しゅんくんの新公芝居はいつも、途中から変わっていく気がする。
 火がつくと止められないんだろうか。暴走体質なんだろうか。

 なんにせよ、おもしろい。

 新人公演『エル・アルコン−鷹−』
 主役は初主演のともみんだし、ヒロインも初終演で抜擢のキトリちゃんだし、2番手は余裕のハズのしゅんくんだし?

 えーっと、この『エル・アルコン』って、主役はティリアンで悪役、対立する2番手レッドが正義という、ふつーとは逆のピカレスク・ロマン、だったりする。
 少なくとも本公演はそうだ。

 しかし。

 新公は、善悪が逆転していた。

 やー、もー、これだからナマの舞台っておもしろいねっ。どんなに技術がつたなくても、1回こっきりの力任せの新公っておもしろいよねっ。

 自爆気味ではじまったティリアン@ともみんは、舞台が進むにつれ演技や佇まいが落ち着いてくる。
 もともとタッパはあるしきれいだし、コスプレはある意味トウコより似合っている。やっぱあの大仰衣装には、ある程度の身長が欲しいよな、と、小柄オトコに惚れ気味なわたしでも思う。
 持って生まれたモノは、恵まれているんだよな。
 そう、そして落ち着いてくるに従って、持って生まれたモノが、出てしまうのだ。

 にじみ出ている。出てしまう。
 台詞とか演出とかと無関係に。

 どうしよう、ティリアンが、善人だ。

 すげー真面目で、いい人のティリアンがいますよ!! 夢のために一生懸命で、女(ギルダ)にやさしいまっすぐな人がいますよ!!

 世の中の方がまちがっているため、それを正すために耐えてる人みたいだー。
 アツいハートが心の中でメラメラ(笑)してるよー。

 どうしよう。
 こんなの、ティリアンぢゃない(笑)。

 素直にヒーローしているティリアンに大ウケ。なんじゃこりゃ。ぜんぜんピカレスクぢゃない〜〜。

 それだけなら、まだしも。

 悪のティリアンに対する、正義のレッド@しゅん。
 最初レッドは、プリマスのおぼっちゃまとしてイキイキとのびのびとたのしそーに現れた。
 が。
 父が冤罪で処刑され、ティリアン相手に噛みつくようになってからは、どうもチガウところのスイッチが入った模様。
 テンションが上がると、余裕とかがどっかへぶっ飛び、不要なほどにエンジンが掛かる。

 黒い。

 え、えーと?
 レッドってたしか、無神経なほどの清廉潔白青年だよねえ?
 善良で正義で誰より正しいお子ちゃまだよねえ?

 「正義と良心」と言いながら、レッドくんはどーにも黒い。復讐を正統と考える心の歪みが前面に出る。

 このレッドってなんかやばくね?
 「相手は悪だから、僕は正義だから、なにをしてもいい」と本気で思ってね?
 自分を転ばせた同級生を、後ろから押して階段の上から突き落としそうだぞ? 「当然の権利です」って学級会でも胸を張りそうだぞ?

 幼い。大学生には見えない。そして、その幼い怒りと正義が、邪悪に見える。

 彼に付き従うキャプテン・ブラック@真風がダメダメで(笑)。がきんちょレッドの暴走を止めるだけの度量を持たない。
 レッドの熱が高く、そのへんのものを巻き込んでしまうだけのパワーがあるだけに、みんな一緒にキリキリ舞い。高く高く舞い上がる。

 どうしよう。レッドが、悪人だ。

 歪んだストーカーが、ティリアンを狙ってる!! 逃げて、ティリアン逃げて〜〜!!(笑)

 憎しみと使命感に我を忘れたレッドは、ただの悪。復讐鬼。
 見えているのは悪者ティリアンと、大切な自分自身だけ。

 どうしよう。
 こんなの、レッドぢゃない(笑)。

 素直に悪役しているレッドに大ウケ。なんじゃこりゃ。ぜんぜんヒーローぢゃない〜〜。

 おもしろい。
 おもしろすぎるよ、ともみんとしゅんくん。
 やー、もー、ふたりともダイスキだ!

 誰か止める者はいないのか?!
 いないまま、最後の対決だ〜〜!

 ギルダを殺されたティリアンは、まさに悲劇のヒーロー。
 愛する女性を殺され、我を忘れて悪党レッドに斬りかかる。

 悪党レッドは手下のブラックとふたりがかりでティリアンを討とうとする。卑怯だぞ、さすが悪党だ!
 がんばれ正義のティリアン!!

 いつの世も、正義が理解されるとは限らない。オスカルだってアンドレだって、ええもんだったけど死んでしまった。ティリアンも心正しい正義の男だが、志半ばで倒れるのだった……!

 彼の心の美しさを表すかのよーに、白い衣装で再登場し、愛するギルダとめぐりあう。
 デュエットダンスが欲しいですな。

 
 ここまで別物だと、いっそ清々しいです。

 たのしくてたのしくて。

 やっぱりタカラヅカは「悪人」を主役にして物語を進めるのは難しいのよ。
 「ヒーロー」の方が演じやすいし、物語を動かしやすいの。

 スキルの足りない、キャリアの足りない子が、とりあえずやらなきゃならないことだけやると、「悪人の物語」にならないの。
 「悪」でありながら、「真ん中」であり、物語を動かして感動させる、つーのは高等技術。
 いやはや、いい経験になりました。悪役が主役の物語自体、今後もそうそうないだろうから、次にいつ見られるかわからない。バウとかならアリでも、大劇場ではレア中のレアケース。
 いいもん観たわー。
 そうか、ふつーに演じると、ティリアンって、『エル・アルコン』って、こんなことになるのか(笑)。

 本役の凄まじさを知ると同時に、作品の難しさ、作品位置の特異さを思い知りました。

 でもって、すっかり話が変わっていたので、ティリアンの一代記として、「心正しい青年が志半ばに倒れる話」としてすんなり感情移入でき、ドキドキハラハラ、感動しました。
 やっぱドラマティックだわ、この話。
 ティリアンが悪であれ正義であれ、夢を語る若者の物語として十分泣ける。

 あー、おもしろかったっ。


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