『アイラブアインシュタイン』の破綻っぷりについて、続き。

 悪役チームはアンドロイドを軍事利用しようと企む。
 軍事利用、っていい言葉だよね。整合性なくても「軍事利用」って言葉を出すだけで「悪!!」ってことになるの。
 だから、すべてのクリエイターは、悪役を出すときにこの魔法の言葉を使うといいのよ。読者も視聴者も観客も、他になんの説明も不要、反射的に「悪!!」と思ってくれるから。
 や、わたしも嫌ですよ、軍事利用。アンドロイドでも洗濯機でも、その用途で作られたものではないのに、軍事利用する組織がいたら、「悪!!」だと思う。「宝塚歌劇団を軍事利用しようとする政治家が現れた」とか、「絶対許すな!」と思うよ。
 現実の「戦争反対」ハートと、作劇のご都合主義「軍事利用」はまったく別の意味で捉えているだけで。

 まあともかく、軍事利用。
 悪役チームは、現在の日常作業で活躍しているアンドロイドを、軍事利用しようと考える。
 だがアンドロイドは「人間を傷つけられない」設計になっている。
 その設計を崩すには、対象の区別なく攻撃出来るよう仕様変更するのではなく、何故か「アンドロイドの感情を暴走させ、破壊衝動を起こさせる」そうな。

 アンドロイドに感情はない、はずなのに、それを暴走させる……。
 ひどいダブスタだけど、まあ、そういうことが出来るとして。

 暴走して破壊行動に出るよーな危険な存在を軍事利用できるはずがない。

 軍事利用=安全性無視、じゃないよ?
 戦場にはアンドロイドだけしかいないわけじゃないでしょう?
 軍事利用……つまり、高い戦闘力を持つ道具であるならば、安全性は日常生活レベルを超えて重要になるんですが。

 戦闘用アンドロイドに必要なのは「暴走する破壊行動」ではなく、「どの対象を破壊するか、指示・制御する」技術ですよ……?

 もー、聞いていてアタマが痛くなるレベルでアホアホなんだが、この理屈で悪役チームは動く。
 そしてやることが、「アンドロイドが人間を傷つけた」と自作自演して、民衆の恐怖心をあおること。
 いや、おかしいから。

 「人間を傷つけるよーなモノ」を軍事利用させよう! って、恐怖におののく市民に演説しても、逆効果だから!
 そんな危険なモノに、さらに高い殺傷力を与えるってことでしょ?
 ふつう、「危険なモノ」を見たら、「鎮圧・排除」を望むよね?
 無差別殺人犯が銃を乱射してます、この殺人犯に武器をたくさん与えて軍事利用しましょう! って、誰が思うよ? 「そんな危険なモノに、危険な武器を与えるのはやめてくれ!」だよね?
 この方法おかしすぎる。

 さらに。
 「人間から物を奪い、攻撃した」と濡れ衣を着せられたアンドロイドの少年は、なにを言われても言い返せない。人間に逆らえない設定だからだ。
 その段階で、人間を傷つけたというのがおかしいとわかる。反論ひとつできず、拘束を振り払うこともできないモノが、奪い攻撃できると?
 この自作自演は、この段階ですでに「悪役たちの主張は嘘」「アンドロイドは安全」と証明しているようなものだ。

 この自作自演はアンドロイドを「道具」としてではなく、「社会的弱者」として扱っているゆえに成立するエピソード。
 アンドロイドは「道具」だから、軍事利用しよう、という流れなのに。
 作者はここでダブスタを発揮し、罪を着せられる少年アンドロイドを使い、「社会的弱者が虐げられる」ことでわき上がる観客の義侠心を利用している。
 なのに、台詞でだけは「アンドロイドは道具」と主張し続ける。

 さらにこの自作自演話はトンデモ理論を主張する。

 少年アンドロイドが責められているのに、少年アンドロイド自身もなにも言えず、他のアンドロイドもなにも言い返さない。
 悪役たちはそのことを「冷酷だ」と言う。だからアンドロイドは危険だと。

 あのー、人間になにを言われても、されても、一切逆らえない、というのぱ従順さを表しているわけで。
 そこは「アンドロイド安全!」と考えなければならないところ。

 なのにみんなそろって「アンドロイドは冷酷!」って。
 「使えない洗濯機だ!」って蹴っても、洗濯機はなにも言い返さないよね? それに対して「仲間の洗濯機が蹴られているのに、冷蔵庫も電子レンジもナニも言わない。家電は冷酷だ」って言う?

 アンドロイドに感情はない、っていう設定はどこへ……。

 なにもかもおかしい。

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