年寄りなので昔話をする。

 『エリザベート』初演時。
 ライトなヅカヲタであったわたしの情報源は、機関誌「歌劇」「宝塚グラフ」のみ。会には近づいたこともないし、ヅカ友だちもいない。
 ヅカは友だちと楽しく観劇していたけれど、もともとの友だちであり「タカラヅカで知り合った」友だちじゃない。つまり、ヅカに対しての知識はわたしと同じ。

 とにかく、「歌劇」を読んで、『エリザベート』というミュージカルが、実在のエリザベート皇后の一生を追ったモノで、トドロキの役がエリザベート皇后の暗殺者だと知る。
 え、それってつまり、ラストにしか出て来ないってこと? 役としてはラスト数分で、あとは狂言回し……物語中にはいないはずだから、花道とかカーテン前とかであらすじを語って消えるの? ……つ、つまらねー!!
 そんな難しい役、トドに出来るのかよー。トドはもっとわかりやすい役でないと、ただつまんなくなるだけじゃね?
 そんなことを、友人相手に愚痴った思い出。
 『ブルボンの封印』の「ただ立ってるだけ」のコルベールとか、拙さばかり目についてトホホだった『あかねさす紫の花』の天比古とかが脳裏に浮かんでなー。
 タカネくんとWキャストだった中大兄皇子と天比古。天比古はタカネくんの巧さの前に悲しい出来だったけど、中大兄皇子はタカネくんとはまたチガウ味わいで、いい感じだった。
 人間らしい弱さを表現するにはまだいろいろ足りないけど、バーン!どーん!としたヒーロー役は出来るのよ、派手な役なら誤魔化しが利くのよ、地味なナレーション役だと誤魔化しが利かずにつらいことになるのでは……?!
 と、ファンならではの勝手に気を回しすぎ心配をしていた。

 世の中的には、トドの役がどうより、「トップスターが死神役で退団する」「トップスター退団公演なのに、娘役がタイトルロール」ってことの方が問題視されてたみたいね。
 わたしはそのへん、なんも気にしてなかった。
 どんな役でもいいじゃん、やり甲斐のある役ならば。

 いっちゃんのことは、好きでも嫌いでもなかった。好きか嫌いかを聞かれれば「好き」と答えるけど、ファンかと聞かれると「別に」という温度。でも、悪口を言われるとむっとする(笑)。
 好き嫌いではなく、ずっと雪担だったので、「うちの組のトップさん」という愛着があった。
 いっちゃんがこんなに長くトップやるとは思ってなかった。男役なのに女役もするし、男臭いタイプでもないし、2番手時代に化粧品会社のCMに女性タレントっぽく出ていたりして、「トップになったらすぐやめて芸能界に行くんじゃない?」と、わたしや友人は勝手に思っていたから。←だから、情報源なしのライトヲタの考えることですってば。

 十分な期間トップを務めたあとだったので、退団発表も驚きはなく、それよりもわたしは、古代様の退団に打ちひしがれていた。
 わたしの大好きなおじさまスター、ハンサムでエロくて歌と声が良くて、当時のタカラヅカでトドの次に好きだったのに……! ってわたしは、若い頃からおじさまスキー。
 わーんわーん古代さん辞めちゃ嫌だ~~!!

 ……てな。


 劇団はなにかしら気負っているようで、阪急電車の駅構内に、『エリザベート』とタイトルのみのポスターが貼られていたのが、忘れられない。

 公演ポスターじゃない。
 いつもの公演ポスターの前に、「告知のみ」って感じに貼られていた。
 エリザベート肖像画の目元だけしか画像のない、あとは文字で「エリザベート」と書かれたのみの、シンプルなポスター。
 一見タカラヅカとはわからない。いや、なんのポスターかもわからない、「エリザベート」ってナニ。日本人には馴染みの薄い、遠い他国の歴史上の人物。
 その周辺の文字を読んではじめて「タカラヅカでこのタイトルの公演をやるんだな」とわかる。
 タカラヅカのポスターといえば「ヅカ化粧のスター」がコスチュームを着けてどーんと載っている……ものだったから、それ以外は見たことがなかったから(舞踊会とか、文字情報のみのポスターは除く。あくまでも、大劇場本公演ポスター)、「どうしたんだ??」と思ったな。

 おまけにテレビCMまでしてたんだよなー。
 当時はスカステなんぞなく、BSはあったけど今ほどメジャーでもない。
 ごくふつーに、一般地上波テレビで、お茶の間に流れていた。
 オープニングの「エリザベート♪ エリザベート♪」っていうコーラスで、トート@いっちゃんとエリザベート@花ちゃんが登場する。
 かっこよかったよー。
 つか、音楽の勝利。オープニングかっこいいもんね。


 チケットは、2階席しか買えなかった。
 大作海外ミュージカルで、トップの退団公演だもん。わたしたち一般人には、チケットが手に入らなかったんだ。
 発売日に梅田のプレイガイドへ並びに行き、抽選で買えた分のみ。

 当時のチケット発売方法は、劇団指定のプレイガイドに発売当日朝に並び、整理券(抽選予備券)をもらって、整理券番号順に抽選、抽選券の番号順にチケットを購入、というものだった。今もムラのトップスターのサヨナラショーのある回の当日券販売方法が、この方法だよね。
 わたしたちは、友人たちと協力してチケ取りした。てゆーかこのときは父にまで頼んで並んでもらったわ……抽選だから、確率を増やしたくて。
 で、ひとりの友人が神番号を引いた。
 1枚の抽選券でチケットを3枚買えたので、千秋楽2枚(わたしと友人分)と通常日程の良席(神番号を引いた当人分)を1枚買ったんだっけか。神番号引いた当人は、行ける日が限られてて、千秋楽は観られなかったのなー。それで楽チケは譲ってくれた……ほんま神や……。
 それ以外はわたしや父も含め、大した番号を引けなかったので、2階席しか手に入らなかったんだ。
 新人公演は発売日が別だったので、その日は本公演のみ発売、当然プレイガイドは完売。
 当日朝並んで入手した整理券分以外は買えなかったわけだ。
 当時はプレイガイドごとにチケットを持っていたわけだから、他の発売窓口にはまだあったのかもしれないし、もちろん会に入っていれば手に入ったのだろうと今なら推察するけれど。
 あのころのわたしたちにとっては、「チケットは前売り完売、これ以上入手手段なし」の公演だった。

 おかげで新公以外はいつも同じあたりの席から観ていた。
 本公演4回と新公の計5回観たんだっけか。新公以外すべて2階席。2階Sの下手側が梅田PGの持ち分だったから、4回ともそのブロックだったわ(笑)。
 新公で1階S席に坐ったときは感動したなあ、「見え方がぜんぜんチガウ!」って。

 ……梅田での並びがなつかしいなあ。月に一度、友だちとわいわい並んで、そのあと朝ごはん食べるのが楽しかった。
 並びに借り出された父は、早朝から並んで、わたしたちに朝ごはんおごって(お金だけくれて、同席はしない)、自分はひとり仕事に行ったんだよなあ……いい父だったわ……つか、わたし父をいいように使いすぎだったわ……(笑)。天国の父よありがとう! と、今さら言う。

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