『Bow Singing Workshop~月~』観劇。

 歌バウもついにラスト。
 相変わらずキャストも知らないまま客席へ。

 わたしの集中力と記憶力が5組目ってことで力尽きたのか、いちばん個々のキャストへの印象が薄い。
 ひとりずつ挙げて「この人のこの歌はこうだった」「ここでこう思った」などが薄いのだわ。

 代わりに、特定の人に関してだけ、やたら強い印象を持っている。

 あちくん。暁くん。結愛かれんちゃん。
 この3人。


 まず、あちくん。
 なんつっても、あちくん。
 月歌バウ=あちくん、ってくらい、すべてを彼が持っていった。

 大ウケした。

 いやすまん、観劇中に声を出したとかじゃないんだが、内心悶絶した。

 オープニングの全員コーラス~自己紹介~一発目ソング……という歌バウ全組共通プログラムで、その「本編」1曲目があちくんだった。
 何故あちくん……、と、開演前、プログラムを見て思った。
 だって、1曲目ですよ、空気変えなきゃいけないんだよ?

 素人の発表会と同じよーな、テーマもナニもなくただひとりずつ脈絡ない曲を順番に歌う、という構成のコンサートで、MCのあとの散漫なホール内の空気を、「コンサート仕様」に変えるって大仕事。
 必要なのは「歌唱力」と「スター力」。コンサートなので、歌がヘタだと話にならない。でも、ただ歌ウマならいいってわけでもない。直立不動で「音程の正しい歌」を聴かされても盛り下がるだけ。
 スター力、と書いたけれど、歌バウの「スター枠」は1幕ラストと決まっているので、1曲目にそこまで求められない、ならば、「玄人感」と言い換えよう。
 どんだけ歌ウマでも、「素人です、舞台立つのはじめてです、おどおど」てな人が出てきたら、コンサートは崩壊する。
 また、謎の舞台度胸があって「スポットライトあびるの好きー、楽しいー!」てな人でも、「男装しただけのオンナノコ」だと台無し。
 ちゃんと男役として成立していて、舞台に飲まれずに存在出来て、歌ウマであること。別格職人さんでもかまわないから、これだけの要因を満たしている人。
 それが、この「ただの発表会」的な構成のコンサートの「最初のひとり」に求められること。

 宙組はカズキソラ。歌ウマ・新公主演
 星組はしどりゅー。歌える・新公主演
 雪組はすわっち。歌える・新公2番手
 花組はつかさ。歌える・新公2番手

 カズキソラほどの実力派を惜しげもなく投入しているのは宙組だけだけど、他の組も「歌で破綻しない、スター的役割の経験のある子」を持って来ている。
 最初の1曲はそんだけ大事だってことだ。

 だから、目を疑う。
 ……あちくん?

 えーと、一応彼もスペック的には「新公2番手」ではあるのか。しかし、問題は。
 ……歌。

 彼、歌えたっけ?
 『1789』新公のときは、歌もイケるとか思っちゃったんだけど、その後イケる歌を聴いたおぼえがない……『NOBUNAGA<信長>』はえーらいこっちゃ、だったし。
 スカステの歌番組にも出てたけど、「あすくんではなくレオ様が出てたもんなあ」てな過去の歌番組を思い出してぬるいキモチになったし。

 でも、実はそこそこ歌えるのかなー。でなきゃ、この位置には置かないよなー。

 と、思ってたらですよ。

 彼は、踊りに来てました。

 歌バウなのに。
 しかも歌バウ先頭バッターなのに。1曲目なのに。

 潔いまでに、歌、捨ててた!(笑)

 1曲目なのに、ヘタな歌聴かされてるのに、それが気にならないくらい、他がすごかった。

 顔芸ひどい。歌えない代わりに、顔で歌ってる。
 芝居ひどい。歌えない代わりに、芝居しまくってる。
 そしてなにより、歌関係なく、踊りまくってる。

 歌バウで、こんなに踊る人はじめて見た……。

 みんな歌いながらちょろっと振りがついてます、程度なのに。
 あちくんひとり、くるくる踊りまくってた。

 ちょっと待て演出家、歌えない子に先陣切らせる代わりに、ダンスの指導したの? 歌よりダンスメインの場面にして誤魔化そうとした??

 なんじゃこりゃあ?? と、頭の中クエスチョンマークだらけ。


 幕間、ネットで「振付はあちくん自身」というのを拾い読みして、心震えた。

 あのアホみたいなバランス崩壊演出、本人かよ!!(笑)

 5組通して、あんだけ不自然に踊っているのは彼だけなので、それが事実なんだろうなと思う。
 だって、その振付ってのが、「どこかで見た」満載の、「かっこいい振り」がこれでもかと詰め込まれてるの。曲の濃度や必要値と無関係に。
 自分がかっこいいと思ってる振りを、全部詰め込みやがったな……(笑)。

 やたら芝居がかってたのも、本人が自分の意志でやってたからか。やらされてるんじゃなくて、やりたくてやってるからこその熱量か。

 本人振付とか知らなくても「なんだこれ?? ナニ見せられてんだ?」と疑問に思うくらいには、ぶっ飛ばしてた。

 それが、ステキ過ぎる。

 バカだこいつ……と、盛大に草生やしつつ、やだもー好きー! と思った。
 そういうバカは好きだ。
 や、言葉悪くて申し訳ない。
 わたしはこういう「若気の至り」が大好きだ。年寄りなので、驕る若者にきゅーんとなるんだ。自分にはもうないものだから。

 だいもんの「天海さんもそんなことある?」と同じ、本人は大真面目、おかしいとは思ってないとこがいいの。
 悪いと思ってりゃハナからしてないよね、「いい!」と思ってるからやってるんだよね、その盛りすぎの振付とか顔芸とか。歌はボロボロなのに芝居とダンスで乗り切ろうと……乗り切れる、と思ってやっているところとか。
 愛しいなあ。


 歌バウだから評価を歌に限定すると、ぶっちゃけあちくん、2番目にヘタだったと思う。

 だけどだけど、わたしの月歌バウの記憶は、あちくんに持って行かれている。

 ひとから「月歌バウどうだった?」と聞かれたら。

 あちくんが面白かった。

 と答える。
 歌バウなのに。感想が「面白い」って(笑)。
 「あちくんが面白かった」……という感想だけで終わってしまった、『Bow Singing Workshop~月~』

 というのも、月組さん、みんなうまかったんだわ。
 みんなうまい、平均値が高い。……そのせいかもあまり記憶に残らない。

 花組はカレーくんが、もともとの資質の上に、喉潰しててえーらいこっちゃ、だったし。
 雪組はスター不足、なのに別格歌ウマ揃い、というわけでもなく。
 星組はスターはちょい足りないけど職人ががっつり。
 宙組は全体レベル高し、+スターもいるよ!

 月組は、平均値高め安定、ただし職人もスターも控えめで、同じトーンで終始した、印象。

 前に書いたと思うけど、暁くんをMCメンバーに入れるため、彼より上の「スター」も「職人」も出演させられず、下級生ばかり投入するはめになったせいだろうな。
 下級生は達者な子たちだけど、まだ個性が乗る前だから、うまくてもそれ以上の感想や興味につながらない。

 月組はほんと、暁くんを育てるためにいろんなことをナチュラルに犠牲にしていくなあ、と思う。容赦ないわ。
 まあ、雪組の半端なひとりっ子政策もどうかと思うし、なにがいいのか、答えは出ない。

 まあ、そんなわけで個々の出演者への印象が薄い。

 麗泉里ちゃんがうまくてかわいかった。
 最下の男の子4人、空城、天紫、彩音、礼華がかわいくて、足りないところを抱えつつも初々しくて、これからが楽しみだー。
 風間くん、歌ウマなのか! ハンサムなのに歌もうまいとか。期待。

 春海くん、『ダンディズム!』よかった、キャラも歌も好き。うって変わった『夢の浮橋』もいい。いろんなことが出来る人だな。

 さくらちゃん、別格だなー。うまさとか、存在感とか。

 はーちゃんはふつうにうまい。安定。安心。
 ただ、なんつーんだ、規定値を超える跳ね上がり方はしないんだなあ、と。きれいにきちっとまとめてくれるから、いいんだけど。
 ちょっとさみしいかな。

 周旺くんを見ながら、花の峰果くん、星の遥斗くんを思い出した。


 そして、みんなうまいけど印象薄いなあ、と思っていたところに、暁くんが登場するわけだ。
 トップスターばりの演出をされる、1幕トリ。

 曲は「奇跡~大きな愛のように~」。
 これがもう。
 素晴らしかった。

 暁くんには驚かされる。
 期待値が低いというか、最初に彼を認識したのが「今の素人、ナニ?!」って二度見するところからだったからねー。
 ヘタ、という刷り込みがあるから、スタート地点がめっちゃひくいから、というのはあると思う。
 にしても、た。見るたびに成長していて驚く。

 今回も、期待してなかった。
 彼をMCメンバーに入れて、1幕トリにする、それだけのために水面下で調整が行われたんだろうと思うと萎えるし、「あー、はいはい、トップ確定の人は違いますね、絶対失敗しないようにお膳立てしてもらえるんですよね」的なひがみ根性で、うがった見方をしてしまう。
 それでも、だ。
 ほんとに、いいんだもん、まいるわ。

 劇団の依怙贔屓ゆえにふつうの何倍もの経験を積んでいるんだから、これくらい出来て当たり前。
 かもしれないけど、ほんとに、出来てるんだもん。

 1幕のトリ。
 彼の絶唱で緞帳が下りる、という、トップスターですら経験出来るかどうかわからないような、特別な演出。
 その役割を、彼はちゃんとこなしていた。

 歌うまいし、空間埋めてるし。
 ふわー、抜擢は伊達じゃないなー。

 いやあ、スターはこうでないとね!
 気持ちよく拍手したよー! やんややんや。

 スターという人生を歩めと、入団時から決められた若者の刻む一歩。
 脇で終わることが決められた人とどれほど重みがチガウのか、知りようもないことだけど。
 一観客としては、彼の「すでに決められた道」がドラマチックかつハッピーなモノであればいいと思う。
 わくわくしたいんだもの。

 「月歌バウどうだった?」と聞かれ、最初に「あちくんが面白かった」と答える。「ありちゃんは?」と聞かれれば「良かったよー!」と答える。
 そして、「全体としては、どうだったの?」と聞かれれば。

 「ふたりを除いて、みんなうまかったよ!」と答える。

 そのふたり、つーのは。

 ひとりは先述の通り、あちくん。
 歌ウマじゃないのにトップバッター任されて、歌う代わりに踊りまくった愉快なにーちゃん。

 もうひとり、あからさまにヘタっつーか、素人混ざってますがいいんですか、とびびったのが、結愛かれんちゃん。
 つか、名前読めねえ……。「結愛」で「ゆい」と読むのか。

 彼女の場合、ギャップがすごかった。

 最初にまず、美貌で目に付いたんだ。
 あ、かわいい子がいる! って。タカラヅカっぽくない美貌。テレビタレントみたいな笑顔。
 ぜんぜん知らない子だから、出番を楽しみに待った。歌バウに出るってことは歌ウマよね、こんなにかわいくて歌ウマなんて素晴らしいわ。

 そして、歌を聴いて、ズコー!っとなる(笑)。

 あ、なんか昨今めずらしい、歌残念さんだ……。


 って、すごいよね。
 歌えない子が歌で場面もらってる、のが、最近はめずらしいのよ?
 どーしちゃったの、タカラヅカ!
 以前は音痴しか歌わせてもらえなかったのに、今は逆なのよ? 歌劇団みたい! 嘘みたい!

 とまあ、なつかしい気持ちになりました。
 ので、とても印象に残った。結愛かれんちゃん。

 とりあえずめっちゃかわいい。


 ということで、月歌バウで強く印象に残ったのは。
 あちくん。暁くん。結愛かれんちゃん。
 5組全部終わりました、5組全部観ました。つーことで、『Bow Singing Workshop』の全体感想なんぞを。

 5組を通しての公演だけど、出演者グレードがずいぶん違う。
 生徒を差別化する発言だが、「学校の発表会」ではなく、「プロの興行」として見た場合、生徒に商品価値としての「階級」があることは事実だ。「トップスター」と「初舞台生」はグレードが違う。
 出演者のグレードで分けると、

 宙組>>>花組≧星組>>雪組>月組

 てな感じだった。

 宙組はすごい。
 出演者16名のうち、6名が「スター」だ。
 新公主演経験者が3名、新公ヒロイン経験者が3名。
 このうち、バウ主演経験者1名、別箱ヒロイン経験者2名。
 新公と別箱が重なっている者は、さらに商品価値のある「スター」だ。
 この「スター」たちなら、ふつーに公演しても、ゼイタクなメンバーだと言われるだろう。

 花組と星組は同じ。
 新公主演経験者2名と、ヒロイン経験者1名。
 どちらの組も、バウ主演経験者1名で、星組は別箱ヒロイン経験者1名(次期トップ娘役発表済み)だが、花組の新公&バウ主演は組の3番手であるので、その分豪華と考える。娘役よりも、男役の比重が高い劇団だからだ。
 どちらの組も、ふつーにバウ公演可能。

 雪組は、新公主演経験者1名、新公&別箱ヒロイン経験者2名。
 このメンバーでは、ふつーのバウ公演すら成り立たない。女の子がヒロイン経験豊富でも、男役にスターが足りなければ、興行出来ない。いくらバウでも、主演と2番手は必要。

 月組はもっとすごい。
 新公主演経験者も、新公ヒロイン経験者も、1名ずつ。そして、バウヒロイン経験者さえいない。

 純粋にスターの数だけで考えれば、スター6名の興行とスター2名の興行が、同じ値段であっていいはずがない。
 3組のトップコンビが出演する公演と、2番手ひとりで出演する公演が、同じ値段ではないように。


 これが、5組の「組事情」ってやつなんだろうか。

 宙組は、今回の歌バウのトップバッターだったから、比較対象がなくて「これがふつう」なのかと思った。
 つまり、スターが5~6人ぞろりと出演するのが、ふつう。

 新公だのバウだので主演するだけの華と実力のある、スターが3分の1、次の3分の1が歌ウマ上級生~中堅、職人とか別格とか呼ばれる大事なたち、そして最後の3分の1が未知数な下級生たち。
 スターがたくさんいるから、興行としても納得の華やかさだし、職人たちも多数出演しているからクオリティ安心だし、下級生たちは集客力はなくても、未来へつなげるために必要だし。
 集客力、実力、可能性、と三拍子。

 次の星組で、スターの数はがくんと減った。
 しかも、その「スター」枠の子が歌ウマではない……というか、どっちかってーと歌ヘタで有名。
 今の時代、歌がヘタなスターは求められていない。ので、その弱点をモノともしないほどのナニかを持ってなくてはならない。
 星組さんは職人さんたち実力派をゼイタクに投入していたので、「知る人ぞ知る」玄人向けのキャストだったとは思う。ただ、職人ばかりだとライト層にはあまり響かない……という事実が、集客面に如実に表れたと思う。
 チケットの値下げ競争がすごかった……。

 次の雪組は、さらにスターが減った。
 てゆーか、なんでこのメンバーにしたんだと問い詰めたい(笑)。
 新公主演だけ、バウ主演すらしてない子に、いきなり「発表会」を支えろなんて、無茶振りもいいとこだ。
 しかも雪組は、歌ウマ職人も少なかった。
 従って、なんとも残念なクオリティになる。

 花組は、スターの数こそ少ないが、その2名のスターの力が強かった。組3番手スターとその同期スターで、本公演で華やかに役替わりとかしちゃう「特別なスター」だもの。
 歌の実力はともかく、「スター力」という点で他組を凌駕している。
 そして、実力面では大劇場本公演でソロをもらう別格スターががっつり支えてるし。
 宙組とバランス配分は違うにしろ、こちらも興行として三拍子揃っていると思う。

 ラストの月組は、明確な理由があるため、あえていびつな構成。
 たったひとりのスターを盛り立てるためだけに、他のスターは排除、この公演自体の興行的な意味よりも、「未来のドル箱」を育てることに終始した。専科主演と銘打ちながら、その実「主な出演者」のためにバウ公演を敢行するのと、同じガイドラインによって、企画運営されている。
 だから、スターはひとりだけ、あとは名もなき下級生、別格スターすら最低限。
 見つめているのは未来だから、この公演が興行として成立しなくても問題なし。


 宙組のバランスの良さは心地いい。
 客として満足できるわー。
 花組の「スター中心!!」ぶりも、正しいタカラヅカ。客として、ヅカヲタとして、とてもうれしい。

 星組は正直、もうちょいスターが欲しい。歌唱力に欠けるなら、それを吹き飛ばすくらいのスター力のある人がいれば、あとはライト層に無名の職人尽くしでもいいと思う。

 月組は治外法権。考え方が潔すぎて、口出し出来るレベルじゃない。
 暁くんが「ドル箱」になってくれることを祈るのみ。
 ……でも、思いのほかクオリティは安定してたの。「うまくないけどスター枠だから出さなきゃ」ってのがなかったせい??

 だもんで、いちばん危惧するのは雪組だ……。
 スター少なくて、実力もいまいちとか、大丈夫か。
 雪は歌うまい人多かった印象なんだが、えっと、それって昔のイメージ? 古いイメージ引きずってる?


 あくまでも、『Bow Singing Workshop』だけの話。
 「この組にはもっと歌ウマがいるわ!」「スターがいるわ!」とか、「たまたま分割具合とタイミングでこうなっただけ」とかは考慮しない。

 クオリティ的には宙組、タカラヅカ的には花組が楽しかった。
 だから、残りの組も、宙か花かのバランスで出演者を投入して欲しかったなと思う。

 そして、どの組も、宙か花かのバランスを作れるくらいのスターと職人を育てて欲しいと思う。
 「スター:職人:若手=3:3:3」とか。
 「スター!!! その下にがっつり職人! ……と、若手。ピラミッド安定!」とか。


 ……けど、いちばん楽しんだのは雪組ですから。だって、贔屓組だもん、思い入れある子ばっかだもん。
 というあたり、「この考察無意味じゃね??」ですけど、キニシナイ(笑)。
 『Bow Singing Workshop』から、思いつくことをうだうだ。

 公演順に、

・宙組 バランスいい、スター・職人・若手の配分が三等分
・星組 スター力が足りない
・雪組 スター不足、職人不足
・花組 スター中心のピラミッド
・月組 未来のスター育成プログラムの一環

 というのが、各組歌バウの印象だ。

 あくまでもひとつの公演に過ぎない。組を何分割かして行った公演で、組全体を表すモノではない。
 とわかった上での思考遊戯。

 こうして5組通して歌バウを見ると、そこで感じたことは、組全体にもあてはまるのではないか。組全体の美点と問題点が、そのまま歌バウに表れているのではないか。そう思えたんだ。

 宙組のバランスの良さは、観客としてありがたかった。「客」である以上、良いモノが見たいからだ。
 良いモノってのは、「うまい歌」であればいいわけじゃない。タカラヅカである以上、美しさも必要。「スター」を見たいんだ。だから、スターもたくさんいて、歌ウマ職人もしっかりいる宙組は、バランスがいい。
 客として、与えられたクオリティに満足出来る。
 が。
 全体的に、どうにもこぢんまりとした印象。差し出された「スター」のスター感が足りないんだなと思う。
 ……ってソレ、ただの個人的感想やん……って、そもそもすべてがただの思い込みですから。
 技術的には高い位置で安定しているのに、タカラヅカ感は低い。
 せっかく歌えるスターさんばっかなんだから、タカラヅカ的なキラキラ感が加わればこわいもんなしやなのに、惜しいなと。

 宙組から感じるのは、編成期ゆえの忠実さ。
 トップコンビがいて、2番手がいて……という、「タカラヅカのピラミッド」を作り直したばかり・作っている渦中、だからこそ、キラキラとか余分なことにまで手を出せず、基本(トップスター制度)に忠実に倣っている。
 かなめくん時代に宙組は「タカラヅカのピラミッド」を失った。まぁくん時代になり、それを作り直しているところなんだ。
 だから今は地固め中。まぁくんトップ、マカゼ2番手、愛ちゃん3番手、ずんちゃん4番手、というカタチがすっかり決まったのは、ついこの間のこと。
 組み上がったばかりの車で、今おそるおそる試運転している。

 ゆえに、歌バウは冒険せずに堅実に、スター多めに投入しているわりに、「スターありき!」にならないんだろうなと。まだ、体制を作っている最中だから。


 星組の急務は番手スター育成かなと。
 星組だけが、1幕ラストの「トップスター仕様の役」を脇の職人さんにやらせている。どんだけ実力があっても、「トップスターの仕事」を脇にやらせるのはおかしい。
 みっちゃんが退団したのちの番手スターが足りない。
 ベニートップ、ことちゃん2番手。……3番手に別格スターのかいちゃんを置くとして、次代の3番手は誰? 別格スターはいずれその席を路線スターに明け渡す。その「明け渡す相手」が見えていない。
 つまり、トップと2番手しかいない、ということ。3番手以下不在の組は力不足だよー。
 次代の3番手候補がいれば、この歌バウで1幕ラストに絶唱していたはず。歌がヘタでも新公主演が間に合ってなくても。
 3番手すらいない、決められない、というのは、先行き不安だな。


 雪組は磐石だと思ってた。……盲目でした、すみません。
 本公演でトリデンテがあまりにずしーん!と存在感ありまくりに君臨しているので、次世代へ鈍感になっていた。
 まだバウ主演すらしていない子が、歌バウで1幕のトリを務めている。これって、危機感持っていい事態。
 雪組には、新公&バウ主演済みの、将来番手付きになるスターが、いない。

 ちぎくんトップ、だいもん2番手、咲ちゃん3番手、そして咲ちゃんに明確に抜き返されたことで翔くんは別格スターの4番手である、と示された。この次に、将来的に番手スターになるだろうと思われる新公&バウ主演済みのスター、れいこがいた。
 『るろ剣』体制ですな。この5人は、バランスがいい。いずれちぎくんが卒業し、だいもんの時代になったとして、咲、れいこと続けば番手スターがきれいなピラミッドになり、安泰。
 ゆえに磐石だと思っていた。
 だが。
 れいこの組替えが発表になり、咲ちゃんの下の番手スターがいないことが見えてきた。
 れいことトレードで組替えしてくるあーさが「次代の番手スター」ならいいけど、彼の月組での扱いからはどうにも不透明だ。

 他組を見回しても、歌バウのセンターは95期スターであるべきであり、想定して企画した公演ではないかと思う。
 だから本来はれいこが歌バウに出演、『New Wave!』ではなく、ひとこ主演の通常バウ予定だったのではないか。
 雪組だけ明らかに、歌バウの人選がおかしいもの。
 で、れいこ組替え後の雪組のスター不足、番手不明ぶりが、今回の歌バウにそのまま出ているのだと思った。
 御曹司のひとこはまだバウ主演してない。……おかしいじゃん、この学年、この扱いでまだって。
 じゃあ、他にスターがいるのかというと、新公主演経験者すらいない、という焼け野原状態。
 新公主演経験者の少なさは、別格スターの少なさにも通じる。真ん中経験のある、華やかな別格が生まれにくいからだ。
 えええ。ちっとも磐石じゃない。今現在はいいけど、次代やばい。どうしてこうなった。


 花組は男役スターの組なんだなあ、と改めて思った。
 弱点があろうと関係ない、華とスター性で押し通しちゃうんだなあと。
 わたしはヅカヲタなので、「スターを中心にしたピラミッド」を心地よいと思う。歌ウマ好きなので、スターには最低限歌えて欲しいのだけど、歌唱力をものともしない特技をもっているなら、それはそれでアリだと思う。
 現在、みりおくんの人気で一点集中的に形成している組ピラミッドを、歌バウにも見ることができる。


 月組は特殊なので置くとして。


 それぞれ見えてくるモノがあって面白い。
 てゆーか、こっちが勝手に「見ようとしている」わけなんだけど。

 体制がどうのと言ったところで、そんなロジックと感情は別で、足りなくてもいびつでも好きだったりするんだから、こんな考察、なんの意味もないんだけどねえ。前日欄に引き続き。
 いいの、楽しいから(笑)。
 新人公演『私立探偵ケイレブ・ハント』あれこれ。

 ナイジェル@叶くん、かっけー!

 二枚目の叶くんは貴重です。
 役が付くときって決まって三枚目だもんなー。役らしい役で、真正面から二枚目役やってるのっていつ以来?ってくらい、記憶にナイ。
 『ドン・ジュアン』でもお笑い担当兵士だったし、『るろ剣』新公は角刈り比留間伍兵衛だったし、『アル・カポネ』ではお笑いマフィアだったし。
 もっと昔の方が二枚目役やってたなー、えりたん時代の新公とか。近年役付きがどんどん脇に逸れていった気がする……。

 きれいでうまい人なのに、その上歌ウマさんなのに、劇団は彼を使う気がハナからないらしいのがくやしい。
 まあたしかに、二枚目役の今回はその役ゆえに「アゴ目立つなー」と改めて思いはしたが(笑)。

 目が利く人なので、短い出番ながら、骨太な強い印象を残す。
 元兵士なのがすごくわかる。てゆーかコンバットスーツ似合いそう。


 ホレイショー@すわっちは、なんかすごく合ってる。というか、前回の新公の役が合ってなさ過ぎたのな……。
 すわっちに耽美はやめよう! 彼は男臭い役の方が向いてる。
 違和感なく刑事。刑事ドラマにいるこんな人。
 小柄でも強そうだし。世慣れていそうだし。

 ライアン@星加くんは、前回に比べて役が小さくて残念。てゆーか前回の新公がおいしすぎたのか。
 この役ってきれいどころ枠だったのか。しどころないけど、とりあえず画面に華を添える的な?
 少ない台詞がツッコミ系というか、マサツカ的なユーモアキャラだから難しいよねえ。本役さんはそれでもうまかったんだ、と改めて思った。

 マクシミリアン@たっちーは……ああまた悪役ですか、いやその悪役はいいんだけど、「美形悪役」の役ですか……。
 いい人役だと気にならないのに、悪役だと途端気になるビジュアルの壁。悪役ってのほんと、花形なんだなあ。
 うまいんだけどなあ。声もいいんだけどなあ。それでも、役が「美形悪役」である、という一点において、そしてそれが配点のほとんどを持って行っちゃう部分なので……チガウ、としか。
 この役をたっちーの芸風でやっちゃうと、もうただの迷惑な人としか。
 いっそヒゲつけて美中年目指してくれた方が、「美形悪役」に近くなった気がする……。

 コートニー@ひまりちゃん、ふつうにうまい。……けど、うーん。『ドン・ジュアン』であまりにキュートだったから、ビジュアルへの期待もあったんだが……あまりきれいに見えない……。
 役のせいかもしれないが、どんな役でも勝手に美貌でいてくれてもいいのがタカラヅカ、きれいかそうでないかというより、うーむ、地味だったことの方が、ナニ気に痛手な気がする。

 それにしても、役がないな。
 卒業するまからですら役としては出番一瞬、大ちゃんの役。

 最近気になる鳳華はるなくんも、ただ黙って立ってるだけの役だし……。
 てゆーか鳳華くんの愛称、JIJIって……アルファベットでないとあかんのん? ジジじゃダメなん? JIJI表記はブログではしにくいなあ、どうも違和感。


 真ん中比重半端ナイ作品で、ヒロインが舞台クラッシャーで、主演のひとこくんが作品自体を力尽くで支えきった印象。
 さすがキャリア半端ナイ人は違うな。いい仕事してた。
 がんばれ御曹司。
 『私立探偵ケイレブ・ハント』についてあれこれ。

 素朴な疑問なんだけど、ケイレブが命を懸ける理由、世の中的にアレはアリなの?

 「私立探偵」ケイレブ・ハント@ちぎは、「依頼されてもいない」事件を個人的に引っかかるから、と調べている。
 という段階でもう、矛盾している。
 せっかく私立探偵なんだから、「依頼された仕事」でいいじゃん。なんで探偵設定を無視するような話にするんだろう?

 ある夫婦が、ケイレブの事務所に娘アデル@あゆみちゃんの捜索を依頼しに来た。ケイレブは入れ違いに事務所を出ているので、この夫婦の対応はしていない。紹介者ナシの仕事は受けない方針なので、ジム@だいもんが話を聞くのみで、依頼は受けなかった。
 翌日になってから、夫婦の探している娘アデルが事故で亡くなった女優だとケイレブが気づく。娘の死をジムが夫婦へ伝えに行くと、彼らはすでに事故死したと刑事ホレイショー@翔くんに伝えられる。
 一方ケイレブはアデルの部屋へ行き、そこが荒らされていることを知る。アデルの友人ハリエット@あんりちゃんと話す。

 娘と両親がほぼ同時に事故死、荒らされた娘の部屋、娘が所属していた芸能プロダクションは、他の恐喝事件などでも名前が挙がっている曰く付き、そして駄目押しに、そのプロダクションはマフィアだとケイレブの戦友ナイジェル@がおりが教えてくれた。
 ここまできたら、アデルや両親がマフィアに殺されたことは見当が付く。

 それでもなお、ケイレブはプロダクションを調べようとする。
 繰り返すが、依頼人はいないので、ただの興味で。

 ケイレブは、アデルともその両親とも会ったことがない。両親とはすれ違っただけなので、「会った」うちにはカウントしなくていいだろう。
 赤の他人がマフィアに殺された。……というだけで、マフィアの本拠地へ乗り込んでいく。

 乗り込む理由は「ボロを出すかもしれないから」。
 ジムが「蛮勇だ」と怒っていたけれど、わたしは怒る以前に理由がわからない。ケイレブが「そこまで」しなくてはならない理由。

 乗り込んだ先でマクシミリアン@れいこに会い、恋人のイヴォンヌ@みゆちゃんがプロダクションの仕事を受けていたこともあり、ケイレブは私情により敵意剥き出しになり、マクシミリアンからはめでたく危険人物として認識される。

 そのために、ジムが襲われ、イヴォンヌも誘拐されかかる。

 イヴォンヌは探偵であるケイレブとの溝を感じ、「愛しているけれど、共に生きることの難しさ」を改めて思い悩む。それまでも齟齬を感じていただけに。
 イヴォンヌが止めても、ケイレブは危険へと飛び込んで行くのだ。

 ちょっと待った。
 やたらと「探偵だから」とイヴォンヌはこだわっているけれど。
 今回の件は探偵関係ないから。

 探偵の仕事じゃない。
 依頼人はいない。
 ケイレブがただの趣味でやっているだけだ。

 マクシミリアンに誘拐されたハリエットを救い出すために、ケイレブは無謀と知りつつ仲間たちと共に、パーティ会場へ乗り込んでいく。
 命を懸けて。泣く恋人を置いて。
 男には、行かねばならないときがある。


 えーと。
 だからそもそもなんで、命を懸けるの?

 会ったこともない赤の他人のために命を懸ける。
 恋人や仲間に迷惑をかけても、赤の他人の無念を晴らしたいと思う。
 一度会話しただけの女の子を助けるために、命を懸ける。
 恋人を泣かせても、別れることになっても、刑事に事の次第を伝えてあっても、「自分で」助けに行く。

 これって、万人が納得する理由?

 しかも、タイトルは『私立探偵ケイレブ・ハント』。
 タイトル無視っぷりもひどい。
 だって探偵である必要が、カケラもない。

 依頼人でもない、ただの赤の他人のために個人的感情のみで捜査するのだから、『パン屋ケイレブ・ハント』『課長ケイレブ・ハント』でも、なんでもいい。
 職業と関係ない。
 パン屋でも、「いつもパンを配達に行く撮影所で女優が事故死したって」「さっきパンを買いに来た夫婦が、娘を探してるって写真見せられた、死んだのはあの写真の子だ」……で、今とまったく同じ展開になる。
 役所勤めでも商社勤めでも、幼稚園の先生でもなんでいい。だって仕事とは無関係のところでやっていることだもの。

 「事件」とケイレブの関わり方がぽかーんでした。彼が事件に関わり、命まで懸ける理由がわからない。

 ほんと、素朴な疑問。

 探偵が探偵する物語に何故しなかったんだろう、『私立探偵ケイレブ・ハント』。
 まだ作品語り終わってない……けど、千秋楽になっちゃった。

 『私立探偵ケイレブ・ハント』『Greatest HITS!』の盛況ぶりがこわい。
 マサツカ作品だから人気ナイはず、というのが公演はじまる前の見方だったのになあ。
 楽もマサツカだし、チケットあるだろと思ってたのに、まさかの立見まで完売だし。
 それと、帰宅してから知ったんだけど、
雪組 東京宝塚劇場公演『私立探偵ケイレブ・ハント』『Greatest HITS!』千秋楽 ライブ中継について
2016/11/07
以下の通り、雪組東京宝塚劇場公演千秋楽の模様をライブ中継致します。   
日時
2016年12月25日(日)15:30上映開始
※公演本編に続き、退団者挨拶、千秋楽挨拶まで中継をする予定です。

以下略

 東宝楽中継するのか!!

 『るろ剣』からはじまった楽中継、大作のみじゃなかったの?
 『るろ剣』で成功して、大作である『ME AND MY GIRL』『エリザベート』を中継することにした。トップ退団の『NOBUNAGA<信長>』『桜華に舞え』はもともとラストデイとして中継していたからともかく。
 通常公演は中継しないんだと思ってた。全公演するんだったら、『こうもり』もしたはず。

 大作でもない、タカラヅカオリジナル2本立て公演でも中継することにしたんだ! やってもいいと決断させるくらい、今の雪組の人気っつーか勢いがすごいってことか。

 なんでそうなのか、渦中にいる者にはピンとこない。ずっと雪担で、今も昔もスターさんたちの魅力や実力に大差はないと思うので……時代とタイミングか。

 ともあれ、『私立探偵ケイレブ・ハント』の中継はうれしい。

 『エリザベート』の中継を見て、「映像はダメだ、ナマで見ないと」と思い、中継に興味をなくした。
 でもそれは、『エリザベート』だったからだ。『エリザ』はそんな、平面的に見ていい作品じゃない。
 反対に、マサツカ作品は、映像で見たい。
 舞台でなくても構わないくらいには、板の上の情報量が少ないから。むしろ、演者の表情がアップで見られる方が情報量が多くなるだろう。
 広い舞台で主人公とヒロインがえんえん向かい合って話すだけ、とかなら、映像でふたりアップのみ、の方ががらーんとした舞台に集中力が切れ睡魔が襲う、なんてことがなくなっていいはず。

 いや、『ケイレブ・ハント』好きなのよ。ケイレブ@ちぎとイヴォンヌ@みゆちゃんが好き。だからふたりの芝居をじっくりスクリーンで堪能したい。


 さて、その好きな『ケイレブ・ハント』、そして大好きなケイレブとイヴォンヌ、ふたりだけの場面。

 ……だんだん、好きな感じじゃなくなってきた。

 ちぎくんの芝居が変わっちゃったのだわ……。

 マサツカ芝居はアドリブ禁止。規定会話で笑わせる芝居。
 そして、後半リピーターだらけになると、公演最初の方で取れていた笑いが取れなくなっている。
 笑わせるはずの場面で、笑いが起こらない。これは、演者にとってひどいプレッシャーなんだと思う。
 ちぎくんはどんどん、芝居を変えた。笑わせるために。

 ……これがわたし、苦手で。

 観に行くたびに、ちぎくんの芝居が大袈裟に、滑稽になっていくの。
 笑わせるための、滑稽さ。自然に結果的に滑稽に見えてしまう、ではなく、お笑い芸人のボケ的な、笑わせるためだけの滑稽さ。
 そして、ちぎくんの芝居が変わればみゆちゃんの芝居も変わる。ちぎくんがやりやすいように、彼女も大袈裟になっていく。

 初日辺りの、「ごくありきたりな恋人同士の会話」にある、「リアルな笑い」が好きだった。どっちも真面目に、ふつーに喋っているだけなのに、おかしい。それが、膝を打つ勢いで、好きだった。これぞマサツカ!って。

 ちぎくんの芝居がどう変わったかを、花担友人に説明したら、一発で納得してくれた。
「まとぶみたいになってた」
 まとぶさんも、真面目で熱い人だった。客席を沸かせたくて笑わせたくて、どんどん演技が過剰になり、音をたてるくらい見事に空回っていた。
 ……あのまとぶんを、思い出す。
 苦手だった。まとぶんのそういうところ。いや、本人のキャラとしては愛しかったけれど、作品的には無用だと思ってたから、そっちへ転がるとつらかった。

 ちぎくんもまとぶ系の人だけど、役柄的に悪い方向には転がらなかったのに。
 まさかマサツカ芝居でまとぶ化するとは……。
 難しいんだろうな、マサツカ芝居。

 いちばん顕著だったのが、サンタモニカのカフェ。
「でも、好きなのに」
「ありがとう、俺も好きだよ」
 のくだりね。
 初日でいちばん好きなところだったから、ここが日に日に崩れていくのが、残念で残念で。


 ところで、退団者が最後にお花を真っ二つに割るのは、雪組名物として定着するのかしら。
 えーちゃんがはじめて、その後の退団者が引き継いだ。
 「かっこいい娘役」だった、オトコマエなえーちゃんがやるぶんには良かったけど、今後すべての退団者が、お花を真っ二つにするのを見るのは、わたしはうれしくないなあ。
 袴姿で最後の大階段を降りて、組からと同期生から花を受け取り、ふたつを合わせて盾型にする。そして、最後の挨拶をする。その後の楽屋出でもそのお花を持って歩く。……というのは、タカラヅカの伝統。
 そのお花を真っ二つにするのはなあ、なんかチガウというか、結びつけられたキモチを裂かれるようで、美しく思えない。

 「絆、絆」は両手が必要、なのはわかるけど。
 お花はそのまま割らずに片手持ちするとか、退団者だけは両手を合わせたまま「絆、絆」するとか、してくんないかなあ。

 このまま雪組の伝統になったら嫌だな。わたしだけかもしんないけど。


 朝風くんの卒業が寂しい。
 雪組の大人のエロ男、ショーでその艶姿を眺めるのが好きだった。

 ……役の少ない芝居で、それでもちぎくんと絡みがあるのは救いか、千秋楽くらい思い入れのある芝居がナニかできるかと期待したけど、……マサツカ芝居だもんなああ、そんなもん、あるわけないよなああ。いつも通りさらっと終了……。
 月DC『アーサー王伝説』2回目にしてMy楽。

 アーサー王キューピー当たった。

 すごい。
 『BJ』以来だわ。
 ……って、『BJ』は全公演制覇だから、確率がまったくチガウ。

 それにしても、だいもんアル・カポネのタルキューピーはわけわからんわ……。なんであんな、誰も喜ばないデザインにした……。(『アル・カポネ』は全プレなので抽選じゃないっす)


 当たりといえば、94期総見(?)に当たった。

 総見というには人数少ないかもしれないけど。
 ぞろぞろと組を超えて94期のみなさんが現れて、「おおっ!!」でしたわ。みんな泣いてた? 目元ぬぐいながら席を立っていたような。
 あすくん、レオ様は昨日千秋楽だったのに、フットワーク軽い。
 ……94期文化祭を観たときは、たまきちはどこにいたのか、まったく認識できてなかった。レオ様はばっちり覚えて帰ったのになあ。
 あ、94期文化祭でいちばん記憶に残ったのは仙名さん、それから和海くんとレイラですな。あとレオ様とびっく、わかばちゃん。たまきちも麻央くんも存在すら知らなかったという。麻央くんは文化祭が終わったあとマスコミが書き立てていて「??」となった……そんな子、いた? 観てない、って。
(文化祭は演劇がダブルキャストなので、わたしは和海くんとレイラの回を観ていて、たまきちと麻央くんの回を観ていないのだ)


 ともあれ、2回目なので視界は自由、ストーリーわかってるから好きなとこ観るぞーー!
 てことで、からんくんロックオン。
 じーさま好きや~~!
 おしゃれな髪型してるよね。ところどころおちゃめでもあるよね。
 しかし出番自体は少ないよなー。

 わかばちゃん・くらげちゃんの美少女コンビ堪能。
 踊るふたりがすごい好き。わかばちゃん、美しすぎて嘘くさい。ナニあれ二次元美少女がそのまま舞台にいるよ……!
 そしてやっぱ、くらげちゃんのコケティッシュさが好き。やだ萌える。滾る。
 くらげちゃんは、コスプレだ!!
 『A-EN』も好きだった。そうか、コスプレだ、アニメ・ゲーム系だとハマるんだ。ふつーのタカラヅカだと地味で老けて見えるけど、アニキャラやると美貌と器用さがまんま武器になる。
 夢が広がるわ。

 たまきちVSまゆぽんとか、逃げ場がない感じで焦るなあ。
 逃げ場ってその、野郎感剥き出しで、もう少しこう、タカラヅカ的な、ファンシーさがあっていいんじゃないかとか(笑)。

 ゆりやくんが彼にしてはめずらしい感じの役で、このままただの脇役なのかと初見では焦ったなあ。後半、まだ見せ場っちゅーか役割があってほっとした。
 学年的に貫禄が必要になってきたんだね。持ち味のやさしさとあたたかさを活かしつつ、大人の貫禄が出せるようになったら大きな武器になるんだ。と、気づかせてもらった、今回の役。

 てゆーかわたし、たまきちだと萌えないらしい……。
 立ち位置的には、アーサー×メリアグランスとか、ガウェイン×アーサーとか、カップリングよりどりみどりなのに、思考がストップするっす……。
 ガタイは関係ないわ、役によってはワタさんだって受OKだったし。
 あのユウジロウ・イシハラ感がネックなんだろうか……。

 れいこが組替えになることだし、あーさがいなくなる前に、95期の色男たちを並べてみてほしいなあ。
 れいこ・あーさ・まゆぽんを同じ舞台で観たい!!
 博多座はショー付きだから、全員が博多座なら夢の舞台を観られるか。きっと3人で1場面あるよね。
 ちゃぴ姫を取り合ってくれてもいい(笑)。

 2回目だから耐性が付いたのか、ちゃぴの人形ダンスと発狂芝居、初見ほどびびらなかった。「すごいの来るぞ」と構えて観ちゃったせいか、「あれ、こんなもん?」だったのは、もったいないことしたなわたし。気負い過ぎ。
 でもやっぱちゃぴうまいわー。かわいいわー。
 でもってやっぱグィネヴィアは感情移入しにくい役だわー。

 あとわたし、モブでキザってるジョーを見るのが好きです……ポッ。

 斗希矢 くんのやる気あるんだかないんだかのひょろっとしたモブ姿も眺めつつ。
 兵士たちがみんなキラキラしてて目が足りない。
 私立探偵である意味がまったくない『私立探偵ケイレブ・ハント』、どうしてこうなった。
 11月6日(http://koala.diarynote.jp/201709261659301745/)からの続き。


 わたしならどうするか。

 答えはシンプル。
 探偵が探偵する話にする、『私立探偵ケイレブ・ハント』。

 メキシコ人夫婦の「娘の捜索依頼」を「探偵の仕事として」受ける。

 たとえ依頼人がその直後事故死しても、「受けてしまった仕事だから」と投げ出すことはしない。
 だって俺は「探偵」だから。

 恋人のイヴォンヌが「探偵と付き合うこと」に迷いを持っていても、仕方ない。探偵をやめる気はない。

 相手がマフィアだとわかっても、逃げ出さない。一旦受けた仕事はやり遂げる。命を懸けることになっても仕方ない。
 仕事ってそういうもんだろ。軍人だって刑事だって、同じように仕事してる。医者だってパイロットだって役者だって、ときにはいろんなものを懸けて犠牲にして、それでも仕事を全うするだろ。
 俺は探偵だから、探偵するよ。

 ……という、タイトルに嘘偽りナイ物語にする。

 でも、「いくら仕事だって命まで懸けるのおかしい」と思う層を納得させるために、「心」の部分でも「命を懸ける理由」を作る。

 男を動かす手っ取り早い理由は、「女の涙」だ。
 てことで、「死んだアデルの友人ハリエットは、実はイヴォンヌの親友だった」という設定を投入。

 せっかくの誕生日、待ち合わせに遅れてレストランへ行ったケイレブは、イヴォンヌよりもハリエットに責められる。こんな日にイヴォンヌを待ちぼうけさせるなんて、と。元女優志望で今はメイクアップの勉強中のハリエットは、この店でアルバイトしていた。
 ハリエットという存在、イヴォンヌとの関係をしっかり打ち出して、あとは本編通りのケイレブとイヴォンヌのデートへ。

 ケイレブは本編と同じタイミングで、アデルの部屋でハリエットと鉢合わせる。
 ハリエットが「荒らされた友だちの部屋にいる知らない男」をそのまま信じ、なんでもかんでもぺらぺら喋る、という本編の不自然さはこれで解消。ハリエットが喋ったのは、ケイレブと知り合いだったからだ。
 昨日きつい言い方をしてごめんなさい、とハリエット。彼女がびりびりしていたのは、アデルの死で傷ついていたからだったんだ。
 でもせっかく誕生日でデートを楽しみにしているイヴォンヌに、あそこで言うべきではないから、自分の哀しみは言わなかった。
 イヴォンヌは友だちだからとか、あの子には幸せになって欲しいとか、だから泣かせたら許さないとか、死んでしまった友だちの部屋で拳を握りながらぽつぽつ喋るハリエット。死んだ友だちの大切にしていた花を助けるためにやってきたハリエット。

 ハリエットがいい子だと、ケイレブにも観客にも示す。
 コレ大事。

 イヴォンヌ自身はアデルに会ったことがない。だから、アデル事故死時に同じスタジオにいたけれど、ぴんときていなかった。翌日になってハリエットから「アデルとは友だちだった」と聞かされて驚く。
 ケイレブがアデルの事件を調べているとハリエットから聞かされるけれど、それがマクシミリアンと関係しているとは思っていないから、マクシミリアンの仕事を受けて彼の屋敷へ出入りしている。

 本編通りにマクシミリアン邸でケイレブと会い、彼に半ば強引に連れ出されたイヴォンヌは、そこでマクシミリアンがマフィアだとケイレブに聞かされるが、信じない。それどころか、ケイレブと微妙な空気になる。
 その後、本編通りハリエットが誰かに連れ出されたと知ったケイレブは、まずイヴォンヌにハリエットのことを尋ねる。下宿屋の管理人が言うように彼氏と出かけたのかどうか、確認しなきゃ。
 ハリエットにそんな彼氏はいない、やはり彼女は誘拐されたのだ、とケイレブは結論づけるけれど、イヴォンヌは半信半疑。
 直接マクシミリアンに、ナニかの誤解だ話せばわかると会いに行き、「ハリエットを返して」と直談判し……ケイレブの言っていたことが本当だと知る。
 マクシミリアンはとぼけるし、ケイレブが止めて力尽くでイヴォンヌを連れ帰るが、彼女は収まらない。
「ハリエットを助けて!」

 そして、本編のホテルの場面へつなげる。マクシミリアンに楯突いたからには、もう自宅へは帰せない、危険だ、ってことでホテルへ避難。
 激情のままにハリエットを助けてと泣きついたものの、それはつまりケイレブにマフィアと戦えと言っているわけで、そんな危険なことはしてほしくないと、イヴォンヌの心は乱れる。
 そんな彼女の苦しみごと、ケイレブは全部背負って、戦いへ赴く。

 ケイレブの仲間は刑事ホレイショーとその相棒ライアンのみ。「ケイレブ・ハント探偵社」はケイレブひとりで立ち上げた探偵社だ。ただし、事務員だの秘書だの使い走りだのはいる、明るくにぎやかな事務所だ。
 ケイレブはホレイショーとライアンと3人でマクシミリアン邸のパーティへ乗り込む。

 アデルの死の真相を突き止めることは、死んだ依頼人へ仁義を通すことだ。探偵としての矜持だ。
 そして、イヴォンヌの親友を助けることは、彼女への愛ゆえだ。
 さらに、ハリエット自身もいい子だ。見殺しになんて出来ない。
 3つの理由をわかりやすく背負って、探偵ケイレブは歩き出す。前へ。


 これくらい理由があれば、マフィアと正面衝突するのもわかるんだけどなあ。
 だって、『私立探偵ケイレブ・ハント』だし。
 探偵として生き、ひとりの男としてイヴォンヌを愛している、のだから。

 でもマサツカせんせは、逆に考えるのかもしれない。
 探偵だから探偵するのは不純だ。依頼されたから動くのは不純だ。
 恋人の頼みだから助けるのは不純だ。
 いい子だから見殺しに出来ないなんて不純だ。

 職業なんか関係なく、仕事でもなく、誰かに頼まれたのでもなく、赤の他人のために、なんの思い入れもない知らない誰かを助けるために、命を懸ける。
 これこそが、もっと尊い、かっこいい行いだ。
 それこそが、描きたかったケイレブ・ハントという男だ。

 ……って。
 まあそういうのも、わかるけど。

 でもわたしは、「行動」に「理由」を作りたい。
 対外的な理由と、心の理由と。
 そしてなにより、タイトルを大切にしたい。

 『私立探偵ケイレブ・ハント』なんだから、彼は「探偵」であるべきだ。
 てことで、『私立探偵ケイレブ・ハント』を作り直してみる。
 ストーリーラインはそのままで。

 ただし、本編のままだとケイレブが「探偵」じゃなく「ただの変な人」なので、前日欄に書いた通りのネタをぶっ込み「探偵」にする。
 メキシコ人夫婦から、娘アデルの捜索を「依頼」された。ゆえにケイレブは「探偵として」動き出す。
 また、アデルの友人ハリエットは、ケイレブの恋人イヴォンヌの親友だった。ハリエットを救うのは、イヴォンヌのためでもある。……というのが、前日欄の話ね。

 で、前日欄の展開だと、ジムとカズノがいない。だって、この役いらないからな。
 いらない役に尺を取って作品を壊さない。番手スターには重要な役をやらせる。
 ……ってことで、キャラクタ整理。

 主人公ケイレブ@ちぎくん。
 その恋人イヴォンヌ@みゆちゃん。
 ここまでは同じ。

 ナイジェル@だいもん。
 2番手だから、2番手の役をやる。

 物語がマフィア抗争を軸としているから、3番手役はマフィアのボス。マクシミリアンなんて雑魚ではなくて、自分は表に出ず手も汚さず、勝利を独り占めしたマフィアA……ケイレブとイヴォンヌがデートで行ったフレンチレストランのオーナーね。
 それが、咲ちゃん。

 4番手はケイレブの友人、刑事ホレイショー@翔くんそのまま。

 トップと4番手がペアで、2番手と3番手がペアで、ひとつの出来事を軸として、別の角度から関わる。絡む。スターの比重的にもいい感じ。

 マサツカは咲ちゃんにずーっと同じタイプの役ばかりやらせる。『ロジェ』『はじめて愛した』『ブラック・ジャック』そして『ケイレブ・ハント』……みんなちょいアタマ悪い系の不良青年。カズノってケイレブやジムとは毛色が違うよね、いつもの「マサツカ作品の咲ちゃん」っぽいよね。
 同じタイプしかさせたくないのかなあ。だからカズノだったのかなあ。
 でもここはひとつ『はじめて愛した』のアホボンの上位互換キャラってことで、マフィアのボス役を。
 若くその地位に就いた、エキセントリックな男。職業柄っつーか立場柄というか、基本クズで威圧的。でも美形、というロマンの詰まった役。
 寡黙なナイジェルとのコントラストも良い感じで。

 ちなみに、5番手マクシミリアン@れいこ、6番手ライアン@ひとこもそのまま。

 で、本編からジムとカズノの場面を削る。
 探偵事務所の場面はあっていいけど、「トップスター、2番手、3番手勢揃い」の場面だからこそ歌だのダンスだのを使って尺を取っていたんだ、「ケイレブには仲間がいる」「ほっこり」という用途で挿入されるだけなら、大した時間は取らずに済む。

 代わりに入れるのが、マフィアのボスとナイジェルの場面だ。
 本編の物語を、マフィア側の視点を入れることで補完する。

 本編のミステリ部分である「アデルの死を調査し、謎解きするケイレブ」の流れは、「アデルと両親を殺したのは誰?」→「悪いのはマクシミリアンだ!」→「マクシミリアンと対決」となっている。
 この合間にナイジェルがうろちょろしているわけだが、それだけでは、伏線として機能していない。

 だから、ナイジェルが「なんでうろちょろしているのか」を描く。

 ケイレブが「マックスアクターズプローションがいろんな事件に絡んでいる」とわかるタイミングで、マフィアのボスがナイジェルに「マックスアクターズプローションが目障りだ」と話している。
 イヴォンヌがマクシミリアンのリゾートクラブのアニバーサリーパーティのプロデュースを任された、というくだりで、マフィアのボスが「俺も招待されている。お前も付いてこい」とナイジェルに話している。
 てな風に。
 あくまでもケイレブの物語、本編はそのまま使うので、ナイジェルとボスの出番は短く挿入。ボスは登場するたびチガウ美女をはべらしてたりするといいな(笑)。

 ケイレブからはマクシミリアンしか見えていないし、たしかにマクシミリアンは悪だけれど、そこにもうひとつ、大きな悪の力が伸びようとしている……それを知っているのは観客だけ……逃げてケイレブ! てな。
 そして、動向を読めないのが、ナイジェルという男だ。
 ケイレブがマフィア抗争に巻き込まれないよう忠告したってことは、彼はケイレブの味方? でも彼はマフィアのボスに従っている。
「マクシミリアンの周囲を嗅ぎ回っている探偵、邪魔だからマクシミリアンごと殺っちまえ」ボスの言葉に、ナイジェルはうなずいたのか? 答えがわからないままライトが落ちる。


 11月15日欄へ続く。
 お楽しみのウエクミ新作だーー!
 花組『雪華抄』『金色の砂漠』初日。

 『雪華抄』は、取り急ぎ原田くんは今後ショー作家に転向してくれ。とのみ言及し、『金色の砂漠』の話。

 みりお様が奴隷! 拗らせ系! ということで、楽しみ過ぎた作品。

 ……初日に観に行って良かった、と思うのは、冒頭のある場面。
 タルハーミネ@かのちゃんが輿から降りるときに、ギィ@みりおくんを、踏み台にする。

 これは……。

 劇場内の空気が、動いたね。

 あの空気を、どう言えばいいんだろう。

 それは純粋に、驚愕なんだと思う。
 トップスターがトップ娘役の足元にうずくまり、その背中を踏んで、トップ娘役が輿から降りる。
 そんなことが起こるとは思ってないから、みんな驚いた。

 驚愕は素直に声となって漏れていたし、かのちゃんがみりおくんを踏んだのは一瞬のことで、そのまま芝居は進んでいくんだけど、しばらく客席はざわざわしていた。

 いやあ、「タカラヅカ」ってすごいね。
 トップ娘役に、トップスターが踏まれた。
 これだけのことに、驚愕するんだ。本人たちどうこうじゃなく、「芝居」の中の話なのに。そこで悲鳴上げるくらいには、「トップスターは特別な存在」と、ファンが認識している。
 トップスターが「踏み台」にされることなどあり得ない。……「太陽が東から昇る」くらい当たり前に刷り込まれているもんだから、「え、今、西から太陽昇った?? え?!」って驚く。
 「タカラヅカ」すごい。

 もちろん、初日の客席の何割かは確実にみりおくんのファンで、「愛するみりお様が踏み台にされた!」ということにシンプルにショックを受けた人も、そんな演出をされたことに憤りを感じた人もいたと思う。
 でも、「誰が」ということよりもまず、「トップスターが」ということに、反射的に驚くと思う。みりおくんのファンだって、まさかトップスターになってそんな扱いされると思ってないだろうし。
 名もなき下級生なら、こんな反応にはならない。トップスターだからだ。

 「タカラヅカ」ってすごい……と、改めて思いながら、そのすごい「タカラヅカ」で、よくこんなことさせたな、ウエクミ。と、思った……。

 奴隷役だとわかっていてなお、あくまでも芝居の中で踏み台にされる、というだけのことで客席がマジにびびる、そんな客層の劇団で、コレをわざわざやらせるって。
 挑戦的だなあ。

 初日に観られて良かった。
 ナニも知らずにこの場面を見られて良かった。
 驚愕の声と、そのあともざわつく客席。

 まず、驚愕。そして、困惑。

 え、今、踏んだよね。踏まれたよね。え? え? ……いいの?

 いやあ、いい体験だった。ざわざわざわ。


 でもって、とても美しい物語だった。

 みりおくんが楽器弾いてて、かのちゃんがカレーくん膝枕してるとことか。
 あまりの美しさに、大漁旗でも振って叫びたいくらいだった。「これが『タカラヅカ』だーー!」と。
 これほどまでに美しいのが、「タカラヅカ」という文化。世界。現実にこんな美しいものがあるなんて。

 タカラヅカを好きでよかった。ヅカヲタでよかった。こんなに美しいものが観られるなんて。
 と、瞬間メーターぶっちぎるくらい、美しさに感動した。
 この一場面の美しさだけでしばらく生きていけるわ的な。美しいは正義。


 しかし、「王族には異性の奴隷を付ける」という設定には終始違和感。どう考えてもソレはない……おかしい……。
 王子に女性の奴隷を付けるまではギリギリありかもしんないが、王女に男の奴隷はナイわ……付けるなら去勢しなきゃだわ……。
 物語の根っこ部分に納得出来ないのがつらい。


 つっみどころはいろいろあるけど、さすがに女盗賊じゅりあの「アツいね、アンタの剣は!」で、吹き出した。
 そーれーはー(笑)。
 やりたいことはわかるけど、トンデモ過ぎるわ、その展開。
 素直に、「いい男じゃないか、気に入ったよ」でいいじゃん。周りの男たちに「また悪い癖がはじまった」とか言わせておけばいい。手下たちも顔で選んでるの丸わかりだから、説得力ある。

 ギィが女首領の男妾になって、賊を率いるようになったんじゃない、あくまでも実力と人望ゆえだと、その後の会話でフォローすればいい。
 つか、むしろ台詞で「実力ゆえに」と説明出来るようになるから、最初は美貌ゆえに首領に気に入られた、ということにした方がよくないか?
 だって、どんだけ「アツいね、アンタの剣は」ってスピリッツに惚れたみたいなこと言っても、肉食系おねーさまじゅりあに、おいしくいただかれちゃってるよね、子ウサギみりお様、と思えるもん……。虎がウサギ捕まえてる図にしか見えん。


 あきらの喋り方が変だ、なんか変だ、まさかと思うが若い役なのか、若いのか、てゆーかちょっと待て、この国の奴隷設定だと、あきらと音くり同世代?! え、あきらまさかの小学生役?! え、それなんのプレイ? どのへんに需要が??

 べーちゃん、長女じゃないの? どう見てもかのちゃんよりおねーさんだろ。
 タソがいいヤツ過ぎる……。

 ジャハンギール王@ちなっちゃんが、かっこいい……!!
 ちょっとどうしよう!! どきどき。


 とかまあ、いろいろ。
 それはともかく、帰り道の電車降り際に、わたしはふと溜息をついた。

「いい人の役をやって、ちゃんと『いい人』に見えるっていいよね……」

 固有名詞は一切出してない、ただのひとりごとめいたつぶやきだったのに。

「どうしてああなっちゃんだろうね。『オーシャンズ11』初日なんか、悪役が出来なくて大変なことになってたのに」

 間髪入れず、的確に同意した花担友人すごい。

 ほんと、どうしてこうなった。「いい人」役をやってもそう見えない、悪者に見えるなんて……なーぜーだー。
 昔はナニやっても「いい人」で、『オーシャンズ11』初日は「ただの生真面目な苦労人やん。同情しちゃって、主人公チームが非道に見えるからよせ」と頭抱えたのにーー。
 と、さらに固有名詞を出さずに書く(笑)。

 えーとその、要するに、キキちゃんのいい人オーラに感動しました、まる。
 『金色の砂漠』面白かった。

 「王族には異性の奴隷を付ける」という設定がどうしても「そんなことあるかーい!」と受け入れられないことを除けば、好きなプロットだ。
 ……だからほんと、この同人誌的な設定が惜しい。

 同人誌は萌え優先だから、トンデモ設定なんでもアリなの。今流行りの「〇〇しないと出られない部屋」とか、ストーリー組み立てる必要なく、萌えな場面だけ書ければいい、ってことで、トンデモ設定ぶち込むけど、プロがそれやっちゃうのはどうかと思う。
 あれ? 「〇〇しないと出られない部屋」って説明必要か?

 たとえば、『エリザベート』の1幕時点で、まぁ様トートと、みりおんシシィのラブシーンが観たい、と思っても、あの時点のふたりでソレはないよね。
 そういうときに「恋人のようにラブラブにキスしないと出られない部屋」に、ふたりを閉じ込める。
 どんな部屋だよ?というツッコミはナシ。そういう設定なの。
 どうやっても出られない、出るための方法はひとつだけ……となると、さあ、どうする? トートは「カモーン!!」だけど、シシィは「ふざけんな!」だよね、だけど内心は彼に惹かれているわけで、絶対嫌だけど、でも今はこれしか方法がないんだからしょうがなく……という体で、しても、いい、か、な……?
 てな、純粋に「見たい場面だけ」書ける、便利ツール。
 同じ部屋に、「りくエルマーと、ずんシュテファン」を閉じ込めた場合とか、「あっきールドルフと、りくエルマー」を閉じ込めた場合とか……考え出すと止まらなくなるくらい、楽しいぞ(笑)。

 王女に男の奴隷を付ける、という設定が、この「〇〇しないと出られない部屋」と同様の同人設定に思えるの。
 ありえないけど、萌え場面を描くために必要だから、とにかくそういうことにしました、ツッコミ不要、としているのが。


 他にナニか、いい設定はなかったのかなあ。
 観ながら、ソレに気を取られちゃった。面白い話だから、設定の荒さが気になる……。


 そして、『星逢一夜』をサルのようにリピートした者としては、進化してる!! と、『星逢一夜』より良い点を数え上げるのに忙しかった(笑)。

 第一に。
 役が多い。

 すごいすごい、3人いれば事足りる、3番手ですら「村人その1」だった『星逢一夜』とぜんぜんチガウ!!
 と、感動。

 主役カップルと当て馬男、2番手カップルと当て馬男、王様と王妃、と、愛憎だけでこんだけ描ける、登場人物がいる。
 『星逢一夜』の3倍くらい役があるよ……いきなり3倍か、ウエクミすげー進化してるんだなあ。1作ごと進化するってすごいなああ。

 第二に。
 やっぱり「最後はナニも成し遂げずに逃げ出す」主人公なんだけど、その理由が『星逢一夜』より納得出来る。
 愛のためにすべて投げ出すのは、タカラヅカなんだからアリだ。わたし的に。
 「ただ自分がこれ以上傷つきたくないから、すべて捨てて逃げる」晴興@『星逢一夜』主人公に、めっちゃ疑問持ってたから。

 第三に。
 画面がきれい。
 王宮は良いですな。なんちゃってアラブもの、異世界モノはいいですな。
 王子様にお姫様、いいですな。奴隷役でもきれいなお衣装、いいですな。
 びんぼーな農民しか出てこない作品は、やっぱ観てて寂しい……。どんなに栄養があっておいしくても、茶色いおかずばっかのお弁当より、カラフルキラキラ夢いっぱいのキャラ弁がいい……。

 第四に。
 舞台機構の使い方が、ドラマチック。
 セットが良く動くわー。多彩だわー。『星逢一夜』って平面的だったよなああ。


 役が多い=ドラマが多層、大劇場ならではの画面、主人公の行動がセーフ。
 ……ということで、うらやましい限りです。

 や、それでも好きだけどね。『星逢一夜』。
 隣の芝生は青いのさ(笑)。
 『金色の砂漠』面白いなあ。
 と思った。

 なんといっても、キャラクタが良い。
 どのキャラもすごく立っている。二次創作できるくらい。

 ヒロインのタルハーミネがいいキャラクタだ。高慢でわがままで冷酷な女……でありながら、ヒロインたり得る魅力のあるキャラ。
 こういう女性を描くのは楽しいなあ。

 と、思うから。

 あー、わたし、ここに来てようやく知った。自覚した。
 わたし、かのちゃんダメだー……。

 『仮面のロマネスク』がダメだったの。かのちゃんのメルトゥイユ夫人。
 かのちゃんをダメだと思ったのがそのときはじめてだったので、たまたまかなと思った。この役は難しいから、大人の女の役だし、若いかのちゃんにはキャリア的に無理があるし、柄違いだし。
 単に、メルトゥイユ夫人がダメだっただけ。わたし、初演ヲタでメルトゥイユ夫人にこだわりあるせいだな、うん。

 そう思っていたけど。
 オリジナル作品でもダメ、つーのは、相性悪いんだわ……。

 サリー@『ME AND MY GIRL』は合ってたと思う。ふつうにかわいかった。
 藤壷@『新源氏物語』は、顔を観た覚えがナイ……。
 アリシア@『カリスタの海に抱かれて』は記憶にナイ……。
 グウェンドレン@『Ernest in Love』はかわいかった。

 思い返してみれば、最初の『Ernest in Love』で「かわいい」と納得して、それ以降は興味がなくて観てなくて、『仮面のロマネスク』ではじめてちゃんと観て違和感持って、今回ようやく苦手だと気づいた、と。
 遅い……。

 わたしは、好きな人を観るだけでいっぱいいっぱい、視野ものーみそのメモリも極少だから、苦手な人を観る余裕がない。だからいつもしあわせ、タカラヅカは好きなモノだけで出来ている。
 ブログで名前出していじる人は、書き方がどうあれ好意を持っている人、そうでなければ目に入らない。

 だから、ほんと気づいてなくて。
 退団発表のときだって、まだちゃんと見た気がしていないから、これからもっとちゃんと見たいのに、早すぎる、と惜しんだ。マジで、気づいてなかったんだってば。
 無自覚だったから、けっこう衝撃だった。そうだったのか!と。
 役の比重が大きいと、どうしても観ちゃうから、ちゃんと見たら、苦手なタイプだった、と。
 ……ふーちゃんのときと似てるなあ。なんでこの芝居?!と、芝居の理解出来なさにようやく「苦手」だと悟ったのが『マラケシュ・紅の墓標』のときだった……遅い……組んで何作目よ……それまではあんまし興味なかったから、気にしてなかった……。

 タルハーミネは、疑問だった。
 え、どうしてそこでその表情?
 泣いてるの? 笑ってるの?
 歯茎の印象強い……姫君なのに……。

 タルハーミネの演技で、物語がぶつ切りされることが続いた。

 脚本から想像するタルハーミネと、目の前のタルハーミネの芝居が違う。
 や、まったくチガウとか、かけ離れているとかではないよ。
 ささやかな違いなの。違和感レベルなの。でも、こういう繊細な心理表現が続く展開だと、その違和感は物語に水を差すのよ。

 芝居は、相性だからなあ。
 かのちゃんがどうというより、わたしの問題。
 わたしが、かのちゃんと波長が合わないのだわー。

 コレを言うとアレだけど、「この役がみゆちゃんだったなあ」と思ってしまった。
 みゆちゃんは、わたしと波長が合う。

 役者さんとの相性って、「堰」のようなものだと思う。
 物語は流れる水流、曲がりくねったり狭くなったり広くなったり、滝があったり。あるがままに流れていく。流れることを楽しむ。
 でも、相性の悪い役者がいると、その流れを堰き止められる。
 『星逢一夜』のたんぼにあったアレみたいなやつ。水路がそこで止められる。
 かのちゃんは芝居で、たとえばうらら様は消える歌唱力で、ばっこんばっこん堰を下ろしてくれる。
 そのたびわたしは、堰にぶつかって行き場のない水流をいなしながら、自力で堰を切り、また流れに身を任せる。でもまた堰を下ろされ、水がぶつかって逆流したり水路外にこぼれたりするのを見ながらあわてて堰を切る……そのくり返し。
 あんまり何度も堰き止められたら、最初は豊かに勢いよく流れていた水も、下流になるころにはちょろっとしかなくなっちゃってるよ……物語自体がつまんなくなっちゃってるよ……。

 反対に、相性のいい人って、あらゆる堰を開けちゃう人なのね。
 たくさんある支流とか全部堰なしで合流してきて、どんどん水は豊かに流れ、海にまで広がるの。地球全部を覆うくらい、無限に広がっていくの。
 書き込み自体が少なくても、そのキャラクタのドラマが見えるの。物語が広がるの。

 ……だから、ほんと相性の問題。
 わたしにとって堰でも、誰かにとってはそうではない。その逆も然り。

 ただわたしは、せっかくの萌えな物語とキャラクタなのに、相性の悪い役者さんだったことを残念に思うっす……。

 タルハーミネは、かのちゃんアテ書きだと思う。かのちゃんに似合う役だと思う。表面的な強(こわ)さの内に、切ない繊細さを持つところが、似合うと思う。
 美貌だし華やかだし、衣装も似合っている。みりおくん、カレーくんとの並びもクラクラするほどきれい。
 ……外見もキャラクタも合っていると思うのに……アテ書きだからまんまでよさそうなものなのに……何故「チガウ」と思うんだろう。技術の問題かなあ。この色を出すための混色方法がわからない、だから似て非なる色になってしまった、とか。

 しっくりこないことが残念。や、わたしが。
 ウエクミ新作、花組『金色の砂漠』の幕が開いた。
 三つ子の魂なのか、デビュー作から抜けきらない印象の作風。
 賊の女首領じゅりあってアレだよね、『月雲の皇子』のチューちゃんの役だよね。チューちゃんもかっこよかったなああ。

 と、思っていたところに。
月組 退団者のお知らせ
2016/11/14
下記の生徒の退団発表がありましたのでお知らせいたします。   
月組
貴千 碧
咲希 あかね
煌海 ルイセ
美里 夢乃

2017年3月26日(月組 東京宝塚劇場公演千秋楽)付で退団

 チューちゃん退団……!
 美貌のおねーさま役者が。
 『紫子』のときとか、「かっこいい女」もハマるステキな女役さん。

 そして、まんちゃん……!
 まんちゃんは文化祭から眺めて来た子、てゆーか、91期文化祭プログラムのまんちゃんの写真見てくれ、絶対「え?!」と記憶に刻まれるから!
 次にまさおの『Young Bloods!!』2幕ででべらべら喋ってるとこ、まさおの愛称が「まさお」だってそのときはじめて知ったよ……わたしのまさお呼びはそこからだよ……!
 芝居はアレだけど、かっこいいダンサー。最近は芝居も二度見するレベルではなくなってきて、ますます男ぶりが上がってたのに。

 寂しいなあ。


 そして。
 博多座『長崎しぐれ坂』のトドの相手役チューちゃん、の夢が潰えたのでした……。すーさん一択……。
 『私立探偵ケイレブ・ハント』を作り直してみる、その2。
 ストーリーラインはそのままで、ケイレブに探偵させて、命を懸けるだけの理由(恋人の親友を助ける)を加えて。
 その上で、本編ではまったく描かれていなかった「真の敵」側を描く。
 http://koala.diarynote.jp/201709281248092543/ からの続き。


 ケイレブ@ちぎとナイジェル@だいもん。
「あの戦争」で命を預け合ったふたりの男。
 ケイレブはコーヒーメーカーの買い換えでぎゃーすか揉める事務所の仲間に振り回されたり、友人のホレイショー@翔と情報交換したり一緒に捜査したり、恋人のイヴォンヌ@みゆといちゃいちゃしたり、ケンカしたりしている。
 ケイレブはいつも、誰かと共に。
 そして、誰かのために、奔走している。
 ナイジェルはいつもひとり。マフィアのボス@咲に話しかけられたり、命令されたりしているけれど、「会話」はしていない。
 マサツカあるあるの、陰鬱なひとりごとソングを歌ってみたり。
 誰のためでも、自分のためでもなく……ただ、生きている。

 マクシミリアン@れいことの対決の前の、「雑踏を歩きながら登場人物たちがそれぞれ思いを歌う」マサツカのお約束はそのまま。
 ジムとカズノがいないから、その代わりにナイジェルとボスのソロが入る。

 ケイレブは、ナイジェルを友だと思っている。
 ナイジェルも、ケイレブを嫌ってはいないはずだ。
 だが、ふたりは今や、敵同士だ。

 ケイレブはマクシミリアンを倒すためにパーティへ乗り込む。
 ナイジェルもまた、ボスに連れられパーティへ向かう。会場へは足を踏み入れず、スナイパーである彼は、ボートの上から獲物を狙う。

 ケイレブVSマクシミリアンは本編そのままで。
 マクシミリアンが本性を現した瞬間射殺される、のも同じでいい。
 ただ、ここでケイレブがナニもしないのは主人公としてどうよ。だから、彼は咄嗟に動く。「この銃弾の角度は……海から?!」混乱する人々のなか、ケイレブだけが冷静に思考をめぐらせている。元兵士ゆえに。
 確実にマクシミリアンとその部下だけを狙った銃弾。その腕の確かさに、彼はある人物を思い描く。
 そして、まっすぐにスナイパーがいるだろう方向へ向き直る。
「ナイジェル……?」
 ライトが落ちて、舞台は闇に沈んでいく。ただひとり、ケイレブを残して。
 そのケイレブに、ターゲットスコープのカタチをしたライトが当たる。最初は大きく、だんだん小さく、心臓を狙うように。
 暗転と共に、銃声のエフェクト入れるくらいのあざとさがあっていいよね(笑)。

 さらにあざとく、イヴォンヌに歌ってもらう。
 対決前の「雑踏ソング」のリフレイン。

 えっ、ケイレブ死んじゃったの?! ナイジェル、本当に友だちを撃ったの……?!
 と、思わせておいて。

 そこから、フレンチレストランでのデートへ、本編通り。平和でラヴラヴ、なーんだ、やっぱりケイレブ生きてんじゃん! じゃああの銃声は? 答えは、お礼のワインで察して。
 「レストランのオーナーから、お礼です」とケイレブにワインが手渡される。そのワインを渡すのが、ボス自身。自分がその「レストランのオーナー」だとは明かさずに。
 ケイレブたちが去って行くときに、レストランのマネージャー@朝風くんが「オーナー、どうして……?」と問いかけることで、ボスがその「レストランのオーナー」だと観客にわからせる。ボスは「まあまあ」といなして笑っている。ケイレブのこと殺すつもりだったくせに、手のひら返したんだよ、彼のことが気に入って。
 ボスはクズだけど憎めない色男。

 探偵社場面はなしで、そのまま空港場面へ。
 ケイレブとナイジェルの素っ気ない会話もそのまま。あれってハリーのこだわり、男のロマン(笑)だと思うから。

 ボスから止められなかったら、ほんとにケイレブを撃っていたの? ケイレブを守るためにマクシミリアンを撃ったくらいだから、ケイレブを殺す気なんてなかったのよね?
 ナイジェルの真意は説明されないまま終わるのがポイント。
 そしてまた、ケイレブがなーんにも知らないままだというのも、ポイント。

 本編まんま、ケイレブとイヴォンヌのラヴラヴ銀橋デートで終わる。

 ちなみに、オープニングは「ありもしない映画の1場面」ではなく、マフィア抗争イメージで。
 ひたすらクールに踊るケイレブ。
 ボスもナイジェルも登場。マクシミリアンやその部下たちも。刑事ホレイショーとライアンも。
 全員オープニングのスーツで。衣装関係なく、本編での人間関係、立ち位置をダンスで表現。
 本編とリンクしている……んだけど、最終的には「映画の撮影ですよ」と逃げて、アデルの死へつなげていいから。

 マクシミリアンのパーティでは、ボスにノリノリで踊ってもらいましょう。招待客ですから。
 マクシミリアンと火花散らしつつも、表面上はにこやかに。
 そして、ポーリーン@くらっちを口説いてもらおう。カズノとポーリーンがカップル期待、という感じだったから、役が変わってもそこは同じ。
 ケイレブがマクシミリアンを脅しているときとか、ポーリーンを口説いていちゃつきつつ、様子をうかがっている。

 がおちゃんは、探偵事務所に出入りしている情報屋とかで登場かな。なにしろケイレブの個人事務所だから、情報屋必要。

・探偵ケイレブ・ハントに、探偵をさせる。
・役の比重と番手の整理。
・イヴォンヌとの恋愛パートは全部そのまま。
・ケイレブが事件を追う理由、命を懸ける理由を明示。
・ふたつのマフィアとケイレブという三つ巴構造。
・ナイジェルと対比させることで、ケイレブの魅力を描く。

 ……こんな感じかな。

 要するにだいもんの役が気に入らないだけでしょ、と思う人もいるかもしんないけど。
 たしかに、「いなくてもいい役」しかだいもんにやらせないことには不満があるけど。
 それだけだったら、ここまでは思わない。
 役者が誰であれ、「物語が必要とするモノ」を、作者が正しく構築出来ていないことが、不快なの。ボタンがずれたまま外出してる人を見る感じ? スカートのファスナー全開で歩いている人を見ちゃった感じ? うわ、失敗してますよ、直して直して! 口を出さずにいられない。

 物語をかみ砕いて再構築する、アタマの体操は楽しいし。
 『私立探偵ケイレブ・ハント』の登場人物たちってみんな、かわいいよね。
 言いたいことは山ほどあるが、キャラクタたちは好きよ。マサツカせんせの描く人たちは、みんなどこかリアルっちゅーか、現実という名の泥臭さがあって憎めない。

 ジムという役は、だいもんには役不足だと思う。なにしろ、いてもいなくてもいい役だ。
 そんな役なのに、しっかり血肉を感じさせる辺り、マサツカのキャラクタだなと思う。

 コーヒー好きで、出ないコーヒーメーカー相手に「んん?」ってやっていたりするわりに、たぶんこの人コーヒーの味とかあんましわかってなさそう、って感じとか。
 細かいところにこだわって整理したがるくせに、整理さえつけばそれで納得、その意味はあまり考えないとことか。
 理論派とか頭脳派とか、そっち系を目指しているというか、自分のことそう思っていそうなのに、実はけっこう感覚派で思いつきで動いちゃって論理的でないこととか。
 人の名前をおぼえるのが苦手なとことか。

 挙げていくと、いちいち、かわいい(笑)。

 そして、こんなタイプのおじさんが、よりによっておバカタイプの金髪美人とつきあっていることとか。

 いやあ、レイラ@のぞみちゃんがかわいすぎる。
 のぞみちゃんってほんと、破壊力のある大根役者。声を発するだけで空気を壊す力がある。うわ、ひとりだけ素人がいる!てな。
 だが、そこがいい(笑)。
 大根過ぎておつむの足りない女の子っぽくなっているのが、またかわいいんだ。

 そりゃあ、ジムみたいな四角四面なおじさん(顔のカタチじゃないよ)からすれば、かわいくてたまらんだろうよ……。惚れるわ、デレデレになるわ……。

 レイラはおバカだけど、そこに計算だとか毒だとかがない。
 ほんとに見たままの子なんだ。
 ジムの帰りを待ってアパートの前で寝ちゃったことも、変だとも苦だとも思ってない。恋人に会いたくて待ち続けて、眠ってしまうくらい待たされても、なんとも思わない。
「会えたからいいよ」って素で言っちゃう女の子。
 ……いい子だ……。
 ジムがごはん食べてきた、と聞いてはじめて不機嫌になるのもかわいい。待ちぼうけは平気なくせに、ごはんは別なんだ。
 ……かわいいいい……。

 撃たれたジムとケイレブ@ちぎくん、ホレイショー@翔くんが事件について話し出して、ひとり完全蚊帳の外で、びーびー泣いてライアン@ひとこに怒鳴られてまた泣いて、のくだりが神。かわいすぎて苦しい。

 あー、ジムとレイラ、大好きだ。


 ジムは、ケイレブとは別の星の住人だと思う。

 物語において、登場人物の「比重」って「主人公との気持ちの重さ」のことだと思う。
 たとえ出番が極少でも、主人公が特別に思っている人は、比重の高いキャラクタ。

 ジムを「いらない役」だと思うのは、主人公ケイレブが、ジムのことを、なんとも思ってないから。
 同僚だけど、共同経営者だけど、ただ、それだけ。
 個人的に特別な好意も興味も持ってない。事務所のみんなと同じ。横並び一列。

 初見では「このままのはずがない、どこかで親友っぽいエピソードが入るはずだ」と期待をかけ……裏切られた(笑)。
 ジムが撃たれた、とケイレブは病院へ駆けつけるけれど、レイラに責められて鼻白むけれど、それは相手がジムだからではなく、この世のすべての人間に対し同じようにするよねケイレブ誠実だから、って感じ。

 そして、その病院のレイラとふたりっきりの場面で、ジムがハリーワールドの人間ではないってわかるんだ。

 車椅子に乗ってレイラに押してもらいながら、どこか呆然としたジムの、「撃たれたのはじめてなんだ」という台詞。

 ああ、そうか。ここか。
 ジムは「あの戦争」を知らないんだ。

 マサツカ作品に必ずってほど出て来る「あの戦争」。主人公は「あの戦争」で従軍し、心に深い傷を負っている。
 つか、そうでなきゃ主人公にはなれないし、主要人物になれない。

 「あの戦争」を知らないジムは、マサツカと……もとい、ケイレブと、分かち合うことが出来ないんだ。共通言語を持たない、別の星の人間なんだ。

 ケイレブが特別視するのは、「あの戦争」の戦友ナイジェル@がおり。
 戦争経験者かどうかはわからないけれど、今現在命を懸けて生きている刑事ホレイショー。

 ジムとカズノはそこでふるい落とされているのか。
 ジムはぼんぼんっぽいし、うまいこと召集を免れたクチかな。もしくは最前線に行く前に戦争が終わっちゃった的な。
 ケイレブとジムより若そうなカズノは、年齢的な問題で前の大戦は知らなさそう。

 だから、ジムとカズノは「いなくてもいい」キャラクタなんだ。
 ハリーワールドとして、筋が通っている。
 『私立探偵ケイレブ・ハント』の主要人物でありながら、ハリーワールド外のキャラクタである、ジム@だいもんとカズノ@咲ちゃん。

 そんな「撃たれたこともない」ふつーの市民であるジムとカズノがマフィアに殴り込みをかける決意をするのが、不自然なんだよな。
 ケイレブですら「え、そんな薄い理由で?」なのに、個人的なことはなにも描かれていないジムとカズノに至っては、意味わかんない。
 「怒れよ男なら」って、あのー、相手マフィアですよ? 赤の他人(ハリエット@あんりちゃんに至っては、会ったことすらない)のために、怒って命を懸けるの??
 守りたいモノが自分の矜持であれ、銃社会でわたしたち以上にマフィアの脅威は理解してるだろうに、何故そうまでうすっぺらく決意できるのか。

 マサツカせんせ、雑だわ。
 ジムとカズノもケイレブ@ちぎと共に行動する、という都合が先に決まっていて、そのための理屈すらこねずにとして動かしただけみたいね。
 そんな「頭数合わせ」でしかないキャラなら、出さなくていいのに。
 いや、頭数にもなってないのよ。

 ジムは腕をケガしているのに、ひとりボートに乗って夜の海にいるし。
 モーターボートだとしても、まだ痛みのある包帯姿で、片腕で操縦してるの? ケイレブどんだけ鬼畜?
 操縦する人を雇ったの? マフィアとの戦いに、他人巻き込んだの?
 刑事ふたりは会場入りする必要があるけど、カズノはジムと同行させるべきだったんじゃあ? それじゃポーリーン@くらっちと再会できなくて困るからダメだったんだろうけど。ケガ人にボート操縦ってひどいなと。雑だなと。

 カズノにはほんと、ポーリーンとのくだりは必須だと思うの。
 だって、彼にはそれ以外、個人のエピソードがないから。

 「いてもいなくてもいい役」で、それでもモブと区別させる部分、ってのは、個人的な愛憎が描かれるかどうかなの。
 この物語には、ケイレブとイヴォンヌ@みゆちゃんしか、愛憎が描かれていない。
 他のキャラクタはすべて、「状況説明」があるだけだ。

 ストーリー上必要な情報を伝えているだけで、個人的な愛憎はない。
 マクシミリアン@れいこはアデル@あゆみとつきあっていたけれどウザくなって殺した……というだけで、今現在の彼が「愛してる」と女を抱き寄せるエピソードはない。真の愛憎は描かれていない。
 ライアンにはキャスリンという恋人がいる、という情報はあるけれど、ライアンがそのキャスリンとデートしている場面はない。

 カメラはケイレブとイヴォンヌだけを追っていて、他のキャラクタはすべて「出来事」が画面の端に映るのみだ。

 そんななか、ジムだけが唯一「レイラ」という恋人との関係を描かれている。
 ジムにカメラが向けられる時間があるの。
 それが、ジムがモブではない、というただひとつの証明。救い。

 ほんとレイラには感謝よー。この子がいなかったら、マジでジムはモブと変わらないもん、演出手法的に。

 それと同じ意味で、カズノのポーリーンとの出会いは必要。これがなかったら、カズノも完全モブだもの。

 マサツカェ……。

 ジムと違ってカズノは街の不良少年上がりかなあ。腕っ節も強そうだね。
 ジムは元弁護士とか、お堅い職だったのに、「子どもの頃から探偵に憧れてたんだ」とかで、誘いがあったから前職捨てて探偵事務所開いちゃった、優秀(クラス委員レベル)だけどちょっと残念な人、に見える。

 「あの戦争」で誇り高く強靱に闘い抜いた戦士ケイレブとは別の世界の、ふつーの人たち。
 だけど、この世界でしあわせになれるのは、ジムみたいな平凡な人なんだろうなと思う。カズノも調子よく生きていきそう。

 ケイレブはこれからも貧乏くじ引き続けるような、損な生き方をするんだろう。
 ソレこそがマサツカのこだわり、ロマンなんだろうなと思いつつ。
 だからこそジムには興味ないんだろうなっていうか。
 カズノも「いつもの咲ちゃんの役」止まりなんだろうなっていうか。

 演出家の趣味が全開に出ていて、あきれるというか苦笑いというか、でもそーゆーとこも含めてハリーワールド好きだなというか。
 宙組全国ツアー『バレンシアの熱い花』『HOT EYES!!』初日観劇。

 痛切に、思ったこと。

 うらら様、男役のキーでしか歌わないなら、男役になればいいのに。

 今までも、ハンサムなうらら様を見て「男役転向しないかなー」と言い続けてきたけど。
 それまでの「ありえないタワゴト」じゃない。現実問題。

 ショー『HOT EYES!!』にて、うらら様は、潔く地声歌唱だった。裏声なし。や、なしっていうかそもそも出ないんだから仕方ないんだけど。それにしても。

 低い声の娘役がいてもいいじゃないか。
 と、わたしは思わない。
 タカラヅカは女性だけの劇団だ。
 女性のみで、男性も女性も演じる。だからそこには、お約束が必要なんだ。
 男性役の歌は地声基本、女性役は裏声。役割分担しないと、性別がわからなくなる。
 外部なら、アルト声の女性がいても問題ない、男性とは姿も声もチガウから、アルトで歌っても「声が低いけど、性別どっち??」とはならない。
 だがタカラヅカは女性のみ、全員地声で歌うと「結局みんな女性じゃん」とマジックが解けてしまうんだ。

 男役の声で歌う娘役は、タカラヅカの根幹を破壊する恐れがある。
 男役の声で歌うなら、それは男役であるべきだ。
 すなわち、うらら様は男役であるべきだ。

 わたしの個人的な希望、ではなく、論理的に「うらら様は男役」と舞台上で証明された。
 ……全ツ終了後に、転向ニュース来ないかしら。マジで。
 まどかちゃんと、「女同士なのに、男女のようにハモる」とか、タカラヅカ的にあり得ない状況だから。

 うらら様、ここまで来たらトップスター目指して! トップ娘役なんてチイサナモノを目指さずに。


 マカゼ氏が、受キャラ開眼!

 ムラで観たときとぜんぜんチガウ! あの「野郎×野郎」過ぎて目が泳ぐ感じがナイ。
 ちゃんとマカゼが儚げになってる。可憐になってる。

 わたし、マカゼ氏にはそのへんまったく期待してなかったの。
 不感症っぽいというか、でくのぼうというかマグロというか、演出家がどんなにがんばって淫靡な設定をしても、ぬぼー、ゆら~、とするだけだと思っていたの。
 あんなにオトコマエなのに……色気があるのは静止画限定かよ!!って、歯がゆく思ってた。

 なのになのに、あのぬぼーゆら~を、受キャラに進化させるなんて!! まぁ様すごい!!(ソコ?!)

 いやあ、ええもん見ました。受マカゼ、大変好みです!


 大階段は、いらなかった。

 大劇場本公演よりも、収まりの良いショーになってる。
 答えは簡単、いらない物が、舞台上にないからだ。

 あれ?
 そもそも『HOT EYES!!』って、全場大階段仕様が売りのショー作品だったよね?
 なのに、全ツに持って行く段階で、売りがなくなっているということ。あれ? なんか企画段階ですでにおかしい?
 でもって、その「売り」がなくなった方が出来が良い、って。

 無意味どころか不要だと、劇団自身が、演出家自身が、大階段のない全ツで再演する、ということで、証明していた。


 うらら様にしろ大階段にしろ、劇団自ら証明してくれて、潔いな。
 あ、マカゼ氏の受OKも。

 なんか、いろいろな可能性を見せてくれた全ツだった。

 あ、タイトルは語呂がいいからそうしているだけで、ぜんぜん三段論法じゃない。←やろうかなと思ったけど、面倒になってやめた(笑)。
 あー、そうだねー、『バレンシアの熱い花』ねー、何度も観たよねー……。
 と、思い出した。

 思い出す以前に、忘れていたわけじゃない。
 でも実際目にするとチガウわ、どんどん記憶が甦るわ。

 役替わりに新公に全ツまで観てるんだよ。そりゃ覚えてるわ、記憶に残ってるわ……。
 そうよ、全ツよ。
 同じこの梅芸メインホールだった。ものすげーガラガラぶりで、3階席に人がいなくて寂しかったっけ。友人は当日券で1階真ん中がふつーに買えたと喜んでたなー。
 それを思えばすげー盛況ぶりだ。あのころのタカラヅカはマジ先行き不安だったもんなあ。

 だもんで。
 せーこのセレスティーナ侯爵夫人いいなあ!!
 ……が、いちばんの感想になるという。

 ほんま嫌やったんやな、邦さんのセレスティーナ侯爵夫人……。
 邦さん自身をどうこうではなく、ミスキャストだと思っていたから。
 見た目おばーさんなのに、4番手の昔の恋人って、無理あり過ぎる。
 今でいうなら、雪組の翔くんの恋人が組長のミトさん、ぐらい無茶。翔くんが小学生のときに30代だったミトさんに恋して口説いてたの?っていう。(ミトさんすみません)

 せーこならアリだ、わかる! ルカノール@すっしーも無理なくおじさんだし。
 ともちんルカノールかっこよかったけど、彼をあのタイミングでああいう扱いに落とすなら、周りも固めなきゃいかんよなあ。雑なポジション変更だった。

 作品についてはもう、なにも言う気はない。前回語りつくしたので。わたしがこの作品を嫌いなことは変わらない。


 作品もキャラクタも嫌いだけど、まぁくんには似合っている。……と言ったら、悪口になる?

 主人公フェルナンドは、頭のおかしな男だ。自己中心的で言動に整合性がない。自分の思い通りにならないことはすべて他人のせいにするだけでなく、攻撃し、暴力によって従わせようとする。リーダーシップを執りたがるが思考力はなく、洗脳されやすい。自分のかすり傷には世の終わりのような嘆き方をするが、他人の傷には鈍感。
 ここまでひどいキャラクタを、なんで主人公にしているのか不明だが、これは決定事項なので嘆いても仕方ない。

 この最低男が、今回はふつうに最低に見えたので、わたしにはストレスが少なかった。

 わたしの生理的嫌悪感が発動するケースって、無神経とか偽善者がスイッチなのよねー。
 植爺の世界観「主人公を正義とするために、この世のすべての常識を歪める」のがダメなように。どう考えても狂ってる言動を「正しい」と周囲の人々が讃えるのがダメ。
 フェルナンドは卑劣で愚かな男なのに、高潔な人格者でヒーローと描かれるのが生理的にダメ。無理。

 でも、まぁくんはちゃんと、フェルナンドを「卑劣」に演じてくれた。
 やっていることは愚かでしかないんだけど、本人がそれをわかった上でやっているように見えた。
 あくまでも、「わたしに」そう見えただけ。でも、それが重要。
 偽善者より悪人の方が、「ヒーロー」としては受け入れられる。ダークヒーローもヒーローだもん。

 これは、まぁ様に知性があるためだよなあ。
 前回観たフェルナンドはとびきり美しくてキラキラしていたけれど、知性はなかった。ゆえにレオン将軍に操られ、利用されて自滅するだけの道化に見えた。
 でもまぁくんには知性がある。レオン将軍@まっぷーに利用されているようには、まったく見えなかった。
 本人が自分で考え、自分で行動しているように見えた。

 でもって、これはわたしの持論なんだが、まぁ様には、「毒」がある。ただキレイキレイなだけの芸風ではなく、一筋の濁りを内包する。
 それゆえに、狂ったキャラを演じると重く濁った闇をまとう。

 フェルナンドがちゃんと卑劣で悪人で、筋が通っていた。
 悪人だって悪の心の範囲で悩んだり傷ついたりもする。酒場女と別れるのに苦しんだりするのも、嘘じゃない。婚約者と別れる気も貴族であることを捨てる気もないから、最初から「そのときだけの本気」ってやつだけど。
 指先を切ってしまっただけだとしても、傷は傷、痛みは痛み。恋人を亡くしたロドリーゴと、もともと別れるつもりだった女と別れたフェルナンドの傷は同じ。だって、自分の指の傷は痛いけど、他人の大ケガは別に痛くないもんね。
 フェルナンドはイヤナヤツだけど、現実の範疇の悪人だから気持ち悪くない。悪がなんであるかも理解せず、まったくの無知無自覚で正義を振りかざす方が、この世のものではなくてこわい。

 しかし、大変だなあ、まぁ様。


 それにしても、最低な作品だわ、何度観ても。
 『バレンシアの熱い花』って、どんな話?

 http://koalatta.blog48.fc2.com/blog-entry-1402.html
 ↑ こんな話。
 ……いや、まぁ様が演じているとこんな風には思えなかったけど、シンプルに脚本だけ見るとこうだよなと。


 とまあ、作品が最悪なのは置いておいて、キャスト感想。


 ロドリーゴ@あっきー!!
 今回のキャスティングでいちばんうれしかったのが、あっきー。
 ロドリーゴが観たかったの!
 あっきーのノーブルな美貌でお貴族様。愛に生きる男。

 お貴族様が似合うのも、映えるのも、わかってた。知ってた。
 美しいのもかっこいいのも、わかってた。知ってた。
 だからあとは……えーっとその。

 地味だ……。

 ロドリーゴってもっと花形役だと思ってたんだけど、こんなに地味でしどころがなかったっけ? と首をかしげた。
 らんとむもみっちゃんも派手な人たちだったもんなあ……。

 あと、なんつーか、シルヴィア@ららちゃんと合ってないような。芸風というか、役作りというか。
 シルヴィアは、あっきーのロドリーゴにはちょっと強すぎる気がした。鋭角過ぎるというか。
 このロドリーゴは、このシルヴィアは愛さないんじゃないかな……。手に入らなくなったから、意地になったとか、そういうのならアリか。

 はっ。
 ルカノール@すっしーへの対抗心とか、そっちに妄想すれば楽しいのか、あっきーロドリーゴ。(開眼)


 ラモン@マカゼは、いつものマカゼさん。
 ラモンという役が、こんなにもったりした役に見えるとは……マカゼ、おそるべし。
 でもやっぱかっけーなー。


 イサベラ@うらら様はハマってるね、美しい。
 なんか最初からわきまえているというか、別れるの前提で、一度も我を忘れる様子がナイ気がした。温度低い。それはフェルナンド@まぁ様にも問題があるのかもしれない。

 マルガリータ@まどかちゃんもハマり役なんだけど……丸い。もう少しやせてくれたらなあ。


 ルーカス大佐@りくが好みで仕方ない。
 やだこの人、かわいいー。
 かっこつけててやってることバカで、そのくせ美貌でキラキラしてて、キュンキュンするわ。

 ドンファン@もえこは、前回観たときいい役だと思ったんだけど、今回はあんまし思わなかった。なにか演出変わったのかな?


 どうしても前回の宙組公演とかぶっちゃうので。

 ルカノール小さい。
と、最後、息絶えたところで痛烈に思っちゃったり。
 いやあ、ともちん、でかかったのだわー。こう、がくり、と息絶えた後のでかさが半端なくてねえ……。

 反対に、ホルヘでかい。
 と、最後まで違和感だったり。や、大きさ以前に、ホルヘがふつーだ。と驚いたり。
 いやその、前回は個性的にキャラ立ちしてたからねえ、ホルヘ。
 や、タカラヅカとしては今回のモンチが正しいですとも!
 モンチはいい仕事してます。


 女たちに歌をねだられるフェルナンド、を、心安らかに観られるっていいなあ、と思ってみたり(笑)。

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