ヒロインのキャスティングにのみ不満があるのですが、かといってマリア役を誰が出来たのかというと、よくわからんです……。

 くらっちならマリアが出来たのかもしれないけど、だとしたらエルヴィラどうすんだ、という問題が。
 というわたしは、エルヴィラ@くらっちがすげー好みです。
 だもんで、マリアでなくてよかったと思ってます。

 『ドン・ジュアン』で、もっとも胸を突かれたのはエルヴィラの闇。

 『銀二貫』のヒロインが好みではなかったので、最近くらっち株が落ちてたんですが、『ドン・ジュアン』を観て思い出しました。
 この子が『伯爵令嬢』でわたしのハートを奪っていった子だということを。

 書くだけ書いてUPできてないよーな気がするが、『伯爵令嬢』初日を観てくらっちに惚れ込みました。
 彼女の「濁」を持つ芝居に。
 『伯爵令嬢』の感想、どこへやったかな……たしか今はもうぶっ壊れたPCで日生劇場の幕間ロビーと帰りの新幹線で書いてたはず……ということは、サルベージできないのかな。なくしちゃった? くそー。

 汚れ役だとか意地悪な役だとか、タカラヅカの娘役らしくない役だとか、そんなことはどうでもいい。
 アンナ@『伯爵令嬢』には、人間の持つ濁った感情を見せてもらった。
 コリンヌ@みゆちゃんを海へ突き落とすときに見せた表情に、わたしは心底ぞっとした。

 それと同じだ。
 エルヴィラに、ぞくっとした。
 背筋が寒くなった。

 ドン・ジュアン@だいもんに裏切られて、ぎゃーぎゃー言ってたり、パパ@エマさんに「なんとかしてよ!」と責任転嫁してぎゃーぎゃー言ってたり、「わたしだって悪いことできるのよ」と自棄になってストリップしたり……というのは、別に、ふつうに観ていられる。
 うまいなーと思う。
 このうまさだけで十分好きだと思う。

 でも、彼女の本領は、闇落ちしてからだ。

 ジュアンパパにクロスを投げつける、その痛み。

 神と共に生き、男に騙されて神を裏切ったと嘆いてなお、神と共に生きている娘が。
 クロスを、投げつけた。

 もうどこか、ボタンが掛け違っている。歪みが出ている。引き返せないほど、壊れかけている。
 崩れだしている。
 砂の城が形を失っていくように。

 彼女の危うさが、痛い。
 苦しい。

「愛する人を傷つければ、傷はいえるのか」
 そう歌う、エルヴィラとラファエル@ひとこ。

 マリア@みちるちゃんに婚約者がいたと知ったドン・ジュアンが、嫉妬に狂う。はじめて愛を知り、はじめて愛に傷つく。
 せっかくしあわせだったのに、エルヴィラがラファエルに告げ口したゆえに。
 苦しむドン・ジュアンを見つめる、エルヴィラの瞳が痛くて。
 自分を傷つけた男が傷ついている……望んだ光景がそこにあるのに、苦しそうで。ドン・ジュアンが苦しめば、同じだけ彼女も傷ついている。ドン・ジュアンが受ける罰は、そのままエルヴィラの受ける罰でもあるんだ。
 傷つけることで、傷つく。悲しい姿が、そこにある。

 なのに。
 マリアがドン・ジュアンにすがりつくのを……なだめているのを見るなり、目にすっと闇が落ちる。

 闇。暗闇。
 光が消えるの。深い井戸みたいに底の見えない深淵が満ちる。

 こわい。
 マジ、ぞっとした。
 この子、こわい。

「愛する人を傷つければ、傷はいえるのか」……?

 答えはない。いらない。
 説教はいらない。
「わたし、気づいたの。あの人を傷つけても傷は癒えないのだと。むしろ、愛する人のしあわせを祈るわ」……とか、「物語の最終章、みんないい人なんだよ」的取って付けた解答編はいらん。
 闇は闇でいい。

 エルヴィラは闇を持つ。
 十字架も投げつけるし、復讐も企てる。他人の不幸も願う。
 それでいて。
 傷つく。
 苦しむ。
 答えも、救いもない。

 それが、生きるってことだろう?

 闇を持つから、神を求める。
 聖人君子に救いなど必要ない。

 エルヴィラだけ追った映像が欲しいな。この子の感情の動きをコンプリートしたい。
 かなしいほど、リアルだ。この子の存在は。

 今回は役のせいか、ところどころ顔立ちがまっつを思い出させる。普段は似てるとは思わないんだけどね。
 暗い、闇系の役だと彷彿とするのか(笑)。
 でも、だからこそ声でびびる。女の子だーー。

 エルヴィラ好きだ。
 『Crossroad』のヘレナ@あすかを好きだった感覚を思い出す。ヘレナの孤独な叫びを文章化したいと切望した、あの感覚。
 エルヴィラの物語を文章化できたら、楽しいだろうなあ。とことん幸福に世界へ没入出来るだろう。
 観るのでも書くのでも、その物語世界へ……「異世界」へ入り込む、それこそが快感だもんな。
(だから、そのトリップに水を差して現実に引き戻す人は苦手)

 エルヴィラを見て思う。
 神を裏切り、否定してなお。
 この子は結局、神と共に生きていくんだろう。

 闇があるからこそ、そこに光がある。

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