彼でよかった、と思うんだ。@星逢一夜
2015年7月29日 タカラヅカ 『星逢一夜』初日を観て思った。
この役でかっこいいとか、だいもんすごいな。
2番手役の源太@だいもん。
農民で、変な髪型してて、きれいじゃない衣装しかなくて、大人になったらすげー老け込んでて、得意技は土下座、棒きれ持って「一揆だーー!」な役でヒロインの泉@みゆちゃんを妻にしているが、泉はずっと源太ではなく主人公の晴興@ちぎを愛していて、武士の晴興に勝てるわけもないのに決闘して殺されてしまう。
こうして羅列するとすごいな。
こんだけ「かっこいい要素がない」役で、「それでもかっこいい」あたりがすごいなと。
ちぎくんの役・晴興は、「悲劇のヒーロー」。
立場的に悪を演じるしかない、その苦悩を真正面から描いてある、美しい役。
源太はその美しいヒーローに逆らう役。
晴興の苦悩は描かれているけれど、源太はない。
こんなに考えていて、こんなに苦悩している晴興の気持ちも知らず、晴興をさらに苦しめて、勝手に自滅する。
主役を第一に美しく正当として描くのは当然。
それに抗う者を、さて、どう描くか? フィクションの醍醐味。
勧善懲悪をやる場合は、悪役はとことん悪に、「滅ぼされて当然」なくらいひどく描かなくちゃ。日本人は弱い者、負ける者に感情移入しがち、倒される悪役に感情移入して主役のことを「正義の名を騙った偽善者!」と思わせない配慮が必要。
だからヅカの悪役は、専科のおじさまが演じる徹底的な悪か、「滅びの美学」を持つ番手付き美形スターが演じる悪と、2分化される。
2番手スターが演じる悪は、「悪を行う理由」と「滅びることも魅力のひとつ」と納得させる工夫必須。
しかし今回の晴興さんは、立場逆転の「2番手悪役」をあえて主役にした役。
2番手悪役お約束の「悪を行う理由」「滅びの美学」をこれでもかと打ちだした、美しい役。
ふつーのピカレスクロマンとも違い、「俺は悪だ」という開き直りもなく、「ならぬものはならぬ」という「俺は正義。しかし、市井の者には理解されない」というスタンス。
こんな主人公に対する「敵役」って、どうするの?
悪役主人公だから、敵対する相手は「正義の味方」。
でも、正義の味方をそのまま描いたらまずい。主人公はあくまでも悪の幹部なんだから。
源太が農民なのは、必然かなと思う。
彼が藩や国の政治に関われるほどの学歴・富・身分を持つ者だったりしたら、大変だ。
身なりも美しく言葉も端正で、真正面から晴興の間違いを指摘し、弱い者の立場に立って闘いを挑んで来たら、どっちが主役かわかんなくなる。しかも彼は晴興に滅ぼされるわけで、そりゃもうますますどっちが主役か……。
だから、農民なのは必然。
晴興の正しさを理解出来ない、目の前のことしか理解出来ない存在。
姿もみすぼらしく、なんの力もない。
もちろん、大河ロマンなら、対等の力を持つ主人公とライバルのそれぞれの正義と思い、同格であるがゆえの緊迫した闘いを書けるけど、90分の短編ドラマ枠でそれは無理。主人公側しか描く時間ないから、ライバル役は「主人公より劣る役割」にしておくのが安全。
という、作劇上の事情もあって、かっこ悪い要素てんこ盛りで設定されている役。
この役でかっこいい、って、どんだけ……。
観ていて思ったのは、「この役は一歩間違えるととんでもなくバカになるな」だった。
カンチガイ、空回り、煽動と破滅、人騒がせ。
大雑把とか無神経とかおバカとか、ジェンヌにありがちな持ち味のある人が演じたら、大変なことになる。
や、おおらかで下界に足を囚われず明るくキラキラしているのは、スターの魅力だからそれはいいんだけど、その持ち味でこの役やったら大事故になるなと。
だいもんでよかった……。
まあ、ウエクミだから、クラッシャーになる人に源太はやらせないだろうけど。それにしても、この役を成立させるのって、タカラジェンヌとしてはなかなか特異だなと。
そして、この源太役を成立させてしまうからだいもんは「トップスター路線ではない」と、思う人は思うだろうし、この役を成立させてしまうだいもんだからこそ、わたしは好きだと思う。
そして思うんだ。
雪組すごい。
トップスターと2番手が対立する役をやる場合、双方の力量が近くなくてはならない。
例外を除いて番手は学年順だから、もっともキャリアがあるのがトップであり、2番手はキャリアが少ない分トップに比べて力不足なのはあたりまえ、仕方ない。だとしても、敵役をやるなら2番手に力が必要。
そして、ピカレスクロマン、トップの演じる役が悪で、対立する2番手が善である場合、さらにさらに、双方に拮抗した力が必要。
……いやあ、ふと『エル・アルコン-鷹-』を思い出してさー。
悪の主人公と、正義の2番手……なんだけど、トップと2番手の力量が違いすぎてねー……本役と新公くらいの差があるもんだから、そりゃーもー正義の2番手がアホっぽくなっちゃって……。大変だったなあ、アレ。
それも含めて好きだったけど(笑)。
2番手に力がなかったら、源太はただのアホになったんだろうなと思い、つくづく、しみじみ、だいもんでよかったと思う。
この役でかっこいいとか、だいもんすごいな。
2番手役の源太@だいもん。
農民で、変な髪型してて、きれいじゃない衣装しかなくて、大人になったらすげー老け込んでて、得意技は土下座、棒きれ持って「一揆だーー!」な役でヒロインの泉@みゆちゃんを妻にしているが、泉はずっと源太ではなく主人公の晴興@ちぎを愛していて、武士の晴興に勝てるわけもないのに決闘して殺されてしまう。
こうして羅列するとすごいな。
こんだけ「かっこいい要素がない」役で、「それでもかっこいい」あたりがすごいなと。
ちぎくんの役・晴興は、「悲劇のヒーロー」。
立場的に悪を演じるしかない、その苦悩を真正面から描いてある、美しい役。
源太はその美しいヒーローに逆らう役。
晴興の苦悩は描かれているけれど、源太はない。
こんなに考えていて、こんなに苦悩している晴興の気持ちも知らず、晴興をさらに苦しめて、勝手に自滅する。
主役を第一に美しく正当として描くのは当然。
それに抗う者を、さて、どう描くか? フィクションの醍醐味。
勧善懲悪をやる場合は、悪役はとことん悪に、「滅ぼされて当然」なくらいひどく描かなくちゃ。日本人は弱い者、負ける者に感情移入しがち、倒される悪役に感情移入して主役のことを「正義の名を騙った偽善者!」と思わせない配慮が必要。
だからヅカの悪役は、専科のおじさまが演じる徹底的な悪か、「滅びの美学」を持つ番手付き美形スターが演じる悪と、2分化される。
2番手スターが演じる悪は、「悪を行う理由」と「滅びることも魅力のひとつ」と納得させる工夫必須。
しかし今回の晴興さんは、立場逆転の「2番手悪役」をあえて主役にした役。
2番手悪役お約束の「悪を行う理由」「滅びの美学」をこれでもかと打ちだした、美しい役。
ふつーのピカレスクロマンとも違い、「俺は悪だ」という開き直りもなく、「ならぬものはならぬ」という「俺は正義。しかし、市井の者には理解されない」というスタンス。
こんな主人公に対する「敵役」って、どうするの?
悪役主人公だから、敵対する相手は「正義の味方」。
でも、正義の味方をそのまま描いたらまずい。主人公はあくまでも悪の幹部なんだから。
源太が農民なのは、必然かなと思う。
彼が藩や国の政治に関われるほどの学歴・富・身分を持つ者だったりしたら、大変だ。
身なりも美しく言葉も端正で、真正面から晴興の間違いを指摘し、弱い者の立場に立って闘いを挑んで来たら、どっちが主役かわかんなくなる。しかも彼は晴興に滅ぼされるわけで、そりゃもうますますどっちが主役か……。
だから、農民なのは必然。
晴興の正しさを理解出来ない、目の前のことしか理解出来ない存在。
姿もみすぼらしく、なんの力もない。
もちろん、大河ロマンなら、対等の力を持つ主人公とライバルのそれぞれの正義と思い、同格であるがゆえの緊迫した闘いを書けるけど、90分の短編ドラマ枠でそれは無理。主人公側しか描く時間ないから、ライバル役は「主人公より劣る役割」にしておくのが安全。
という、作劇上の事情もあって、かっこ悪い要素てんこ盛りで設定されている役。
この役でかっこいい、って、どんだけ……。
観ていて思ったのは、「この役は一歩間違えるととんでもなくバカになるな」だった。
カンチガイ、空回り、煽動と破滅、人騒がせ。
大雑把とか無神経とかおバカとか、ジェンヌにありがちな持ち味のある人が演じたら、大変なことになる。
や、おおらかで下界に足を囚われず明るくキラキラしているのは、スターの魅力だからそれはいいんだけど、その持ち味でこの役やったら大事故になるなと。
だいもんでよかった……。
まあ、ウエクミだから、クラッシャーになる人に源太はやらせないだろうけど。それにしても、この役を成立させるのって、タカラジェンヌとしてはなかなか特異だなと。
そして、この源太役を成立させてしまうからだいもんは「トップスター路線ではない」と、思う人は思うだろうし、この役を成立させてしまうだいもんだからこそ、わたしは好きだと思う。
そして思うんだ。
雪組すごい。
トップスターと2番手が対立する役をやる場合、双方の力量が近くなくてはならない。
例外を除いて番手は学年順だから、もっともキャリアがあるのがトップであり、2番手はキャリアが少ない分トップに比べて力不足なのはあたりまえ、仕方ない。だとしても、敵役をやるなら2番手に力が必要。
そして、ピカレスクロマン、トップの演じる役が悪で、対立する2番手が善である場合、さらにさらに、双方に拮抗した力が必要。
……いやあ、ふと『エル・アルコン-鷹-』を思い出してさー。
悪の主人公と、正義の2番手……なんだけど、トップと2番手の力量が違いすぎてねー……本役と新公くらいの差があるもんだから、そりゃーもー正義の2番手がアホっぽくなっちゃって……。大変だったなあ、アレ。
それも含めて好きだったけど(笑)。
2番手に力がなかったら、源太はただのアホになったんだろうなと思い、つくづく、しみじみ、だいもんでよかったと思う。