その昔、『宝塚ファミリーランド』のいちばん奥に「スペースコースター」というアトラクションがあった。
 室内型のジェットコースターで、宇宙を模した暗い空間を走るというのがウリだった。

 わたしは、この「スペースコースター」がダイスキだった。

 当時、他のアトラクションが200円とか300円だったのに、この「スペースコースター」だけ600円だか800円だかしたと思う。
 1000円の「乗り物券」を買っても、1回しか乗ることが出来ない、高価なアトラクション。
 それも、長い長い行列に並び、何十分も待たなければ乗れない。

 家族と遊びに行ったときも、「スペースコースター」に乗るのはわたしひとり。両親はジェットコースターなんか乗らないし、弟は遊園地が嫌いなので、動物園エリアに入り浸っていた。

 わたしはいつもひとりで、列に並んで、ひとりで乗っていた。

 「スペースコースター」の入口は高いところにあって(3階くらい?)、まず長い長いエスカレータを上らなくてはならない。行列が出来ているときは、エスカレータは停止、横の階段に並ばされていた。
 その長い階段にいるときに、不思議な音楽が流れていた。

 いかにも「宇宙」って感じの、電子音。
 わたしはその音楽を聴くのが好きだった。

 わくわくした。
 これから体験する「夢」の世界の旅に思いを馳せて。

 階段を上がりきり、建物の中に入っても、まずは通路で並ばされるだけ。少しずつ進んでいくと、「宇宙基地内部」のような部屋を通る。
 これから「宇宙」の旅に出るんだ、という期待をふくらませる演出。

 で、さんざん焦らされたあとによーやくコースターに乗り、宇宙空間に旅立つ。広さのわからない闇の中にある無数の星たち。
 耳に届く電子音、不思議な音楽。
 遠くに見える土星。

 ほんとうに、好きだった。
 とびっきりの「夢」の時間だった。

 ……大人になってから、わかるんだけどね。
 よーするに「スペースコースター」って、ディズニーランドの「スペースマウンテン」のパクりだったんだけど。
 当時、ディズニーランドはまだ日本にはなく、アメリカにでも行かなきゃ体験できないものだったから。
 日本の小学生にとっては、パッタもんでも「とびっきりの夢」だった。

 宙組公演『宙 FANTASISTA!』を観て。

 「スペースコースター」の長い階段に「乗り物券」を握りしめてひとりで並んでいた、あのときの気持ちを思い出した。

 どきどきする。
 わくわくする。
 「夢」の時間への期待。興奮。
 なんて幸福な旅。

 しあわせの記憶が、せつなくよみがえる。

 今、自分が「夢」の中にいるのだという自覚が。

 幸福だった。

 なんかもー、すごいしあわせなショーなんですけど。

 メルヘ〜ンな感じにはじまる。
 宇宙版おとぎ話。
 孫悟空が石から生まれるみたいに、タニちゃん王子が卵(らしいよ)から生まれ、メルヘン全開、かわいこちゃん全開。
 幼児タニ王子は幼女ウメと出会い、これまたピヨピヨと仲良しこよし。
 されどタニ王子は宇宙漫遊しなければならない。ちぎの運転する空飛ぶ車に乗って出発!! てゆーか、タニ+ちぎってナニ、かわいすぎる!!
 最初に王子ちゃまがたどりついた月の世界には、お尻にしっぽつけた男たちがいるし、このままおとぎ話路線で行くのかと思いきや。

 次の火星がすごかった。

 砂色の衣装のともちと女装すずはるきがねっとりと踊り、「な、なんだ?! なにがはじまるんだ?!」と、今までといきなり世界観チガウぞ?!と驚かせておいて、さらに。
 白っぽいドレスのウメちゃんが張り付けにされ、赤い服の男たちが周囲で禍々しく踊る。
 なんかダークだわー、と思っていたら。

 ウメが戒めを解き、白ドレスを脱ぎ捨てる。

 黒いウメ、キターーッ!!

 ダーク&セクシーなウメが、ワイルドに踊りまくる!!
 男たちを率い、センター取って踊る踊る!!

 カッコイイっ!!

 ウメだ。ウメちゃんだよーっ。ステキステキステキ!!
 彼女と絡むのはみっちゃん。ちょっとらんとむ、なんでここにいないのよ、こーゆーアダルト+セクシーは君の持ち場だろー?!(や、みっちゃんに含みはありません)

 娘役が、1場面まるまる主役を務めましたよ。
 すげえや。

 で、次にいきなり舞台が水色になる。あー、火星の次は水星かー。
 登場するのはタニ王子。そして、彼と踊るのは……えええ、らんとむ?!

 タニ王子とらんとむ(パツキンロン毛)は、うつくしいぶるーのいしょうで、たんびにあやしくおどります。

 デジャヴ。
 強烈な、デジャヴ。

 ナルキッソス@『TAKARAZUKA舞夢』!

 何故だ。
 何故だ藤井大介。
 『TAKARAZUKA舞夢』で懲りなかったのか? らんとむ×水で同じよーな場面をやり、あきらかに失敗だったのに、何故同じことを繰り返す?
 てゆーか、あのときだって、水くんはいいんだ、問題はらんとむだ。らんとむに、耽美をやらせるな。
 ラグビー部主将にチュチュを着せて踊らせても耽美にはならないってことが、どーしてわからないんだっ、藤井!

「『TAKARAZUKA舞夢』のナルキッソスも、藤井的には失敗ではなかったってことか……」
 いつもの店でごはんをしながら、ドリーさんはつぶやく。
 なんておそろしい事実だ……つまり藤井は、これからもらんとむでまちがった耽美シーンを作り続けるかもしれないっつーんだな。

 プログラムを見せてもらって、さらに驚愕。

「タニの前に美しいらんとむが現れる。二人は互いに恋に落ち、めくるめく官能に溺れていく。らんとむは妖しい色気でタニを湖の底に誘おうとするが……」(プログラムのまま。ただ、名前は役名で記載)

 正気か藤井。
 タニとらんとむでめくるめく? 官能?

 せ、せめてみっちゃんにしよーよ。みっちゃんでもアレだとは思うが、らんとむよりマシだろー。(や、らんとむにもみっちゃんにも、含みはありません)

 七帆とらんとむなら、見たかったかもなー。ぼそっ。

 ここまでで、すでに盛大にツボに入り、大いにたのしんでいたんだが。
 耳慣れた音楽とともに、舞台は木星へ。

 タニちゃんを中心に、みんなで、みんなで、集まってくる。
 歌う歌は、タニちゃんを讃える歌だ。
 新しいトップスターの誕生を祝う歌だ。

 今、新しい組がはじまる。
 あたらしい夢がはじまる。

 どうしよう。
 なんか、泣ける。
 泣けてしょーがない。

 おめでとう、タニちゃん。おめでとう、ウメちゃん。
 おめでとう、宙組。

 んで、巨大な美女たち(脚見せアリ)が歌いながら銀橋を渡ったあとは、黒タキ、ホストクラブ、キターーッ!!
 や、衣装は黒タキじゃないし、たぶんホストクラブでもないけど!(笑) このショー、かなり『TAKARAZUKA舞夢』とかぶってんるんで。
 黒スーツ男たちのセンター取るのは我らがらんとむだ!!
 そーだよ、これぞ正しい蘭寿とむだよーっ。感涙。コレが見たかったんだよーっ。
 かっこいーよー、いい男ぞろいだよー。
 でもって、さっき銀橋を渡っていった巨大な美女たちも、気がつくと男たちの間にまざってキザってるし! キャッホー!

 で、余計なナレーションのあとに、これまた『TAKARAZUKA舞夢』と同じ展開で争う人々の世界、土星。
 で、『舞夢』と同じ展開で世界は光に向かうんだが……。

 黄金の世界に立つのは、太陽の王子タニなの。

 すべてのことが、タニちゃんを中心に収束していく。
 まばゆい光。

 ここでもまた、ぶわーっと泣く。
 泣くってばよ。

 昔わたしは、わくわくしながら「スペースコースター」の列に並んだ。宇宙基地内部のような部屋を通り、ついにはコースターに乗り、宇宙の旅に出た。
 あの、わくわくだ。
 あの、よろこびだ。

 純粋に、夢。
 つくりものだとかバッタもんだとか、そんな「オトナ」の目線ではなく。
 ただ、夢は夢だった。

 タニちゃんという光。
 それは、純粋な夢なんだ。

 デュエットダンスもすごくいいんだよー。
 ダンステクニックがどうとかじゃないの。
 さんざん踊って、銀橋まで走り抜けて(走るだけ!・笑)、そこまでやったあとで、まるで「はぢめて相手に触れる」みたいに、おずおずとウメちゃんが手を差し出し、タニが、手の甲にキスするの。これまた、たどたどしく。

 ヲトメゴコロがキューーン☆

 なにアレ〜〜!! 反則〜〜!!
 抱き合ってセリ下がっていくのもいいの。うわーん、かわいいよう!

 続くみっちゃんとたっちんのエトワールのハーモニーもすばらしいし。

 もう、たのしくてたのしくて。
 ショーだけなら何度でも観たい!!

 芝居が終わったあとかなり荒れていたんで(笑)、ショーで思いっきり救われた!! らんとむとタニで耽美やっても、それでもステキだ藤井大介!
 出演者への愛が見える作りがなによりうれしい。

 心から言うわ。

 タニちゃん、ウメちゃん、トップスターお披露目初日おめでとう。

 よい旅を。


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