だから若者は、前へ進む。@星逢一夜
2015年8月13日 タカラヅカ 晴興さんを考える。
晴興@ちぎくんと泉@みゆちゃんの恋物語として、『星逢一夜』が大好きなのだけど。
わたしが晴興さんでいちばん好きなところは、星逢祭りに三日月藩へ戻って来たときの彼が、泉のことを忘れているっぽいところだ。
「私たちがはじめて出会ったのは星逢の夜だった。あの娘と、あの少年と、私がはじめて出会ったのは……」なんて、仰々しいナレーションではじまる物語なのに、その「運命の相手」に対し、晴興さんてばなんて雑な言動。
晴興と泉は、最初に出会った子ども時代から、ずっと「特別」だ。
作者は、ナレーションで並列している源太には個別エピソードもナニも描いてないのに、泉についてはもう、いちいち細かく「ふたりは愛し合う運命!」とわかる注釈を入れている。
それはいいんだ。泉はヒロインで、この物語は泉とのラブストーリーだから。大劇場でやるんだから、「そこまでいちいち注釈せんでも……」ってくらい、細かく注釈するくらいで、ちょうどいい。
で、行間読めない客にもわかるように説明し続けたのに、いざ7年後、大人になった晴興は、泉のことを忘れているっぽい。
幼い恋心を抱いていた幼なじみのふたりが、運命によって引き離された。でも、たとえ会えなくなっても互いを想い続けているはず……。が。
時が経った、互いの道を歩くようになった、晴興は貴姫@せしこと結婚?! 泉は源太と結婚?! えええ、晴興が愛してるのは泉でしょ? 泉が愛しているのは晴興でしょ? ふたりはどうなっちゃうの?! ……と、客に思わせるための常套手段だとわかっている。いったん「なかったこと」にするんだよね。
それで客の注意を引いた上で、次の場面で「変わらず愛していた!」とぶち上げる。お約束のテンプレート展開。
ただの作劇上の手法、お約束だとわかっている。
だけど、お約束を超えて、ここの晴興さんが好き。
江戸に行くことも藩主になることも、晴興が望んだことじゃない。
泉や蛍村の仲間たちと、この三日月藩で暮らしていたかった、地位も責任もない次男坊でいたかった。
そんな心残りを抱えつつスタートした、晴興の江戸生活。
不本意だったはずが、仕方ない、消去法で選んだ道だったはずが。
吉宗@エマさんとの出会いにより、意義が大きく変わる。
晴興は、自分の人生を楽しんでいる。
7年後、三日月藩へ帰って来たときの晴興は、江戸で政治に関わる人生を、謳歌している。
尊敬する為政者のもとで、その力になること。自分の能力を存分に使い、困難を乗り越えていくことに、生き甲斐を感じている。
蛍村でのことは、ただの思い出。泉との淡い初恋は、遠い日の記憶。
現在じゃない。
今の晴興は、仕事が楽しくて仕方ない、夢にあふれた若者だ。自分の可能性、才能を信じ、キラキラしている。
そこが好きなのよー。
大の男が、少年時代の初恋の相手を、いつまでも現在進行形で引きずっていたら、その方がやだ(笑)。
きちんと恋愛し、本格的に将来を誓っていたなら、その誓いを胸に生きてくれていいけど、「ちょっといいな」と心が動いたに過ぎない「淡い初恋」だ。当時の紀之介にはその「ちょっと」は濃い強い思いだったかもしれないが、大人になれば過去の「いろんな出来事のうちの、ひとつ」に過ぎない。
晴興が秋定@翔くんという親友を得て、やり甲斐のある仕事をし、将来に希望を抱いている。
江戸で、ちゃんと自分の居場所を築いている。
晴興がいつまでも蛍村のことを引きずり、そのことだけを考えているとしたら、それってつまり、江戸ではうまくいかなかった、ってことよね。
新しい場所で自分の居場所を作れず、失った過去にだけ価値を求める。うわそれ、人として残念。
それまでとまったく違った場所で、新しい人間関係で、今までとはチガウ価値観で生きなければならない……って、かなり高ハードル、つまずいてもおかしくない……けど、そこでつまずいて引きこもりになっちゃうのは、ヒーローとしてありえなくね?
無能である、と不当なレッテルを貼られてきた少年晴興は、実は逸材であった。彼が見下されてきたのは、彼を正しく評価出来る者がいなかったためだ……みにくいアヒルの子が、白鳥になる快感。
環境の違いでもともとハードル高い上に、晴興をねたんで足を引っ張ろうとする者たちも大勢いるのに、それでもそこで、才能を開花させ躍進している。……から、晴興はすごい。
そこが蛍村じゃなくても、晴興は生きていける子だったんだ。
もちろんそれは、蛍村での子どもたちと出会い、成長したゆえのことかもしれない。誰からも顧みられなかった妾腹の子ではなく、「別れるのが寂しい」と泣いてくれるたくさんの友を持った子、だからこそ新しい環境でも臆せずに生きられたのかもしれない。
晴興が、自分の人生を、颯爽と歩いている。
それが、うれしい。
やっぱ、仕事に燃える男っていいよねえ。夢を持って邁進する若者ってまぶしいよねえ。
貴姫のことも、嫌いじゃないんだろう。
吉宗公から結婚を申し渡されたにしろ、異論はない。仕事のために必要なことだと思っている。
自分はいいけど、貴姫は嫌じゃないのかな、嫌々するんだったら申し訳ないな……そんな感じか。
それ以上でも以下でもないのは、貴姫が晴興に惚れている、と聞いても反応しないことでわかる。
この時点で、泉のことは思い出してないよねえ。
今の晴興の人生に、「泉」は無関係なんだ。
泉のことを忘れたわけでも、否定するわけでもなく。
「今」目の前にない。
目の前のこと、もっと先のまぶしい未来や理想のこと。
若者の目は、関心は、それだけでいっぱいだ。
後ろや過去には向かない。
だから。
「今」、大人になった泉が晴興の前に現れ、すべてが変わるんだ。
前へ進むことしか考えていないから、はるか後ろに置いたままの泉のことは、忘れていた。彼女を愛した気持ちがなくなったわけじゃない。でも、日常には出ない。
出ては来ないけれど、たしかにある……それが、「今」目の前に泉が現れることで、「過去の想い」が、「今」にワープして来ちゃったんだ!
この、「さっきまで忘れてたっぽい」でも、再会するなり「運命の恋スイッチ入ったーー!」になるのがツボ。
ちゃんと人生進んできたんだ、出世という外側のことに留まらず、精神的にも豊かに過ごしてきたんだ……そう思える晴興だから、今さら「過去」と再会して、「過去」の方へ進んでも、かっこ悪くない。
江戸生活がつらいだけ、後ろだけ見てうじうじしていた、ちやほやしてくれた百姓の子たちだけが心の寄りどころ、なんて情けない男ではないとわかっているから。
現れた「過去」は「後ろ」ではなく、今現在、彼の見つめる側、「目の前」「前方」なんだ。後ろからすくっと前へ、ワープしてきたの。
だから晴興は、前へ進む。泉の手を取る。彼女を恋うこともまた、彼の「前進」だから。
晴興@ちぎくんと泉@みゆちゃんの恋物語として、『星逢一夜』が大好きなのだけど。
わたしが晴興さんでいちばん好きなところは、星逢祭りに三日月藩へ戻って来たときの彼が、泉のことを忘れているっぽいところだ。
「私たちがはじめて出会ったのは星逢の夜だった。あの娘と、あの少年と、私がはじめて出会ったのは……」なんて、仰々しいナレーションではじまる物語なのに、その「運命の相手」に対し、晴興さんてばなんて雑な言動。
晴興と泉は、最初に出会った子ども時代から、ずっと「特別」だ。
作者は、ナレーションで並列している源太には個別エピソードもナニも描いてないのに、泉についてはもう、いちいち細かく「ふたりは愛し合う運命!」とわかる注釈を入れている。
それはいいんだ。泉はヒロインで、この物語は泉とのラブストーリーだから。大劇場でやるんだから、「そこまでいちいち注釈せんでも……」ってくらい、細かく注釈するくらいで、ちょうどいい。
で、行間読めない客にもわかるように説明し続けたのに、いざ7年後、大人になった晴興は、泉のことを忘れているっぽい。
幼い恋心を抱いていた幼なじみのふたりが、運命によって引き離された。でも、たとえ会えなくなっても互いを想い続けているはず……。が。
時が経った、互いの道を歩くようになった、晴興は貴姫@せしこと結婚?! 泉は源太と結婚?! えええ、晴興が愛してるのは泉でしょ? 泉が愛しているのは晴興でしょ? ふたりはどうなっちゃうの?! ……と、客に思わせるための常套手段だとわかっている。いったん「なかったこと」にするんだよね。
それで客の注意を引いた上で、次の場面で「変わらず愛していた!」とぶち上げる。お約束のテンプレート展開。
ただの作劇上の手法、お約束だとわかっている。
だけど、お約束を超えて、ここの晴興さんが好き。
江戸に行くことも藩主になることも、晴興が望んだことじゃない。
泉や蛍村の仲間たちと、この三日月藩で暮らしていたかった、地位も責任もない次男坊でいたかった。
そんな心残りを抱えつつスタートした、晴興の江戸生活。
不本意だったはずが、仕方ない、消去法で選んだ道だったはずが。
吉宗@エマさんとの出会いにより、意義が大きく変わる。
晴興は、自分の人生を楽しんでいる。
7年後、三日月藩へ帰って来たときの晴興は、江戸で政治に関わる人生を、謳歌している。
尊敬する為政者のもとで、その力になること。自分の能力を存分に使い、困難を乗り越えていくことに、生き甲斐を感じている。
蛍村でのことは、ただの思い出。泉との淡い初恋は、遠い日の記憶。
現在じゃない。
今の晴興は、仕事が楽しくて仕方ない、夢にあふれた若者だ。自分の可能性、才能を信じ、キラキラしている。
そこが好きなのよー。
大の男が、少年時代の初恋の相手を、いつまでも現在進行形で引きずっていたら、その方がやだ(笑)。
きちんと恋愛し、本格的に将来を誓っていたなら、その誓いを胸に生きてくれていいけど、「ちょっといいな」と心が動いたに過ぎない「淡い初恋」だ。当時の紀之介にはその「ちょっと」は濃い強い思いだったかもしれないが、大人になれば過去の「いろんな出来事のうちの、ひとつ」に過ぎない。
晴興が秋定@翔くんという親友を得て、やり甲斐のある仕事をし、将来に希望を抱いている。
江戸で、ちゃんと自分の居場所を築いている。
晴興がいつまでも蛍村のことを引きずり、そのことだけを考えているとしたら、それってつまり、江戸ではうまくいかなかった、ってことよね。
新しい場所で自分の居場所を作れず、失った過去にだけ価値を求める。うわそれ、人として残念。
それまでとまったく違った場所で、新しい人間関係で、今までとはチガウ価値観で生きなければならない……って、かなり高ハードル、つまずいてもおかしくない……けど、そこでつまずいて引きこもりになっちゃうのは、ヒーローとしてありえなくね?
無能である、と不当なレッテルを貼られてきた少年晴興は、実は逸材であった。彼が見下されてきたのは、彼を正しく評価出来る者がいなかったためだ……みにくいアヒルの子が、白鳥になる快感。
環境の違いでもともとハードル高い上に、晴興をねたんで足を引っ張ろうとする者たちも大勢いるのに、それでもそこで、才能を開花させ躍進している。……から、晴興はすごい。
そこが蛍村じゃなくても、晴興は生きていける子だったんだ。
もちろんそれは、蛍村での子どもたちと出会い、成長したゆえのことかもしれない。誰からも顧みられなかった妾腹の子ではなく、「別れるのが寂しい」と泣いてくれるたくさんの友を持った子、だからこそ新しい環境でも臆せずに生きられたのかもしれない。
晴興が、自分の人生を、颯爽と歩いている。
それが、うれしい。
やっぱ、仕事に燃える男っていいよねえ。夢を持って邁進する若者ってまぶしいよねえ。
貴姫のことも、嫌いじゃないんだろう。
吉宗公から結婚を申し渡されたにしろ、異論はない。仕事のために必要なことだと思っている。
自分はいいけど、貴姫は嫌じゃないのかな、嫌々するんだったら申し訳ないな……そんな感じか。
それ以上でも以下でもないのは、貴姫が晴興に惚れている、と聞いても反応しないことでわかる。
この時点で、泉のことは思い出してないよねえ。
今の晴興の人生に、「泉」は無関係なんだ。
泉のことを忘れたわけでも、否定するわけでもなく。
「今」目の前にない。
目の前のこと、もっと先のまぶしい未来や理想のこと。
若者の目は、関心は、それだけでいっぱいだ。
後ろや過去には向かない。
だから。
「今」、大人になった泉が晴興の前に現れ、すべてが変わるんだ。
前へ進むことしか考えていないから、はるか後ろに置いたままの泉のことは、忘れていた。彼女を愛した気持ちがなくなったわけじゃない。でも、日常には出ない。
出ては来ないけれど、たしかにある……それが、「今」目の前に泉が現れることで、「過去の想い」が、「今」にワープして来ちゃったんだ!
この、「さっきまで忘れてたっぽい」でも、再会するなり「運命の恋スイッチ入ったーー!」になるのがツボ。
ちゃんと人生進んできたんだ、出世という外側のことに留まらず、精神的にも豊かに過ごしてきたんだ……そう思える晴興だから、今さら「過去」と再会して、「過去」の方へ進んでも、かっこ悪くない。
江戸生活がつらいだけ、後ろだけ見てうじうじしていた、ちやほやしてくれた百姓の子たちだけが心の寄りどころ、なんて情けない男ではないとわかっているから。
現れた「過去」は「後ろ」ではなく、今現在、彼の見つめる側、「目の前」「前方」なんだ。後ろからすくっと前へ、ワープしてきたの。
だから晴興は、前へ進む。泉の手を取る。彼女を恋うこともまた、彼の「前進」だから。