歌えるって、すごい。

 新人公演『眠らない男・ナポレオン』にて、しみじみ思いました。

 なにはさておき、ミュージカルは歌唱力、舞台は声、だと。

 まず、開演アナウンスからして、感動した。
 新人公演主演男役が、開演アナウンスをする。トップスターと同じように、名乗りからはじめて、公演名を言う。
 その声が、すでに、男前。

 えええ。
 わたし『ロミオとジュリエット』新公も観ているけど、あのときはこんな風に思わなかったよ?
 ことちゃん、さらに「イイ声」になってる?

 めっちゃイイ声ゆえ、どんな美形様が、大人の男が登場するのか!!
 と盛り上がる期待感。
 しかし、舞台に鳴り物入りで登場したのは、丸顔のかわい子ちゃんで……男というよりは、「かわいい下級生」で。

 えええ。(2回目)
 聴覚と、視覚のギャップに驚愕する。

 何故だ。
 何故あのまるっこい男装したオンナノコから、こんなオトコマエな声が出てるんだ。

 2時間半の本公演を、挨拶込みで2時間にまとめてあるわけだから、カット有りの縮小版だ。
 本公演以上に、「歌ありき」の構成になっていた気がする。とにかく、ずーっとずーっと、歌っている。そんな印象。

 それが、心地よい。

 『ロミジュリ』のときは、いろいろ気になったんだけど、今回はもう、ただ「歌」を聴くだけで楽しかった。
 芝居がどうとか役作りがとか、どーでもいい感じ。気にならない。それくらい、歌が気持ちよかった。耳福だった。

 たぶん、わたしが『ロミジュリ』を好き過ぎるんだな。
 『ロミジュリ』の「物語」に思い入れがありすぎる、人間ドラマにドリームし過ぎている、そのせい。
 ドラマの大きさ深さに対し、ことちゃんの「等身大でやるだけやりました」的な新公は、物足りなかったんだと思う。

 でも今回はほら、天下のシェークスピア様と違って、所詮、イケコオリジナルだし。
 心理描写もキャラクタも薄っぺら、豪華な衣装と派手な舞台装置を楽しむ、「テーマパークのアトラクション」じゃん?
 そして、音楽はわざわざ巨匠作なわけっしょ?
 芝居よりなにより、「歌」の実力が優先されるのは、仕方ないことじゃん?

 「歌」がなにより大切。
 「歌」が良ければ、あとのことは気にならない。
 だってそもそも、そういう作りの作品。わたしが『眠らない男・ナポレオン』自体に、なんの思い入れもないもんだからニャ……。すまん、偏った感想だと思うよ。

 ことちゃんの芝居自体は、れおんくんのコピーだと思ったし。全部きれいにコピーできていたわけではなく、目指したけれど、届いてなかった印象。等身大の「子ども」にはならないよう、がんばっていた。
 全部コピれてはいないけれど、ちょっとしたニュアンスをきれいに真似ていたりして、だからこそより外見の……視覚のギャップにとまどったりな。

 途中から、オペラを使わずに楽しむことにした。
 遠目ならば、視覚に混乱させられずに済む。

 そして、デジャヴに気づいた。
 こんな公演、知ってる……。
 そうだ、みっちゃんの新人公演だ。
 オペラなしで、耳で楽しむ新人公演……もっと歌って、歌を聴きたい、次の歌は何場だっけ……そう指折り数えた、『飛鳥夕映え』新公。
 なつかしいな、あれから何年……って、ちょうど10年かよ!!

 ほくしょーさんはともかく、今のことちゃんはまだ、ビジュアルが実力に追いついていないのだと思う。
 まるまるぷくぷくしたほっぺもお尻も、研5じゃあ無理もない。
 ジェンヌは時間と共に磨かれる、きっとこれからシャープにかっこよくなってくれることと思う。

 歌唱力なんかどーでもいいと思っている歌劇団において、これだけ「男役の声」で「歌える」若手が登場し、劇団がちゃんと「スター候補生」として育てる気らしい……てのが、それだけでうれしい。
 いやほんと、歌がアレなスターさんたちばかり眺めて来たもんでなあ(笑)……「歌える」ってだけで御の字です。

 そしてわたしはやっぱ、「声」が重要なファクタなんだわ。
 「声」が良くないと、わくわくしない。

 頬はこれから削げるかもしんないけど、「声」は持って生まれたモノが大きいじゃん?
 この美声でもって、あとは男役らしい美しさを身に付けてくれたら、鬼に金棒!
 芝居の表現だって、「声」を自在に操れれば、出来ることがたくさんある。

 楽しみにしています。


 ヒロインのジョセフィーヌ@風ちゃんもまた、基本はことちゃんと同じ感想だった。や、「芝居」においては、ことちゃんよりずーっとうまいんだけど。

 こちらもまた、オペラいらず、歌声堪能。
 オペラを使わない方が、「絶世の美女」としての説得力がある。
 や、ジョセフィーヌ役はいわゆる「タカラヅカのヒロイン」でない分、風ちゃんの美しさを生かせる役だったと思う。『ダンサ セレナータ』新公のときも思ったけど、アクの強い美女役はハマる。
 テレビではなく舞台だから、今はそれでいいと思う。本来の顔立ちがどうではなく、舞台で華やかな美女を演じられればいいんだもの。

 ただここは「タカラヅカ」なので、このまま学年が上がり、スター路線を進むというなら、「タカラヅカ的な美貌」と「見た目の説得力」も必要だとは思う。
 風ちゃん、かわいいけど、「美女」というタイプではないからなあ。

 それにしても、ジョセフィーヌの大ナンバー、本役ねねちゃんが音程行方不明になりがちで手に汗握ったもんで、風ちゃんに期待していたんだけど……期待が大きすぎたかなあ。思ったほどじゃなかった……てゆーか、どんだけむずかしいんだ、あの曲。


 ことちゃんと風ちゃん、耳がよろこぶ素敵な新公でした。
 よくぞこんだけ歌いきった。

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