98年雪組バウホール公演『凍てついた明日』の思い出を語る。
 や、なにしろ年寄りですから! 過去にしがみついてなんぼですから!

 トウコのキスシーンが、ヘタだった。
 
 ……って、語るべき最初のことがコレ?!
 いやその。
 けっこう衝撃的でしたから。優等生でなんでもできちゃう安蘭けい氏の意外な弱点。
 うるさい女の口をキスで黙らせる……という、ありがちゆえにキャッチーなシチュエーションにて。
 ジェレミー@トウコはへたっぴゆえに、チューしてないのが丸わかり。実に興ざめなことをしておりました。
 わたしゃ『凍てついた明日』を複数回観たが、全回へたっぴで、トウコとビリー@まひるの顔はものごっつー離れていて、また客席からソレが丸見えだった。
 女同士なんだからほんとにするわけないのはわかっているが、ソレを忘れさせてこそのタカラヅカ。「してません」「ただの振りだけです」ってのが丸見えなのは夢がなさ過ぎる。

 あんなにチューがヘタだったトウコさんが、『王家に捧ぐ歌』ではものごっつー色っぺーキスシーンをかましてましたなあ……年月は人を変えるのですな。

 
 トウコちゃんがキスヘタだったことは、置くとして。

 当時の記憶を振り返り、記しておく。や、再演によって記憶が上書きされてしまうかもしれないから。『ANNA KARENINA』を観て、ちょっと焦った模様(笑)。
 

 当時のわたしは、今のように「全公演観るわ!」てな人じゃなかった。
 本公演は全組1回は観るけど、バウまでは観ない。だってバウは完売が基本で、発売日早朝からプレイガイドに並ばないとチケットが手に入らなかったんだもの。興味のない人の主演公演にそこまで労力はかけられない。

 そして幸か不幸か雪組バウ公演の多くは、早朝から並ばなくても、発売日の昼にプレイガイドへ行けばまだふつーに売ってたんだよねー、チケット。
 『アリスの招待状』もこの『凍てついた明日』も、そーやって難なくチケットを買ったと思う。どちらもケロ目当てで、まだどれだけ出番や台詞があるかもわからない脇の下級生ケロのために早朝から並ぶまでのガッツはなく、発売日の昼に梅田のバイト帰りに三番街に寄る……てのがお決まりのパターンだった。(さすがに『晴れた日に永遠が見える』は完売でこんな時間には買えなかった。『アナジ』は並んで買ったし、たしか完売した。『ICARUS』は完売していたと思う。サバキが取れなくて苦労した。『心中・恋の大和路』は余っていた。……以上、雪時代ケロバウの話でした・笑)

 演出家は知らない人だし(歌ヘタな人が苦手ゆえ、当時は星組をほとんど観ていなかった。ゆえに『夜明けの天使たち』はタイトルを聞いたことがある程度)、主演のタータンは歌は巧いけど……つか、ダンスも芝居も巧くて三拍子そろった人だけど、そのビジュアルと声質ゆえにすごーく苦手だった人。わたしはマンガ・アニメヲタクゆえ、「声」が好みでないと全体的に苦手度が上がるんだなー。

 とてもじゃないが期待なんかできなかった。ケロがいなかったら、絶対観ていない。

 その程度の熱意で観劇し。

 人生変わるほど感動する(笑)。

 どんだけ感動したかって、いきなりイラスト描いてヲタ友へFAX送りつけるくらい、感動した(笑)。
 当時のわたしはヅカファンではあったがまだヲタクと呼べるほどではなく、どっちかっつーとマンガ・アニメヲタクだった。ふつーにマンガ絵を描いてヲタク仲間と本を作ったりコミケに行ったりして遊んでいた。や、わたしは基本字書きだったんだが、絵も描いた。
 タカラヅカなんか観たこともないマンガヲタク仲間へ、すげー熱意で感動を語ったわけだ。

 わたしがあまりに絶賛するもので、「ヅカは興味ないけど、この作品だけは観てみてもいいか」とヲタ友が重い腰を上げてくれた。
 売れてない公演でよかった、まったくの初心者がひとりでおっかなびっくり青年館へ行き、ふつーに観劇できたんだから(笑)。
 ええ、友人は東京在住、わたしは大阪、エスコートもなしでヅカデビューがいきなり青年館て。
 そして彼女も一発でオギーファンになった。オギーの外部舞台は観に行く人になった。……ええ、ヅカにもジェンヌにもハマることなく、外部限定(笑)。

 どうも、ヲタクの心を壮絶に揺さぶるナニかがあったらしい。
 以後もヲタ友にビデオを見せるとすげー反応が返る。

 が。
 当時の評判はよくなかった。

「よくわからない」

 客席で、ロビーで、えんえん耳にした。

「暗い」「つまんない」「題材がよくない」「史実とチガウ」「映画とチガウ」

 1枚しかチケットを持ってなかったわたしは、初日の幕が開いてからありがたくチケットカウンターで買い足すことができた。人気ないと買い放題ねー、助かるわー。(自虐)
 つっても、今とは時代がチガウので「売れてない公演」ったって、空席は後方端席ぐらいのもんだったけどな。(現代の「売れてない公演」てのは、客席半分近く空席だよなー)

 2回目の観劇からは、オープニングですでに号泣、2時間ほぼ泣きっぱなし。
 タータンを好きぢゃないとか言ってる場合か。すごい作品だよ〜〜。

 でもほんと、当時は語り合える人がいなくて。
 周囲は友人知人、隣の座席になっただけの人やトイレの列の前後だった人、あんまりな感想がとびかっていて。

「最後死んじゃうから可哀想で泣いた」

 にも腰くだけだが、

「えーと、あのラストシーンは、愛し合うふたりは天国で幸せになりましたってこと?」

 とか言われちゃうと、もお……。
 わたしはひたすら無口でした。感想からただの世間話に話題変えたりな。

 「主人公たちが死ぬ=天国で幸せになりました」という「タカラヅカ脳」な人たちより、エヴァとかにハマってるヲタク仲間に観て欲しい、ヲタク仲間と語り合いたいと、心から思いましたよ……。

 わたしはもちろん主役に感情移入して観るので、クライド@タータンとボニー@ぐんちゃんに夢中だった。
 回数を重ねることにより、周囲のキャラ視点にもなり、すべての人がせつなくて泣けた。

 観劇後に誰か友人が言ったんだよね。Be-Puちゃんだったかな。

「クライドってさ、まだハタチそこそこの青年なんだってねえ……」

 ……は? ハタチ、そこそこ? え? 誰が?

 30過ぎのおっさんの話ぢゃなかったのおぉ?!

 たしかに作品中年号が出てくるので、クライドたちがいくつだったか推察できる。
 クライドはボニーと出会ったときに21とかそのへんだ。

 しかし。
 耳に入る情報と、目に映る情報が、違いすぎる。
 ボニーはともかく、クライドはどう見ても30過ぎてるよ……。
 モラトリアムの幼い青年の暴走ではなく、分別ある大人が人生に悩んで暴走したよーに見えるよ……。

 クライドの年齢によって、作品の意味が大きく変わるので(幼いゆえの痛みと、大人の痛みはチガウ)、作者の意図がソコでわからなくなった(笑)。そして、主演がタータンだからこそこんなに感動したのだと思いつつも、タータンで正しかったのか? と疑問も持つのだった。

 てゆーか、そしたらレイモンド@ケロはいくつよ……彼も20代の若造だったのか……? 見た目おっさんだったぞ……と、混乱は広がる(笑)。

 
 かなめくん主演の再演WSに期待しているのは、「年齢通りのクライド・バロウ」を見られるのではないか、ということだ。
 ハタチちょい過ぎの、まだ若すぎる、成熟していない感性ゆえの悲劇として。
 それだけで、タータンとは別物だろう。

 過去の記憶を書き換えられたくない。
 だけど、新しい出会いにわくわくしているのも、ほんとう。


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