『相続人の肖像』は、昨今のバウにしてはめずらしいほどの、徹底的な絶望作品。ここまであざやかに「無理!」なのは久しぶり。スズキケイの『灼熱の彼方』以来かしら。

 作品に絶望したのは、最後まで観終わってから。
 1幕が終わった幕間では、まだこんなにひどい話だと思ってないから、ただただ困惑していた。
 あまりに、つまらなくて。

 主人公がアホ過ぎて、彼の悩みが全部彼のせいで、ナニを悩むのか理解出来ないし、演出的にも盛り上がる部分がナイ。
 ここまでなにもない作品もめずらしい……これ、後半どうするんだろ? そもそも1幕使ってナニも起こってない……起こっていること全部主人公都合だから、主人公の気が変わるだけで終わっちゃうから、ナニも起こってないのと同じだし……。

 で、あまりに困惑して、HPの作品解説を読んだ。

 そこで、顎を落とす。

>遺言により、邸以外の財産はすべて後妻のヴァネッサと、彼女の連れ子であるイザベルに譲られることが約束されていた。

 へ?
 なんだこの設定?
 本編とチガウよ?
 財産は没収されちゃうのよね? ヴァネッサたちは無一文なのよね?

 わたしが引っかかった設定のひとつ、伯爵は何故愛するヴァネッサに遺産を遺さなかったのか? が、作品解説ではちゃんと疑問を持たない設定になっている。
 なんで脚本変更したの?
 HPにある作品解説の方が、ずっとマシなのに。つか、ありがち設定なのに。
 わざわざ間際に変更したってこと?

 意味わからんわー。

 そしてもうひとつ、驚いたこと。

>亡き父の不実の愛と、遺産相続を巡る騒動を背景に、貴族の青年の成長をユーモラスに描く。

 ユーモラス?

 どこが?
 お墓(人の死)からはじまったこの物語、めっちゃシリアスですが?
 おばーさまひとりお笑い担当で……。

 あ、そうか。

 この話のわけわからなさって、ここに答えがあるんだ。
 と、思い至った。

 コメディにしかならないネタを、重くドシリアスにやってるから、収まり悪いんだ。

 チャーリーの「いやだいやだ、えーんえーん」というキャラクタぶりも、おばーさまの「手のひら返し、おほほほ」というわざとらしく滑稽なキャラクタぶりも、「きらーん、どかーん♪」と存在が浮きまくっているハロルドも。
 コメディなら、アリなんだ!

 でもでも、まったくもってコメディにはなってない。
 ずんちゃんの芝居は重くて、暗い。
 地に足つきまくっていて、軽妙さがナイ。

 ユーモラスに描いていたなんて、まったく気づかなかったわ……。

 『A-EN』がコメディだからアリだったようなもん、あのマンガ的な軽い話とキャラクタを、ドシリアスにやられてたらキツかったはず。深刻でゆるさのカケラもない世界観で、点数稼ぎに女の子利用する主人公とか、相当うまく描かないと地雷踏むよ? お気楽コメディだからOKだったけど。

 作品解説が書かれたのはずっと前、それこそ企画段階のものよね……。
 田渕せんせは最初、コメディ寄りに考えてたんだわ……。でも、出来上がったら何故か、無駄にシリアスになってた……ナニ? なんか「いい話」にするため?

 意味わからん……。

 で、混乱したまま、2幕を見て。
 「信じられないくらいつまらない」は、「めっちゃムカつく」にランクアップしたのでした(笑)。

 植爺、スズキケイと続く、第三の男になり得るか、田渕せんせ?
 「ゆがんだ倫理観」「ひとの心を持たない無神経さ」が芯を貫き、「構成力皆無」「物語作れません」的なプロットがその特徴! てな(笑)

 ……たまたま、この作品でなんかのはずみで大失敗しちゃった、ってだけだといいな。
 『サンクチュアリ』は見てないから知らないけど、『Victorian Jazz』も似た作りだったぞ? 主人公は無神経に犯罪を繰り返しながら罪悪感もなく、ストーリーは破綻、辻褄が合ってなかった。途中でテーマがぶれて、誰のナニを描きたくてはじめた物語か、わかんなくなってたよなー。『Victorian Jazz』はコメディだったから、無神経でもまだ逃げ道があったけど。

 デビュー作と同じ間違いをしており、さらに品質レベルダウンしている、って、大丈夫か?

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