消失を繰り返す、それが役者なのかもしれない。@ドン・ジュアン
2016年7月13日 タカラヅカ 『ドン・ジュアン』千秋楽。
全体を観たい気持ちはたしかにあったのに、最後の最後で前方席を得られた。
どういうめぐりあわせなのかはわからない。
ただ。
最後の最後に、この位置から舞台を……だいもんを観られたことを、奇跡だと思う。感謝する。
物語が進み、深まり、そしてついに最後の瞬間。
だいもんが「ドン・ジュアン」である最後。
ライトが落ち、暗闇になる。
次にライトの中に登場するのは、もう「ドン・ジュアン」ではない。ドン・ジュアンを演じた、望海風斗だ。
だいもんがドン・ジュアンである最後の瞬間を、「視る」ことが出来た。
ライトが落ちる寸前。ほんとうに、一瞬のこと。叶う限りの近い距離から肉眼で、その変化を視ることが出来た。
ドン・ジュアンから、だいもんに変わる瞬間が、視られた。
目の光が消え、空虚になった。
なにかが抜け落ちるように。
本来なら、完全に暗転するまで「ドン・ジュアン」であるのだと思う。今までだってそうだったのだから。
でもこのときは暗転の一瞬前に「ドン・ジュアン」が消えた。
だいもん自身が、とまどい、惜しんでいるように見えた。
自分の中から、「消えた」男のことを。
ああ。
消えたんだ。
たった今、ドン・ジュアンは消えた。
もうどこにもいない。
ドン・ジュアンの衣装を着ただいもんが立っているけれど、彼はもうドン・ジュアンじゃない。
役者って……!
涙が、あふれだした。
ドン・ジュアンが消えた瞬間。
そして、かくん、となにかを失ったように、空虚さにとまどうだいもんを見て。
なにこれ。
なにを見たんだ、わたしは、今。
公演が終わったあとも、その瞬間のだいもんばかりが脳裏をぐるぐる回り、平静でいられない。
だいもんの芝居がすごいのは、ああやって入り込んでいるからなんだろう。
「終わった」途端、中身が別になった。姿は変わらないのに。そしてそれは、本人ですら、どうしようもない次元のことなんだろう。
ドン・ジュアンは消えた。
もういない。
何ヶ月もかけて少しずつ作り上げたものが、一瞬で消えた。永遠に失った。
もしも次に同じ作品と役を得たとしても、あのドン・ジュアンはもういない。
カーテンコールで、なにか言えとだいもんから振られた咲ちゃんが、「ドン・ジュアンに会いたい」と言ったのがわかる。
「再演したい」でも「観たい」でもなく、「会いたい」。
そこにいるのはドン・ジュアンの格好をした、だいもんだもの。彼はもうどこにもいない。
ドン・ジュアンのいちばん近くで、ドン・ジュアンを恋する瞳で見つめていた咲ちゃん。
同じ姿をした別人を前に、その言葉が出てしまう、気持ちはわかる。わかるよ。
わたしも、ドン・ジュアンに会いたい。
もう会えない。
どこにもいない。
かなしい。
さみしい。
つらい。
苦しい。
切なくて切なくて、泣けて仕方がない。
もう会えない。
大好きな人を、失ってしまった。
そして、あの瞬間の、消失の目をした、だいもん。
その身に別人の人生を刻んで、燃焼し尽くす人。
舞台に生きるために、生まれてきた人。
わーん、舞台の神様、この人に役目を。
神様が与えた正しい役目を、果たさせてあげて。
舞台の真ん中で、表現し尽くすこと。空気を動かし世界を変え、観る者に楔を打ち付けるような痕を残す。
この役者に、使命を果たさせて。
本人の望みと、才能が正しく融合した、稀有なひとりなの。
だいもんに舞台を。
彼がその才能を、表現欲を、とことん発揮出来る舞台を与えて。
彼に正しい役目を与えたら、これだけのことをやってのけるのだから。
ドン・ジュアンを失うことが、心底つらかった。
だけど、希望はある。
ドン・ジュアンの中の人は、健在だ。今、役者として充実期を迎えている。
彼がいる限りまた、こんな風に愛しい人に出会えるはず。再演して欲しいとかではなくて、だいもんが「だいもん力」を発揮出来る、器のある役と作品に、めぐり会える可能性があるということ。
それを心の支えにするよ。
わたしはまた、「だいもん」と再会したい。
全体を観たい気持ちはたしかにあったのに、最後の最後で前方席を得られた。
どういうめぐりあわせなのかはわからない。
ただ。
最後の最後に、この位置から舞台を……だいもんを観られたことを、奇跡だと思う。感謝する。
物語が進み、深まり、そしてついに最後の瞬間。
だいもんが「ドン・ジュアン」である最後。
ライトが落ち、暗闇になる。
次にライトの中に登場するのは、もう「ドン・ジュアン」ではない。ドン・ジュアンを演じた、望海風斗だ。
だいもんがドン・ジュアンである最後の瞬間を、「視る」ことが出来た。
ライトが落ちる寸前。ほんとうに、一瞬のこと。叶う限りの近い距離から肉眼で、その変化を視ることが出来た。
ドン・ジュアンから、だいもんに変わる瞬間が、視られた。
目の光が消え、空虚になった。
なにかが抜け落ちるように。
本来なら、完全に暗転するまで「ドン・ジュアン」であるのだと思う。今までだってそうだったのだから。
でもこのときは暗転の一瞬前に「ドン・ジュアン」が消えた。
だいもん自身が、とまどい、惜しんでいるように見えた。
自分の中から、「消えた」男のことを。
ああ。
消えたんだ。
たった今、ドン・ジュアンは消えた。
もうどこにもいない。
ドン・ジュアンの衣装を着ただいもんが立っているけれど、彼はもうドン・ジュアンじゃない。
役者って……!
涙が、あふれだした。
ドン・ジュアンが消えた瞬間。
そして、かくん、となにかを失ったように、空虚さにとまどうだいもんを見て。
なにこれ。
なにを見たんだ、わたしは、今。
公演が終わったあとも、その瞬間のだいもんばかりが脳裏をぐるぐる回り、平静でいられない。
だいもんの芝居がすごいのは、ああやって入り込んでいるからなんだろう。
「終わった」途端、中身が別になった。姿は変わらないのに。そしてそれは、本人ですら、どうしようもない次元のことなんだろう。
ドン・ジュアンは消えた。
もういない。
何ヶ月もかけて少しずつ作り上げたものが、一瞬で消えた。永遠に失った。
もしも次に同じ作品と役を得たとしても、あのドン・ジュアンはもういない。
カーテンコールで、なにか言えとだいもんから振られた咲ちゃんが、「ドン・ジュアンに会いたい」と言ったのがわかる。
「再演したい」でも「観たい」でもなく、「会いたい」。
そこにいるのはドン・ジュアンの格好をした、だいもんだもの。彼はもうどこにもいない。
ドン・ジュアンのいちばん近くで、ドン・ジュアンを恋する瞳で見つめていた咲ちゃん。
同じ姿をした別人を前に、その言葉が出てしまう、気持ちはわかる。わかるよ。
わたしも、ドン・ジュアンに会いたい。
もう会えない。
どこにもいない。
かなしい。
さみしい。
つらい。
苦しい。
切なくて切なくて、泣けて仕方がない。
もう会えない。
大好きな人を、失ってしまった。
そして、あの瞬間の、消失の目をした、だいもん。
その身に別人の人生を刻んで、燃焼し尽くす人。
舞台に生きるために、生まれてきた人。
わーん、舞台の神様、この人に役目を。
神様が与えた正しい役目を、果たさせてあげて。
舞台の真ん中で、表現し尽くすこと。空気を動かし世界を変え、観る者に楔を打ち付けるような痕を残す。
この役者に、使命を果たさせて。
本人の望みと、才能が正しく融合した、稀有なひとりなの。
だいもんに舞台を。
彼がその才能を、表現欲を、とことん発揮出来る舞台を与えて。
彼に正しい役目を与えたら、これだけのことをやってのけるのだから。
ドン・ジュアンを失うことが、心底つらかった。
だけど、希望はある。
ドン・ジュアンの中の人は、健在だ。今、役者として充実期を迎えている。
彼がいる限りまた、こんな風に愛しい人に出会えるはず。再演して欲しいとかではなくて、だいもんが「だいもん力」を発揮出来る、器のある役と作品に、めぐり会える可能性があるということ。
それを心の支えにするよ。
わたしはまた、「だいもん」と再会したい。