さあてメインだ、中詰めのあとのカオスシーンだ、『TUXEDO JAZZ』物語、その3。歌詞はネットで拾ったり耳で覚えているだけだったりするので嘘八百の可能性アリだぞっと(笑)。

 救いとなる清浄なシーン、運命の恋人とよーやくめぐり逢うことの出来たオサなのに。

 赤い色が、ソレを阻む。

 全編通してオサの「敵」として登場するまとぶが、深紅のスーツ姿でオサと彩音を引き裂く。

 なんかねえ。
 オギーがまとぶんに興味ないのはこれまでの作品からわかっていたことだけど、それにしてもやっぱり、あんまりだよなあ。
 『TUXEDO JAZZ』ってさ、油断していると、まとぶんが目に入らないんだよ……。単独2番手だから、つーことで気は遣われているんだけど、ソレだけなんだもん。

 そしてまた、どーしてオギーがまとぶに興味がないのか、このシーンで痛感できるんだよ。

 弱い。

 存在も、毒も。
 オサの「敵」であるはずなのに、ある意味彼こそが「運命」であるはずなのに、そう見えない。周囲の毒(つっても、それほどでもない濃度)の中に、彼はすっぽり埋没してしまうの。

 役割に応じた仕事が出来ていない。
 この作品がぼやけてしまった理由のひとつは、まとぶだと思う……や、他にも原因はあるが、まとぶは2番手だから負う責任が大きいのなー。
 彼がコム姫やトウコ的持ち味の人なら、絶対「いちばんオイシイ役」になっていたし、「影の主役」になれたのに。

 恋人@彩音と入れ替わりに登場する毒女@みわっち。いやあ、これがまたわかりやすく毒々しい。
 いくら同じドレスを色違いで着ていたって、まちがうわけないよ、アンタ別人! オデットとオディール以上に別人だー(笑)。

 みわっちの方が、まとぶより強いんですが。

 みわっちを操るのがまとぶでしょう? なのに、みわっちが黒幕に見えちゃダメだってば。

 まとぶの弱さに目眩がしつつも、とりあえず惑乱のカオス。

 響く狂気の歌声は、なんと赤いシャツの男@まぁくんだ。
 オギーは「音」の使い方が巧い。その「音」には、「声」も含まれる。
 みとさんの高音もそうだし、まぁくんの声がこんなにダークに響くことも、はじめて知った。

 まぁくんは歌手ではない。てゆーかどっちかっつーと歌はアレな人。なのにわざわざ彼の「声」を使う。

 まぁくんの持つ、「若い無神経さ」が暴力的な「音」として混沌感を盛り上げるのだわ。すげーや。……歌詞はよく聞こえないけどな。(何回聴いてもよくわかんねー・笑)

 回る回る。
 狂乱の不思議の国。

 現実と夢が境界線をなくし、オサは翻弄され、飲み込まれていく。

 毒々しい赤をまとった男たちが歌い踊り、オサの同僚(仲間?)のようだったジャズバーの男たち(同じく白スーツ)も、狂ったように歌い出す。
 現実と、陸続き。
 だけどここは、ワンダーランド。

 アリスは目的を見失って歌い出す。

 汚れること。
 壊れること。
 すべてすべて、渦の中。

 過ぎた苦痛は悦楽にも似て。

 えーとここって、全員登場? とにかく、すごい人口密度。基本まっつしか見ていなかった初日、ずーっと目で追い続けていたのに見失ったくらいだ。(1階席からぢゃ無理)

 コーラス隊をのぞいた人々が、渦を作って踊り狂う。
 その頂点で。

 翻弄されたオサが、まるで投げ出されるように静止する。人の群れからも、音楽からも。
 
 そして、ひとり歌い出す。

 メロディは、運命の恋人@彩音が現れたときの、「過去形の未来」と同じ。
 清浄な光……が、あったはずのメロディ。

 だけど歌うのは、「♪止めた時計の針 真夜中少し前 やがて腐り落ちる 今日をまた繰り返す」、過去でもなく未来でもない。

 永遠に続く「今日」。

 レコードは傷ついたまま、狂ったよーに同じフレーズを繰り返し続ける。

 
 さて、もうひとりの主人公、お気楽な女の子彩音は。
 どーやらふたりの世界はこのカオスで交差しているらしい。
 オサが背負うモノを、彩音は背負わない。彼女は明るい世界に生きている。

 オサの前にグリーンのドレスで現れた彼女は、そこに運命の恋人がいることがわかっているのに、実際彼の元へ行こうとするのに、まとぶにさえぎられ、流されてしまう。

 あまりにも彼女は、「ふつー」の女の子だった。
 だからこそ、ダークサイドに生きるオサが、彼女を救いとしているのかもしれない。

 アリスであるオサの目から見れば、彼女は聖なるウサギ。彼女を追いかけて不思議の国を彷徨っていた。

 だけど彩音サイドから見れば、オサがウサギなんだ。彼女は彼女なりに、オサを追いかけていた。
 そして、このカオスに巻き込まれて。

 オサの前にみわっちが現れたよーに、彩音の前にもオサのふりをしたもうひとりの男@まとぶが現れた。
 オサと同じ白スーツ姿で、さらに彩音とお揃いのカラーを押さえて。

 王子がオディールだと気づかずに彼女の手を取ったように、彩音もまた、まとぶの手を取る。
 わたしの白ウサギは彼だと、疑うこともなく。

 オサの背負うモノを、彩音は背負わない。
 彼女が善良で、その分浅はかなのも、仕方のないことだ。タクシー探して大騒ぎしていた、明るくおバカな女の子なんだから。
 完璧な女神を愛したわけじゃない。そんな彼女だからこそ、愛したのだから。

 過去形で歌う未来のように。

 出会うことが運命だった、でも共に生きられない、なつかしいあなた。
 

 止まっていた渦が、再び回り出す。
 まとぶと彩音を追って、オサが走る。

 狂ったような歌声、ダンス。
 どこまでも回り続ける。壊れたレコード。
 昨日も消え、明日も消えた。
 あるのはただ「今日」、永遠の一瞬。

 不思議の国はなにもかも飲み込んで。

 オサの愛した彩音はまとぶの腕で微笑み、オサはひとり奈落へ落ちていく。

 
 ……ええっと。
 な、なんかすげーラストなんですが。

 しかもこの「ふつーの女の子」彩音ちゃん。
 にっこり笑ってまとぶから帽子をもらい、とりまきの男たち@まっつ、みつる、りせと恋を歌い踊るんだよ?!
 んまあ、ブラック(笑)。
 でもある意味、とても、「少女」らしい。

 無邪気な残酷さ。
 これこそが、「アリス」的かもな。
 彼女にとって「恋」はたのしいもので、心を軽くするものなんだ。それを与えてくれないオサは、やはり彼女と共に生きることはできなかったろう。

 それでも、ふたりは運命の恋人同士なんだよね……だから、かなしい。

 ここからフィナーレ、「レヴュー・シーン」なので、ここでだけまた、オサと彩音は共に過ごすことが出来るんだ。

 キラキラキラ。
 幸福な、光の洪水。
 現実と隔絶した、あきらかな夢。夢。夢。

 現実には手を取り合うことの出来ない恋人同士が、幸福そうに微笑む夢。

 そう、オディールに簡単に騙されたくせに、彩音は運命の恋人としてオサと共に踊る。
 弱い彼女は、きっとこれからもふらふら迷い続けるだろう。女神でも聖女でもない、「少女」。
 こうして触れあうことで確認しながら、逃げ込みながら。きっとまた、迷子になる。
 愛し合っていることは、たしかなのに。過ちが尽きることなんかない。

 それもまた、決まっている未来だね。

 ずっと探していた。
 アリスのように。
 あなたを探して、彷徨い続けていた。

 出会うことが運命だった、でも共に生きられない、なつかしいあなた。

 キラキラ、幸福感がまぶしい。
 そして、かなしい。

 「♪目が覚めれば夢の続き いつも嘘になる」……なにもかもわかっていて見る夢だと、オサが歌う。

 そう、彼は知っている。絶望も焦燥も狂乱も、なにもかも、受容しているんだ。
 「自由」に歌うジャズのよーに。
 心だけは自由であると、解き放たれた笑顔で歌う。

 もどかしい運命も、完璧でない恋人も、なにもかも。
 なにもかも。

 カオスもワンダーランドも、ここにある。

 それを知るからこそ、彼は豊かな声で歌うんだ。ひょうひょうとした笑顔で。
「♪思い出の街 ここに生まれて たとえ遠くに旅しようと また帰り来る」
「♪誰もが皆ここでは自由に生きている」

 あああ、オサ様、好きだ〜〜っ!!(勝手に叫ぶ)


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