『私立探偵ケイレブ・ハント』で、マサツカェ……と思うこと、その2。
 ああ、この「マサツカェ……」てのは、あきれたり辟易したり失笑したりするマイナスな思いと、かわいいよねイイよね好きだよねというプラスの感情も含まれた、複雑な「ェ……」です、はい。


 探偵事務所の面々がひどい。

 まなはるときゃびいと桃ひな。お気に入りばっかりかよ!

 マサツカ氏は、役者使いに好みが大きく出る演出家だ。座付き作家だから、劇団指示には従うが、それ以外のところでは通常の役付きルールを無視して、自分の好みでキャスティングする。
 他の演出家作品では当たり前に役をもらえている人がモブで、いつもはモブの人が重要キャラを与えられたりする。
 クリエイターなんだから、番手とか学年とか関係なく、「いい作品を作るためにいい役者を使いたい」というのはわかる。自分の作品なんだから、自分の気に入った人を使いたいよね。わかる。わかるよ。
 しかし、わかりやすすぎるわ。

 探偵事務所の事務員コートニー@きゃびい、経理のダドリー@まなはる、秘書のグレース@桃ひななんて、個性なしのただのモブキャラでいい役割だ。
 なのに、彼らのキャラクタを紹介する場面がえんえん挿入されている。

 きゃびいが「マサツカ作品のきゃびい」全開でかっ飛ばしていて、そこに「まなはるらしいまなはる」が絡んでいて、それだけで十分「マサツカェ……」とニラニラしていたのに、トドメとばかりにももちゃん投入、しかも「以前働いていた」という、現在の物語に無関係なエピソードぶち込んでまで……!!
 いやあ、震撼したわ。ここまでやるかと。

 たまたまなにかの縁ではじめて宝塚大劇場にやって来て、なにも知らないままこの『私立探偵ケイレブ・ハント』を観たお客さんは、混乱すると思う。

 女優の死をめぐる事件、という本筋に、関係ないキャラクタとエピソードを「重要です、そうでなきゃこんなに時間と場面割いてまで演じてません」と見せつけられたら、わけわかんないって。
 ただでさえミステリ部分がお粗末なのに、不要なエピソードとキャラクタを入れてさらに本筋を薄くして、観客の気をよそに向けさせて混乱させるとか、ありえない。
 50ページの長編読みきりならアリだけど、16ページの短編でなにやってんの。プロット段階で編集さんに削られるわ、商業作品なら。
 同じ16ページでも、連載作品なら、アリだけど。この事件は16ページで完結するけど、『私立探偵ケイレブ・ハント』という連載長編作品はずーーっと続いていて、来週も誌面に掲載されるんだから、読者は続けて読むんだから、今回の事件と無関係でもレギュラーメンバーの物語を入れていいけど。

 マサツカせんせは、今回の公演を「短編読み切り」だと思わず、「連載長編のうちの1回」だと思って作っている。
 つっても、『ケイレブ・ハント』は1作きりだ。前にもあとにもない。
 マサツカせんせが思っている「連載」「長編」というのは、「宝塚歌劇」における「タカラジェンヌ」と「正塚晴彦」のことだ。
 きゃびいもまなはるも桃ひなも、「みんな、知ってるよね?」という前提。そして、過去のマサツカ作品で彼らがどう使われてきたか、どんなキャラクタを演じてきたか。「みんな、知ってるよね?」
 大劇場の客席にいる人は、長期連載をずっと読んでいる人。いつもの面々で、今回はどんなお話かな? と思って、ページをめくる人。
 だから、1から設定とかキャラの紹介をする必要はない。みんな知ってることは説明しなくていい。知っている人なら「またこのキャラがこんなことしてる(笑)」とウケるし、「この話はこうだな」と理解出来る。「うん、これこそハリーワールドだ」とか、最初から「わかっている人」に向けて書かれている。

 座付き作家で、固定ファンで支えられている劇団なんだから、それはそれでアリだと思う。
 思うけど。
 そんなことは、バウホールでやれ。
 ほぼヅカヲタしか公演の存在もチケットの入手も出来ない手持ちの小劇場でやれ。
 一般客相手の大劇場本公演でやるな。

 独立した一本の作品を観に来た客に、「全100回予定の長期連載作品の、第58話のみ上演中」なんてもんを見せんな。

 甘えてるなー、と思う。
 劇団にも、ファンにも。

 お気に入りの役者で、不要な場面をえんえん入れる。
 本筋の構成はゆるゆるで、組み立てが間違っている。
 それでも、トップコンビの力技で、なんとか成立させてしまう作品。

 実にタカラヅカらしい作品で、最近のハリーの悪いところが出まくった作品だと思う。


 それでもわたしは、所詮長期連載中のハリーワールドのファンなわけで。
 「きゃびいがいつものきゃびいだ」「まなはるがまなはるだ」「ほんとマサツカおじさん、どうしようもないな」「桃ひなキターーーー!! 笑うしかない!」とか、ちゃっかり楽しんでいる。

 間違っていると思う。
 そう思うことと、楽しいことは別だから。

 探偵事務所の場面好き。
 コーヒーメーカーのくだり大好き。

 マサツカにあきれながらも、そういうとこも受け入れている。

日記内を検索