さて、花組公演『野風の笛』。

 同じ話、同じ主人公しか書けない谷せんせが何故、今まで演出家としてやってこられたか。
 それは、出演者がそのたびちがったから。
 谷せんせ自身はなんの工夫も変化もしていない。ただ演じる人間がチガウから、その役者自身の持ち味によって、「別の人」に見えていただけ。

 だが、轟はすでに、何回目だ?
 同じ役を演じるの。

 わたしが知っているだけでも、アナジ、龍山、ジュリアンときてるから、今回の忠輝で4回目だよ。
 さすがに、もう無理でしょう。

 トド様……今あなた、なんの役やってますか……? アナジですか、龍山ですか、ジュリアンですか?
 見分け、つきません……。涙。

 いつもの谷作品、いつもの轟。
 ああ、溜息。
 心は冷めるばかり。

 救いは寿美礼ちゃんです。

 わーん、おさちゃ〜〜ん。
 君がいてよかったよおお。

 トド様単独主役で、たとえば雪組で、この作品は観たくなかった。
 だってそれじゃあ、ほんとに今まで通り、過去作品の焼き直し、固有名詞を変えただけのものになっていたもの。
 花組で、寿美礼ちゃんがもうひとりの主役としてずっしり存在してくれていて、ほんとによかった。

 実際、寿美礼ちゃんはオイシイ役。
 谷作品は「英雄に女はいらねえ、男の愛があればいい」というポリシーに貫かれているので、いかなる場合もいちばんオイシイのは2番手男役なのよ。
 しかも今回は2番手ではなく、W主演だよ、そりゃオイシイよ。
 主人公である「英雄」に、谷のエゴがすべて詰まっているだけに、その親友役には「英雄の妻」としての妄想が込められているの。

 英雄の妻。
 ……いいですなあ。

 谷作品のすばらしい特徴、「女はいらない」。……ええ、いついかなるときも、女は添え物。女はただの道具。男の株を上げるためのアクセサリ。
 だから女はどーでもいい扱い。つーか、いなくてもいい役。
 今回も、見事でした。
 ふーちゃん……トップ娘役としてのお披露目公演なのに……。
 いなくてもいい役。
 気の毒にな……。

 ふーちゃんがいなくてもかまわないかわり、寿美礼ちゃんがしっかりトド様の妻の役をこなしていました。
 幼馴染みの仲良し夫婦で、妻は常に夫の3歩後ろを歩くが、いざというときは夫のケツを蹴り飛ばして檄を入れるくらいのことはする、肝の据わり方。いやはや妻の鑑。

 ところで作中で寿美礼ちゃんはふーちゃんを愛してたんですか?
 秘めた恋だか愛だかを歌っていたよーですが、あれってわたし、トドへの愛を秘めてるんだと思ってたんだけど?
 ふーちゃんを愛しているようには見えなかったんだが。つーか、ふーちゃんが彼に愛されるような魅力を持った女性に見えなかったことも大きいんだが。
 あー、寿美礼ちゃん、主であるトド様を愛してるのかー。そりゃあ、臣下の身で打ち明けられるわけがないよなあ。可哀想になあ。
 と、思って観てたんだけど。
 なのにトド様、寿美礼ちゃんに暇を出す、とか言っちゃって。ええっ、いくら寿美礼ちゃんのためだからって、トドを愛している寿美礼ちゃんに別れを言い渡すなんて酷だよー。
 しかもトド様、寿美礼ちゃんにふーちゃんと一緒になっていいぞ、てなことを言うし。
 こっ、このバカちん、ぜんっぜんわかってないじゃん。寿美礼ちゃんが好きなのはアンタであって、あの女じゃないっつーの。ふーちゃんのことは、アンタの女房だから複雑な想いを抱いていただけじゃん。ふーちゃんも寿美礼ちゃんの気持ちを知っているから、ふたりで意味深な会話をしたりしてただけじゃん。
 ……トド……なんてバカ丸出し男。寿美礼ちゃん、こんなバカ男に黙って惚れてないで、襲ってもいいよ……許すよ……。

 てなふーに観ていたんですが。
 わたし、なんかまちがってますか?

 今回の救いは、バカ男トド(世間的には英雄らしい。あちこちで男たちをコマすタラシ男)と、彼に一途に片想いしている寿美礼ちゃん(妻の鑑。美人薄命)という図が、美しくも愉快だったということですか。

 妻とか夫婦とかいっても、あくまでも寿美礼ちゃんの片想い。バカ男は気づいてないの。寿美礼ちゃんの愛と献身があるのは「あたりまえ」だと思ってやがる。
 ……ほんとに、嫌な男だわ、トド。
 ゆみこちゃんだとからんとむだとか、コマシまくってるしねー。そこまで手をつけまくるなら、寿美礼ちゃんにも手を出してやれよっ、と歯がみする想いですわ。

 えーと、わたし的には「トド×おさ」です。
 公演がはじまる前にかねすきさんは、「おさ攻トド受」って決めつけてたけど。そりゃ年取ってからのトド様は受道まっしぐらのていたらくだけど、今回は攻だと思うわよ?
 ……そのうち、寿美礼ちゃんに押し倒されてそーだけど……逆ギレ襲い受だな、あの寿美礼ちゃんは……。

 長く観てきたトドファンにはとほほなばかりだが、寿美礼ちゃんファンには、なかなかときめくところのある作品だ……とくに最期はな……。

 んでもって、『レヴュー誕生』とやらの方は。

 ベタでいいもん。
 わたしは、おさあさのキスシーンのためだけに、通いたいねっ(笑)。あと、すてきすぎる兄貴(笑)。

 目新しさもいやったらしさもないかわり、観たことも忘れそうな凡作だけど、とりあえず、おさあさのエロシーンだけは忘れないと思う。
 わたしはおさ攻の方が好みなんだけど、黒いあさこがかっこいいのでリバ可っす(笑)。

 ただ、あの巨大な白鳥はどうかと思うよ……。出てきた瞬間、場内から失笑が響いていたよ。

 トド様が出る公演ならば、初日か楽に行って、「あの」挨拶を聞かねばなりません。それが醍醐味ってもんです。
 ところ変わっても、トド様はトド様。
 他の人がみんなふつーに挨拶していても、トド様はいつものトド様節で、時候の挨拶を朗々と歌い上げられました。
 わたしが知る限り、トド様がまったくの「素」で挨拶をしたのは『華麗なる千拍子』の大劇場千秋楽1度きりですから(いつも通りに挨拶をするはずが、途中で泣き出してしまった……アンドロイドじゃなかったのかアンタ、とびっくりした)。新公主役時から、彼はずーっと「あの」挨拶で通してきた人だからね。
 あのバカみたいな(失礼)挨拶を聞きながら、「ああ、トド様だわ」としみじみしました。

 そして。
 そのトド様のバカみたいな(失礼)挨拶を聞きながら、彼の後ろで寿美礼ちゃんが素の顔で笑いまくっているのが、かわいかったのことよ。

 

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