トップさんと一緒の退団だと、サヨナラショーに出られるからオイシイ。
 てな考え方がある。

 それはたしかにアリだと思う。
 ガチ贔屓以外でなら。

 もちろん、ポジションにもよりけりだけどね。

 まっつに関しては、「トップさんと同時だけは勘弁!!」と、常々思っていた。

 単純に、チケットが取れないからだ。

 わたしは末端ヅカヲタで、何年ヅカを眺めて来ても、永遠の初心者で、金もツテもないままファンカーストの最下層にいる。
 友会や各種プレイガイドの先行発売、そして一般発売でチケットを買うしかない身だ。
 まっつの売り上げになればと、ふつーの公演ならまっつ会からチケットを買うようにはしているが(末端席上等!)、トップさんの退団とかいう特別な公演だと、門外漢はかえって迷惑だろうから頼るわけにもいかない。
 あくまでも、自分でがんばるしかない。

 そんなヤツがだ、トップさんのサヨナラショー付き公演を観るのが、どんだけ大変か。

 ふつーにチケットの取れる、ふつーの公演で卒業して欲しい。
 サヨナラショーで1曲歌えるとか、そんなんどうでもいい。ソロなら通常公演でも歌ってるんだから、別にいい。
 それより通常公演をたくさん通いたい。前方席でも観たい。後ろからも2階からも、いろんなところからいろんな角度で観たい。席を自由に選びたい。
 レートの上がるトップ退団公演だと、それがやりにくくなって、困る。

 そしてなにより、ディナーショーの出来るスケジュールで、卒業して欲しい。

 トップさんと一緒で、しかもトップさんがDSしないと発表しているこのタイミングで、辞めないで欲しい。
 トップさんがやらないのに、同時退団者ひとりがやれるわけないじゃん!
 ともちんだってみわっちだって、DSしないと発表済みのトップさんと同時退団するわけじゃなかったもの。
 同時退団するトップのあさこちゃんがDSやるし、2番手で次期トップのきりやんだってやるから、3番手のあひくんも堂々とDSできたもの。

 サヨナラショーで1曲なんていらない、ふつーの公演で、ふつーに3番手らしくDSして卒業してくれ! 1時間思い出の曲や好きな曲を歌いまくって辞めてくれ!


 と、思ってました。

 トップさんのサヨナラショーは感動的で、どの人のときも感動できるとわかっている、そこで1曲歌えるのはありがたいことである……それはもちろん前提なんだけど、その上で、ぜーたくこいてます、わたしは。

 銀橋で「かわらぬ思い」@『BJ』1曲歌って終了でいいよ。
 えりたんのサヨナラショーなんだから、それに花を添える意味で、いい仕事をしてくれれば、それでいいよ。
 それよりわたしは、まっつ主演が観たかった。DSやって欲しかった。めそめそじめじめ。


 そういうスタンスだったんです。

 それが。

 『壮一帆サヨナラショー』でまっつが歌ったのは、世界旅行形式でいろんな場面があった『インフィニティ』のスペイン。「祈り」という曲。

 大階段を背景に、なにもない舞台。
 ライトが射す。

 そこでただひとり、歌い出す。

 孤独なマタドール@まっつ。


 ああこれが、やりたかったのか。


 まっつは、銀橋を使わなかった。
 ふつうなら、本舞台からスタートしても、銀橋に出て来るものなのに。
 退団するスターが銀橋渡らないなんて、はじめて観たかもしれない。

 まっつはあくまでも、本舞台にいた。

 なにもない舞台で、歌い、踊る。
 たったひとり。

 大がかりなセットもない、そこまでの空気をつなぐ前振りも構成もナニもなく、突然ひとりで現れて、ひとりでドラマをスタートさせた。

 圧倒的な、歌声。

 存在感。

 男役・未涼亜希は、大劇場の舞台に立った。

 なにもない広大な舞台を、ただひとりで埋めた。
 巨大な大劇場を、ひとりで支配した。

 これが、やりたかったのか。

 タカラヅカは、完全なピラミッド制度のカンパニーだ。いい悪いじゃない、そういうシステムの場所なんだ。
 だから、大劇場の舞台にたったひとりで立ち、1曲歌いきることが出来るのは、ごく一握りのスターのみだ。

 それこそ、トップスターの、特権。

 あるいは自分単独のサヨナラショーが出来る人の。

 ふつうのジェンヌは、出来ない。させてもらえない。
 許されない。
 ……また、許されたとしても、無理だ。
 大劇場は広い。ほんとうに、大きい。
 この空間を、たったひとりで埋める力は、並大抵の人間にはない。だからこそ、それができる稀有な力を持った者が、「トップスター」なんだ。

 そしてまっつは、それを欲した。
 大劇場の真ん中に立つこと。
 たったひとりで、この広大な空間を埋めること。

 銀橋を歌いながら渡ることは、出来る。まっつがいた頃の花組では特別な者にしか許されなかったが、今の雪組では若手でもがんがん渡っている。
 銀橋を渡ることは、一定以上の立場になれば、許される。

 しかし、大劇場本舞台のセンターにただひとり立つことは。

 退団を懸けたこの1回限りだ。


 わたしは、まっつをあなどっていたんだろう。
 どうしてDSやってくれないの、と思っていた。不満だった。未練だった。や、それは今も変わんないけど。
 でも、それらを吹っ飛ばしてくれた。

 まっつは、大劇場を制した。

 出来るのだと。
 たったひとりで、ここに立つことが出来るのだと。

 DSじゃ出来ない。ちっちゃなホテルの宴会場のステージじゃ、収まらない。
 まっつが、求めたものは。

 男役17年。円熟の域に達した、完成の域に達した未涼亜希の力は、ここまで来たのだと。

 歌唱力で、ダンス力で、表現力で、大劇場を制覇する。
 退団オーラという底上げ力が加わっているにしろ、限られた者にしか出来ないことを、やってのけた。

 まっつ自身の気持ちまんまだと、当時「NOW ON STAGE」で語っていた、スペインの曲。
 そして、まっつの尊敬するヤンさんの振付。
 まっつにとって、特別な、特別な1曲。

 ちなみにわたしも、『インフィニティ』はみんな大好きだけど、なかでもいちばんスペインが好きだった。このブログにもそう書いていた。
 特別な、特別な1曲。

 それを、卒業する最後のステージで、「未涼亜希」の全霊を挙げて、創造した。開放した。

 まっつは、ここまで来たんだ。
 たったひとりで、大劇場の空間を埋める。
 ここまで、到達したんだ。

 たしかにこれは、ゴールなのかもしれない。
 ここまで来てしまったら、仕方ないのかもしれない。

 そう思えるほどの、力。


 ふつう退団者なんて、ひとりで持ち歌1曲歌いながら銀橋歩いて終わりだ。
 なのに、本舞台ひとりでこれをやらせてくれた、『壮一帆サヨナラショー』なのに、空気読まずにこれを許してくれた、えりたんありがとう!!! えりたんの懐の深さ、人間の大きさに感謝する。

 こんなまっつを、観ることが出来た。
 最後に、箱に遮られず存分に開放する、彼の実力を見せてもらえた。
 ありがとう。
 ありがとう。

 感謝の言葉しかない。すべての人に、存在に、機会に。

 ありがとう。

 ああもお、ほんとに、すごい。

 惚れ直した。

 まっつ、すごい。

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