そこは、全寮制の男子校です。
 ダンスや歌や演技を学び、将来舞台人になることを夢見ている少年たちが暮らしています。

 コレナカくんは、相棒のスエトキくんとふたり、今日もダンスのレッスンに余念がありません。
 先生に叱られてしまったのです。
 後輩のユキワカくんとキリネくんの方が成績が良いことで、責められたのです。

 コレナカくんたちが踊っている「バタフライ・ダンス」は、ダンサーふたりの息がぴったり合わなくてはなりません。
 心を通じ合わせ、カラダをぴったり密着させて踊るのです。
 でも、そう簡単にはいきません。
 心を通じ合わせるなんて、口で言うほどたやすいことではありませんから。
 コレナカくんとスエトキくんは親友同士です。それでも、どーしてもうまくできないのです。
 親友でもダメなんだというなら……残る手段はひとつしかありません。
 コレナカくんは、スエトキくんの手を取りました。

 そう、最後の手段。
 親友のボーダーラインを超えて、身も心も結ばれるしか、ないのです。

 これも、芸のためだ。
 愛するダンスと、愛する親友。両方を愛し続けるために……。
 コレナカくんとスエトキくんは、「上になり下になり」してはげみます。
 そう、その姿こそが「バタフライ・ダンス」の真骨頂!! 芸術の極みなのです……!!

「誰だ、そこでのぞき見しているのは!!」

 コレナカくんは鋭く叫びます。
 秘技「バタフライ・ダンス」を練習しているところを、他人にのぞかれるなんて……!! 死より深い羞恥、屈辱です。
 のぞいていたのはライバルのキリネくんでした。学園一の美少年と噂される、小柄で華奢な少年です。
 あくまでも芸事への好奇心でのぞいてしまったというキリネくんに、コレナカくんは容赦しません。理由はどうあれ、キリネくんのしたことは許されることではないのです……。

          ☆

「すずみんといちゃついてるとこをのぞかれて、逆ギレしてたね、ケロちゃん」
「そりゃ怒るだろう……“上になり下になり”してるとこをのぞかれたら」

 見終わったあとの会話でした。

 いやあ、すげえもん観たぞ、『蝶・恋』。
 星組全国ツアー公演、名古屋に行って来ました。

 『蝶・恋』は中国公演のテレビ放送を観ていたんだけど。
 あのときはただ「つまらねー」の一言で、なんの感想もなかった。

 しかし。
 ……すごかったよ、全ツ。すごかったよ、新生星組。
 くだらねーのなんのって。

 あちこちツボに入っちゃって、笑えて仕方なかった。
 ここまでひどい作品も、そうそうないよねええ。
 これから先、ひどい作品に出会うたび「でも『蝶・恋』よりマシだわ」と自分を慰められそうだ。
 それくらい最悪だぞ(笑)。

 たしかに、『夜明けの序曲』とか『虹のナターシャ』とか『ベルサイユのばら』とか『春麗の淡き光に』とか、世に駄作は限りなくあるけれど、『蝶・恋』が無敵なのは、

 ストーリーがない。

 ということに尽きるでしょう。
 芝居なのに、ストーリーがない。ストーリーがなかったらそりゃ、駄作決定だわ。こりゃ一本取られたな。

 そこにあるのは設定だけで、「ストーリー」と呼べるだけのものは存在しないのだわ。

 設定ってのはすなわち、女の子が男のふりをして舞踊を習い、相棒と恋に落ちる。女の子が先に死に、恋人の男が後を追う。……てことな。
 これはストーリーじゃないよ。ただの設定だよ。
 ストーリーにするなら、どーしてふたりが恋に落ちたのか、どうして別れるのか、どうして死ぬのか、どうして後を追うのか、「物語として」表現してくれないと。

 出会い
 愛
 抱擁
 別れ
 涙
 死
 感動

 って、単語だけ羅列して「小説です」と開き直られてしまった感じだ。
 いやあ、これで金をもらえるなら、演出家ってのはいい商売だなあ。

 唯一の救いは、目にきれいであるということ。
 これで『夜明けの序曲』みたいな散切りアタマしか出てこなかったら、終わってたろうねえ。

 ワタルくんはきれいです。檀ちゃんも言うまでもなくきれいです。
 つーか、きれいであってくれ! 美しさですべて誤魔化してくれ! たのむ!!

 祈るような気持ちでした。
 

 「ケロが2番手だー」とよろこんで観に行き、「できたら複数回観たいなあ」と言っていたのが、『蝶・恋』を見た途端「1回で十分だ」と辟易しました。
 ……だって、加筆修正してるっていうからさ。ケロとすずみんの役はオリジナルだっていうし。中国公演のカス作品でも少しはマシになってるかと思うじゃないか。
 わたしが甘かったのね……そうよね……腐っても植田、なにをやっても植田よね……。
 

 ケロとすずみんは、ワタルっちと檀キッキのライバル役でした。つっても、ふたりのすばらしさを表現するためにだけ出てきたアホウな悪役です。
 ほら、誰かを誉めるのに誰かの悪口を言う人っているよね。なにかを悪く言うことでしか、もうひとつのなにかを誉めることができない人。あーゆー存在。
 ケロとすずみんがどれくらい下劣でアホウで非常識であるかを見せつけて、主人公カップルを持ち上げてるの。
 この4人の教師役がいるんだが、その人の誉め方と叱り方に、この作品のテーマっちゅーか、書いた人の人間性が見える感じですよ。
 比較対象として出てきたケロとすずみんは、あくまでもただの比較対象なので、本筋には関係ありません。つーか、いらねーキャラでした。
 わざわざ時間を割いて登場させてるんだから、本筋に絡ませればいいのに……って、あっ、そうしたら「ストーリー」を作らなきゃならなくなるから、面倒くさくて嫌だったのかな。

 作者のことはバカだと思いましたが、とりあえず、ケロ&すずみんの役どころは、抱腹絶倒でした。

 そう。
 初演がタータンだったからつい、失念していたけど、こいつらってまだ若いんだよね?
 女の子が男装して潜り込めるってことは、まだ少年なんだよね、みんな。ヒゲがなくてもOKな年齢なんだよね。のど仏がなくてもOKな年齢なんだよね。
 ワタルっちを見ていても「少年」てのはぴんとこなかったんだが、ケロちゃんの役作りがみょーに若くてさー。
 あれ? ケロちゃん、少年のつもりで演じている??
 ケロ=おっさん、という先入観があるからとまどったけど、彼はちゃんと青い演技をしている。
 そこではじめて気が付いた。そっかこいつら、まだ少年なんだ。プロになる試験がどうのこうの言ってるし……つまりコレ、音楽学校なんだ!!
 ダンサーを目指す少年たちの、全寮制男子校!!(笑)

 彼らの卒業課題ダンスが、エロい曲でね。「上になり下になり」「胸を合わせて」「身も心も通じ合わせて」踊らねばならんのだよ!!
 男ふたりで、「上になり下になり(歌詞)」ですよ。
 そこがうまくできない、と、みんな悩むのですよ。
 爆笑。
 だからふたりっきりで特訓ですよ。上になり下になり。ワタルっちと檀キッキは、このシーンを踊ったあとに告白→両想い、ラブシーン突入っすよ。つまりはそーゆー振り付けなわけだな。

 ケロとすずみんは、そこの練習を檀ちゃんにのぞかれて、逆ギレするのですよ。
 ……そりゃー怒るだろう。恥ずかしいもん。

 ケロちゃんなあ。うまいよなあ。
 あんなどーでもいい役なのに、リアルに演じてます。
 「少年」として確立させてるよ。
 台詞だけなら嫌な奴なのに、ガキゆえの激しさと狭量さ、という人間像が見える。ガキだから余裕がないから、暴走してるんだな、ってわかるよ。しかも先生があんな低人格者だから、そんな男に教育を受けていればこれくらいひどいことを言うようにはなるか、って感じ。
 すずみんは台詞もあまりなく、ケロに追従しているだけなので、よくわからなかった。ケロの後輩の役なんだろうね。先輩命!って感じ。

 ところで、ワタルっちは「上になり下になり」を踊ったあとで檀キッキが女だと知り、告白に至るわけだが。
 もともと檀ちゃんを愛していた、ということだから、つまり彼はホモだったわけだ。女だったからラッキーラララと浮かれてやがるが。

 さすが全寮制男子校だ。
 生徒は全員ホモか。

 あちこちおかしくておかしくて、爆笑をこらえるのに苦労したが、さすがに吹き出してしまったのが、ラストだ。

 墓が割れるんだもん。

 目を開けたままうつらうつらしていたのに、一気に目が覚めた。
 効果音と共に、檀ちゃんのお墓が縦割れまっぷたつ!!
 そこから呪いの声が……!!

 わたしと隣のCANちゃん、WHITEちゃんが同時に声をあげて吹き出しました。
 すげえ。
 おもしろすぎる。

 いつの間にホラーになったんだ? ワタルっち、墓に向かって投身自殺するし(どうやったんだ?)。

 ストーリーがないから、ふたりの別れも檀ちゃんの死もワタルの死も、必然性がなくてめちゃくちゃです。彼らの社会的な立場も、ここまでくるとなにがなんだかわかりません。
 すべてが悪夢のようです。

 ま、とりあえず演出のひどさに爆笑し、きれいな人たちをいっぱい見ました。
 ……てとこですか。


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