「ひどい主人公でどうなるかと思ったけれど、最後に改心してくれてよかったわ(笑)」

 とゆー会話が耳に入り、気が遠くなったりもした、『エル・アルコン−鷹−』

 してないからっ。改心なんてこれっぽちもしてない……つーか、そもそもそーゆー次元の話ぢゃないから。

 あー、うー、最後に白い衣装で現れたからかなあ、「改心した」とかいう誤解を生んでいるのって。
 悪人が死んで改心する話、だと受け取る人がいることへの衝撃。
 いやあ、人間って人間の数だけ感じ方があるんだよなあ。すげえなあ。

 
 アクロバティックなサーカス的ド派手オープニングの直後、野望の人ティリアン@トウコと彼を慕う少年ニコラス@ゆかりとのふたりきり場面になる。

 「罪」と「野心」を載せた黒い翼……しかしここで歌うのは一転して「七つの海七つの空」……だ。

 ええ、2回目は幕開きから泣いてますが、ここでもガーガー泣けます。

 ひたすら「強い」オープニングのあと、「純粋な夢」を歌う美しいシーンになるわけですよ。

 彼は、鷹なんだ。
 大きな翼で空を飛ぶ。
 小動物を捕らえて喰らう。

 何故、飛ぶのか。
 何故、弱者を喰らうのか。

 鷹にそんなことを問うても無意味だ。
 だって、鷹だから。
 そうすることが本能であり、それが「彼が彼で在ること」なんだ。

 ティリアンを「悪」と感じるのは、人間の勝手な尺度でしかない。
 巣に掛かった蝶を喰べる蜘蛛を「悪」、喰べられる蝶を「可哀想」と感じるのと同じ。

 わたしは人間だからもちろん彼を「悪」だと思うが、それとは別に彼の生き方を認めている。

 彼が彼で在ること。
 ただそれだけの物語のせつなさを、噛みしめている。

 そんなふうにしか生きられない……その、「業」のようなものを感じ、泣けて仕方がない。

 この物語は、「七つの海七つの空」に憑かれた者たちの物語でもある。
 ティリアンも、ギルダ@あすかも、そしてレッド@れおんも、みな「海」と「自由」に憑かれ、焦がれている。

 何故彼らが「海」に魅せられるのか、理由はない。
 彼らの魂のカタチである、としか言いようがない。

 鷹がその翼で空を飛ぶのと同じ。

 彼らは、他の誰でもない彼らだから、海に生き、海に死んでいくんだ。

 それは善悪という次元の話ではない。
 ミミズがミミズに生まれミミズとして生き、オケラがオケラに生まれオケラとして生き、アメンボがアメンボとして生まれ死ぬ、そーゆー次元の話だ。

 7年間土の中にいて、ひと夏だけ精一杯鳴いて死んでいく蝉に、善悪を解いても仕方がない。
 そーゆー次元の話ではないが、蝉の一生を思うとなにかしらせつないものを感じる、てゆーのが人間で。

 『エル・アルコン−鷹−』全体に感じるせつなさは、「彼が彼で在ること」に対するせつなさだ。

 ティリアンを悪だと思い、それでも美しいと思い、それでもそんなふうにしか生きられない彼に涙する。
 志半ばで散っていく最期を知っているから「可哀想」で泣けるのではない。ティリアンは別に「可哀想」な人ではない。

 「自分」がなんであるかを知り、そのためにまっすぐに生きた、ただ今回は力足りずに倒れた……それはちっとも哀れではない。
 無念だろうと思うけれど、憐憫ではない。

 鷹は自由に己れの翼で飛んだのだから。
 「自分」がなんなのか、自分の居場所は、行きたい場所はどこなのか、わからずにただなんとなく漂っている多くの人間たちに比べ、目的を持って飛び、前のめりに倒れた夢追い人の、どこが哀れだというのか。

 彼は幸福だ。
 幸福で、そして、孤独な人だ。

 自分がなんであるかもわからず、わからなくてもなにも感じず漂っている者たちとちがい、明確なビジョンが見えている彼は、ひとりちがう世界にいる。
 他の人間たちが知らない美しい光景を知っているかわり、他の人間たちが受けることのない痛みを背負い、血を流しながらも前へ進もうとしている。

 彼が彼で在ること。
 ただそれだけの、せつなさ。

 ニコラスとの関係を描くエピソードが欲しいのはほんとうだが、この最初の「夢」を語る場面があるのだから、それだけで十分っちゃ十分なのかもしれない、と思う。
 ティリアンが他人に「七つの海七つの空」を語るのは、ニコラスとギルダにのみだからだ。
 それだけで、彼らが「特別」であることはわかる。
 描く必要があるのは「ニコラスが誰か」であって、彼との個人的なエピソードではないな、と観劇2回目以降思った。

 台詞の応酬でいいから、ニコラスが子どもの頃にティリアンに助けられ、以後恩人として敬愛し、成長した今ティリアンの片腕を務めるよーになったんだ、つーことを入れるべきだ。
 説明台詞になっちゃうけどさー。エピソードを描くヒマがないなら、キャラ説明だけでもしよーよー。「アンタ誰??」状態だよ、いきなり出てこられても。
 ある意味光源氏と紫の上だっつーことを、観客に示そうよ。

 冒頭のこの場面だけでも、ニコラス役に演技力があれば、もっとなんとかなったと思う。
 だが如何せん、演じているのはゆかりくんだ。美貌は七難隠す、つーことでゆかりくんはゆかりくんだからいいんだが、「脚本に書いてある」以上のモノを出す力はない。
 ゆかりくんに合わせて、もっとわかりやすくするべきなんぢゃないかなぁ、ニコラス役。
 
 まあ、脚本の足りない部分、ゆかりくんの足りない部分を全部背負って、トウコがガンガンいってるから、それはソレでいいのかな。

 
 幕開きからここまでダダ泣きなのに、次の「♪プリマス プリマス♪」のシーンで涙は引っ込む。

 いやその、星組、アンサンブルすごすぎ。

 ええっと、コーラスもすごいけど、ソロもそれぞれ、けっこーすごくないか……?
 どういう基準で選んでいるんだろう。
 ふつーアンサンブルにしろソロ歌手にしろ、歌がうまい人がやるもんだけど、星組は、キャラ(個性)で選んでる?

 いやあ、いいなあ。一気に正気に返るっていうか、みんな小芝居やりすぎてて、メロディは奔放(笑)で。
 水輝涼ひとりぢゃどーにもなんねーなー、ここのものすごさは(笑)。

 や、誉めてます。
 そりゃ歌はうまいにこしたことないが、多少アレでも芝居の中として雰囲気出てるから。
 たのしいから好き。
 どこ見ていいか迷う。

 こっから先は、「キャラもの」として、それぞれのキャラクタのハマりっぷりを堪能。

 エドウィン@すずみんのお貴族サマぶりとか!
 あーもー、すずみんステキ〜〜、なんなのあのキラキラ。さすがジェローデル役者、お貴族サマ似合い過ぎ。

 ペネロープ@コトコトのお人形さんぶりとか。
 まさしく貴族の令嬢、気位の高いお姫様。世間知らずの壊れ物っぽいところがたまりません。

 てゆーかマスターズ@あかしの美貌は、なんなんですか。
 やばい、やばいっすよ彼!! かっこよすぎ。原作まんまの髪型、すげえ。

 てなふーに。

 次にせつなさに胸を焦がすのは、ティリアンとギルダの心が近づいてからだ。

 つーことで、続く。


日記内を検索