「オギー作品」だから、すべてのシーンが意味を持ってつながっていなくてはならないとか、ストーリーがあるべきだとか思っているわけではなくて。メインキャラは通し役に違いないと思っているわけでもなくて。
 ただわたしは、わたしが観たいように観て、感じて、たのしんでいる。

 NOWONも見てないし、雑誌も読んでないし、キャストがお茶会などあちこちで話しているらしい設定等も、関係なし。
 オギー自身の話は聞いてみたいが、それ以外の人の目や口を通した舞台裏にも真実にも興味はない。

 わたしは、わたしが実際に見て、感じたものだけを俎上にあげる。

 『TUXEDO JAZZ』

 そのうえで、思うこと。

 このショーは、不思議の国を駆け抜ける、ウサギとアリスの物語みたいだ。

 ウサギとアリス。
 オサと彩音。
 もしくは、彩音とオサ。
 どちらもアリスであり、アリスにとってのウサギである。

 このふたりは、それぞれ別の次元で互いに出会い、追いかけっこを繰り返しているのではないか、と。

 えー、そもそも、友人ドリーさんのツッコミから、わたしの思考はスタートしました。

「まっつばかり見てるから、気づいてないでしょ」

 なんて容赦ないツッコミ。ええ、その通りです。言われるまで、知りませんでした。
 プロローグ、オサ様は、彩音ちゃんを置いて消えてしまうんだって?

 初日、プロローグの最後、銀橋に勢揃いしたメンバーの中、まっつだけをオペラグラスでガン見していて、まさかの銀橋ソロに驚愕、ふとオペラを下ろしてさらに驚愕、銀橋にいるの、まっつと彩音ちゃんだけ?! とびびりきっていた、あのシーンですよ。

 なんで、まっつと彩音ちゃんがふたりきりになっていたか。
 オサ様もいたはずなのに、彩音ちゃんだけなのか。

 まっつばかり見ていたから、ドリーさんに指摘されるまで気づきませんでした。
 彩音ちゃんがよそ見をしているうちに、オサ様は背中を向けて消えてしまうわけですよ。

 なんで?
 どーしてオサ様は消えるの? や、まっつと彩音ちゃんのシーンは大好きだから、うれしいけど。

 何故、オサ様は消えるのか。
 そこから、スタートした。
 
 改めて考えると、オサと彩音は微妙にすれ違っている。
 ラヴラヴしていない。……しているところもそりゃあるが、「ドラマ」のあるところでは見事に恋人同士設定になっていない。

 いつもいつも、互いが互いを探している。

 ウサギを追いかけるアリスみたいに。
 

 NYの雑踏からはじまるこの作品。
 街を歩く彩音ちゃん、そこに響く姿の見えないオサ様の歌声。
「♪あなたは知らない さびしい時には こんなに近くに 僕がいることを」
 「知らない」のか。
 歌声に反応した彩音ちゃんは舞台から消え、そのうえで窓からオサ様登場。

 最初からすれちがっているふたり。

 ふたりが出会うのは雨の中。
 「なつかしい、でもはじめて出会う」と「雨が涙に見えた」……過去のオギー作品でも定番(笑)ですな。
 ふたりは出会うべくして出会った恋人同士なのか。現実なのか夢なのか、判別の出来ない青い雨の中の、美しい場面。
 ここではたしかにラヴラヴ、一緒にはけていく。

 次に、華やかなプロローグ総踊り最中、ふたりは共にペアルックで現れる。
 わかりやすく「レヴュー・シーン」なので、ふたりがそろっていてナンボ、だと思う。
 幸福そうな陽気な場面。
 なのにこの直後、山高帽の紳士@まっつが「夢」を歌っている間に、オサ様は消えてしまうんだ。
 ラヴラヴの恋人・彩音を残し。

 それで彩音ちゃんは、オサ様を探しはじめるわけっす。まっつにぶつかったり、急かして追い立てたりして。
 本舞台に戻った彩音ちゃんはタクシーに乗りドタバタGO! JAM! JAM!

 彩音の大冒険(笑)は、自動車事故で一旦終わる。
 コメディシーンのオチとして出てくる、ユーモラスな風情の怪我人にまざり、シリアスな怪我人の少女@ののすみが現れる。

 彩音サイドの物語は、ののすみのリンクによって、オササイドの物語につながる。

 ダークサイドに生きる男、オサ。
 そこにいるのは、オープニングで陽気に踊っていた青年とは、別人のようで。
 雨の中で出会った少女にやさしくコートをかけてやり、踊る彼は、なにを思うのか。

 小雨の中のデュエットダンス。
 それは、オープニングのオサ&彩音と同じモチーフ。
 ここで流れるもえりちゃんのソロが、小雨のプロローグとまんまリンクしてる。
 「なつかしい、でもはじめて出会う」と「雨が涙に見えた」……言い回しはチガウけれど、同じ意味のことを歌っている。

 なのに、オサの生きる世界も彼自身も、あの無邪気な幸福感とはほど遠い。
 遠いけれど、探しているんだ。
 雨の中出会った運命の恋人を。

 幻かも知れない。
 幸福すぎたもの。
 青い雨、おとぎの国の王女様のような彩音と、満ち足りた紳士のオサ。
 赤いペアルックで踊っちゃったりしたのも、全部全部まぼろし?
 幸福感の余韻が、傷ついた少女@ののすみとの、なにかをいたわりあうよーな静かなダンスに、切なさを加速させる。

 探している。
 なつかしい彼女を。
 夢かもしれない、だけどたしかに共に踊った、彩音を。彼女の横で、無邪気に笑っていた自分自身を。

 つかの間のやすらぎは、マフィア世界を象徴するよーな、エロとバイオレンスな(笑)としこ姐さん乱入でぶった切られる。
 そっから先はよくあるひとりの女とふたりの男モチーフのダンスシーンへ。
 強気な美少女@由舞は、組織のボスの娘風。
 組織ともめるオサ、不安に鳴り響くクラクションとエンジン音。

 同じ世界の裏と表、ついさっき彩音がコミカルに車に乗って大騒ぎしていた記憶も新しいのに。
 同じモチーフであるはずなのに、ふたりの物語はまったくチガウ。まるで、ふたりの生きる世界の断絶感を、印象づけるように。

 もしもめぐりあうことができたって、あの幸福なデュエットダンスのよーな関係には、きっとなれっこない……そんな負の予感に、胸をかきむしられる。

 ふたつの世界の物語の、オチも同じ。交通事故。
 だけど、オサの物語はあまりにも重い苦しみに満ちていて。

 追いかけている。
 不思議の国を、ウサギとアリスが走り続ける。
 彩音にとってウサギはオサ。オサにとってウサギは彩音。
 ひとつの舞台の上で、ふたりは互いを追いかけて迷い続ける。

 現実との境があやうい、巨大な街で。

 続く〜〜。


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