2時間半の大作だったのを、舞台稽古当日までかけてなんとか1時間35分の通常枠に収めたという話をあちこちから聞く、『一夢庵風流記 前田慶次』
 削った部分の多くは雪丸@まっつ関連だったらしい?

 真偽のほどはわたしのよーな一般ファンには知りようもないが、雪丸関連に変更があったらしいことは、今現在の舞台からよーーっくわかる。

 根拠は、慶次×まつ、雪丸×加奈のWラブシーンだ!

 加奈@せしこを口説き、半ば強引に濡れ場へ持ち込む雪丸、叔父の妻まつ@あゆっちと不倫とはいえ、真実の愛に濡れる慶次@えりたん。
 セットはすべてなくなり、桜吹雪とホリゾントいっぱいの鏡のみ、盆が回る中セリが上がり下がり。そこでもつれる2組のカップル。
 なんかすげードラマティック!!
 演出的に、作中もっとも瞬間昂揚する場面だよね?

 主人公のラブシーンなんだから、当然。
 ここがタカラヅカである以上、トップスターとトップ娘役の愛の場面がもっとも盛り上がるのは必定。しかも不倫の恋、命懸けで盛り上がっちゃってますよ!!てな場面ですよ。そりゃ盆も回るわ、セリも上がり下がりするわ。
 ……なんだけど、えーと、出てるの、主人公カップルだけじゃないっすよ?
 ぜんぜん関係ない人たちも、一緒にラブシーンやってますよ??

 何故、慶次とまつのラブシーンに、雪丸と加奈のラブシーンもかぶっているのか。

 現在の雪丸の立ち位置だと、不自然すぎる。
 雪丸はただの悪役で、もったいつけて出てきたわりに安く殺されて終わりな人。このラブシーンの直前に台詞の羅列で自己紹介しただけ。
 とてもじゃないが、主人公カップルと一緒にラブシーンで盛り上がるようなキャラじゃない。

 雪丸役の人がエロいから、エロ得意だから、エロシーンを盛り上げるためだけに、主役と並んでラブシーンやっちゃいました! になるよ、今のままだと!

 チガウよね?
 大野くん、そんな簡単なとこでよろこぶ演出家じゃないよね?
 主人公の大切な場面に、意味もなく脇キャラ出さないよね?

 慶次と雪丸を盛り上がり場面で同時に描いたのは、ふたりが対比されるキャラクタだからだよね?

 慶次が光で、雪丸が闇。
 前田家の嫡男であるはずが、今は牢人となって自由に生きている慶次。
 忍びの家に生まれ、表舞台に出ることを望んだが叶わず、また今も闇世界にいる雪丸。

 遊里場面、正体を明かし慶次を口説く雪丸に、慶次の答えは「お断りだ。ばーか」
 ここでもふたりが対比キャラだとわかる。
 慶次がまつを抱いたのは「惚れているから」。他に理由などないと言い切る。
 それを黙って聞いている雪丸。慶次の主張とは逆の理由で女を抱いた男。

 「ばーか」と言われること自体は関係ない、その前の言葉に重きを置いているから耳に入ってはいるけど素通りしている、てなことを雪丸の中の人がお茶会で言っていた。まつの「ばーか」に至っては、まったく耳に入ってないと。

 「口惜しいから抱いたわけじゃない」と語る慶次の言葉に衝撃を受けていて、揶揄の言葉など耳に入ってない。雪丸がこだわっているのは慶次だけで、まつのことはまったく眼中にない。
 慶次は雪丸を知らないけれど、雪丸は昔から慶次を知っているはず。
 だから雪丸サイドからの、慶次へのこだわり・思いを表現する場面があってしかるべき。
 今回のたくらみは、黒幕が家康@ヒロさんだけど、首謀者ではなさそう。まず雪丸の野望があり、そこに付け込んだ形。家康様がわざわざ、前田家を放逐された一忍びごときを、自分から探して口説くはずがない。
 雪丸から家康に近づいたんだろう。前田家の内情を手みやげに。
 慶次を彩るこの作品の「表面的な事件」には、前田家と加奈にこだわる雪丸の存在が大きく関わっている。
 それゆえに、その「表面的な事件」と「慶次自身の問題」が大きく交差する「Wラブシーン」があれほどドラマティックに、慶次と雪丸を対比する形で描かれる。

 カットされた長大な脚本に、どんな場面があったのかは知らないけれど。
 Wラブシーンが「ただのエロ見せ場」にならないために、最低限のフォローをしてほしかったと思う。

 簡単なことなんだがな。
 たった1分、いや、30秒でもいい。
 ピンスポ浴びた雪丸が、慶次への思いを独白すればすむ。単独ピンスポなのは、それがひとりごと・心の声であり、誰かに対して言っているのではないということ。
 歌だとありがたいけど、時間ないなら台詞でいい。
 ああ、このたくらみは慶次への執着が根っこにあるのね、と。
 悪役に執着されるのは、主人公の格を上げる常套手段。雪丸が雷鳴と声から登場でもったいつければつけるほど、同時に慶次の株も上がる。これほどの大物悪役にターゲットインされている主人公すげえ!と。
 そうやってはじめて、Wラブシーンが盛り上がるのになー。光と闇が交差する場面になるのになー。

 や、今の「ただのエロシーン」「ただのファンサービス」も、ありがたいですよ、がっつりいただきますよ。
 でも大野くんが、「ただのファンサービス」で意味もなく2組のラブシーンを演出したとは、思えないんだ。
 思いたくないんだ。

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