引き絞った弦にも似て。@アデュー・マルセイユ
2007年11月12日 タカラヅカ 光の粒が、落ちる様を見た。
ライトを浴びて、きらりと一瞬だけ光って、消える。
涙って、ああやって落ちるもんなんだ。
『アデュー・マルセイユ』大劇場千秋楽、退団者の挨拶を後ろで見守りながら、まっつは顔をこわばらせていた。
怒ってるの? てな、きつい、こわい顔をして固まっていた。
表情は変わらず、動くこともなく、ただ、光の粒だけが落ちる。ぽつん、ぽつん、と。
千秋楽だからといって、まっつは別に特別なにかをしているようではなかった。アドリブをとばすとか、なにかしらサービスをするとか。
ジオラモさんも、ショーでも、いつもと同じように歌い、踊り、演技していた。
ふつうだったと思う。寿美礼サマ退団の楽であっても、ふつうにしていたと思う。
それでも。
『ラブ・シンフォニー』のスパニッシュ場面にて。下手花道から登場し、下手でソロを歌うまっつは、あきらかにいつもとちがっていた。
歌声はいつも通り豊かに響いている。ダンスのキレもいい。や、よすぎるくらい、渾身の力が込められている。
そういった、技術的なことではなくて。
表情が、いつもとちがっていた。
いつものまつださんは、ここで「うっとりモード」に入る。スターらしく、陶酔した風情で歌う。指先とかポーズとかにすっげーこだわって演じていそうな、表情まできちんと「こだわりました」的な、まっつ的勝負顔(笑)で歌い、踊っている。
なにしろわたし、ここの場面はまっつガン見基本だから。この公演は結局15回観たことになるんだけど、ついに、本舞台でなにが起こっているか知らないままだしな。
踊るまっつ、歌うまっつをガン見する。立ち見でも2階席からでも、1階1列目下手という至近距離からでも、オペラグラス使用。
まっつの独特の手さばきとか、表情とかを眺めるのがデフォルト。それ以外の選択肢はない。
そうやって眺めてきたから。
チガウことに、うろたえた。
まっつは、とても「追いつめられた」顔をしていた。
研ぎ澄まされた、ともいうか。
なにかしら、ぎりぎりの表情。
眉は強く吊り上がり、目がぎらぎらしている。
怒っているような、なにかと戦っているような。
強く引いた弓の、最強の力を加えることでかろうじて静止している弦のような。
美しかった。
微笑むわけでもなく、セクスィな表情を意識して浮かべるのでなく。ただ、なにかに耐えるかのように、渾身の力を放出していた。
その張りつめた美しさに、息をのんだ。
そして。
その痛々しさに、胸が痛んだ。
歌が終わったらまっつは片膝を付いてその他大勢にまぎれる。帽子もあるし、舞台中央を向いてしまうので顔もほとんど見えない。……ので、ソロ終了と共にオペラをおろし、舞台中央の寿美礼サマを眺めるのがわたしの通常のパターンだった。
だが、このときばかりは、まっつから視線を離すことができなかった。ソロが終わり、彫像のように動かなくなっても、ずっとまっつを見ていた。
また、わたしの席が上手寄りだったために、下手にいたまっつの顔がよく見えた。や、この席でなかったら見えなかったと思う。よくぞ今このとき、この席にいた。
まっつは鋭い表情のまま、固まっていた。
強い、きつい、険のある表情で、寿美礼サマを見つめていた。
いつものクールな顔じゃない。強い感情ゆえに引き締められた顔だった。
それがあまりに、美しくて。
それがあまりに、痛々しくて。
感情の高まりを外へ向けて発散するのではなく、舞台の端正さを優先し、奧へ奧へと押し込めようとする。
黙々と仕事を果たす。為すべきことをする。
歌声とダンスの丁寧さ。渾身の力を込めて、歌い、踊っていた。
……いやあ、ドキドキしました。
これは、ときめきってやつなんですかね? よくわかんないけど、まっつの表情に気づいたときから、心臓がばくばくして止まらなかった。
中央に寿美礼サマを残し暗転するまで、ずっとまっつを見ていた。
涙が出るのは、生理的なものだろう。心臓がこれだけばくばくいってるんだから、そりゃ涙も出るわ。
まっつが明らかに「いつもとチガウ」と思えたのはこの場面のみ。
「ラブ・ゲーム」ではクールにキザっていたし、いつものカード勝負はみわさんとしゅん様が勝つという変なことになってたし。ふたり同時に勝つってなにソレ?? まっつは「ヲイヲイ」という感じでつっこんでいたが、悔しそうではなかった。
ラテンではもちろんノリノリで腰を回していたし。とくに赤ジャケット寿美礼サマが登場したときのはじける笑顔がかわいい。や、まっつでもスパーク系の笑い方するんだ〜〜。
黒燕尾はもともと端正にシリアスに、ひーさんとのデュエットダンスもやさしい笑顔だった。もー、ここぞとばかりにひーさんだけ見つめて、微笑みかけて。うおー。
サヨナラショーは「真剣っ」て感じ。こちらは「いつも」と比べるものではないので「本来」がどういうものなのかわからない。や、わたしも寿美礼サマ見つめるのでテンパってるし。
そして最後の退団者挨拶、冒頭に書いたように。
まっつは見事に顔を強ばらせていた。
あー、固まってる固まってる。
まっつはいわゆる「泣き顔」はしないので(笑顔は泣き顔に見えるんだが……)、本当に泣いているときの顔はわかりにくい。
わかんなかったよ。ほんとーに。だから。
光の粒がこぼれたのを見て、胸を突かれた。
そんなふうに落ちるものだって、光るものだって、知らなかったから。
こわばった、怒ったような顔のままで。
固まったままで。
ただときおり、光の粒がまばたきと共に落ちる。
不器用な、頑なな姿。
ぴくりともしないで、直立して。
拍手は力一杯、高速で小刻みに鳴らして。全身、力入りまくっていて。
また怒った顔して固まって。
ずっとずっと、力入りまくっていて。ずっとずっと。
幕が下りるときとか、なんか虚ろな顔してるし。
まっつがどんな人かなんて、知りようがないのだけれど。
ああ、そういう人なんだなあ、と思った。
このひとを、見つめ続けていたい。
ライトを浴びて、きらりと一瞬だけ光って、消える。
涙って、ああやって落ちるもんなんだ。
『アデュー・マルセイユ』大劇場千秋楽、退団者の挨拶を後ろで見守りながら、まっつは顔をこわばらせていた。
怒ってるの? てな、きつい、こわい顔をして固まっていた。
表情は変わらず、動くこともなく、ただ、光の粒だけが落ちる。ぽつん、ぽつん、と。
千秋楽だからといって、まっつは別に特別なにかをしているようではなかった。アドリブをとばすとか、なにかしらサービスをするとか。
ジオラモさんも、ショーでも、いつもと同じように歌い、踊り、演技していた。
ふつうだったと思う。寿美礼サマ退団の楽であっても、ふつうにしていたと思う。
それでも。
『ラブ・シンフォニー』のスパニッシュ場面にて。下手花道から登場し、下手でソロを歌うまっつは、あきらかにいつもとちがっていた。
歌声はいつも通り豊かに響いている。ダンスのキレもいい。や、よすぎるくらい、渾身の力が込められている。
そういった、技術的なことではなくて。
表情が、いつもとちがっていた。
いつものまつださんは、ここで「うっとりモード」に入る。スターらしく、陶酔した風情で歌う。指先とかポーズとかにすっげーこだわって演じていそうな、表情まできちんと「こだわりました」的な、まっつ的勝負顔(笑)で歌い、踊っている。
なにしろわたし、ここの場面はまっつガン見基本だから。この公演は結局15回観たことになるんだけど、ついに、本舞台でなにが起こっているか知らないままだしな。
踊るまっつ、歌うまっつをガン見する。立ち見でも2階席からでも、1階1列目下手という至近距離からでも、オペラグラス使用。
まっつの独特の手さばきとか、表情とかを眺めるのがデフォルト。それ以外の選択肢はない。
そうやって眺めてきたから。
チガウことに、うろたえた。
まっつは、とても「追いつめられた」顔をしていた。
研ぎ澄まされた、ともいうか。
なにかしら、ぎりぎりの表情。
眉は強く吊り上がり、目がぎらぎらしている。
怒っているような、なにかと戦っているような。
強く引いた弓の、最強の力を加えることでかろうじて静止している弦のような。
美しかった。
微笑むわけでもなく、セクスィな表情を意識して浮かべるのでなく。ただ、なにかに耐えるかのように、渾身の力を放出していた。
その張りつめた美しさに、息をのんだ。
そして。
その痛々しさに、胸が痛んだ。
歌が終わったらまっつは片膝を付いてその他大勢にまぎれる。帽子もあるし、舞台中央を向いてしまうので顔もほとんど見えない。……ので、ソロ終了と共にオペラをおろし、舞台中央の寿美礼サマを眺めるのがわたしの通常のパターンだった。
だが、このときばかりは、まっつから視線を離すことができなかった。ソロが終わり、彫像のように動かなくなっても、ずっとまっつを見ていた。
また、わたしの席が上手寄りだったために、下手にいたまっつの顔がよく見えた。や、この席でなかったら見えなかったと思う。よくぞ今このとき、この席にいた。
まっつは鋭い表情のまま、固まっていた。
強い、きつい、険のある表情で、寿美礼サマを見つめていた。
いつものクールな顔じゃない。強い感情ゆえに引き締められた顔だった。
それがあまりに、美しくて。
それがあまりに、痛々しくて。
感情の高まりを外へ向けて発散するのではなく、舞台の端正さを優先し、奧へ奧へと押し込めようとする。
黙々と仕事を果たす。為すべきことをする。
歌声とダンスの丁寧さ。渾身の力を込めて、歌い、踊っていた。
……いやあ、ドキドキしました。
これは、ときめきってやつなんですかね? よくわかんないけど、まっつの表情に気づいたときから、心臓がばくばくして止まらなかった。
中央に寿美礼サマを残し暗転するまで、ずっとまっつを見ていた。
涙が出るのは、生理的なものだろう。心臓がこれだけばくばくいってるんだから、そりゃ涙も出るわ。
まっつが明らかに「いつもとチガウ」と思えたのはこの場面のみ。
「ラブ・ゲーム」ではクールにキザっていたし、いつものカード勝負はみわさんとしゅん様が勝つという変なことになってたし。ふたり同時に勝つってなにソレ?? まっつは「ヲイヲイ」という感じでつっこんでいたが、悔しそうではなかった。
ラテンではもちろんノリノリで腰を回していたし。とくに赤ジャケット寿美礼サマが登場したときのはじける笑顔がかわいい。や、まっつでもスパーク系の笑い方するんだ〜〜。
黒燕尾はもともと端正にシリアスに、ひーさんとのデュエットダンスもやさしい笑顔だった。もー、ここぞとばかりにひーさんだけ見つめて、微笑みかけて。うおー。
サヨナラショーは「真剣っ」て感じ。こちらは「いつも」と比べるものではないので「本来」がどういうものなのかわからない。や、わたしも寿美礼サマ見つめるのでテンパってるし。
そして最後の退団者挨拶、冒頭に書いたように。
まっつは見事に顔を強ばらせていた。
あー、固まってる固まってる。
まっつはいわゆる「泣き顔」はしないので(笑顔は泣き顔に見えるんだが……)、本当に泣いているときの顔はわかりにくい。
わかんなかったよ。ほんとーに。だから。
光の粒がこぼれたのを見て、胸を突かれた。
そんなふうに落ちるものだって、光るものだって、知らなかったから。
こわばった、怒ったような顔のままで。
固まったままで。
ただときおり、光の粒がまばたきと共に落ちる。
不器用な、頑なな姿。
ぴくりともしないで、直立して。
拍手は力一杯、高速で小刻みに鳴らして。全身、力入りまくっていて。
また怒った顔して固まって。
ずっとずっと、力入りまくっていて。ずっとずっと。
幕が下りるときとか、なんか虚ろな顔してるし。
まっつがどんな人かなんて、知りようがないのだけれど。
ああ、そういう人なんだなあ、と思った。
このひとを、見つめ続けていたい。