新人公演『星逢一夜』感想。

 興味深かったのは、貴姫@くらっちだ。

 この役、娘役が演じるとこうなるのか!

 と、新鮮だった。
 男役が演じる男勝りな姫君ではなく、女の子が演じると晴興と同世代の才気煥発少女の役になるんだ……と、考え、待て待て、本役も娘役だ、と思い至る。
 途中で間違いに気づいたが、感覚は変わらないので、そのまま語る。

 本役の貴姫は、晴興よりはるかに年上の、大人の女だ。
 『ベルばら』ならナントカ伯爵夫人とかで、ナントカ伯爵家令嬢、ではない。同世代の女性だけで演じる劇団ゆえに、見た目だけでは年齢設定がわかりにくいため、「令嬢」「少女」は大袈裟なくらい幼く若く、「夫人」「大人」との差異を打ちだしてくる。
 『星逢一夜』は植爺や柴田せんせたち昭和時代の巨匠様ほどあからさまにやらないけれど、年代ごとに芝居を変えている。
 だから貴姫も、大人なんだろう。皇太子教育を受けていない晴興が年より幼いとしても、貴姫はかなり年上に見える。

 本公演の貴姫は傾いて見せるけれど、それは「少女」ゆえのこわいもの知らずさではなく、大人の女のしたたかさ。将軍の姪であり、どう振る舞えば伯父の興を得られるか熟知した上での強い言動。
 スカーレット@『風と共に去りぬ』が男役の役であるように、こういうアクの強い美女役は、娘役よりも男役に向いている。
 男役の演じる女性は、少女ではなく基本大人の女だ。男役は幼さを脱することで創り上げられるのだから、その魅力で作る以上必然。
 だから、せしこの貴姫が大人の女なのは、当然。大人の男役に、今さら年若い少女の役などわざわざやらせないだろう。

 せしこが今男役ではない、ということはわかっているし、彼女の女役を否定しているわけではない。でもせしこは生粋の娘役ではないし、元男役ゆえの地力と魅力を持つ。
 せしこが女役である、と認めていることと、男役の演じる女役感をぬぐえていないことは、わたしの中で同時に存在している。
 ゆえに、せしこの役を「娘役で見たかった」と思ったり、新公を観て「娘役がやるとこうなるのか!」と思ったりする。
 せしこに失礼だとは思うが、事実なのでしょうがない。
 繰り返すが、せしこの魅力とは別次元のことなので、それでせしこを否定しているわけじゃない。

 貴姫と晴興。
 美しい年上の姫君と、田舎育ちの粗野な美少年。「惚れている相手にこそツンツンする」プライドの高い美女と、鈍感な仕事一途な年下青年。
 そんなふたりの恋物語なら、大好物だ。そーゆー女性は多いだろう。
 だから、本公演の貴姫の設定自体はいいと思っている。

 本公演を否定するわけではなくて、新公の「晴興と同世代の少女」である貴姫が、実に新鮮だった。

 貴姫が、女の子だ!!

 気の強い、自尊心の高い女の子。
 空気を読まないパフォーマンスも、幼さゆえ。
 14歳くらいのときって、驕り昂ぶって暴走したり、するよね?
 いちばんイタい年代。
 自己愛に盲目的で、無意識に他人を見下して、「俺すげー!」って盲信してるの。
 や、それはそれでかまわないから、少しは周囲を見回して、隠そうな? 「俺すげー!」「俺ダイスキー!」を全方向に宣伝するのは、恥ずかしいよ? って、大人になったらわかるんだけど、当事者は「自分がすごい」ことだけしか見えてないから、気づかないのな。

 わたしは年寄りなので、若い人の「若さゆえの」行きすぎとか間違いとか、愛しくなる。
 自分はもう、あんなことは出来ない。なにかするにも周囲を見て取り繕う。
 子どもがバカなのは、恥ずかしいことじゃない、いくらでもバカやろうよ、それでアタマ打って恥かいて傷ついて、大人になろうよ。バカのままではいられないことを知っているから、今現在バカであれる若い人が、愛しいよ。
 吉宗公のように、はねっかえっている貴姫を見て、目を細めるよ。かわいいなあ、愛しいなあ、って。
 他の姫たちは自分の立場を取り繕うことや、枠からはみ出さないことばかり考えているのに、貴姫だけは「わたしってすごい!」って好きなだけ暴れてるんだもの。
 愛しいよ。

 貴姫が若くて、若さゆえの不遜さを持っているのが、かわいくて。
 まだ子どもだから、思い通りにいかない晴興に、感情のままに切腹を迫るんだな。
 大人の女が「余興の席」で田舎から来た少年に切腹を迫るのは、彼女の格を下げる言動だけど、中学生の女の子なら「子どもゆえ」の過ちだとわかる。

 お姫様育ちで、型破りな言動も「大器ゆえ」ととがめられずにいたんだろうな、それで才気と不遜さを臆さず発してきたんだろうな。
 それがはじめて、人前で「ギャフン」と言わされる事態になって。
 今までさんざん大人を言い負かしてきたのに、同世代の男の子にこてんぱんにされるなんて。

 も、好きになるしか、ない。

 貴姫が晴興に恋するのは、必定。
 きっとあのやかましい姫は、ことあるごとに晴興に絡んで、鈍い晴興は無理難題言われて本気で振り回されて、苦手意識を強くするんだろうなあ。
 貴姫自身子どもだから、それが恋だと気づかずに、イライラして本気で腹を立てて、傷ついて、実にもどかしい初恋物語を展開するんだろうなあ。

 そう、想像出来る。

 本公演の、ちぎくんの晴興で見てみたい気もする。
 貴姫が同世代……少し年下設定。
 年下のお姫様に振り回され、それでも姫君から「そなたに嫁いでやる」と言わせるまでの物語。


 もともと貴姫っていいキャラクタなんだけど、新公でまた夢が広がった(笑)。

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