そして、4回目の『星逢一夜』。幕が開いてから、半月ほど経過。

 だいもん、加速。

 初日はおとなしめだと思った。初日にやり過ぎてないだいもんめずらしい、そんな話を友人とした。
 先週観たときに引っかかりを感じた。情報量が少ないと思った。脚本のせいだが、そのことに今さら気づかされるのは何故か?と首をかしげた。
 喉の調子が良くないせいかとも思った。本調子でないがゆえに、不足感があるのかと。
 でも、体調面やそれゆえの表現面云々ではなく、だいもんの芝居自体になにか引っかかりを感じるのではないかと思った。どうにも引っかかった。

 そして、公演期間もちょうど半ば、芝居も温まり、連日満員の客席で、順調に進んでいる……そんな頃に。

 源太@だいもんが、別人になる。

 ひとことで言うと、こわかった。

 子ども時代は、初日付近が好きだった。
 紀之介@ちぎと泉@みゆが「うっかり接近☆ドッキドキ」と恋の予感に微妙な空気になっているときに、源太@だいもんはそんな空気にかけらも気づかず渾天儀に夢中になって、「なんじゃこりゃーー!」と割って入る。
 紀之介と泉よりも、恋愛に関してはずっと幼い少年。
 だからこそ、泉は源太には友情以外を抱かずにいたのだろうし、あとから現れた紀之介には異性として惹かれたんだろうと思う。紀之介個人の魅力云々とはべつのところで、泉と源太は心の成長度がちがっていたんだろう。

 それが、ちょっと経ってからはだいもんの芝居が変わり、源太は「男女の微妙な空気を理解できる」少年になった。
 紀之介と泉が「男と女」として微妙な空気になっているのを、渾天儀を抱えたままおろおろ見守って、その空気を壊すために「なんじゃこりゃーー!」とKYな声を上げてふたりの間に割って入る、という演技に変わっていた。
 恋愛モノとしては、この方が正しいのだと思う。
 紀之介と泉の「微妙な空気」は、「壊さなければならないモノ」だと、源太は理解した……この時点では無自覚でも、将来的にふたりの恋愛を「壊したい」という本能がある、という証明エピソード。
 三角関係の、主役でない方の男なんだから、これくらい「お邪魔キャラ行動」をしても仕方ないし、その方が設定や展開がわかりやすい。

 ただわたしは、最初の空気を理解出来ない源太が好きだった。男の子と女の子では、心の成長度がチガウ、女の子の方が早熟、というのは、リアルでいい。そこのズレに萌えを感じるんだなー。

 ここの演技が変わるだけで、次の「泉は紀之介が好き」とちょび康@咲が言い出す場面の意味も変わる。
 恋愛にうとい「子ども」の源太は、ただおろおろと「今ここでそれを言っても……」と、紀之介と泉を気遣うのみで済む。
 が、すでに恋愛脳の源太だと、さらに踏み込んだ意味で紀之介と泉を気遣うおろおろぶりになる。

 そうやって子ども時代からたしかに、変わっていた。

 初日あたりの源太は、全年齢通して「いい人」だった。
 純粋で、ただひたすらやさしかった。
 ふつーこんだけやさしいと「ただのまぬけ」になりそうなもんだが、それでもちゃんとかっこいい二枚目に作ってるあたり、だいもんすげーという感想だった。
 それが、途中からなんか、「あれ? 変だぞ?」と思うようになり。

 源太が、「いい人」ではなくなった。

 子どもの頃から幼いなりに泉を愛していて、「男」として見守っている。
 そして、「欲」が強い。
 愛欲や独占欲、承認欲求。

 それでも、やさしく強い人だから、そういう黒い感情(人間らしい感情、ともいう)は押し込めて生きている。
 相手を思いやることが出来るから、前半の「紀之介と世界を信じている」時代の源太は、やさしくおおらかに生きている。
 だが後半、紀之介にも世界にも不信感を持ったあとは、己れのなかの、黒いものを隠そうとしない。こと、紀之介に対しては。
 青年時代まではいいんだけど、壮年になってからが、こわすぎる……。
 藩主・晴興に向けるまなざしの冷たさってば。

 一揆のことを問うために晴興が「源太、待て」とやるじゃないですか。あのときの、源太の眼。
 こええぇ。こええよ、源太。底光りする、冷たい眼。
 呼び止められるまで、あえて晴興のことガン無視してるのね。で、呼び止められたら凍り付きそうな眼を向ける。
 晴興が無表情というか、役割での冷徹さをまとっているだけに、源太の生々しい闇がこわい。
 源太から……ひとから、こんな眼を向けられる晴興に、そしてちぎくんに、心から同情した。こんな眼を向けられたら、闇をぶつけられたら、あたしなら泣いてるわ……。
 マジ、震え上がった。

 そして、土下座ですよ。
 眼を見つめながら、挑みかかるように、膝をつく源太。

 泥が、見えた。
 唐突にわたしは、そこに泥と地面を見た。
 舞台の上だから、ナニもないけど。
 雨の夜、もうやんだかもしれないけど、地面は確実にぬかるんでいる。
 水たまりができ、泥になっている。
 そこにあえて、源太は膝をつく。
 着物が濡れ、泥に汚れる。
 そしてさらに、顔をつける。
 泥の中に。
 コンクリートや畳の上の土下座じゃない。好天の祭りの夜の土下座じゃない。土下座という行為だけのことに留まらない、その行為によってわかりやすく酷い汚れ方をする、無残な姿になる。
 汚泥の中の土下座。
 そして源太は顔を上げる。失望を口にしながら、泥だらけの顔を上げる。

 晴興に、見せつけるために。

 かつての友を、泥まみれに……ここまで、みじめな姿にしたのだと、見せつける。責め立てる。

 背筋が、凍った。
 本気で、ぞっとした。
 なにこの復讐?
 復讐、という言葉が浮かんだ。源太は今、晴興を傷つけ、辱めるためだけに土下座した……!

 こわっ。だいもん、こわっ。

 源太がこわいんだけど、それはわかっているけど、だいもんこわっ、と思った。だって、初日の源太は同じことをして、「いい人」だったもん。こんなにこわい人じゃなかったもん!!


 翌日欄へ続く。

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