年寄りなので、昔話をする。

 2002年月組で上演された『ガイズ&ドールズ』で、わたしの萌えはビッグ・ジュールとナイスリーにあった。

 脚本上ではこのふたり、特に絡みはない。
 BJが絡むのはハリーとスカイとネイサンぐらい。
 脚本上では。

 でもこのふたり、脚本外で絡んでいた。

 ナイスリー・ナイスリー・ジョンソンは、つかみどころのないお調子者。「ナイス、ナイスでやんすよ」が口癖の、陽気で人なつこい男。初対面でもハグ基本。つか、キス魔だよね。キスしようとしてかわされるの、ハリーにもスカイにも。
 ピンク×黒のスーツなんてトンデモないモノをキュートに着こなした、優男。長い手足を持てあますようにへらへら動き回る。
 テキトーな性格は問題アリだけど、ハンサムだからすべて許される。……そーゆータイプ。
 いつもご機嫌で、いつもお菓子を食べている。……舞台の上で、ほんとーに食べている。

 シカゴの大物ビッグ・ジュール。どう見てもマフィア、という貫禄の中年男……なんだけど、何故か手にはテディベア。寡黙というか他に問題があるのか、「クラップやろうぜ」以外口にしない、極端に無口で無表情の不気味(笑)な紳士が初登場し、ネイサンがたじたじになっている場面にて。
 ナイスリーはポップコーンを食べながら、チャラチャラと現れる。
 舞台中央では物語が進んでいるんだけど、ナイスリーは関係なく、下手端でへらへらしている。

 この下手端で。
 ナイスリーとBJはニアミスする。

 や、BJがナイスリーの前を通り過ぎて下手袖へ引っ込む、というだけのことなんだけど。
 ナイスリーはここで必ず、BJに絡む。

 ナイスリーとBJはこの時点で、まだ面識がナイ。ネイサンはBJと対面しているが、ナイスリーは遅れてやって来るので「BJの紹介場面」にいないのな。
 だからナイスリーにとっては「知らない男とすれ違った」というだけ。
 しかもこの「知らない男」は、手にテディベアを持っている。
 ふつー、テディベア持った強面の中年男が歩いてくるのを見たら、びびるよな? 「触れちゃいけない人だ」って視線逸らすよな?
 だけどナイスリーは何故か、自分からBJに絡む。
 にこやかにポップコーンを勧める。

 ここが日替わりっちゅーか、いつも好き勝手にアドリブしているところで。……たぶん、ポップコーン勧めること自体、アドリブだろう。ふつーに考えたらおかしいから。
 でもお調子者のナイスリーは毎回仏頂面のBJに、ポップコーンを差し出していて。
 BJはそれを無視して通り過ぎたり、振り払ったり……してたと思う。最初は。
 でも気がついたとき、BJはナイスリーからポップコーンをもらうようになっていて。
 あの仏頂面のまま、ナイスリーの差し出すポップコーン受け取って、食べる。
 いや、だからあの、あなたたち、初対面で。
 見知らぬ男から食べかけのポップコーンの箱を差し出されて、食べるかふつう? キモいよね? アヤシイよね?

 ナイスリーとBJ、という役の上では、こんなことをしているのは、おかしい。
 見知らぬ他人同士で、通りすがりのすれ違いざまに、ナニやってんだ。

 ただ単に、ナイスリーとBJの、中の人たちが仲良しだった、というだけだ。

 仲良しだから、アドリブで絡む。
 ふつーの客は中央の芝居を見ている、ビデオカメラだってストーリーに関係ある真ん中を映している、舞台端のモブがナニしてるかなんて、一部の人しか気にしてないだろう。
 それをいいことに、遊び過ぎだ、お前ら(笑)。

 ええ。
 BJはナイスリーのポップコーンを食べるようになっていた。
 けど。
 あるとき、ナイスリーってば箱ではなく手でポップコーンを差し出したんだよね。
 あーん、って、BJに。
 そしたらBJ、食べるし。
 ナイスリーの手から、直接、口で。

 ちょ……っ、お前ら……!!

「あーん」「ぱくっ」
 って、どこのバカップルだよ!!
 スーツのにーちゃんと、強面のおっさんで!!

 萌え死ぬかと……!


 クライマックスの教会場面でも、ナイスリーはBJにちょっかい出しまくりだしね。
 いちゃいちゃ、いちゃいちゃ、ナニやってんだお前ら。

 カメラに残らないところで、ストーリーに関係ないところで。

 いやあ、楽しかった。
 真ん中観てる場合じゃない、モブに紛れているふたりを観るので大忙しだった(笑)。
 それが、わたしにとっての『ガイズ&ドールズ』。

 甘いハンサムでとんでもないチャラ男のナイスリー@ゆーひ。強面無表情、キレるとヤバイBJ@ケロ。
 ナイスリーがBJ好き過ぎて、BJが迷惑そうに振り払って、でもまんざらでもなさそうで。
 横でハリー@越リュウがはらはらしてて、ベニー@さららんとラスティー@みっちゃんがニコイチで空気読まずにわちゃわちゃしてて。
 ハリーが「BJにちょっかい出すな」とナイスリーを牽制する様とか、それでもへらへら首を揺らして笑ってるナイスリーとか……かわい過ぎ。

 楽しかったな。
 ゆーひくんをいちばん好きだった頃かなあ。や、ご贔屓はケロちゃんだったんだけど、『ガイドル』の頃はケロよりゆーひくんに夢中だった。
 ナイスリーが好き過ぎて。
 プルミタス@『血と砂』とのギャップが……(笑)。

 ああいう底の見えない優男、好きなんだよなあ。


 なつかしい。
 再演を観ながら、ただもう、なつかしくて、愛しくて、切なくて、……あたたかいさみしさを噛みしめた。

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