮かべる瞳、ってなんだそりゃ。装飾語多すぎって文章入力ソフトからエラー喰らうくどくどしさだぞ。てゆーか1文1義、ひとつの文章はひとつの内容で完結させろよー、蛇行しすぎだ文章。目で読むマンガの台詞ならいいとして、声に出して読む日本語としてはおかしいだろ、脚本家。

 不景気のせいだろうか。
 陽気のせいだろうか。
 こーゆー病んだ人間が出没するのは。

 まあ世の中、いろんな人間がいる。夜中にひとんちの前でわけわかんないポエムをがなりたてる変質者がいても、不思議はない。

 ただ問題は、俺たち革命家たちの仮アジトの前で騒ぎを起こし、警察沙汰にでもなられたら迷惑だってこと。
 このままこの男を放置していたら、絶対通報されるって。やばいって。

 黙らせる=抹殺する。
 短絡的だが、仕方ない。俺たちは革命の闘士だ。大義のための犠牲は厭わない。
 まともな相手なら話しかけて場所を移動するなり促すこともできるだろうが、相手は変質者だ。ヘタに声を掛けてどうこうするより、一気に片を付けた方がイイ。

 てゆーか、なんでわざわざこの場所でポエム?

 まさか、オルレアン侯爵への恋唄?!

 ……ますます、殺した方がいいな、マジ変態だ。

 相手が常人ではないという恐怖感から、単体で対峙するのは避けた。数に頼んだ方がいい。失敗は出来ないのだから。
 仲間たちが抜刀して変質者を囲むと、その男はわけ知り気に身構えた。ただの変質者ではなく、兵士上がりかなにかか? 剣は使えるようだ。
 口封じの礼儀として、俺は俺自身で剣を抜いた。仲間たちに任せるのではなく、自分自身で危険に身を置き、また手を汚すことが重要。高みの見物はしない。

 変質者は覆面をした俺を見て「黒い騎士?!」と叫んだ。黒い騎士を知っている? というと、貴族か。あるいは、俺が今までに襲撃した屋敷の下男か。しかし、なんかとんでもない衣装だな、一見軍服のようだが、本物の軍服ではなさそうだ、無意味にきらきらした飾りが嘘くさい。近衛隊の軍服のレプリカのようだ。……って、軍服マニア? コスプレ?!
 やはり、ふつうではない男のようだ。

 俺は腹をくくり、覆面を取った。
 死角の多い覆面姿より、障害物がない方が確実に戦える。
 目撃者を作らぬよう、短い時間で終わらせるんだ。
 てか、こんな気味悪い男、さっさと始末したい。

 相手の得体の知れなさに、仲間たちもみんな臆している。こわいのはわかる、俺だってこわい、てゆーか気持ち悪い。でも負けるな、がんばれ。

 気後れが剣を鈍らせ、存外に手間取った。
 ようやく目を傷つけることが出来、あとはトドメを刺すだけとなった。

 そのときに。

「アンドレ?!」

 しまった、誰か来た。
 しかも、知っている相手だ。以前ロベスピエールと一緒にいるときに、会ったことのある近衛隊長。
 まずい。顔を見られたら、事が大きくなる。

「引け!」

 俺は仲間たちと共に一目散に撤退した。
 知らない相手なら、一緒に口を封じることもできたが。国王一家の信任厚い将軍家の一員だとわかっていて、今ここで事を起こすのはまずい。オルレアン侯爵の居城前だ。

 まったく、すべてはあの変質者のせいだ。俺だって好きで刃傷沙汰を起こしたわけじゃない。
 
 夜中にひとんちの前で、なんちゃって軍服着た男が大声でポエムをがなっていたら、異常だろう? どう考えても。

 俺には俺の都合があった。立場があった。
 仕方なかったんだ。
 ちょっとそこのアンタ。
 俺の言い分も聞いてくれよ。
 好きで襲ったんじゃないよ、ひとりを多勢で。
 アンタだってこわいだろ、あんな異常者。

 
 いざ革命、バスティーユ攻撃するぞってなときに、どこかで見た男が叫びながら現れた。
 あのなんちゃって軍服のコスプレ男だ。
 衛兵隊に向かってなにか言っている。衛兵隊の軍服は着ていない、相変わらずのレプリカきらきら軍服着用だが、衛兵隊士たちと顔見知りらしい。その男の言葉を聞いて、なんと衛兵隊が我々市民側に寝返った。

 すまん。
 正直、すまんかった。
 俺、あんとき目ェ潰しちまったよなあ?
 ほんとごめん。
 でもさ、あまりにだったからさ……。

 人間、外見で判断しちゃいけないってことだよな。
 コスプレしてても夜中にひとんちの前でポエムってても、悪いヤツぢゃなかったんだ……たぶん……。

 俺は自分の行いを悔やんだ。
 そして、その男に感謝した。その男は市民たちの先頭に立ち、雄々しく国王軍と闘っている。
 しかも撃たれても決してひるまず、下がることをせず、戦い抜いて勇敢な最期を遂げた。すばらしい勇気だ。闘志だ。
 男の獅子奮迅の活躍もあって、無事にバスティーユは陥落した。

 ありがとう、コスプレ男!

 しかし。
 男を見直し、自らの行いを反省した俺は、やっぱり最後に内心首を傾げた。

 何故ならその男は、

「オスカル……!」

 と、虚空に向けて話しかけ、そのせいで盛大に撃たれまくって散っていったのだ。

 えーと。

 やっぱり、ナニかふつーの人間には見えないモノを見ている男だったのか? ありえない電波でも受信していたのか?
 オスカルってあいつだろ、ジャルジェ准将。今、衛兵隊の隊長だっけ? そんな人間、最初からパリにはいなかったし。いないのに、まるでいるようにふるまっていて……やはりあの男は……。
 
 まあいいや。

 革命、成功したし。ハッピーエンドだ。


              ☆

 植爺作『外伝 ベルサイユのばら-アンドレ編-』を辻褄が合うようにいろいろ補完して考えると、とっても愉快なことになるよな。

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