9月30日発表された人事について。
 粗製濫造が許されないトップスター。その稀有な存在を作り出すためには、専用の育成システムが存在する。
 トップになるには、「新公主演(ヒロイン)」経験必須。とてもシンプルな条件。
 だが今回、このシステムが無視された。
 今回はトップスターではなくトップ娘役の話だ、娘役なんて所詮添え物だからシステムなんか無視してイイ。
 と考えているためだろうか。

 だが、劇団は基本的に新公ヒロイン経験を、重要視していると思う。
 「トップ娘役にしたい、と劇団が思ったときに、まだ新公ヒロインしていない」娘役がいた、とする。
 その場合劇団は、どんなことをしても新公ヒロをさせる。
 過去にそういう例がある。

 タカラヅカ史に燦然と輝く美貌の娘役スター、檀れい様。彼女はもともと、路線スターではなかった。だから新公ヒロインもしていなかった。路線娘役たちが研3やそこらで次々新公ヒロしていくなか、研7になってもヒロイン役は回ってこなかった。
 娘役の旬は短い。研4~5でトップ娘役に就任し、新公学年でなくなる頃にタカラヅカを卒業する。そんな世界で研7のヒロイン経験ない娘役って、もう脇の女役だよねえ。母親役とかやっちゃうような。

 檀れい様は、月組にいた頃は路線スターではなかった。同期に路線のあつがいたし、3学年下のあーちゃん、4学年下のみえちゃんに、ヒロイン系の役は移行していて、今さら檀ちゃんが路線になれる土壌はなかった。
 それが研7のラストチャンスの年に、雪組に組替え。路線以外のこの学年の娘役の異動ってめずらしい。
 と思っていたら、あれよあれよと新公ヒロインして、また月組に戻ってトップ娘役に就任。雪組には1年しかいなかったんだよね……。雪組生として大劇場に立ったのは2作だけって、特出する専科さんか……。
 雪担からすると「檀ちゃんってなにしに来たの?」「新公ヒロしに来たんでしょ」てなもんですわ……。ぽかーん。

 ふつう「トップ娘役にしたい」と劇団が考える娘役って、新公学年だ。だって娘役の旬は短く、大体新公学年内でトップ路線かどうかは完結する。
 だから、トップが決まったらどんなことをしても、新公ヒロをさせる。大抵は組内で、他の子を押しのけてでも、とにかくやらせる。
 組内で出来なければ、そのときだけ組替えさせても、やらせる。

 それくらい、大事。

 ちなみに、タカラヅカ100年の汚点のひとつだと、わたしが個人的に信じている「研1トップ娘役ポジション」の夢華さんだって、あらかじめ新公ヒロインはクリアしている。
 数ヶ月前まで学生だった夢華さんが、組配属したばかりなのに、突然新公ヒロインに抜擢され、その次の公演で「トップ娘役」の位置に就いた。とんでもないスピード出世だが、こんなスピードで駆け抜けるにしても、新公ヒロインは外せないステップだった。

 それくらい、「トップスターへの登竜門」ははっきりしていたのにね。

 なのに、今になって新公ヒロ未経験者を、トップ娘役にする。

 「トップスター」というブランドを、劇団自身が軽んじているのではないか?
 新公主演必須、というシステムを否定することによって、今後どんな強引な人事もまかり通るのではないか?
 誰もが平等に、トップになれる可能性がある。……それは美しい言葉だけど、平等主義とトップスター制度は相容れない概念じゃないか?

 新公主演、バウ主演、東上公演主演、と、段階を追ってステップアップしていく様を、ファンは一喜一憂しながら伴走してきた。
 劇団の判断基準が不可視であるため理不尽に思うことも多いし、そもそも「研7までに新公主演」という制限自体の是非など、疑問は尽きないけれど、それとは別の話だ。
 システムはある。
 そのシステムで、何十年とやって来た。

 それを今、劇団自身がないがしろにした。
 その意味は。
 その影響は。

 仙名さん個人がどうということではなくて、今回の「前例無視」人事に、危惧を感じる。

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