『Bow Singing Workshop~星~』について、よもやま話。


 1幕ラストがひろ香くんの『エル・アルコン-鷹-』主題歌。
 宙組が、ずんちゃんの歌唱で幕を閉じた「路線スターの役目」を、星組ではひろ香くんがやるのか。
 もちろんひろ香くんはめっちゃうまくて、選曲も良くて、ヅカファンならば星組ファンならば、もれなくテンション上がりまくる。
 ひろ香くんは2幕もトウコちゃんの「星を継ぐ者」だし。トウコファンとしては胸熱です。いい声、いい音色。曲に必要なパワーも備えた歌声。これからももっともっと、この歌声を聴かせてほしいと、切に思う。

 ただ、この役目を路線スターがやらない……この役目が「出来る」路線スターがいない、ことが、星組の今後の課題なんだろうな。
 『エンカレッジ・コンサート』でもそうだったけど、やっぱ1幕ラストソングは「新公主演済みスター」がそのスター力でもって幕を下ろすべきだと思うの。

 歌を1曲まるまるひとりで……舞台上に本当にひとりきりで、歌える機会自体、ごく一部のスター以外は一生経験出来ない……から、若手歌バウは貴重であり、しかも、1曲まるまる熱唱してその歌声で幕が下りて割れんばかりの拍手に包まれるとか、トップスターでも滅多に経験出来ない演出。や、ふつーのタカラヅカ公演はフィナーレあるから、歌で緞帳降りないから。せいぜいカーテンが降りて次の場面になるだけだから。
 その、「トップスター仕様の特別演出」は、未来のために路線スターに経験させるべきだと思う。そのために、歌バウはあるんだと思う。

 たぶん、次の雪組ではひとこがやるだろうし、花組ではどんなに歌が苦手でもカレーくんがやるだろう。
 「トップスター路線」として育てたい子に、させるはずだ。

 なのに星組だけ「明確なトップスター路線」の若手スターがいない。
 95期のことちゃんが、予定外に早く育ってしまったせいもあるのだろうが、「次代の」スターを決めあぐねている感じ?

 雪の歌バウと違って、星バウはちゃんと新公主演済みスターが複数いて、さらにバウ主演スターまで出演しているのに。
 そう、新公までならともかく、バウ主演まで出来る人ってかなり期待されたスターだったはずなのに。

 まおくんはほんとに、はしごを外されてしまったんだなあ。
 歌バウのプログラムを見て、実感した。
 新公初主演後の囲み取材がスポーツ新聞に載るくらい、特別な人だったのに。(ふつー、新公主演程度で新聞には載りません。最近はトップスターでもなかなか載りません。せいぜい新聞社のネット記事になるだけ)
 そのインタビューで、「将来トップが約束されているんだな」と読めるくらいのことを答えていた記憶がある。ここまで大言しちゃっていいのか、とはらはらするくらい。
 まおくんではなく、彼のおじいさんの名前が本人の写真よりも大きく誌面を飾り、まおくんは「~~の孫」という扱いでしかなったにしろ。
 偉大な祖父を持つ若者が成功し、大言壮語する様は読者のニーズに合致したのだろう。

 時代は変わったのだと、改めて突きつけられた。
 100周年より前なら、まおくんはトップ路線まっしぐらだったのだろう。
 そして、歌バウでも1幕ラストに熱唱し、幕を下ろしていたんだろう。
 でも今は、最低限の実力、技術のない人は路線スターにはなれなくなった。特に歌唱力のない人は厳しい評価をされるようになった。

 まおくんが押されまくっていた時代を知っているだけに、なんだかすごく不思議で……そして、これだけわかりやすく「方針変更」する劇団のシビアさに震撼する。
 や、社会ってそういうものだけど。その集まりのトップが変われば、あるいは考え方が変われば、白かったモノも黒になる。

 そして。
 「路線スターは歌唱力不問」だったときと、「歌劇団全体で歌唱力重視」になった今と、扱いが見事に変わり、下級生にポジションを抜かれ……それでも、変わらず「らしさ」を貫いているまおくんにファンタジーを感じる。
 扱いとかポジションとか、そんな外側のことは関係ない、まおくんはまおくんなのだと。

 まおくんの選曲は、『王家に捧ぐ歌』の「エジプトは領地を広げている」と、『オーシャンズ11』の「JACKPOT」。
 ワタさんの曲は、まおくん向きだ。
 なんというか、「星組スターの曲っ!!」って感じなとこが。
 技術ではなく、スター力で歌う。
 おおらかで力強くて、まおくんの魅力を存分に発揮出来ていた。
 『オーシャンズ11』は勢いと雰囲気で歌い切った感じ。
 どちらにせよ、うまくはない。
 まおくん比で良くはなっているけど、うまいわけじゃない。

 だけどほんと、スター力はあるんだよ……。

 このスターらしい持ち味の人がトップスターになれない時代になったんだな……。

 まおくんがトップになるかどうか、なったとして成功するかどうかではなく。
 現在のタカラヅカのスタンスを目の当たりにして、感慨深かった。

 わたしは最低限の技術・実力は欲しい人なので、スターには実力が必要だということに劇団が気づいてくれたことを喜ばしく思っている人間だ。
 でもその実力重視だって、やっぱ判断基準は難しいよな。
 スターには容姿と華が必須なのだし。
 「スターには最低限〇〇が必要」で、その「最低限」の値をどこにするのか。美貌でも華でも歌唱力でもダンス力でも、なんでもいい、それを計るのは誰。

 難しい。


 ともあれ、まおくんは経験値とスター力で歌い切った。
 ああ、タカラヅカだ。ああ、スターだ。
 そう思える姿だった。

日記内を検索