100周年って、すごい。

 雪組全国ツアー『ベルサイユのばら-オスカルとアンドレ編-』が、良くなってた! 改善されてた!
 もちろん根っこは植爺『ベルばら』だから間違ってるんだけど、植爺の間違った脚本を、全力で改善していた。

 無理な増築を繰り返し、土台もナニも崩れかけた築100年の家を、リフォームの匠が甦らせるような感じ。
 元が間違ってるから限界はあるけど、直せるところは全力で直しました、「なんということでしょう!」。


 まず、なんといっても、主人公・オスカルの描き方。

 雪組が去年上演した『フェルゼン編』は、オスカルの出番が少なかったから、まだマシだった。オスカルの人格が。植爺作品の特徴、「出番が少ないキャラクタの方が、魅力的」。出番が多ければ多いほど、台詞が多ければ多いほど、人間として最低になっていく法則ですから。
 でも今回は『フェルゼン編』より前の月組公演、『オスカルとアンドレ編』の再演だ。このバージョンでのオスカルのキモチ悪さは半端ナイ。
 原作のオスカルをすべて逆にしたらこうなる、という女々しく無能で卑怯で優柔不断な人物だ。
 二人称の統一ぐらいでは、とても太刀打ちできない。

 観劇しながら、「あー、そうだった、そうだった。『オスカルとアンドレ編』ってそうだったわ」と思い出し、げんなりした。「嫌いポイント」を再確認して。
 ……なのに。

 嫌いポイントが、いろいろと改善されている!!

 さぶいぼ系の嫌いポイントが、アンドレ毒殺未遂のあと。
 「オレの役目は終わったのかもな……」と自嘲して出て行くアンドレ、ひとり部屋に残されたオスカル。
 この残されたオスカルが、「アンドレ……そんなに思い詰めていたのか……」と言うのが、ぞっと震えが来るくらい、大嫌いっ!!

 昔はなかったのよ、この台詞。たしか。
 でも最近の『ベルばら』から、付け加えられた。

 なにが「そんなに思い詰めていたのか」よ!! アホの子ですか!! どんだけ無神経!
 このへん感じ方の問題なので、この台詞を無神経だと思うのはわたしだけかもしんないけど、わたしにはありえない。
 また、表現者としても、ありえない。
 「心」がもっとも激しく揺れる部分で、「説明台詞」ですよ。説明する、解説する、ってことは、心は揺れてません、なにも届いてません。
 この台詞を書いた人は、言葉の上でだけ「出来事」を捉え、人間の心理なんか想像もしない人なんでしょう。
 「そんなに思い詰めていたのか」と説明台詞でオスカルの心情を語られてしまったので、観客はそれ以上ナニも想像できません。オスカルってアホで無神経なんだ、で終わってしまう。

 それが、今回は、なかった。

 「アンドレ……」と名前を呼ぶだけで、暗転。

 思わず客席で拳握っちゃったよ、親指立てて。

 名前を呼ぶだけで暗転。
 くだらない台詞で説明しない、限定しない。
 役者の自由な演技を、観客が自由に受け取る。

 あのぞっとするキモチ悪台詞がなかったーー! キャッホウ~~っ、これだけでも嫌悪感がぜんぜん違う~~!

 と、よろこんでいたところに。

 最大のムカつきポイントだった、「オスカルの決意」が、改正されていた!!

http://koala.diarynote.jp/201307160407493729/
http://koala.diarynote.jp/201307160429164173/
 ↑ オスカルが「いつ」革命側に付くと決意したのか、についてのわたしの意見。

 わたしは、オスカルはパリ進駐前に「決意していた」と思っている。
 だけど植爺は、オスカルは実際にパリへ行き、ブイエ将軍に「女はすっこんでろ!」と罵られ、ベルナールやロザリーに「味方になって!」と懇願され、アランたちに「早く決めてくれ!」と急かされ、他人からいろいろ言われてはじめて決めた、と思っている。

 植爺『ベルばら』は大嫌いだけど、その嫌いの中でもっとも根の深い、許せない部分は、ここにある。

 オスカルという人間を、かけらも理解していない。
 それがこの、「他人の言葉で右往左往、優柔不断ぶりをたーーっぷり見せてから、仕方なく革命を決意する」オスカルだ。

 これが『フェルゼンとアントワネット編』など、「本筋じゃないから、描く時間がない」バージョンだと、オスカルが悩むくだりをカットされてるのね。
 軍隊が民衆に発砲した、という報を受けて動揺している衛兵隊のところに、先に到着するのがブイエ将軍なの。
 ブイエ将軍が「暴徒どもを殲滅しろ」と命令するのを、アランが「オレたちは隊長を待っているんだ。隊長の命令しか聞かない」と拒絶しているところへオスカルが遅れて登場、オスカルは迷うことなくブイエ将軍に剣を突きつけ、革命側に付くことを宣言する。
 この間の月組新人公演は、何故か『オスカルとアンドレ編』ではなくこの『フェルゼンとアントワネット編』の脚本演出で上演されたので、この「ブイエ将軍が先に着く」バージョンだった。

 『オスカルとアンドレ編』だと、オスカルが先に現れて、さんざん優柔不断ぶりを露呈する。
 頼む、ブイエ将軍早く来て……! そう祈っていたのに、先に来たのはオスカルだった。
 わたしはがっくり肩を落とした。
 あーあ。嫌いなバージョンだ。オスカルは無能さをこれでもかと見せつけるんだわ……そう失望した。
 が。

 あ、あれ?

 たしかに、オスカルがブイエ将軍に剣を突きつけるまでは、時間が掛かっている。
 でも、チガウ。

 オスカルが、迷ってない。

 第一に、わたしの大嫌いな台詞、「オスカル様、お願いです、みなさんは祖国の名もなき英雄になってください!」がない!!
 ロザリーが「オスカルを説得する」台詞。
 原作のロザリーなら絶対言わないし、これは本来オスカルの台詞。闘う本人が「決意した! 君のために命を懸けて戦うぞ!」と言うならアリだけど、外野が言うとすげー最低台詞になる。「さあ、決意してよ! 私のために命を懸けて闘って!」ってな。

 ロザリーに説得され、オスカルはしぶしぶ決意する。あんだけ大勢に囲まれて、畳みかけられたら、仕方ないよね。空気に飲まれちゃったんだよね。ブイエ将軍はムカつくしさ、仕方ないよね。

 てな展開になるはずなのに、なってない!

 ちぎカルは最初から、心を決めている。

 橋の前に現れたときは、もう革命を決めてるんだ。
 だからブイエ将軍に罵られたからでも、ロザリーに説得されたからでも、アランたちにプレッシャーを掛けられたからでも、ない。

 ブイエ将軍の阿呆な言いがかりを黙って聞き、呼吸を読んで、剣を抜く。

 かっこいい。

 このオスカル、かっこいい!!

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