『私立探偵ケイレブ・ハント』のストーリー整理。

 ストーリーラインはおかしくない。つながっている。
 だがそれの、「見せ方」がおかしい。

 わたしがこの物語を作り直すとすれば、

>主人公がケイレブ、2番手はナイジェルな。
>3番手はレストランのオーナー。

 と、以前に書いた。

 ……レストランのオーナーって誰よ。現在の『ケイレブ・ハント』に出てないじゃん!
 作品を俯瞰して、「3番手役だな」と思える役が、「舞台上に出ていない」って……どんな作劇よ……。


 物語の発端は、女優アデルの失踪でも死でもない。
 マフィア抗争だ。
 ロサンゼルスの覇権をめぐり、他国マフィアが水面下で動いている。
 マフィアAは表向きはレストランを経営したりと真っ当な商売もしつつ、この地で勢力を広げている。
 マフィアAが潰したいと考えているのは、メキシコマフィアだ。メキシコマフィアは芸能プロダクションを隠れ蓑に好き放題やっていて、目障り極まりない。
 マフィアAは新たにひとりの男を雇った。「あの戦争」で活躍した狙撃手ナイジェルは、堅気の世界では生きられない男だ。近く行われるメキシコマフィアとの一戦で活躍してくれるはず。

 一方、メキシコマフィアの芸能プロダクションを嗅ぎ回る探偵がいる。探偵ケイレブは女優の死を調べており、自分がマフィアと関わっていることに気づいていない。ケイレブはナイジェルの戦友だった男だ。
 ナイジェルはケイレブへ「お前が関わっている相手はメキシコマフィアだ」と忠告する。ケイレブが奴らの悪事を暴かなくても、近々マフィアAが奴らを潰す予定だと、自分が関わっていることは伏せて伝える。すっかり堅気になったケイレブを、マフィア抗争に巻き込みたくないのだ。
 でもケイレブは「マフィア同士の潰し合い」に危機感を持つ。ナイジェルのように「戦争よりマシだ」と切り捨てることはせず、独力でメキシコマフィアへ立ち向かう。
 メキシコマフィアの手下であるマクシミリアンの犯罪を、ケイレブが暴く。著名人の集まったパーティの場で証拠を突きつけたのだから、逃げられない。権力を使って収監はまぬがれても、覇権争いからは撤退することになる。
 起こすはずだった派手なドンパチ抗争劇は、ケイレブの活躍によって未然に終了した。

 マクシミリアンのパーティには、マフィアAも出席しており、その護衛としてナイジェルも控えていた。
 もともと、このマクシミリアン主催のパーティにて、抗争劇の口火を切る予定だった。メキシコの本部へ向けての見せしめとして、マクシミリアンを射殺する……そのために、狙撃手ナイジェルが雇われたのだから。
 ケイレブを守るタイミングで狙撃したのはナイジェルの私情。でも、もともと射殺予定だったのだから問題ない。マフィアAは喜んでいる。
 ただマクシミリアンを殺しただけならメキシコ側から即報復の血で血を洗う抗争劇になるが、マクシミリアンの犯罪を暴き、ロサンゼルス侵攻拠点であった芸能プロダクションを社会的に終わらせたのだから、メキシコ側は身動きがとれなくなった。マフィアAにケンカを売る以前に、まず侵攻拠点を一から作り上げなくてはならない。

 仕事を終えたナイジェルはロサンゼルスをあとにする。空港ですれ違ったケイレブは、恋人のことでわたわたしている。ケイレブにはそういう生き方が相応しい。ナイジェルとはちがう。
 「あの戦争」で交差したふたりの男は、まったくちがう世界で生きていく。ケイレブは平和な街で、愛する恋人や仲間たちと。ナイジェルはひとつ場所には留まらず、次の硝煙を求めて。


 という話よね。ストーリー自体は。

 ふつーにいけば、ナイジェル主人公だけど、あえてケイレブの方にした。「あの戦争」を起点に、男の生き様を描くならどちらもあり。ナイジェルの方が描きやすいけど、あえてケイレブから描く、というのは作家ならやってみたい手法だろう。

 ところで何故、ストーリーの骨組みを解説した中に、ジムもカズノも出てこないの?
 マサツカ作『私立探偵ケイレブ・ハント』の2番手3番手はジムとカズノ。……本筋にまったく関わっていない。

 本筋に関わらなくても、サブストーリーでなにかしら重要な役割がある、という場合もある。
 だが、彼らにはソレもない。

 というのも、ジムとカズノはオリジナルな要因を持たないんだ。
 彼らの立ち位置はケイレブと同じ「探偵」で、「依頼を受けたわけではないが、なりゆきで事件を捜査する」という関わり方で、「無関係だが、見て見ぬふりは出来ない」という動機でメキシコマフィアのマクシミリアンと対決する。
 ケイレブと立ち位置も関わり方も動機も同じ。そして、ケイレブと違って個人のドラマは描かれていない。つまり、ケイレブの下位互換キャラだ。
 ジムとカズノ自体に役割はない。
 ケイレブの仲間、というだけの意味しかないので、事務所の事務員たちで事足りる役割だし、ケイレブのほっこりパート担当としては、ぶっちゃけコーヒーメーカーと同等の役割しかない。

 コーヒーメーカーで済むよーな役割に、2番手と3番手をあてがうんだから、そりゃ物語が破綻するよ……。

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