『星逢一夜』、晴興さんを考える。その3。

 すっかり変わってしまった晴興@ちぎ。やさしく天真爛漫な若者だったのに、今ではすっかり冷酷老中様。
 晴興を盾にして、自分は被弾を免れ涼しい顔をしている吉宗@エマさんにも「はぁ?」と思うけど。

 最大の謎は、晴興。

 晴興は、ナニがしたいの?

 どんな犠牲を出しても、未来のために改革を推し進めなければならない。
 これが、現在の晴興のスタンスのはず。それゆえ、自分が憎まれ役を引き受けている。

 が。
 ……えーとそれ、本気で言ってる?

 星逢祭りでの晴興は、江戸での仕事は自分の意志である、自分がやりたいのだと、瞳をキラキラさせて語っていた。
 彼が想像していたものと違い、実際にはとてもつらい、残酷な仕事であったとしても……「自らやりたい」と語っていたあの姿からは、違和感が強すぎる。

 信念を持って犠牲を払っている、ように見えないんだわ……。

 伝わるのは、「やらされてる感」。
 運命に流され、嫌々従っている。

 冷酷な政治家に変貌していた、というのが、「良い国を作るために、あえてそうしている」のではなく、「嫌なことから身を守るために、消去法でそうなった」ように見える。

 わたしには。


 えー、わたし以外の人には「晴興は心底冷酷、人間の心を持たない鬼に見える!」のかもしれない。
 強い意志で、「逆らう者は皆殺しだ」とさらりと言ってのけている、ように見えているのかもしれない。
 神の名のもとにどんな暴挙も正義とする狂信者のように、「未来の日本」のために弱者を斬り捨てることを、なんの迷いもなく「正義!」と信じている、ように見えるのかもしれない。

 でもわたしには、そうは見えない。
 本心では「こんなことやりたくない」「誰も傷つけたくない、殺したくない」と思っている、ように見える。
 本当はやさしいのに、今は鬼のように振る舞うしかなくて、あえて無表情に冷酷な命令をしているように見える。

 だからこれは、わたしの目に映る晴興についての疑問。

 彼は、ちっとも冷酷に見えない。
 冷酷にならなくては、という、使命感ばかり見える。
 迷いが見える。
 たしかに無表情だけど。冷酷なことを口にしているけれど。
 貴姫が言う通り、「表になにも表さず、痛みを隠している」顔に見える。
 それが貴姫にだけ見えるならいいけど、大名たちの前でも、「痛みを隠している」顔に見えて、それってつまり、痛みを隠せていないってこと。

 能動的な冷酷さが、どこにもないの。
 晴興ならば、それが正しいと思うなら、冷酷な仮面だって能動的に身にまとったろうに。

 舞台上の人々には「完全な冷酷さ」に見えているんだ、ただ客席のみなさんには、晴興が「本当は冷酷じゃないよ、いい人だよ」とわからせるようにしているんだ、ってこと?
 ファントムの素顔が「え、ぜんぜん醜くないですけど?」なのに、舞台上では悲鳴をあげて逃げ出すような醜さである、ようもので?

 だとしたら、そのことも説明してくれなきゃだわ。
 今までは「舞台上の人々と、観客の見ているものは同じ」だったんだもん、ここで突然「別になりました」と教えてくれないと、わかんないよ。

 そんな無茶振りせず、対外的な冷酷な顔、と、本心の迷い悩んでいる顔、を書き分ければ済むことじゃん。

 書き分けしないことも、わざと?
 どっちつかずに「悩んでます」「つらいです」と丸わかりにして、「あんなに苦しそうなのに、みんなから悪者にされて可哀想」って思わせたいのか。

 ここで晴興をとことん「可哀想」としたい、作者の意図は、わかる。
 民衆を虐げる権力者と、悪政に立ち向かう民衆だと、物語では通常、虐げる権力者側が悪とされるからだ。
 あえて悪側、そうせざるを得なかった者の悲劇を描きたいのだから、晴興は「可哀想」でなくてはならない。
 悪がるんるん楽ちん♪で悪だと、観客の共感を得られないものね。

 でも、「可哀想」にするために、吉宗は人格変わってるし、晴興も別人になってるし、……てのは、なんなん?

 晴興がここまで変わるには、泉@みゆちゃんとの別れぐらいじゃ無理なのよ。 

 晴興が精神的ニートになっちゃってるのは、何故か。
 その説明がないの。
 泉との別れが原因であるかのように描いて、誤魔化して、肝心な部分はスルーされてるの。

 泉との別れが原因なら、晴興は少年時代に江戸へ行ってからも泉のことは片時も忘れず、大人になって最初に三日月藩へ帰るときも「泉に会える!」とワクテカしてなきゃおかしいわ。
 人生の目的=泉との恋、でないと、それを失ったから心を閉ざしました、はおかしい。

 イコールではないことを、さもそうであるかのように誤魔化してあるのが、気持ち悪い。

 時間がなくて描けなかった、とか、それをやると主題がズレる、とか、いろいろ事情はあるんだろうけど。
 この描き方はやだな。
 好みじゃない。

 わたしの好みは関係ないだろうけど、ここはわたしの好みを語る場なので、好みで語る(笑)。

日記内を検索