『相続人の肖像』を、キャラクタもストーリーも今のままで、別モノにしてみよう。改善案を考えてみよう、その2。

 この物語に必要なのは、ツッコミ役。

 チャーリーはおかしい。ストーリーもおかしい。
 だけど、作者自身が「んなアホな」とツッコミをしていけば、その「おかしい」ことが「必然」になる。

 ツッコミ役は、新キャラでもいいし、ハロルド@りくでもいい。
 チャーリーを幼い頃から知っていて、気の置けない間柄。ずばすば本音で話せる相手。

 たとえば幼なじみの「親友」役だとすれば、「お前って昔からそうだよな」とチャーリーのアホな言動にツッコミつつ、ときに叱り、ときになぐさめ、相談相手になり……「そんなバカなことをしたら、お前もみんなも不幸になる。それでもやるって言うなら、もうオレは知らないからな」とケンカ別れエピソード付けて。
 チャーリーは親友のツッコミのおかげで、自分の考えややっていることが「最低」で「バカ」だとわかっていて……それでも、そうせずにはいられない、というあとに引けない状態になっていて。
 それでどれだけたくさんの人を傷つけて、みんなみんな不幸にして、自分も含めてつらいだけだとしても……「僕は、そうしたかったんだ」。

 自分がどんだけ「最低」か、主人公はそれを自覚している。
 そして、その「最低」な男を、「お前は最低だ」と言いながらも、味方になってくれる友人がいる。
 この「自覚」が必須なの。

 壊れた話のキチガイキャラクタたちは、最低なことをしているのにそれを自覚しない。主人公は自分が心地よいというだけで、その行いを「正義」だとし、主人公の信者(作者は友人だと思っている)は、それを止めるにしろ応援するにしろ主人公の正義自体は認めている。
 この行動は「間違っている」、だけど、自分はこうしたい。
 親友の行動は「間違っている」、だけどそんな親友を切り捨てられない自分もまた「間違っている」……そう、「自覚」している。
 主人公を「正義」にするために、世界を歪める……それがいちばん気持ち悪い。植爺とスズキケイの作風の最大の特徴。
 正義でなくていい、間違っていていい、「世界」は歪めるな。

 聖人君子のみが「主人公」にあらず。別に主人公は未熟でも卑怯でも犯罪者でもいい。それは「設定」のひとつだ。その設定を元に、なにを描くか。
 大切なのは、そこだろう。

 主人公は最低。だけど、その事実から逃げず、受け止めている。その上彼には、なにがあっても見捨てず、そばにいてくれる「親友がいる」。
 友人の有無はその人間の「格」に関わる。つまらない男には、ろくな交友関係しかない。権力によって不当に放校されたチャーリーのことを、助けてくれる友人がひとりもいなかったようにね。

 ケンカ別れした親友は、それでもクライマックスで、ここぞ!というところで、チャーリーの味方をしてくれるんですよ。盛り上がりますねえ。

 このツッコミ役を「親友の男」とするのも、ヅカヲタ的にはおいしいです。男同士の友情モノってのは強いニーズがありますから。
 今の友人役として出て来るハロルドくんは、「家が近所」ってだけで、友だちかどうかもあやしい、薄いぺらぺらな関係だから、チガウ。そんなんじゃない、ほんとうの「親友」。


 でも、いちばんいいのはツッコミ役を「幼なじみの女の子」にすることだな。
 古くから屋敷にいる同世代のメイドとか。ぽんぽんケンカして、「ほんとバカですねー」「メイドのくせに主人をバカとか言うな」的な会話をして。
 政略結婚大作戦も、イザベルに恋しちゃったどうしよう!も、そのアホな考えを全部メイドに話していて、その都度きついツッコミされて。
 そして最終的に、そのメイドとくっついちゃえばいいよ。どんだけ最低でもバカでも、なにがあっても赦してくれる、そばにいてくれる、存在。チャーリー、バカだから「メイド」ってだけで軽んじて恋愛対象にしたことなくて、気づいてなかっただけで。

 主人公のチャーリーが人格破綻しているだけあって、ヒロインのイザベルも感情移入しにくい無神経な子なんだよな。
 最低男と無神経少女の恋にときめけ、ってなにソレ、難問過ぎ。
 最低男が主人公なら、ヒロインはその最低さを受け止められる度量が必要。

 ヒロインの設定間違えてるよなー。


 親友でも、恋人でもいい。
 チャーリーが「間違っている」ことを、ストーリー展開が「おかしい」ことを、ツッコミまくり、それでも「すべてを肯定し、見守る」キャラクタをひとり出す。

 これだけで、『相続人の肖像』は今のまんまのキャラとストーリーで、帰結できる。


 ……てさー、考えながら、なんかデジャヴってたんだよねー。
 あれえ? あたしこれなんか知ってる、似たようなことしてたよなー?

 『Victorian Jazz』だ。

 http://koala.diarynote.jp/201212040306192575/ 彼の、生きる目的。@Victorian Jazz
 http://koala.diarynote.jp/201212041521276258/ 人を騙す仕事。@Victorian Jazz

 まず、主人公の言動おかしいって話。↑
 そして、作者の作劇の不誠実さを嘆いている。物語を「軽く」考えているのが引っかかる、と。

 http://koala.diarynote.jp/201212050404506559/ すべての動機は、愛ゆえに・その1。@Victorian Jazz
 http://koala.diarynote.jp/201212050424207288/ すべての動機は、愛ゆえに・その2。@Victorian Jazz

 で、打開案。↑
 キャラもストーリーもそのままに、ひとつ変更するだけで、すべての問題点をクリア出来る、と。

 デジャヴ……つーか、デビュー作から、作風変わってないのか、田渕せんせ。
 不誠実な作劇、ってソコ、わたし的にはいちばんダメだわ……。
 つか、デビュー作と構成的な欠点は同じで、最新作の方がさらに手抜き感強い、って、退化してるってことっすか?
 こわいなソレ。

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