あまりのことに、笑えた。
 めずらしい経験だ。
 歌いながら銀橋を渡ることちゃんを見ているとき、笑えてきたんだ。

 格が、違いすぎる。

 星組新人公演『The Lost Glory―美しき幻影―』

 主演はいちおー、オットー役だということになっている。
 オットーは辛抱役、受け身の役。難しいし、発散系の派手な役ではない。
 準主役イヴァーノは、オイシイ悪役で、役としての強さから派手に目立てる面は大いにある。
 に、してもだ。

 主役はいちおー、オットーなのに。

 主役は、イヴァーノ@ことちゃんだった。
 完全に。
 完膚無きまでに。

 格が違う。次元が違う。
 あまりにその差がものすごくて、それを顕著に表しているのが「銀橋ソロ」で、そのパワーの奔流に、笑えてきた。
 すげえ。
 すっげえな、ヲイ。

 ことちゃんだって足りないところはある。にしても、今彼が持っているモノだけでも、「新人公演」という舞台にはそぐわなかった。
 こんだけものすごい歌を、舞台姿を披露しておいて、パワーを開放しておいて、主役じゃないんですよこの人。
 おかしいでしょそれ。面白いでしょそれ。

 バウ主演経験して、確実に伸びたよね。
 でもって、こういう「好きに発散していいんだよ!」って役、得意だよね? てゆーか抑えるのはかえって苦手だよね? 得意分野で好きなだけ吠えられて、暴れられて、いいね! 気持ちよさそうだね!
 つか、好きなだけ吠えればいいじゃん! 暴れればいいじゃん!
 新公だもん。好きなだけ飛び出せばいいよ。

 うーん、オットー@まおくんが気の毒でした。相手が悪かったとしか。
 途中から彼の存在が薄れて、……まあもともと、いろいろと不自由そうな舞台姿ではあったんだけど、それにしてもわたしの視界からはずれがちで、クライマックスは「あれ? オットーどこいった??」状態だった。
 イヴァーノがロナルド@せおっちに撃たれる場面。
 見事に彼が「主役!!」で、ディアナ@キサキアイリちゃん、ロナルドと三人模様が展開され……途中でふと、正気に返った。あれ? この場面ってオットーいなかったっけ?
 探したけれど、いないっぽい。変だな、トド様はたしかいたと思うんだけど……。
 2回見回して、いることに気づいた。端っこの方に。気づいたときには、真ん中に駆け寄っていった。
 や、いるよなそりゃ。っていうかわたしここ、オットー@トド様見てたよなー。真ん中ももちろん観てたけど、オットーも見ていた。
 でもなんつーか新公は、真ん中の圧が強すぎて、周囲の輪郭を奪っていた。

 イヴァーノがあまりに「主役!!」なので。
 彼が死んだあと、街の人々の合唱で幕が下りると、無意識が判断していて、そのあとオットーが出てきてえんえん喋るのがすげー違和感だった……。
 そういや本公演では、彼が主役だったっけ……。

 相手が悪かったとしか。
 『BUND/NEON 上海』のだいもん思い出したわ。主役吹っ飛ばして、センターがどこかを自分で表しちゃう系。
 それでもまぁくんは、あのイッちゃっただいもん相手によく踏ん張っていたけど、まおくんは……実力という重しがない分、どうしても吹っ飛ばされるよね……。

 改めて、オットーという役の難しさを知った。
 そして、トド様ごめん! と思った。
 初日を観て、トド様が生彩に欠けるとか、れおんくんに負けてるとか思ったけど。
 いやいやいや、この役でれおんくん相手にあんだけ見せてくれたトド様は、やっぱすげえや。これで経験値も実力もなかったら、吹っ飛ばされてたんだ。
 今のれおんくん相手に、この辛抱役でこんだけ向こうを張れるのは、トド様だからだ!

 相手が悪かった、とは思うけれど、まおくんはこれからどこを目指す人なのか、首をかしげたことも確かだ。
 こんだけ苦手なことが多いと、路線スターをやるのは大変だと思う。
 もともとスタイルのいい人だし、今はちゃんと痩せてきれいになった……てことで、彼の売りはビジュアル?
 スタイルの良さや、ホットな持ち味は劇場では武器になる。でも、やっぱ舞台はそれだけじゃないしなー。他のことが不自由過ぎてなー。
 まおくんが、タニちゃん並の華と美貌を持っているなら、真ん中人生もアリかと思うけど……今は彼の向かう方向が、わたしにはわからないっす。

 終演後、晩ごはん食べながらわたしと友人たちは「ことちゃんの実力」「まおくんの実力」について感嘆符をトバして感想を言い合わずにはいられなかったし、そんでもって出た共通の言葉は、
「次のバウ、大丈夫なの……??」
 だった。
 実力面への不安爆発。
 みんな原作スキーだからな……。

 ことちゃんも主演バウを経てどーんと伸びたし、まおくんにもそこを期待すべきでしょう。
 うん。


 見事に名目上の主役を吹っ飛ばして、真ん中ぶんどっちゃったことちゃん。どこの「吸血鬼カーミラ」by『ガラスの仮面』かと(笑)。
 結果的にそうなっちゃったけれど、彼もまだいろいろ課題持ちだよね。
 まあその、そもそも主役吹っ飛ばすなよと(笑)。
 れおんくんのイヴァーノ像をなぞってて同じ方向性なだけに、造形の荒さは気になる。
 そこは真似なくていいんだよ~~、れおんくんはれおんくんだから許されるのであって、あの大味さを取り込んでしまうのはよくない気がするよ~~。

 そして、いつも思うことだけど、あとはビジュアル。
 早く歌声に相応しい美男子になってくれることを願う。心から願う。

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