あらためて。

 キムくん、トップお披露目おめでとう。

 『ロミオとジュリエット』初日、開演アナウンスに心から拍手した。
 真ん中に立つことが相応しい人。彼の創る雪組を、愛し、見守りたいと思う。

 ロミオ役って似合うよね、まさに等身大、5組の中でもっともロミオって感じの人だよね。
 ……なんてのんきに考えておりました。

 たしかにキムくんは少年としての持ち味があり、若々しさやかわいらしさはロミオっぽいのだけど。
 芸風というか、根っこにある特徴はまた別だもんな。

 ロミオの「狂気」っぷりに、震撼しました。

 そーだよな、キムだもんな。かわいいだけで終わるわけないよなー(笑)。あーもー、えーらいこっちゃなロミオだわ。

 キムくんの天使の笑顔を堪能できる前半が、実は伏線というか伏兵というか。クライマックス以降も彼はまさに天使の笑顔を浮かべるんだけど、それはすでに狂気の域で、なまじ無垢な天使っぷりなので背筋が凍るというか。
 んで、その狂気を見せつけられたあと、また観劇すると最初の純真な少年っぷりもまた違って見えてくるというか。
 いやはや。面白い持ち味のトップスターが誕生したな。

 ベンヴォーリオ@まっつの感想欄でも書いたけれど、ロミオ@キムが死ぬのは霊廟で毒を飲んで、ではない。
 ベン様からジュリエットの死を告げられたときに、彼の心は死ぬ。

 そっから先はロミオもう狂ってる。常人ぢゃない。
 狂気を演じさせるなら音月桂か野々すみ花、まっつってば相沢@『舞姫』に続いてまたしても追いつめて狂わせてしまう役なのね、相手が狂気に落ちる様を目撃する役なのね、とアゴを落としました。

 狂ってしまったロミオは、彼ならではの天使の笑顔、しあわせそうな光輝く笑顔を浮かべ、毒薬と戯れる。
 ……こわいんですけど(笑)。

 直近にあったばかりだら比べるなという方が無理、れおんくんのロミオとの個性の差がすごい。
 れおんくんはほんとうに健康な人なんだと思う。彼のロミオは心からまっすぐで、愛も悲しみもブレがなかった。不安がなかった。人々が夢想する「ロミオ」とはこうだろうってな、美しい純粋さと健やかさがあった。
 この少年を助けたい、愛を成就させてやりたい……! どうして死んでしまうの、と生身の彼に感情移入してだーだー泣ける。
 れおんくん自身は少年役者ではなく、彼の魅力が最大に発揮できるのはもっと色気や傲慢さのある役だと思うけれど、彼の魂の強さは少年ロミオ役でも見事に発揮されていた。

 少年役者でかわいらしい容姿で、一見人々が夢想する「ロミオ」そのものに思われがちなキムくんは、実は邪悪系が持ち味なんだよねえぇ。
 キムもまた「強い」魂を感じさせる人だけど、彼には毒と陰がある。濁りというか、夢の世界に相応しくない「ヨゴレ」を持つ。
 ゆがんだ硝子玉のような、屈折した光を内包するのがキムくん。本人は美貌と華を持ち、真ん中できらきら輝いているんだけど、それとは相反する不道徳な闇がその奥にある。

 ロミオという純粋無垢な少年を演じることで、キムくんの闇の部分が浮かび上がってくる、この効果が面白い。

 ロミオが自殺を選ぶ、その流れが実に自然だ。
 そこにたどり着くしかないだろうと思わせる。
 れおんのときは「助けたい、なんとかしたい」と思うのに、ロミオが死んだ直後に起きあがるジュリエットに「どうしてもう少し早く……!」と涙を流すのに、キムだと「仕方ない、もう手遅れだ」と思うし、間に合わないジュリエットにも「そうだよね」と思う。

 だってロミオってさ。

 ジュリエットと出会ってなくてもいずれ自殺したんじゃね?

 そう、キムロミオの最大の特徴。
 ジュリエットと出会って人生加速したけれど、遅かれ早かれ彼は狂気に至ったのではないかと思わせる。

 彼は、繊細すぎる。

 多くの芸術家が自ら死を選ぶに至るよーに、ロミオはいずれ自殺した気がする。現実は彼をゆっくり蝕み、破滅させただろう、と。
 「僕は怖い」というソロが、彼の精神の悲鳴に聞こえる。ああ、いずれ狂気に堕ちる人ならではの独白なんだなと。

 弱いからいずれ死を、という意味じゃない。
 彼は強い。強いからこそ現実と真っ向からぶつかってしまう。それゆえに摩耗が激しく、目に見えないヒビが細かく入り続け、いつかぱりんと全体を壊してしまう。
 それこそ40代くらいになって、成人した子どもが身を固めるあたりで、おとーさん自殺しちゃったよになりそうだ。

 ジュリエットと出会わなかったロミオを見てみたい、と思わせる。
 今は子どもだから夢見る夢子でいられるけれど、そのうち否応なくモンタギューの長として一族を背負い、ティボルト@ヲヅキ率いるキャピュレットと戦いながら生きなければならなくなる。
 両家の争いを遺憾と思うロミオだから、自分がトップになった暁には事態を変えようと努力するだろう、だけど憎しみの連鎖は止まらず揺らがず、彼は傷つき続けるだろう……。

 戦い続け、傷つき続け、狂気と正気を彷徨いながら、笑いながら死んでいく、壮絶なロミオの一代記が脳裏に浮かびます。
 書きたいなソレ。ジュリエットと出会わなかったロミオの物語(笑)。

 ジュリエットの死を告げられたあとのロミオの狂気っぷりに震撼したのち、再度観劇すれば、そうなるに相応しい、納得のロミオだということがわかる。
 悲恋だとか心中だとか以前に、彼の心がいずれ壊れることをわかったうえで見ると、なおいっそう哀しい。彼の刹那の輝き、幸福な天使の笑顔に胸がしめつけられる。
 美しすぎるから、壊れるしかなかったのか。

 れおんくんのロミオこそが、大劇場で大衆向けに見せるロミオで、キムくんロミオは中劇場向けじゃないかなああ。マニアックですよコレ。
 そのくせキムくん自身は大劇場向きのキラキラ資質を持った人で。
 面白いなあ。

 物語のカラーは主役が作ってヨシと思っているので、れおんくんならではの『ロミオとジュリエット』、キムくんならではの『ロミオとジュリエット』、両方アリだと思う。
 れおんの健やかさ、キムの病みっぷり、どっちも好きだ。たのしい。
 れおんくんはもう見ることが出来ないのだから、キムくんの闇と狂気に浸りきりますよ、楽しいですよ、魂ぎゅーっと絞られる感じの痛さが快感ですよ(笑)。

 かわいい少年、いかにもロミオ、な外見であるからいくらでも病んでヨシ。
 初見の人やライト層にはそのかわいらしい部分だけ見えるから、ラストの狂気に「え?」となってリピートしない限り「最初からこのロミオやべぇ!」とは気付かれないから、いくらでも繊細に光と闇を表現しちゃってください。
 ピュアな役をやるほど毒が見える、なんて素敵な持ち味、マニアックな中毒性のあるトップスター。

 音月桂のロミオは必見だ。

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