『A-EN』ARTHUR VERSION初日を観て、作品内容とは別に、「月組こええぇ……っ!!」と震え上がったのが、人の使い方。
 月組が「スターを上げる組」だとわかっている。天海やタニちゃん、今ならたまきちや暁くんを早々に抜擢している、組内下克上当然の組だ。
 感情をはさまず、企業として上げたい人を上げる、そうでない人は落とす。劇団は営利企業なのでそーゆービジネスライクな部分は必要です。

 にしても、月組こわい。
 長年ゆるく全組観てきて、ここまですっぱり人を使い分けるのは、月組だけだ。

 実験的な別箱公演だって、タカラヅカの習性として上級生尊重、スター枠でないにしろ、学年は考慮される……というイメージ……幻想を、わたしは抱いている。
 だから、上級生が完全モブで最下学年の子が見せ場もらってる舞台を観ると、習性ゆえに震え上がる。

 新公ヒロイン経験者で、この前の本公演でWキャストの上級生側だったみくちゃんが、ヒロイン経験なしのはーちゃん以下の扱いとか。
 完全別格コースとはいえ実力者で最上級生のジョーが研1生以下の扱いとか、誰が思うのよ……。

 ジョーとみくちゃんは、芝居では目立つ役をもらってるけど、完全イロモノでふたりだけで完結、今回の主眼である育成予定の若手とは絡まない、本筋に関係ない、いなくてもいい役。
 ショーではモブ、よくても脇の歌手。場の中心とか少人数での「スター」的場面や役割からは、見事に外されている。そして、最下の研1くんや研2くんが、客席降りして「スター」としてソロもある歌を歌っていたりする。

 雪組でいえば、縣くんが場面もらってて、まなはるやあすくんあたりがモブでしかないショーを観る感じ? 朝風先輩なんか完全モブで声もろくに聞けてませんよ的な?
 …………ぶるぶるぶる、雪でそんなことやったら研1生のためにならんわー、そんな育て方に免疫がないもん。
 年代を変えて考えれば、2008年の星組で、ベニーやみやちゃんがモブで研1のまおくんが見せ場もらってる感じ? 当時のベニーやみやちゃんはワークショップの2番手がようよう回ってくるぐらいの、新公主演できるかどうかも危ない脇の人で、まおくんは入団から騒がれた劇団推しのスター。
 まおくんは将来のトップスターかもしんないけど、その売り方を星組でやったらまずいと思う。

 でも、月組ならアリなんだろうなあ。
 周囲に月組ファンがいないからわたしに届いて来ないだけかもしんないけど、この人使いを誰も疑問に思ってない感じ。素直に受け入れてる感じ。

 星那くん、優くんあたりも、この香盤順ならおいしいかも?、スター枠じゃなくても、メンバーには舞台経験ほとんどない子も多いし、キャリアだけでも相応の役割を与えられるのでは? と思えるのに、実際は完全モブだし。

 いやあ……年功序列の花組でファン生活を長く送っていたわたしには、心臓痛い公演でした(笑)。
 もしもまっつが中堅時代の花組でこんな趣旨の公演あったら、まちがいなくジョーポジションで、劇団が推したいと思っている研1くんのモブをやってたんだろうなあ、てな。
 まっつの中堅時代、全組上演の『エンカレッジ・コンサート』というものがあったけれど、他の組は別格寄りでもスター枠でも、新公主演済み中堅スターが中心の公演だったのに、花組だけは年功序列で唯一の新公主演済み中堅スターのまっつは完全モブだったもんな。まっつってそーゆー扱いされてきた人。もしも劇団が「研1の方が大事」と思ったら、気遣いもされず、容赦なくモブにされていただろう。
 まだ上級生尊重、はわかる、っていうか「仕方ないか」と思えたけれど、あのときのエンカレが研1とかが中心で、まっつがモブだったら、わたしかなりへこたれてたわ……。
 年功序列は年寄りにやさしいシステムなのかも……。し、しんぞうにわるい……。

 スターと脇を分けて育てるのは必要なことで、スターにするつもりの人には経験を与えるべき。
 だから、スター修業の必要のない人をモブにして、初舞台踏んだばかりの素人でも、将来のスターを「スターらしく」扱うのは正しい。

 だから月組こそが、正しいのかもしれない。

 ただ、あまり月組に馴染みのない、アタマの固い年寄りのわたしは、ただもうびっくりして、勝手に「これが〇組だったら……」と想像逞しくして、心をひりひりさせました、てな。

 と、思いながらも。
 勝手なもので、組ファンでない者からしたら、「上級生だ」というだけで、良い役を「誰あれ?」的な人が占めているより、同じ「誰あれ?」でも「大抜擢された下級生」の方が、わくわくする。
 これが組ファンと一般ヅカファンの違いかなあ。
 常に名もなき役をやっている生徒さんに愛着が薄いゆえ、とても無責任に「新進スターキターーッ!」と盛り上がれるのね。

 愛着を持っている人が多ければ、たとえその人が路線スターでなくても「**さんの扱いは不当だわ」と不満の声が多くなるだろうし、声が上がらなければ、その扱いは妥当なのかもしれない。
 どの生徒さんにも、もちろんファンや愛着を持つ人はいるのだろうけど、その総数の問題で。

 わたしは花組エンカレのまっつの扱いは不当だと思ったけれど、他の4組と同じように扱えやゴルァ!!と思っていたけれど、わたしと同じように思う人が少なかったんでしょう。
 世の中を動かすほどのムーブメントにならない以上、ないのと同じ。結果まっつは年功序列の花組で、その後何年も足踏みを続けたし。
 全ツやバウ主演で下級生に抜かされたときも、下克上は人事の花、わたしはへこんでいたけれど、わくわく盛り上がる層もあったはず。

 月組はスターとそれ以外をすっぱり区別することによって、スター以上にファンを選別しているのかもしれない。
 完全なる劇団主体による抜擢制度、劇団が選んだスター以外は別箱ですらモブになる、それを楽しめる人のみが、月組ファンとして楽しめる。
 劇団推奨マーク付きのスターのファンになるか、あるいは生徒を二次元のコマと認識し、個人に感情移入したりせず、抜擢や下克上を楽しむ育成ゲーム感覚か。

 これが自分の贔屓組だったらつらいけど、月組だからアリ、新進スター抜擢にわくわく、てのは育成ゲーム感覚だよなあ、と自分を省みる。

 タカラヅカには5つの組があるのだから、実験組がひとつは必要なのかもしれない? 劇団が200年、300年続いていくために?

 あー、でも、「新進スターキターーッ!」は、最低限なにか納得出来るモノを持っている子に限る。
 見た目がビミョーで、歌が壊滅音痴とか、ひと声発しただけで「今のナニゴト?!」と刮目するほどの悪声大根芝居の子は、勘弁。
 完璧でなくていいけど、「足りていない部分は将来的に補える」と思える範囲の欠点にして。

 今回の抜擢さんたちは、特に破綻はないしきれいなので、単純に無責任に「新進スターキターーッ!」とわくわくしていられました。

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