『鈴蘭(ル・ミュゲ)-思い出の淵から見えるものは-』初日、ぎりぎりにバウホールにたどり着き、階段上がったら目の前にれおんくんが立ってた……。
 いや、びびったー。


 演出家・樫畑亜依子せんせの宝塚バウホールデビュー作。ってことで、ワクテカ。
 マンガでも小説でも、新人作家デビュー! って謳ってあるとわくわくするよね。未知っていいよね、未来があるっていいよね。
 どんな作風の人なのか、早く知りたい・この目で確かめたいよね。

 で、前日欄まるまる3000文字使って、新人演出家作品の「わたしの」判断基準を書いた。
 ひとさまのことは知らないし、「わたしの」ったって、オマエナニサマだよ、てなもんですが。
 ヅカヲタゆえの戯れ言です。戯れ言ゆえに無駄にアツいの、真剣に戯れているから(笑)。

 『鈴蘭』の感想。

 いい。

 根拠は、前日欄で挙げたポイントをすべてクリアしているから。

 1.舞台は中世フランスの架空の国。
 タカラヅカのいちばん得意なジャンル。
 これを選ぶだけで、70点取れる。配点のいちばん大きいところを、きちんと押さえてくるのはいい。

 2.主人公がちゃんとかっこいい。かっこいい衣装を着て、キャラ立てもふつうにかっこいいところを押さえてある。
 少年時代のピュアな心を残しつつも今は適度にやさぐれていて、頭も良く、社会的にも優秀である。
 教科書(エンタメはこう作る!的なハウツー本)に載っているレベルに模範解答な主人公像だ。
 ヅカの主人公によくある「作者の頭の中でだけかっこいい」キャラじゃない。チェス、国王の信頼、舌戦、剣の腕と「かっこいい加点エピソード」を丁寧に盛り込んである。
 そして、主人公自身が計画発案し、実行している。……コレ、ヅカ的にけっこうめずらしい。主人公がナニもしない、ただ台詞でだけ「かっこいい」「素敵」ともてはやされている、てのが山ほどあるからなー。

 3.ヒロインと恋愛している。
 初恋をこじらせつつ、等身大のヒロインと出会い、反感→共感→恋、とこれまた教科書に載っていそうなくらい、模範的な流れ。
 しかも当世のはやり、「S系彼氏」路線だ。上から目線で命令、「お前はオレが守ってやる」……ほんとに丁寧に加点ポイントを押さえてくるなー。

 4.キャラクタが多い。書き込みの浅さは問題じゃない、まずキャラクタが「在る」ことが重要。なければナニもはじまらないもの。
 とにかくたくさんのキャラを出そう、という意欲が感じられる。「このキャラいらなくね?」と思うモノもあるけど、それでも「ひとりでも多く」出しているのはいい。

 デビュー作には、そのクリエイターの本質が現れるという。
 この4つは「タカラヅカの座付き演出家」としてこれからやっていけるのか、というわたし的なチェックポイントだ。
 や、やっていけるのかを判断するのはわたしじゃない、わたしはただのファンのひとりでしかない。
 ヅカヲタであるわたしが、「この演出家、期待出来ない……」としょんぼりすることになるかどうか、わたし自身が「(ファンを)やっていけない」と思うかどうか、ってことだ。

 樫畑先生のデビュー作『鈴蘭』は、わたしのナニサマ目線をクリアした、良い作品だと思うの。

 その点では好き。
 タカラヅカを研究して、本気で「タカラヅカ」してるから。

 これだけまともに「タカラヅカ」なら、今後も楽しくおつきあいできそう。

 ただ。
 「新人演出家デビュー作品」という括りではなく、ただこの作品だけぽんっと差し出された場合。

 別に、好きでもなんでもないな。

 ごめん。
 前述のチャンネルとはチガウ部分で語ると、そうなる。

 新人演出家デビューだ、どんな先生だろう、とワクテカして初日を観終わり、いちばん強く感じたことは、「及第点作家」出たなー、だった。

 真面目に勉強して教科書通りきちんと作ってある。
 作品は女の子向けライトノベルか少女マンガ。ストーリーもキャラもエピソードも、既視感パネェ。
 破綻なくきれいにまとまってる。が、とくにわくわくもしない。

 ストーリーが単純過ぎるというか、最初から犯人も筋道もなにもかもわかっていて、なにかしらどんでん返しがあるのかしら、いくらなんでもこんな答えが出ているまま終わらないわよね? と思ったら、ほんとにそのまま終わった、という拍子抜け感。
 キャラクタの造形の薄さ・浅さが気になる。そこを根っこにおいた、「このキャラの言動おかしくね?」が最後まで引っかかった。
 ……という点はわたし的にけっこう大きなマイナスなんだけど、それはまあヅカではよくあることっちゅーか、言及しなくてもいいレベルのことなんだとは思う。

 真面目にきれい、なのはいい。
 だけど行儀良すぎてて、内にも外にも、はみ出すモノがない……。

 外側に、どっかーん!と派手にはみ出すことは、せっかくお行儀のいい作りなんだから、そっちは目指さなくてもいいのかもしれないけど。
 内側にはみ出すモノがないのは、これが作風ゆえなのか、デビュー作だからセーブしているのか。
 初恋のシャルロット@はるこに対するリュシアン@ことちゃんの初恋のこじらせ方とか、書きようによっていくらでも深く重く出来るんだけど、なんつーかこー、絵に描いた餅的な、「お約束程度に触れました」「予定調和です」で終始しているのがなあ。
 悪役ヴィクトル@せおっちの軽さと、一歩間違えるとかなりのアホアホ感とかもなあ。

 きれいにまとまってるけど、そこで止まられると、演じているのが下級生メインのバウだってこともあり、全体的にすごく軽くなっちゃって、「教科書的」な作品がますます薄く小さくまとまったような。

 だからなんか、惜しかった。
 わたしが「タカラヅカ」に求めるモノを全部クリアしてくれてるし、話もお手本通りに作られてる。
 だから。
 だから、あとひとつ、わたし好みのものがあれば。
 わたしの好きな方向へ踏み込んでくれていれば。

 惜しい。

 ……あくまでも、わたしの好みの話なので。
 わたし好みの「濁り」とか「重み」がないからって、それが悪いなんてことは、たぶんまったくないと思うので、これはこのままでいい作品なのかも?

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