なんだかんだいって、楽しんでます、『るろうに剣心-明治剣客浪漫譚-』

 でも、本当の意味で楽しくなったのは、だいもんがだいもん全開になってからだと思う。

 わたしにとっては。
 ひとさまがどうだかは、知りません。

 加納惣三郎@だいもんって、ひどい役じゃないですか。
 ぶっちゃけいらないし、意味わかんないし、バカだし、かっこ悪いし。
 べらべら喋るけど、ナニ言ってんのかマジわかんないし。論理破綻しまくってるし。

 たぶん、だいもんも役のアレはさわかってるんだと思う。や、ふつーのアタマがあれば、「おかしい」ってわかるだろうし。
 どんなにおかしな脚本でも、生徒は先生に「おかしい」とは言えないんだろうな。過去の公演を見ていてもわかる。
 この役はおかしい。それはもう、変えられない現実。ならば、そのおかしい役を、「おかしいと感づかれないように演じる」しかない。過去のありとあらゆる公演で、多くのスターたちがそうしてきたように。
 舞台は役者のもの。アホ脚本を佳作に押し上げるのは、役者だ。

 だいもんが、アクセル踏んだ。

 わたしは大体週1~2回の割合で、バランス良く観てきたつもりなんだけど。
 公演中盤辺りから、だいもんが変わった。

 加納さんの熱量がすごい。
 脚本の粗を、自分が高速回転して発光して発熱して、押し隠すつもりだ。なかったことにするつもりだ。
 加納は脚本の破綻を全部押し付けられている。彼の言動がおかしいからすべての事件が起こる。だから、その元凶である加納さんが「自分のしていることは破綻してない、筋が通っている」と力尽くで主張し、舞台全体の色を決めることで、舞台が変わる。

 すごい。

 ただもう、息を飲んだ。

 力技キターー!

 クライマックスの剣心@ちぎくんVS加納の場面の、あの気合いと覚悟。
 持ってく気だ。
 この作品の闇を全部、ひとりで集約し、ひとりで背負っている。
 主役のちぎくんには背負わせない。ちぎくんはきれいなまま、公演の看板として頂点に立ってくれていればいい。だいもんが発する熱量に、ただ沿ってくれればいい。それが主役の仕事、トップスターの責務。
 駄作に足を取られて、倒れてはいけない。
 悪いのは全部加納。剣心は剣心でありつづける。
 役の役割りとリンクしている。

 だいもんが高速回転している。「だいもん力」を全開で放出している。ほら、『アル・カポネ』の裁判シーンとかで放出する、とんでもない力……「だいもん力」としか言いようのないパワー。
 うおー、ここで「だいもん力」放出しますか、主演舞台以外でここまでやるのって、『BUND/NEON 上海』以来? いや、『BUND/NEON 上海』は本人無意識でしょ、ブレーキの存在を知らなかった幼さゆえの事故みたいなもん。だいもんが全開すぎてまぁくんファンが苦い顔してたっけ。全部持ってくからなー。
 大人になった今は、意識した上でアクセル踏んでいると思う。そこにあるのは2番手としての責任感、そしてちぎくんへの信頼感?
 全開のだいもんに巻き込まれず、ちぎくんは自分のスタンスを貫いている。トップの貫禄。そうよ、巻き込まれちゃいけない、だいもんは良くも悪くも周りを巻き添えにするから。
 ちぎくんなら大丈夫、そう思えるからこそのアクセル全開。

 いやー……涙出た。

 だいもんの「だいもん力」全開ぶりに。
 この人、ここまでやるんだ、と。
 こんなひどい作品なのに……いや、ひどい作品だからこそ、全部背負って走るんだ。
 『BUND/NEON 上海』のときみたいに憑依してるんじゃなくて、あくまでも自分の意志の力であそこまで持って行くことに、胸が痛くなった。

 だいもんは『アル・カポネ』をやったことで、「駄作の背負い方」をおぼえたんだと思う。
 今までどんだけ駄作に出演していても、大きな役をもらってなかったから、背負いようがなかった。
 雪組にやってきてからは、作品に恵まれていたから、そこまでする必要がなかった。
 でも、『アル・カポネ』で「駄作で真ん中を張る」経験をして。どんだけ間違っている脚本でも破綻したキャラクタでも、自分の力で吹っ飛ばせることを体感した。
 その経験が、活きてるんだなぁ。しみじみ。
 「駄作を力技で佳作に変える」のはトップスターの仕事。どんだけ美貌でも技術があっても、このスキルを持たない人は、タカラヅカのトップスターには不向き。
 だいもんはまたひとつ、スキルを取得したんだなあ。

 トップスターが熱量全開にして吠えて暴れて、駄作を力技でねじ伏せる、のが常のタカラヅカ。
 でも今回は、その仕事をだいもんがやっていた。
 ちぎくんにそれが出来ないからだいもんがやった、わけじゃない。
 今回は原作の縛りがあり、剣心役のちぎくんにはその役割りを振れなかったんだ。剣心がそんなにあくせくハイテンションじゃおかしいもの。
 オリキャラで原作の縛りのない加納が、その役を担った。
 そうやって高熱に発光している加納を倒すことで、剣心の大きさも示せる。
 双方に舞台力があり、信頼関係があってこその役割分担だと思う。

 まあ、だいもんが勝手に暴走してるだけかもしんないけど。
 それでもゆるがないちぎくんはオトコマエだ。


 わたしはだいもんがだいもんであると、感動する人なので。
 初日付近の役と作品にとまどっている、手探りっぽいあたりは楽しめなかった。
 覚悟を決めてアクセル踏んでからだ。
 楽しくてたまらないのは。

 いやあ、もお、好きだわ……。
 だいもんのこういうとこ、大好きだわ。

 空気を動かす力。
 それを持っている、ということにも感動するし、それを体感することに快楽をおぼえる。
 でも、それ以上に。
 「空気を動かす」という覚悟を持ち、現に実行している事実、に感動する。
 強い、意志の力。
 ひとを、空気を動かす、……動かすと決めた、力。

 それを持っている人に、感動するんだ。
 泣くんだ。


 はー。
 駄作もいいもんだね。舞台人の底力を見られて。


 ……駄作ではなく、作品も役者も両思いゆえに奇跡を生む、そんな舞台が観たいけどな。

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