そもそも友人ってのは、感性が似ている場合が多い。
 好きなモノや苦手なモノがかけ離れていると、話が噛み合わなくてつらいからな。
 だから、終演後に語り合う感想が似てしまっても仕方ないのだとは思う。
 思う……が。

「コマが格好良すぎるっ!!」

 と、『雪景色』終演後、ふたり揃って叫んだときは、「まさか」と思ったよ。
 だってあたしたち、並んで『エンカレッジコンサート』を観たとき、ふたりしてコマに大爆笑してたよねえ?
 『雪景色』観劇は、彼女は最前列、わたしはチープに後方で観ていたので、互いがどう感じて観ていたかなんてまったくわかってない。でも、劇場の外で落ち合ったとき、「コマ萌え」と同じ感想をわめくことになり、ふたりして顔を見合わせた(笑)。
 ヲイヲイ、また同じ感想なの? 男の趣味が同じ過ぎるのも考えものよ?
 しかし、

「あんなに青天が似合うなんてっ、かっこいいなんてっ」

 とわめく友人は、筋金入りのゆみこファン。……アータ、単なる青天フェチぢゃあ?
 青天だの町人着物姿を大絶賛するnanaタンとは、よかった、やっぱなにもかも一緒ってわけではないらしい。や、あまりにいつも同じ感想だと気持ち悪いじゃん、お互い(笑)。

 青天コマもかっこよかったけど、わたしは青天フェチではまったくないので、萌えたのは総髪の3幕目です。

 3幕目、タイトルは「夢のなごり」。
 平家落ち武者の最期を、歌と踊りで表現した美しい作品。

 つか、皆殺しの谷キターー!!

 最近丸くなったのか、めっきり殺し率下がってたので、忘れていたよ。そーだった、皆殺しの谷だった。人間の死、しかも自殺にこそ美学を求める人だった。
 昔なつかし『ささら笹舟』オープニングを彷彿とさせる、潔いまでの皆殺しっぷり(笑)。

 なにしろ、集団自決ですから。

 男も女も全員死にますから、自殺しますから。谷がいちばんエクスタシーを感じる死に方なんだろうなー。

 谷せんせの性癖だの嗜好・思考には物申したいこといろいろあるが(笑)、今はソレは置いておく。

 伊予三郎忠嗣@コマ、伊予四郎信嗣@ちぎ。
 このふたりの兄弟が、めちゃくちゃ美しい。

 武士道と云ふは死ぬ事と見つけたり、とゆー思想に染まった若い男たち。
 三郎四郎(つーと漫才師みたいやな)の名の通り、彼らには兄がいたが、その兄たちはすでに華々しく死んでいる。生き延びることを恥とする彼らは、名誉ある死の瞬間を待ち望んでいる。

 彼らの使命は、主君である平家の若君@りんきらと姫君@みみちゃんを守ること。
 源氏の追っ手が迫った今、ひそかに主を逃がし、影武者たちと集団自決して果てたと追っ手に思わせなければならない。
 若君たちの護衛役はひとりでいい。あとは死ぬことで若君たちを守るのだ。

 この護衛役を、三郎四郎どちらかが務めることになった。それを、立ち会いで決める。

 白刃を手に斬り合う兄弟の、壮絶な美しさ。

 勝った方が死ぬる幸せを、負けた方が生きる苦しみを、得る。

 手加減なしの戦いで、勝利したのは、兄・三郎。
 四郎は若君と姫を連れてその場をあとにし、残った家臣たちはみな自刃していく。
 家臣のしゅうくんとがおり、友同士が互いを刺し、美しい袿をまとって高らかに歌う姫の影武者@さゆちゃんを老武士@汝鳥サマが斬り、返す刀で自刃し、あどけなく歌う若君の影武者@彩風を、三郎自ら手に掛ける。

 残った三郎が自刃しようとしたそのときに、逃げたはずの姫が戻ってくる。
 三郎と姫は愛し合っていた。三郎と共に死ぬために、その手で殺されるために、彼女は戻ってきたんだ。

 愛する姫を懐剣ごと抱きしめることで胸を貫き、姫の血に濡れた刃で自身の首筋を斬る。
 抱き合ったまま、ふたりは雪の中で事切れる。

 ……という、話。

 ここの三郎@コマが。

 好みすぎる。

 『春櫻賦』や『浅茅が宿』でさんざん見かけた衣装てんこ盛りで、画面的に目新しさはなかったんだが、とにかく最初から最後までコマちぎが美しすぎた。
 死の恍惚に取り憑かれた美青年ふたり。
 その破滅の影、濃密な闇の気配に息を飲む。

 が。
 なかでも三郎の闇の深さに、目を見張った。

 愛を語っているときですら、彼の瞳に深淵が見える。
 あの暗さはなに? あの毒はなに?
 途中から、彼から目が離せなくなる。

 もっとも震撼したのは、仲間たちの自刃のとき。

 生死を共にした大切な仲間たちが次々と死んでいく、自殺していく。
 それを一段高いところに立って見つめる三郎。

 死んでいく人たちを見ているヒマ、なかった。
 三郎から視線をはずせない。

 その瞳の、壮絶な闇。

 ぶわーっと、涙が出た。
 ぞくぞくした。
 なんなの、これ。
 なんて眼で、なんて表情で、死を見つめているの。

 憐憫でもない哀惜でもない、運命のような、冷ややかさ。

 たしかに人間でありながら、人間が達してはいけないところにたどり着いてしまったような。

 こわい。
 このおとこ、こわいよ。

 こわくて泣いた。うつくしくて泣いた。

 背筋がぞくぞくして、唇が震える。
 こんな表情、にんげんがしてはいけない……!

 そこへ、彼の愛する姫が戻ってきた。
 彼の顔に、人間らしさが戻る。しかし、共に死ぬ答えを知っているから、彼はまた、人間とは別のところへ行ってしまう。

 姫君もまた、愛する男の手に掛かって死ぬ恍惚に憑かれている。トリップ状態で舞い、酩酊したまま懐剣を出し、男の胸に飛び込んでいく。

 愛する女と最期の舞いを踊る三郎は、やはりもうひとではなくて。
 彼個人の人格を超えたなにかに支配されているようで。

 美しくて、こわくて。

 愛する女を抱擁することで殺し、自らも死するその瞬間。

 恍惚の表情でわらう彼が、こわすぎる。

 …………し、消耗した……っ。
 このもっとも短い3幕目で、心臓ばくばく、涙だーだー、頬ばりばりで、息も絶え絶え。
 勘弁してくれ、予想外だ。つか、お気楽お笑い落語モノぢゃなかったのかよーっ。
 こんなにこんなにこわい話だって、知らなかったよおおお。

 つか、コマってこんなだった? こんな芸風だったっけ? アツくて空回りしてるお笑いキャラぢゃなかった? ネタジェンヌぢゃなかった?

 こんなに耽美ど真ん中な人だった??

 ありえねー。コマなのに。コマなのに~~!!

 狂気と毒と闇。恐怖と紙一重の美。
 わたしが求める「耽美」、「日本物」のすべてが、そこにあった。

 コマ、すげえ。
 思い出すだけで、心拍数上がるわ。

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