わたしは、「タカラヅカ」を観た。

 2009年11月3日午後4時、宝塚バウホール。紫苑ゆうリサイタル『True Love』千秋楽。

 東宝花組の大量休演者発表を見て驚愕、彼らのがんばりに心馳せつつも一路聖地宝塚へ。

 「紫苑ゆう」の現役時代は知っているし、好きだったけれど、ほんとうのところそれほどよく見ていたわけじゃない。
 当時のわたしは今のようなヅカヲタではなかったし、贔屓組以外は大劇場を1回観劇するのが手一杯だった。会活動もしていないからなんの情報もないし、スカステもインターネットも存在しない。自分で劇場に行って舞台を観る、それしかなかったから、馴染みのない組とスターさんには疎いままだった。
 それでもシメさんは好きなスターさんのひとりで、シメさん目当てに星組を観ていた。

 でも残念ながら、シメさんのトップ時代の作品と役はわたしの好みではなく、2番手時代にあんなにきゃーきゃー言っていたのに、いざトップになってから熱が引いた感はあった。
 ネッシーさん時代の方が、よく星組とシメさんを観ていた気がする。シメさん時代になってから、2番手さんが苦手なこともあり足は遠のいていた。
 感覚的に「遠く」なってから、シメさんの退団。バウ公演に行きたくて、友だちと指をくわえていたなあ。んなもん、チケット取れるわけないって。

 だからシメさん退団から15年経った今、リサイタルに行ったところで「この歌は**公演の**場面だわ、この台詞は**の**だわ、この振りは**の再現だわ」とか、一切わからない。
 20年近く前に1回見ただけの公演、おぼえてねぇよ。

 『True Love』は「タカラヅカ男役・紫苑ゆう」をわたしたちにもう一度見せてくれる催しであり、現役アーティストの新作コンサートではない。
 だから歌うのはあくまでもタカラヅカの曲。紫苑ゆう自身と、そのファンのためだけに作られたイベント。演出は谷正純。

 ……いやあ、すごかったよ。

 1幕は芝居仕立てではじまる。
 戦争で滅びてしまった国に舞い戻った中世衣装の青年@シメさんが、墓地の十字架の前で過ぎ去った日々に思いを馳せているところへ、墓掘り@未央一氏がやってくる。時代柄、墓は荒らされ、めぼしい金銀は盗まれるのが常。ここにある墓にもナニも残っていないと言う墓掘りに、青年は宝はあると言う。
 ここは、宝の埋まった塚だと。
 宝とは愛だと、青年は言う。

 青年の言葉を受けて、墓掘りは宝の塚に埋まった愛や夢をひとつずつ掘り返していく。

 この演出のベタさ加減がもお、いかにも「タカラヅカ」で。
 で、墓掘りがシャベルで掘り返した「お宝」ってのが、シメさんの在りし日の映像のことで。スクリーンに映る20年前の映像をぼーっと眺めて。
 そのあとで現在のシメさんが歌い踊って。

 最初の十字架だらけの暗い舞台は、とくにナニも思わなかったんだが、青年が「愛だ!」つって墓掘りがひれ伏して、照明と音楽がばばーんと変わってオープニング1曲行きます!てときに、十字架がぴかぴか電飾で輝きだしたの見たときにゃ、眩暈がした(笑)。
 電飾て! ほんとに豆電球が1列に十字架に並び、黄色く点灯するんだよ。

 ダサッ!!(笑)

 バックにも電飾がきらめき、ものすげー昭和な世界が展開された!!

 もう少し美しい、洗練された演出はできなかったのかとクラクラしつつ(笑)、コレこそが「タカラヅカ」だと納得する。

 暗闇に安っぽい豆電球の十字架が何本も浮かび上がる、昭和の遊園地のお化け屋敷風味の演出、きらきらさせりゃーそれでいいのかという背景の電飾群、タイトルをまんま書いた巨大な吊りモノ、「愛」の連呼……。
 ああ、「タカラヅカ」だ、泣けるほど「タカラヅカ」だ。良くも悪くも、ものすげー「タカラヅカ」だ。

 終始このノリで、墓掘りがカーテン前でMCがてら場面をつないでいく。
 主役のシメさんが芝居仕立てだったのは冒頭のみで、あとはふつーに歌い踊る。2幕も墓掘りは出てくるけれど、それ以外の場面がさらにふつーにコンサートっぽくなっている。
 声だけ出演の相手役はせんどーさん。すげーハイソプラノを朗々と聴かせてくれてます。

 お笑い一直線のMC、シメさんと未央さんのコント(どつき漫才)も含め、オシャレとは言い難い、なんとも土臭いリサイタル。

 それらが、最高に、ステキだ。

 このあか抜けない、かわりにあたたかい距離感のあるセンスが、舞台が、とても愛しい。

 シメさんは期待した通りの、現役と言っても遜色も違和感もない、美男っぷり。

 着こなしも立ち姿も声も歌も、ふつーにタカラヅカで、ふつーに男役だ。
 辞めて15年、舞台に立っていないなんて考えられない。
 今もふつーに、大劇場でジェンヌをやっていそうだ。

 これで**歳? あああありえねー。
 マジ、フェアリーでしょこの人。

 共演の未央さんがまた、芸達者で。
 この人、現役時代をまったく存じ上げていないのだが、うまい人だわほんと。
 今も現役の役者さんなんだよねえ?
 「男役」として墓掘り役で歌い、芝居をし、またMCでふつーに年相応の女性としてシメさんとどつき漫才(シメさんがツッコミ)をするので、芸のたしかさがよりわかる。
 男役になると、なにもかも変わるもの。声も姿勢も。

 この人も、今ヅカの舞台にいても、なんの疑問もない。つか、いてくれ。

 
 1幕の『エリザベート』で泣き、2幕の漫才で笑い泣きし、さらに黒燕尾姿に、だーだー泣いた。

 ああもお、なんて「タカラヅカ」なんだ。
 この人はどこまで「タカラヅカ」なんだ。

 紫苑ゆう、のことは、あまり知らない。
 知っているし、好きだったけれど、わたしごときが「好き」とか「知っている」と言ってはいけないだろう。
 それくらい、客席の濃度は濃かった。
 わたしごときじゃ、「あまり知らない」レベルだ。

 だけど、わかる。
 この人は、「タカラヅカ」だ。

 わたしが愛するモノを、カタチにしたら、紫苑ゆうになる。

 それを、思い知った。

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