『鈴蘭(ル・ミュゲ)-思い出の淵から見えるものは-』で、わたしがいちばん好きな部分は、やっぱキャラが多いことだわ。

 キャラクタが少ないほど、物語は書きやすい。創る側は、楽が出来る。
 必要最低限のキャラクタだけで物語を回した方が、作品クオリティは上がる。
 それでもなお、『鈴蘭』にはキャラクタが多い。
 はっきりいって、無駄に多い。
 いらないよね? ってキャラも複数いる。
 だが、それこそを、わたしは「いいなー」と思う(笑)。

 この物語に必要なのは、主人公リュシアン@ことちゃんと、ヒロインのエマ@真彩ちゃんと、裏ヒロインのシャルロット@はること、悪役ヴィクトル@せおっちと、ルイ11世@ヒロさんのみ。
 いてもいいかな、が、シャルロット兄@キザキレオ、ヴィクトル母@柚長、医者@キザキレオ、セシリア@なっちゃん。
 いなくてもかまわない、は、傭兵バルトロメ@レイラ、シャルロット乳母@りらちゃん、協力者エルネスト@しどりゅー、引っかき回し役アデール@カトリさん。
 ぶっちゃけいらんやろ、が、側近マルセル@あやな、卵売りニコラ@たくてぃ、医者の孫とアデールの取りまき。

 ストーリーだけなら、上からふたつめのグループまででいい。
 なのに、あとふたつもキャラクタのグループがある(笑)。
 倍増っすよ。必要なキャラの倍、いなくていいキャラクタを出している。

 そして、この「いなくていい」キャラたちが、楽しい。

 そりゃそうだ。いなくていいのに、あえて出してるんだ。魅力がなかったら、価値がない。

 みんななにかしら、「おいしい」。
 それだけで、「出る意味がある」。

 そういうキャラをどーんと水増ししていることに、樫畑せんせの才能を感じる(笑)。
 きれいにまとまった話書いたとしても、主演コンビと2番手までしか役らしい役がなく、「あとは全員モブ、動く背景」じゃあ、タカラヅカでは歓迎されないもの。
 「いなくてもストーリーに関係ない。でも、オイシイ役」を、番手スター以外にどれだけたくさん振れるか。コレ重要。

 たとえば2番手の役が上記タイプじゃいかんのよ。2番手なら、「この役がいないと物語自体成り立たない、そのうえオイシイ役」でなきゃならない。
 そんなん、あたりまえの話なので、ここでは俎上に載せない。

 『鈴蘭』観ていてウケたことは、次から次へとキャラが出て来るのに、どいつもこいつもいらない役ばっか、という点。
 今度こそ重要な役か、と思ったらまたどーでもいい役、また新キャラキター、今度こそ重要な役か、と思ったら……のくり返し。
 ギャグって3回繰り返してはじめてギャグとして成立するわけだけど、同じことを何回やったかわかんないくらいやられて、すげーウケた(笑)。
 そして、その回数の多さというか、これもうひとつのパターン、繰り返すのわざとじゃないの? と突き抜けておもしろくなった。
 まあ、出オチな人々が総じてうまくない……ぶっちゃけヘ……ゲフンゲフン、ということもあり、「わーっと声上げて登場、声上げただけでまたわーっと退場」感を強くしている。

 アデールってなんか訳あり気に出て来たけど、なんかあるのかな? →なんもなし
 マルセルってすげえいい役? →なんもしないし、その後見せ場なし
 いかにもな乳母とマルセルとリュシアンでチーム結成! →次の場面で解散
 協力者エルネスト、がっつりやりますぜ?! →突然もうひとり卵売り登場、え、エルネスト単独じゃないの?
 卵売りニコラ登場、はしこく活躍する?! →その場限り
 医者の孫が今後出番あります風に出て来た! →即あぼーん

 ……面白いなー。

 国と国の関わる、大きな陰謀譚のはずが、陰謀というかミステリーの軸部分が単純過ぎて謎解きの必要もないレベルになっている。なのに、「ミステリー調」「アドベンチャー風味」のラッピングをしているせいで、愉快なことになってるのね。
 リュシアンひとりが公王一家に近づいて調べればすべて済むのに、協力者を山ほど作るから「出て来て終了」キャラが山積みになるの。だって彼ら、やることないんだもん、全部リュシアンひとりで済むから。

 ちなみにわたしは、マルセルの重要っぽい登場と、その後の役割りナシぶりに、いちばんウケた。
 なにしろ、「出オチキャラ」の先頭バッターが彼だから。こっちはまだ知らないじゃん、彼の出番が「登場シーン」しかないなんて。
 「え、このキャラが2番手役?」ってくらい、しっかりとキャラ付けされて登場し、主役とコンビを組んでミステリに挑む……、右京さんの新しい相棒はこの人です! と記者発表までしたのに、24回半年間放送の初回と最終回にしか出てこない、しかも捜査はしないで、ただ出て来るだけとか、「どこが相棒やねん!!」状態。それってウケる。
 『La Esmeralda』のれいこみたい。ワケありげに軍服着て銀橋ソロで登場、本舞台に着いてさあこれから物語がはじまる……! と思ったら、舞台には他の人が出て来て、れいこはなんもせんとひっそり群舞の後ろでセリ下がっていく……。えええ、あの人ナニしに出て来たの?!
 変なんだけど、間違ってるんだけど、一周回って面白くなる、感じ。

 マルセルがあまりにものすごく出オチってくれたおかげで、あとに続く他のキャラも出オチ成立したわ。あ、ワケありげに登場→なんもなし、を繰り返すのがこの作者の芸風なんだ、と。

 や、出オチキャラたちも一応、あとの方で台詞ひとつくらいフォローは入れてるの。「卒業式ひとこと挨拶」みたいな感想&意欲をつぶやくことで、「伏線を拾い上げ、決着を付けた」体は装っている。
 そういうとこも、教科書的な作風だなと思う。

 や、マジでいいと思う。こういうの。
 デビュー作でコレなら、今後に期待。これからもっとうまくなって、キャラに意味づけ出来るようになると思うもの。

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