『銀二貫』のキャスティングは渋い。
 いわゆるスタークラスではなく、職人中心の配役だからだ。
 新公主演やそれに近い役をしたとかの華やかな経歴はなくても、組ファンなら知ってる実力者が多く出演している。

 たとえば、音痴皆無ってだけでも、タカラヅカにおいてどんだけゼイタクかつ稀有なメンバー構成かわかるだろう。
 ピックアップされている人たち、みんな歌えるんだぜ~~。
 音痴だけど、スターだから1曲どうしても歌わせなければならない、という縛りがナイ。おかげで、歌える人だけ歌う、耳に優しい公演。

 その代わり、路線スター皆無のとても地味な座組になってるけどなー(笑)。
 組子だけで言うと、新公主演者が主演のかなとくんと、6年も前に主演したきり路線枠には入れてもらっていないがおりさんだけ。
 ふつー若手バウというと、大劇場本公演では順番の関係で場を設けて推すことがなかなか出来ないけどぜひ今後プッシュしたい「次代のスター候補」を出してお披露目するもんなんだけどね。
 それも、ナイ(笑)。……渋い……。

 で、この座組で、組内2番手って、誰?
 専科さん2名が「重要だけど老人役」だと配役発表時にわかったので、いわゆる「タカラヅカの2番手」が誰なのか。
 えーと……あすくん?

 今までのあすくんの扱いからすると信じられないけど……配役からするとそんな感じ?
 若い役がまずほとんどないからなあ。
 主人公以外の唯一の若者役なら、2番手かもしれない。

 しかし、あすくんが組内2番手のバウ公演て……渋すぎるやろ。
 組ファンなら、あすくんが美形で歌ウマなのは周知のことだろうけど、対外的にはまったく無名じゃ……?
 組ファン以外の認知を得るには、新公主演するとか、『ミーマイ』のパーチェスター並みの大きな役をやるかしないと無理だよなあ。

 美形だけど地味なかなとくん主演で、組内2番手あすくんで日本物って、なんというか、渋いよな……。

 まあ実際は、2番手は専科のみつるで、あすくんは3番手になるのかな? がおりさんが3番手なら、あすくんは4番手なのかな?
 ガチな2番手役ではないのだけど。
 だとしても。

 これだけ大きな役の久城あすを観られるなんて、感無量。

 『ソルフェリーノの夜明け』新公で、その美声と歌唱力を見せつけてから、早5年。実力だけでいえば、もっともっと、使われてもいい人のはずだった。
 せめて別箱では活躍させてほしかったのに、原田せんせに気に入られているのか、原田が絡むともれなく原田作品に振り分けられ、そして原田作品ってのはトップコンビと2番手以外は全員モブだから、もちろんモブ、ただしちょろっと歌のあるモブ、という扱いで数年経過。
 もったいない。
 ひたすら、もったいない。
 劇団が歌唱力に重きを置くのがあと何年か早かったら、あすくんのジェンヌ人生も違っていたかもなあ……あのころはまだ「キラキラ重視、歌唱力無視」時代だったからなあ。

 その「もったいない」あすくんがようやく、大きな役を得た。
 読売り@『JIN-仁-』でエエ声でかわら版を歌って売る、ショーの部分歌手、のような役ではなくて、ちゃんと一本の「芝居」をする役。
 その上で、美声も披露し、その実力を発揮できる役。

 ああ、やっと……!!


 梅吉@あすくんは、派手なドラマはないけれど、世界観を構築するキャラクタのひとり。
 ひたすらいいヤツ。

 『銀二貫』という物語がやさしいのは、この「いいヤツ」が、ちゃんとしあわせになること。

 ふつー、「丁稚苦労モノ」なんつーのは、先輩に意地悪な丁稚がいるもんなんだが、井川屋にはいいヤツしかいない。
 そりゃそうさ、井川屋の主@みつるも、番頭@エマさんも、すこぶるいい人なんだもの。
 誠実な主の元に厳格だが心根のまっすぐな番頭がいて、素直で親切な丁稚たちが育っている。
 正しい。とても、正しい姿だよ。

 そして、井川屋に関わる人たちも、みんなやさしい。
 梅吉をかわいがっている商家の主人@るなも奥方@ほのりちゃんも娘@みちるちゃんも、みんないい人。
 いい人の周りにはいい人たちが、優しい人たちの周りには優しい人たちが、集まってくる。

 梅吉の優しさとその人生は、この物語のテーマのひとつだ。

 彼が歌う「生まれてきたんは幸せになるため」は、飾り気のない剥き出しの真実、テーマのひとつだと思う。

 しあわせになれ。
 やさしいひと。
 やさしいひとたち。
 『銀二貫』に出て来る人たち、みんなみんな、やさしいひと過ぎて。
 あすくんの歌声を聴きながら、心から祈った。
 みんなみんな、しあわせになれ。

 そして。
 このやさしい物語を観て、泣いている人たち、今ここで同じ感動を味わっている……やさしいものに、うつくしいものに、涙できる人たち、みんなもまるっとしあわせになれ。
 だって。
 生まれてきたんは、しあわせになるためなんだもの!

 梅吉がそう歌ってるんだから、大好きな人が、愛しいやさしい人が、そう言っているんだから、信じるよ!
 好きな人の言葉を信じないで、この世のナニに信じる価値があるというの。
 梅吉が言うから、あすくんが歌うから、信じるよ。

 わたしたちは、しあわせになるんだ、って。

 そして、松吉@かなとと真帆@くらっちは結ばれ、しあわせになって。
 井川屋の人々もみんな、しあわせで。
 みんなみんなしあわせで。

 しあわせな物語が、ただただ愛しい。

 久城あす本領発揮。
 ……つっても彼、もっともっと出来る人だけどねー。
 だって梅吉さー、終始ニタニタ、妙な役作りなんだもの。たぶん、ニタニタしてないと美形になっちゃうから、そうならないようにする必要があるんだろうな、とわたしは勝手に考える。
 あすくんはきれいな人だから、真顔になるときれいだからな。
 あそこまで顔面破壊して笑い続けなくても、梅吉は表現できたと思うんだけど……真帆の役作りもニタニタ変だったから、たぶん演出の谷せんせの指示じゃないかな。
 「毒にも薬にもならない、ただのいいヤツ」「平凡を絵に描いたようなヤツ」を、こうして見事に演じきってくれたけど、ヅカ的二枚目で重要な役も、あすくんは出来るはずだから!
 次はそーゆー役を観たいです、谷せんせ。がおりさんみたく、番手関係なく、あすくんにも今後いい役つけてくださいましよ。

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