年寄りの昔話、初演『エリザベート』の思い出。

 当時のわたしは、トドロキファンだった。
 『エリザベート』では、幸福にルキーニ@トドロキをオペラグラスで追いかけていた。
 トドロキルキーニ、トドルキ、トドロキ……なんか早口言葉的な?(笑) キーを打ってて間違うわ、トドロキ、トドルキ。


 てことで、トドルキの好きなところを挙げてみる。

 オープニングから狂気とハイテンションぶっちぎりの存在感が好き。
 トドのあの「声」が生きる。
 他の人とまざらない声。低くて太い、独特の濁った音色。

 プロローグの「エリザベート(大合唱)」はテレビCMで使われていた曲(CMではウィーン版を使っていたと思う、ヅカの歌声ではなかった)。CMでさんざん聴いて、耳に馴染んでいたし、ものすっごくかっこいい曲だと思っていたから、トドがこの曲でソロパートがあることに感動した思い出。
 黒天使たちがエリザベートの肖像画を持ってくる、あそこでトドルキが「エリザベート♪」と歌う、それに感動。
 CMのあの曲、あのフレーズだ! トドの声で聴きたかったんだ、ほんとに聴けるなんて!!と。

 わたし、トドの声が好きなのね。
 滑舌悪いなー、とは思っているけど、あの太い声が好きなのよ。
 好きな声で好きなメロディを聴けるのって、すごくうれしい。

 あと、台詞も見せ場もないけれど、フランツの謁見を、下手花道でニヤニヤ眺めているところが好きだった。
 ルキーニがいなくなってくんないと、真ん中を観られない(笑)。(ルキーニは次の場面の準備のため、途中でいなくなる)

 バートイシュルはかわいくて好き。
 それに、ルキーニの歌う歌の中で、ここの「計画通り…」こそが、いちばんトドロキに合ってると思うんだ、わたし。
 そりゃ「キッチュ」もいいけどさ……トドルキの持つ「毒と軽妙さ」があざやかに出る曲だと思うの。

 んで、トドルキでいちばん好きな場面……というか、仕草がウィーンのカフェの、ギャルソン。
 上手で解説しながらエプロンを身につけるでしょ。
 あそこで、紐を結んだあと、エプロンの片側を「ひょい」っとヒモに巻き付ける。
 あの仕草。

 それが、いちばん好き。

 あれから何人ものルキーニを見てきたけど、トドがいちばんかっこいい。

 ギャルソンエプロンの着こなしは、トドがいちばん。
 あの端を巻き上げる仕草……トド以上にかっこよく出来る人、見たことないもん!
 毎回毎回、「はうっ」と息が止まる勢いで、ガン見してた。ときめいてた。

 あたしほんと、ルキーニのギャルソン姿が好きで。
 ルキーニしか見てなくて、カフェは芝居に乗り遅れるわ……危険な場面だったわ……(笑)。
 江上さんが出て来たら、彼も見なきゃで忙しかった。あ、江上さんってケロちゃんのことね。当時は江上さん呼びだった。

 2幕では、病院場面で舞台奥へ去って行くシシィにストロボをたくパパラッチルキーニが好きだった。オペラでガン見ポイントな。
 トドルキはセリフがあったり前へ出ているところでは陽気なチンピラ風なことが多いんだけど、そうでないとき……舞台の端とか物語の傍観者であるとき……いわゆる「カメラのフレーム外」にいるときに、どきっとする表情をしている。
 パパラッチルキーニは、冷酷だった。
 なまじ美貌なだけに、とてもこわい目をしていた……台詞を言うときはチンピラっぽく笑いを浮かべるんだけど……そこに至る前は、冷ややかにこわい。
 その変化を眺めるのが好きだった。

 でもさー、そういうところってビデオにはぜんっぜん映ってないんだね……はじめて販売ビデオ見たときに愕然とした……わたしが見ていたモノと違う!って(笑)。

 まあね、ストーリーと無関係な、花道にただ立っているところとかが映ってないのはわかるよ? そりゃそうだろうと思うよ?
 でもさ。

 ドドルキの最高演技が映ってないって、どういうことなの?

 いちばん好きなのはエプロントドロキだけどさ。
 好きな歌は「計画通り…」とかだったりするけどさ。
 役者・轟悠の初演『エリザベート』の最高演技って、最後の「グランドアモーレ、あーっはっはっは!」だよね?
 トート閣下の命を受け、皇后エリザベートを刺殺した直後、もう完全に狂ってるあのセリフと高笑いだよね? 背筋に電流走るくらいの、マジにこわいあの芝居だよね……?!

 わたしのなかではあそこでトドルキ、ドアップなんですが。
 あの大きな目を支配した狂気の色を、余すところなく映し出すのが当然の仕事なんですが。

 いやあ、他のどの場面、どの芝居をスルーしてても、ここだけはトドをアップで抜いてくれると信じていたので……トドの芝居がものすごいこともだし、ストーリー的にも暗殺者の「事後」は多少なりともカメラで追うでしょ? この物語はそもそもルキーニが「何故エリザベートを暗殺したか」を検証する物語であってだね……「物語」的にもルキーニを映すのはあたりまえのことであってね……映るのが当然だと、無邪気に信じ切っていたので、愕然としました。

 まさか、ガン無視されるとは、夢にも思ってなかった。

 カメラは、ただ立っているだけのトートとエリザベートを映していた。引きになっていた。

 そうなんだけどね……「タカラヅカ」ってそういうところなんだけどね……。
 ストーリーよりもトップスターが大事。知ってる、わかってる。
 トップスターとトップ娘役が登場してたら、そりゃそっちを映すわ……。物語として重要か、ではなく、「3番手よりも、トップスターが大事」なのは説明するまでもないことだもん。

 NHKの収録がないことを、心から残念に思ったもんだった。
 ヅカのカメラでなければ、ふつーのカメラマンならば、トドルキの絶叫を撮ってくれただろうに、と。

 トドのルキーニは、観ていて楽しかった。
 大人であることは間違いないのに、やんちゃ坊主にも見えた。
 彼の無邪気さ、陽気さが、毒と狂気へ集束されていくのが、見ていてこわかった。
 彼が楽しそうであることが、なにより心地よく、そして、こわかった。

 至福の時だねえ。

 その後トドロキは、ルキーニが当たり役過ぎたために「過去の自分を超えられない」という壁にぶち当たることになっちゃうんだけど。なにをやっても「ルキーニの方がよかった」「ルキーニのときはよかったのに」とか言われてさー。

 でも、どんなトドロキだって、「あのルキーニ」があってこそのトドロキだもんな。
 若く傍若無人なときに、ルキーニを初演で創り上げることが出来て、よかったんだと思う。
 しがない1ファンでしかないわたしだが、ほんとーにしあわせだったと、つくづく思う。

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