前へ進んだはずなのに。@星逢一夜
2015年8月14日 タカラヅカ 『星逢一夜』、晴興さんを考える。その2。
星逢祭りまでの晴興さん@ちぎくんは、なんの不思議も齟齬もない。納得出来る。
それまで忘れてたっぽいのに、泉@みゆちゃんに会うなり、突然恋愛脳全開で、許嫁も立場も忘れて口説いちゃうの。
ずっと後ろに置いたままだった「過去」が「目の前」に現れたから、前へ進み続ける晴興は、そのまま目の前の泉を求めた。
でも、目の前には過去以外の「現実」も突きつけられる。
土下座する源太@だいもんや、泣いている泉。昔のまんまではない、自分たちの姿。
前へ進み続ける晴興は、目の前の泉や源太をそっとのけて、また進みはじめる。彼らとは、交わらない道を。
ここまでは、よーっくわかる。
晴興ならそうだろう。そう思える。
問題はそのあと。
さらに時はどーんと流れ、晴興は30代の壮年になっている。
以前の夢と好奇心にあふれた若者は面差しを変え、冷たく無機質な「命令執行人形」のようになっている。
えーと。
なんでこんなに変わっちゃってるの?
泉との別れがキツかったんだろうな、とは思う。
初見では、それこそ「ヅカのお約束」で「愛を失ったために心を閉ざしたんだ」と短絡した。
でも、くり返し観ていたら、それだと変だぞ、と思うようになって。
恋と少年時代を失ったことと、冷酷政治家ぶりは、イコールじゃない。
そんなことで冷血人間になるのはおかしい。
だって晴興は、自分で選んだんだ。
そうするしかなかった、のは確かだけれど、それが運命だとしても、嫌だ嫌だと泣きわめきながら流されたのではなく、「これが最善の道だ」と顔を上げて選んだんだ。
もとも晴興は、「吉宗と進む未来」に強い意志と希望を持っていた。泉のことはそこにあとから加わり、やはり奔流ではない、と切り落とした部分だ。
もともと自分で能動的に選び進んでいた道を、一部分思い通りにならなかったからって、グレて心を閉ざすとか、晴興ではあり得ない。や、世の中にはそうなる人もいるだろうけど、晴興はそんなタイプの人間ではないと、そこまでの物語で描かれている。
だからここの描き方が、引っかかる。
幼なじみの恋、成長して再会、瞬間燃え上がるが、運命に引き裂かれる。
そして、時は流れ、男は心を閉ざして生きる孤独な権力者となっていた……。
って、テンプレ設定だから、こうしたのはわかる。昼ドラでも、ヒロインとダーリンは、別れたあとは立場や人格が変わるの。お約束なの。
お約束をやるために、晴興のキャラクタを破壊した……?
昼ドラや植爺ならそうだとしても、ウエクミがんなことするはずないと思う。
だからこれは、書き込みの甘さのせい?
壮年パートでは、やたらと政治家としての晴興が責められている。
江戸城内でも、市井の者たちにも、「悪政を強いる、悪の権力者」「みんなの不幸の元凶」として憎まれている。
最初から、この点がすごく気持ち悪かった。
晴興は、最高権力者ではない。
将軍は、吉宗だ。
晴興はその部下に過ぎない。
悪政を強いているのは吉宗で、みなを不幸にしているのも吉宗だ。
なのに誰も吉宗を責めず、その部下に過ぎない晴興を責める。
貴姫@せしこが「すっかり憎まれ役を引き受けて」と言うから、吉宗を憎ませないために、あえて晴興が矢面に立っていることはわかる。
だがそれだけだと、説明不足だ。
吉宗が病で伏せってその間晴興が施政を任されている、ならともかく、吉宗健在で、晴興は吉宗の見ている前で喋っている。吉宗の意志であることは明白なのに、「悪いのは晴興だけ」とするのは無理がある。
晴興だけを悪者にしたいなら、大名たちに「公方様は晴興に騙されている」系のことを言わせないと。
悪いのは吉宗だけど、そうは言えないから叩きやすい晴興をサンドバッグ代わりに叩いている、というなら、吉宗への嫌味を混ぜつつ、あえて晴興に異を唱える体を作らないと。現実の江戸城で大名にそんなことが出来たかではなく、物語上の立ち位置表明として。
吉宗-晴興、の図を世間がどう見ているかもわからないからどう感じていいのか混乱する。加えて致命的なのは、吉宗と晴興の真意が見えないこと。
享保の改革が、痛みを伴う改革であることを、吉宗も晴興も理解している。だから、それによって世間から責められることも、理解している。
だが。
まず、吉宗についてわからないのは、今の「悪者は晴興」という現状を、彼がどう思っているのか。
施政者が民意を失うわけにはいかないので、あえて汚れ仕事を晴興にのみ任せ、自分はおいしいとこ取りしているのだとしても。
その現状をどう思っているのか。
語る場面が欲しかったよ。
吉宗公は賢人であり、晴興を息子のようにかわいがっている、その才能を高く評価している、とわかって好意的に見ているから、なんとかいい方向に脳内変換しているけれど。
吉宗公もつらいんだよね、とか、ふたりには信頼があるんだ、とか、相手の痛みを想像して共に苦しんでなお、その先にあるものを求めて進もうとしているんだ……などなど。
前の場面で培った情報を元に、勝手に想像しているけれど。
実際に舞台にあるものだけでは、足りなさすぎる。
今のままだと、吉宗様ってば、弱い立場の者(晴興)に重責を押し付け、自分は美しい理想を語る無責任オヤジ。しかも疑り深いのか、晴興の忠誠心を試すかのように過酷な試練を与える……てな。
かつての吉宗公の片鱗を見せるのが、晴興に「本物の星は見んのか」と尋ねる部分だけって……。
むしろ、あの流れでそれを言うのは無神経じゃね? そのあとフォロー入るのかと思ったら、まさかの投げっぱなし。晴興を追い詰めるだけかよっていう。
前の場面で「吉宗は賢君」だと思ったのに、違ったの……?
この描き方だと、綺麗事だけ並べる、卑怯な暗君ですよ……。
描き方がなんか、おかしい気がする。
翌日欄へつづく。
星逢祭りまでの晴興さん@ちぎくんは、なんの不思議も齟齬もない。納得出来る。
それまで忘れてたっぽいのに、泉@みゆちゃんに会うなり、突然恋愛脳全開で、許嫁も立場も忘れて口説いちゃうの。
ずっと後ろに置いたままだった「過去」が「目の前」に現れたから、前へ進み続ける晴興は、そのまま目の前の泉を求めた。
でも、目の前には過去以外の「現実」も突きつけられる。
土下座する源太@だいもんや、泣いている泉。昔のまんまではない、自分たちの姿。
前へ進み続ける晴興は、目の前の泉や源太をそっとのけて、また進みはじめる。彼らとは、交わらない道を。
ここまでは、よーっくわかる。
晴興ならそうだろう。そう思える。
問題はそのあと。
さらに時はどーんと流れ、晴興は30代の壮年になっている。
以前の夢と好奇心にあふれた若者は面差しを変え、冷たく無機質な「命令執行人形」のようになっている。
えーと。
なんでこんなに変わっちゃってるの?
泉との別れがキツかったんだろうな、とは思う。
初見では、それこそ「ヅカのお約束」で「愛を失ったために心を閉ざしたんだ」と短絡した。
でも、くり返し観ていたら、それだと変だぞ、と思うようになって。
恋と少年時代を失ったことと、冷酷政治家ぶりは、イコールじゃない。
そんなことで冷血人間になるのはおかしい。
だって晴興は、自分で選んだんだ。
そうするしかなかった、のは確かだけれど、それが運命だとしても、嫌だ嫌だと泣きわめきながら流されたのではなく、「これが最善の道だ」と顔を上げて選んだんだ。
もとも晴興は、「吉宗と進む未来」に強い意志と希望を持っていた。泉のことはそこにあとから加わり、やはり奔流ではない、と切り落とした部分だ。
もともと自分で能動的に選び進んでいた道を、一部分思い通りにならなかったからって、グレて心を閉ざすとか、晴興ではあり得ない。や、世の中にはそうなる人もいるだろうけど、晴興はそんなタイプの人間ではないと、そこまでの物語で描かれている。
だからここの描き方が、引っかかる。
幼なじみの恋、成長して再会、瞬間燃え上がるが、運命に引き裂かれる。
そして、時は流れ、男は心を閉ざして生きる孤独な権力者となっていた……。
って、テンプレ設定だから、こうしたのはわかる。昼ドラでも、ヒロインとダーリンは、別れたあとは立場や人格が変わるの。お約束なの。
お約束をやるために、晴興のキャラクタを破壊した……?
昼ドラや植爺ならそうだとしても、ウエクミがんなことするはずないと思う。
だからこれは、書き込みの甘さのせい?
壮年パートでは、やたらと政治家としての晴興が責められている。
江戸城内でも、市井の者たちにも、「悪政を強いる、悪の権力者」「みんなの不幸の元凶」として憎まれている。
最初から、この点がすごく気持ち悪かった。
晴興は、最高権力者ではない。
将軍は、吉宗だ。
晴興はその部下に過ぎない。
悪政を強いているのは吉宗で、みなを不幸にしているのも吉宗だ。
なのに誰も吉宗を責めず、その部下に過ぎない晴興を責める。
貴姫@せしこが「すっかり憎まれ役を引き受けて」と言うから、吉宗を憎ませないために、あえて晴興が矢面に立っていることはわかる。
だがそれだけだと、説明不足だ。
吉宗が病で伏せってその間晴興が施政を任されている、ならともかく、吉宗健在で、晴興は吉宗の見ている前で喋っている。吉宗の意志であることは明白なのに、「悪いのは晴興だけ」とするのは無理がある。
晴興だけを悪者にしたいなら、大名たちに「公方様は晴興に騙されている」系のことを言わせないと。
悪いのは吉宗だけど、そうは言えないから叩きやすい晴興をサンドバッグ代わりに叩いている、というなら、吉宗への嫌味を混ぜつつ、あえて晴興に異を唱える体を作らないと。現実の江戸城で大名にそんなことが出来たかではなく、物語上の立ち位置表明として。
吉宗-晴興、の図を世間がどう見ているかもわからないからどう感じていいのか混乱する。加えて致命的なのは、吉宗と晴興の真意が見えないこと。
享保の改革が、痛みを伴う改革であることを、吉宗も晴興も理解している。だから、それによって世間から責められることも、理解している。
だが。
まず、吉宗についてわからないのは、今の「悪者は晴興」という現状を、彼がどう思っているのか。
施政者が民意を失うわけにはいかないので、あえて汚れ仕事を晴興にのみ任せ、自分はおいしいとこ取りしているのだとしても。
その現状をどう思っているのか。
語る場面が欲しかったよ。
吉宗公は賢人であり、晴興を息子のようにかわいがっている、その才能を高く評価している、とわかって好意的に見ているから、なんとかいい方向に脳内変換しているけれど。
吉宗公もつらいんだよね、とか、ふたりには信頼があるんだ、とか、相手の痛みを想像して共に苦しんでなお、その先にあるものを求めて進もうとしているんだ……などなど。
前の場面で培った情報を元に、勝手に想像しているけれど。
実際に舞台にあるものだけでは、足りなさすぎる。
今のままだと、吉宗様ってば、弱い立場の者(晴興)に重責を押し付け、自分は美しい理想を語る無責任オヤジ。しかも疑り深いのか、晴興の忠誠心を試すかのように過酷な試練を与える……てな。
かつての吉宗公の片鱗を見せるのが、晴興に「本物の星は見んのか」と尋ねる部分だけって……。
むしろ、あの流れでそれを言うのは無神経じゃね? そのあとフォロー入るのかと思ったら、まさかの投げっぱなし。晴興を追い詰めるだけかよっていう。
前の場面で「吉宗は賢君」だと思ったのに、違ったの……?
この描き方だと、綺麗事だけ並べる、卑怯な暗君ですよ……。
描き方がなんか、おかしい気がする。
翌日欄へつづく。