がんばれ、女の子。@ベッカムに恋して
2003年4月11日 映画 悩みの種はひとり娘。
せっかくわたしに似て美人なのに、ちっとも女の子らしくしない。
男の子にもおしゃれにも興味なし。男の子みたいな格好しかしないの。そして、よりによってサッカーに夢中。
今日も同じ女子サッカーチームの友だちが遊びにきている。
ケンカでもしたのかしら。なんだか雰囲気が悪かったけれど……。
「あなたは私を裏切ったのよ!!」
娘の叫び声。
お茶とお菓子を運ぼうとしたわたしは、ドアの外で凍り付く。
娘とその友人の少女が激しく口論している。
その内容は……。
ああ、神様!!
友人じゃない。
あの少女は、娘の恋人だわ!!
☆
ご機嫌な映画を見ました。
『ベッカムに恋して』。
バーミンダ・ナーグラ、キーラ・ナイトレイ主演。
女の子のサッカー映画。
……と言えば、想像するよね? その想像まんまの映画。
主人公のジェスはサッカーに夢中な女の子。部屋はあこがれのベッカムの写真だらけ。彼女は毎日、男の子にまざってボールを蹴っていた。
インド系イギリス人の彼女の家庭は厳格。「女の子は女の子らしく!」が基本。両親はジェスがサッカーをすることに大反対。
ある日ジェスはジュールズという少女に、女子サッカーチームに誘われた。女の子にもサッカーリーグがある! そのことを知ったジェスは家族に内緒でチームに入る。
チームは勝ち続け、ジェスにはサッカー選手としての輝かしい未来が予想される。
……が。サッカーチームに入っていることが、両親にバレてしまった! 当然ジェスはサッカーを禁止され……。
「女の子は女の子らしく」という概念。「女は家庭に入るのがいちばんの幸福」という概念。「おっぱいが邪魔でプレイできないだろ?」と笑う男たち。
それらをはねのけて、自分で人生を切り開いていく女の子たちの青春映画。
友情と恋と夢と家族愛。
女の子のサッカー映画、と聞いて想像するまんまの映画。
そう、まんまだからいいのよ。
見ていて気持ちいい。お約束のテーマとストーリーを真っ向勝負。
ヒロインのジェスがインド系だってのがいい。
現代のふつーの家庭の女の子が、「サッカーなんてはしたないものは禁止!」って言われても「はぁ?」って感じだよね。ふつーにスポーツじゃん、って。家族の反対が、大して障害にならないよね。
でも、なんといっても彼女はインド系。規律の厳しさが、わたしたちとはチガウ。
家族の反対が、とても大きな障害なの。そりゃ、この家庭環境でサッカー選手になろうなんて、ものすごい反骨心だよ、と思わせる。
現代で「身分違いの恋」をやってもそれほど盛り上がらないけど、明治時代とかヨーロッパの貴族社会とかでやると盛り上がるのと同じ。
障害が障害として、正しく機能。
インド系イギリス人の生活なんて、まったく知らなかったから、それを見るだけでも興味深かった。
ほんとにインド人なんだ……家も服もふつーに現代なのに。生活はイギリス、でも習慣はインド。なんて頑な。日本とはチガウ。
女の子と家族、女の子と社会の戦いの物語。
ジェスとジュールズ、ふたりの少女はそれぞれ両親にサッカーを反対されている。
インド人とイギリス人ってことで、反対の度合いがチガウけれど。
インド人のジェスは完全反対、イギリス人のジュールズは反対はされるけれど、されるだけで、彼女は自分のしたいようにすることができる。
この対比もいい感じ。
立場はまったく同じなのに、障害の大きさがチガウの。それが民族のちがい。
インド娘とイギリス娘の家庭が、きちんと描いてある。
……自由度のちがいはあるものの、家族や社会に理解されずに、自分の道を貫くのはつらいよね。
だから応援したくなる。
がんばれ、女の子。
自分の人生を、自分の意志で決めるんだ。
女の子と家族の関係が、とてもいいの。
対立を描くわけだから、主人公の女の子側ばかりを描いてもダメ。障害となる家族側も、ちゃんと描かないと。
いいファミリーなんだ。
ジェスもジュールズも、いい子だってのが納得できる。このファミリーに愛されて育ったんだから、そりゃいい子たちだろうよ。
そしてもうひとつのお約束、恋と友情。
ジェスとジュールズは、同じ男性を好きになる。
チームのコーチで、ハンサムでやさしく厳しい好青年。
さあ、男が絡めば友情は危機だ。
ジェスとジュールズは絶交!!
……まったく、女の子ってば、公私の区別つかないからなあ。恋とサッカーは別もんだろうに……恋でモメると、サッカー的にも大変さ。
これらの出来事は、すべて気持ちのいい大団円になだれ込む。
そりゃーもー、お約束通りに。
期待通りに。
この映画の気持ちいいところは、すべてが「お約束通り」であることだ。
お約束の気持ちよさを優先して、気分の悪くなるよーな部分は描かない。
たとえば、家族に内緒でチームに入ったジェスは、金銭的なことはどーなっているのか? とか。
日本のサッカーマンガでこのパターンならまず、主人公はチームの月謝に苦労するね。ユニフォーム代、シューズ代はもとより、スタンドの使用料、コーチの給料とか、月謝として徴収されるよねえ? 高校生の女の子が、学校に通いながらどう捻出するんだ?
でもそんな部分は描かない。ジェスは問題なく毎日練習して腕を上げていく。
たとえば、ジェスとチームメイトの軋轢。
スカウトで入ってきた、「家族には秘密」のストライカー。家庭都合で試合に出たり出なかったり。
ふつー、嫌われるって。ジェスが入ったことで、レギュラーからはずされた子とかがいるはずだ。あとから来たジェスより、もとからいる子を大事にしないか、他のチームメイト?
でもそんな部分は描かない。ジェスは問題なくチームメイトに迎えられ、毎日たのしく練習して腕を上げていく。
ジェスがはじめから抱える「障害」はあくまでも「家族」だけにまとめる。
そしてこれは、「家族愛」でハッピーエンドに。
次に、ストーリーが進むことで生じる「問題」が、恋と友情の板挟み。他のチームメイトとかは一切描かない。ジェスとの関わりは、ジュールズのみ。
そしてこれも、「友情」で美しくハッピーエンドに。
「お約束」の実行のために、他のことを切り捨てる潔さが秀逸。
だから見ていてとても気持ちいい。
期待通りの快感に酔える。
あと、爆笑を誘っていたのが、ジュールズのママ。
浅慮な価値観に凝り固まっている、かわいい女性。
コーチをめぐってケンカするジェスとジュールズの会話を立ち聞きして……「痴話喧嘩」だと誤解。
娘がレズだなんて!! と、いちいち過剰反応。
ママが出てくるたびに、場内爆笑。
ジェス側も、ジュールズと仲良くしているところを小うるさいおばさんに目撃され「男の子と道端でキスしてるなんて!」と誤解されて大変なことになったり。
ジュールズがとにかく、美形だから。
ボーイッシュで傲慢。引き締まったカラダもかっこいい。
……男の子にまちがえられたり、レズの男役だと思われたり。大変だな(笑)。ふつーに恋してる女の子なのに。
クライマックスの結婚式のシーンがいいよ。
カラフル!!
インドの結婚式って大変だ。
踊れ踊れ。
幸福を祝って踊れ。
インド女性として、同族に祝福されて結婚する姉と、それらすべてと相反することになる、サッカーの決勝戦で戦う妹の、対照的な……でもそれぞれがもっともしあわせなシーンが交差して描かれる。
たのしい映画だった。
エンディングはNG集みたいになってるの。かわいいー。
スタッフもキャストも、サリーを着たおばーちゃんも、ころころしたおばさんも、みんなみんな踊り出す。
かわいいー。
原題は「ベッカムのようにボールを曲げろ」という意味らしい。
ベッカムがボールを曲げるように、自分の人生を自分の力で曲げろ、という、エールに満ちたタイトル。
すべてが直球勝負だ(笑)。
大好き。
せっかくわたしに似て美人なのに、ちっとも女の子らしくしない。
男の子にもおしゃれにも興味なし。男の子みたいな格好しかしないの。そして、よりによってサッカーに夢中。
今日も同じ女子サッカーチームの友だちが遊びにきている。
ケンカでもしたのかしら。なんだか雰囲気が悪かったけれど……。
「あなたは私を裏切ったのよ!!」
娘の叫び声。
お茶とお菓子を運ぼうとしたわたしは、ドアの外で凍り付く。
娘とその友人の少女が激しく口論している。
その内容は……。
ああ、神様!!
友人じゃない。
あの少女は、娘の恋人だわ!!
☆
ご機嫌な映画を見ました。
『ベッカムに恋して』。
バーミンダ・ナーグラ、キーラ・ナイトレイ主演。
女の子のサッカー映画。
……と言えば、想像するよね? その想像まんまの映画。
主人公のジェスはサッカーに夢中な女の子。部屋はあこがれのベッカムの写真だらけ。彼女は毎日、男の子にまざってボールを蹴っていた。
インド系イギリス人の彼女の家庭は厳格。「女の子は女の子らしく!」が基本。両親はジェスがサッカーをすることに大反対。
ある日ジェスはジュールズという少女に、女子サッカーチームに誘われた。女の子にもサッカーリーグがある! そのことを知ったジェスは家族に内緒でチームに入る。
チームは勝ち続け、ジェスにはサッカー選手としての輝かしい未来が予想される。
……が。サッカーチームに入っていることが、両親にバレてしまった! 当然ジェスはサッカーを禁止され……。
「女の子は女の子らしく」という概念。「女は家庭に入るのがいちばんの幸福」という概念。「おっぱいが邪魔でプレイできないだろ?」と笑う男たち。
それらをはねのけて、自分で人生を切り開いていく女の子たちの青春映画。
友情と恋と夢と家族愛。
女の子のサッカー映画、と聞いて想像するまんまの映画。
そう、まんまだからいいのよ。
見ていて気持ちいい。お約束のテーマとストーリーを真っ向勝負。
ヒロインのジェスがインド系だってのがいい。
現代のふつーの家庭の女の子が、「サッカーなんてはしたないものは禁止!」って言われても「はぁ?」って感じだよね。ふつーにスポーツじゃん、って。家族の反対が、大して障害にならないよね。
でも、なんといっても彼女はインド系。規律の厳しさが、わたしたちとはチガウ。
家族の反対が、とても大きな障害なの。そりゃ、この家庭環境でサッカー選手になろうなんて、ものすごい反骨心だよ、と思わせる。
現代で「身分違いの恋」をやってもそれほど盛り上がらないけど、明治時代とかヨーロッパの貴族社会とかでやると盛り上がるのと同じ。
障害が障害として、正しく機能。
インド系イギリス人の生活なんて、まったく知らなかったから、それを見るだけでも興味深かった。
ほんとにインド人なんだ……家も服もふつーに現代なのに。生活はイギリス、でも習慣はインド。なんて頑な。日本とはチガウ。
女の子と家族、女の子と社会の戦いの物語。
ジェスとジュールズ、ふたりの少女はそれぞれ両親にサッカーを反対されている。
インド人とイギリス人ってことで、反対の度合いがチガウけれど。
インド人のジェスは完全反対、イギリス人のジュールズは反対はされるけれど、されるだけで、彼女は自分のしたいようにすることができる。
この対比もいい感じ。
立場はまったく同じなのに、障害の大きさがチガウの。それが民族のちがい。
インド娘とイギリス娘の家庭が、きちんと描いてある。
……自由度のちがいはあるものの、家族や社会に理解されずに、自分の道を貫くのはつらいよね。
だから応援したくなる。
がんばれ、女の子。
自分の人生を、自分の意志で決めるんだ。
女の子と家族の関係が、とてもいいの。
対立を描くわけだから、主人公の女の子側ばかりを描いてもダメ。障害となる家族側も、ちゃんと描かないと。
いいファミリーなんだ。
ジェスもジュールズも、いい子だってのが納得できる。このファミリーに愛されて育ったんだから、そりゃいい子たちだろうよ。
そしてもうひとつのお約束、恋と友情。
ジェスとジュールズは、同じ男性を好きになる。
チームのコーチで、ハンサムでやさしく厳しい好青年。
さあ、男が絡めば友情は危機だ。
ジェスとジュールズは絶交!!
……まったく、女の子ってば、公私の区別つかないからなあ。恋とサッカーは別もんだろうに……恋でモメると、サッカー的にも大変さ。
これらの出来事は、すべて気持ちのいい大団円になだれ込む。
そりゃーもー、お約束通りに。
期待通りに。
この映画の気持ちいいところは、すべてが「お約束通り」であることだ。
お約束の気持ちよさを優先して、気分の悪くなるよーな部分は描かない。
たとえば、家族に内緒でチームに入ったジェスは、金銭的なことはどーなっているのか? とか。
日本のサッカーマンガでこのパターンならまず、主人公はチームの月謝に苦労するね。ユニフォーム代、シューズ代はもとより、スタンドの使用料、コーチの給料とか、月謝として徴収されるよねえ? 高校生の女の子が、学校に通いながらどう捻出するんだ?
でもそんな部分は描かない。ジェスは問題なく毎日練習して腕を上げていく。
たとえば、ジェスとチームメイトの軋轢。
スカウトで入ってきた、「家族には秘密」のストライカー。家庭都合で試合に出たり出なかったり。
ふつー、嫌われるって。ジェスが入ったことで、レギュラーからはずされた子とかがいるはずだ。あとから来たジェスより、もとからいる子を大事にしないか、他のチームメイト?
でもそんな部分は描かない。ジェスは問題なくチームメイトに迎えられ、毎日たのしく練習して腕を上げていく。
ジェスがはじめから抱える「障害」はあくまでも「家族」だけにまとめる。
そしてこれは、「家族愛」でハッピーエンドに。
次に、ストーリーが進むことで生じる「問題」が、恋と友情の板挟み。他のチームメイトとかは一切描かない。ジェスとの関わりは、ジュールズのみ。
そしてこれも、「友情」で美しくハッピーエンドに。
「お約束」の実行のために、他のことを切り捨てる潔さが秀逸。
だから見ていてとても気持ちいい。
期待通りの快感に酔える。
あと、爆笑を誘っていたのが、ジュールズのママ。
浅慮な価値観に凝り固まっている、かわいい女性。
コーチをめぐってケンカするジェスとジュールズの会話を立ち聞きして……「痴話喧嘩」だと誤解。
娘がレズだなんて!! と、いちいち過剰反応。
ママが出てくるたびに、場内爆笑。
ジェス側も、ジュールズと仲良くしているところを小うるさいおばさんに目撃され「男の子と道端でキスしてるなんて!」と誤解されて大変なことになったり。
ジュールズがとにかく、美形だから。
ボーイッシュで傲慢。引き締まったカラダもかっこいい。
……男の子にまちがえられたり、レズの男役だと思われたり。大変だな(笑)。ふつーに恋してる女の子なのに。
クライマックスの結婚式のシーンがいいよ。
カラフル!!
インドの結婚式って大変だ。
踊れ踊れ。
幸福を祝って踊れ。
インド女性として、同族に祝福されて結婚する姉と、それらすべてと相反することになる、サッカーの決勝戦で戦う妹の、対照的な……でもそれぞれがもっともしあわせなシーンが交差して描かれる。
たのしい映画だった。
エンディングはNG集みたいになってるの。かわいいー。
スタッフもキャストも、サリーを着たおばーちゃんも、ころころしたおばさんも、みんなみんな踊り出す。
かわいいー。
原題は「ベッカムのようにボールを曲げろ」という意味らしい。
ベッカムがボールを曲げるように、自分の人生を自分の力で曲げろ、という、エールに満ちたタイトル。
すべてが直球勝負だ(笑)。
大好き。